[would+have+done]の型は和製の英文法書で、一般に仮定法(過去完了)として扱い、実現しなかった過去のことを述べると説明されています。しかし、この型は「もはや実現は難しいと判断する未来のこと」について述べることができます。この用法は幼児対象のアニメにでも使われています。また「PEU第4版でも、現代用法として紹介しています。原文に和訳を付して引用します。

 

present use: situations that are no longer possible

 

We sometimes use structures with would have … to talk about present and future situations which are no longer possible because of the way things have turned out.

 

 It would have been nice to go to Australia this winter, but there’s no way we can do it. (or It would be nice. . .)

 

 If my mother hadn't met my father at a party thirty years ago,

 I wouldn’t have been here now. (or... I wouldn’t be here now.)

                 Swan『Practical English Usage』2016

 

 現在の用法: もはや可能でないという状況

時折、「would have ...」という型を使用して、事態が進展した結果、現在や将来の状況がもはや可能でなくなったことについて述べることがある。

 例: この冬、オーストラリアに行けたら良かったのだが、それはもうできないね。

 (もしくは、It would be nice「行けたら良いのに」などの表現も可能)

 例:もし母が30年前のあるパーティーで父に出会っていなかったら、今ここにいな

 かったでしょう。(もしくは、I wouldn’t be here now「今ここにいないでしょ

 う」などの表現も可能です。)

 

 この中で紹介されているのは、[would+have+done]の型を現在時と未来時に使うということです。一般の和製の学習書では、仮定法という単元で同じ型を過去時に使うということを説明しています。つまり、この型は「過去」「現在」「未来」のいずれの時timeのことについて述べることができるのです。

 ここに引用したPEUは2016年出版の第4版ですが、この「オーストラリアに行けたら…」という用例は以前の2005年出版の版でも紹介されています。この用例を取り上げて、和式の仮定法を見直して考察している論文の記述を紹介します。

 

よく、学校で習う英語には実際にネイティブスピーカーが使用する英語とは異なるということが問題になる。確かに実際に教える際、規範文法から外れるものは、たとえそれがネイティブスピーカーによって使用されているとしても、教えないか、あるいは‘例外’として扱うことは少なくない。しかし我々教師は、規範文法に外れているからといって、いつも‘例外’として扱うのではなく、無秩序に自然現象の中に存在する言語現象(言葉が使われている実態)を直視し、その中に在る一定の法則を探し、それをまた新たな文法という枠組みにあてはめ、よりわかりやすく生徒に教授する必要があるのは言うまでもない。

               中川 右也『言語現象を忠実に教授する』2006

 

 規範文法は共通語としての正しい言葉使いを定めた規則集です。その文法規則は、実際に使われている多様な表現の多くを禁止することで成り立ちます。つまり、規範文法の‘例外’の多くは、昔から多くの英語のネイティブスピーカーが使っている表現なのです。

 規範文法が‘例外’として扱う表現を含めた一見無秩序に見える英語が自然言語としての本来の姿です。その中に在る言語現象を一貫して説明する法則を探し、それを新たな文法という枠組みにあてはめて分かりやすく提示すれば、学習者に有用な学習文法の体系になります。

 

 もっとも、上述したように、[would+have+done]の型が、現在時と未来時に使われる用法は、基本的に規範文法の立場をとるPEUでも現代英語の正用として認めています。また、これまでこのブログ記事で紹介したように、[法助動詞+have+done]の型について、[will+have+done]の型が過去時について述べる用法や、[may/might+have+done]の型が現在時と未来時について述べる用法も、PEUやGIUといった文法学習書でさえ容認しています。

 わが国では、これらの用法を知らない学習者が多いのではないかと思います。それは学校文法の情報更新が遅れているだけで、規範文法の立場をとる保守的な学習書でさえ、正用として認めています。今日ではもはや規範文法の‘例外’ではありません。

今回は、和製の英文法が‘例外’として見落とした用法を加えて、[法助動詞+have+done]の型の言語現象の中に在る法則を探り、新たな文法の枠組みの中にあてはめて体系化していきます。

 

 [will/would/may/might+have+done]の型は、いずれも過去時、現在時、未来時について述べることができます。次の英文はすべて可能です。

 

1) The letter will have arrived (a. yesterday/b. by now/c. by tomorrow).

2) The letter may have arrived (a. yesterday/b. by now/c. by tomorrow).

 

3) The letter might have arrived (a. yesterday/b. by now/c. by 

                                                                                                 tomorrow).

4) The letter would have arrived (a. yesterday/b. by now/c. by  

                                                                                                  tomorrow).

 

 既存の学校文法では、[will+have+done]の型(1c)は未来完了と呼ばれ、[had+done]の型(過去完了)、[have+done]の型(現在完了)とともに、時の数直線上に置いています。しかし、用例(1a)、(1b)は、直線上に優先的に配置された過去完了、現在完了があるため、‘例外’のように扱われてきたわけです。

 学校英文法をもとにした学参では、[may+have+done]の型は、[must+have+done]や[can’t+have+done]などとともに過去のことを推量する助動詞として、時の直線上の過去の位置に置かれています。(2b),(2c)はどの単元にも入れられず‘例外’として排除されています。

 和式英文法では、[would+have+arrived]の型(4a)を仮定法過去完了と呼んで、直説法とは別次元の直線上に置かれるかあるいは、時の直線上をずらすと説明されています。(4b)、(4c)は‘例外’扱いです。仮に、時の直線上でずらすと説明するなら、直線上を右往左往することになるでしょう。

 

 要するに、既存の学校文法では、時制tenseと時間timeが一致することを基本とし、時の直線上に並べて説明するのに都合のいい用法を優先的に取り扱ってきたのです。

 

科学的英文法では、動詞形が表す時制Tenseは、現実の時間Timeとは別の概念と考えることが基本になります。つまり、実際の時間Timeを1つの直線とし、距離感を示す述語動詞の型Tenseをもう1つの別の直線と想定します。

時間timeを示す直線を横軸とし、時制Tensesを縦軸とすれば、2次元の平面ができます。その平面上を新たな文法の枠組みにすると、現代英語の動詞形とその用法を一望のもとに見渡すことができます。

 

      Time     past(a)      present(b)    future(c)

 Tense

  Present(X)      (  Xa  )         (  Xb  )          (  Xc  )

 

  Preterite(Y)      (  Ya  )         (  Yb  )          (  Yc  )

 

 この図では、横軸Timeは、実際に述べる時間、過去時(a)、現在時(b)、未来時(c)の3つを想定しています。縦軸Tenseは遠近(Preterite=remoteness / Present=present reality)の二極をもつ距離感(空間)を縦軸として想定しています。Present 「現在」は「今・ここ」という現実味を感じていることを示す表現で、Preterite「遠在」は「今・ここから離れて距離を置く」と感じていることを示す表現としてとらえています。

 

 (Xa)はPresent Tenseを使って過去時past timeのことを述べる文を表します。学校文法で言う「歴史的現在」などが該当します。過去のことを「今・ここ」で現実に起きているかのような感覚で表現する用法ということです。

(Xb)はPresent Tenseを使って現在時present timeのことを述べる文を表します。学校文法では「現在の習慣」などがあたります。拡大した現在(時間を問わず成り立つ不変の真理)もここに入れてもいいでしょう。

 (Xc)はPresent Tenseを使って未来時future timeのことを述べる文です。学校文法では、「スケジュールなどで決まっている予定」や条件のif節中で使われる「未来に起こるという前提条件」などが含まれます。未来のことについて、主観的に「今・ここ」という現実味を感じられる用法ということになります。

 

 (Ya)はPreterite Tenseを使って、過去時past timeのことを述べる文です。距離を置いて客観的に見た「過去の事実」などがあてはまります。

 (Yb)はPreterite Tenseを使って、現在時present timeのことを述べる文です。学校文法で言う「仮定法過去」などがあてはまります。Did you want to see me now?の文もここに入ります。 

  (Yc)はPreterite Tenseを使って、未来時future timeのことを述べる文です。和式の「仮定法」や丁寧な依頼などがあてはまります。

 

 この時間Timeを横軸、時制Tenseを縦軸にした平面を新たなパラダイム(枠組み)として、それぞれに具体的表現を当てはめることもできます。

時間を示す副詞を横軸に、[will/would/may/might+have+done]の型を縦軸にあてはめてみます。

 

                              過去時         現在時       未来時

           (a) yesterday    (b) by now   (c) by tomorrow

1) will have arrived        ( 1a )             ( 1b )            ( 1c )

2) may have arrived        ( 2a )             ( 2b )            ( 2c )

3) might have arrived        ( 3a )             ( 3b )            ( 3c )

4) would have arrived      ( 4a )             ( 4b )            ( 4c )

 

この平面から(1~4)の(c.)を取り出した用例は次のようになります。

(1c)The letter will have arrived by tomorrow.

(2c) The letter may have arrived by tomorrow.

(3c) The letter might have arrived by tomorrow.

(4c) The letter would have arrived by tomorrow.

 

(1c) 明日までには手紙はきっと届く。

(2c) 明日までには手紙は届いているかもしれない。

(3c) 明日までに手紙はひょっとして届いているかもしれない。

(4c) 明日までには手紙は届いていただろうに(もはや不可能だ).

 

 これらの用例を概観すれば、未来の事柄について完了する見通しを主観的に判断して述べている体系と言えます。

(1c)ではwillは「確実に」届くと判断していることを示しています。以下(2c)may, (3c) might、(4c)wouldという順に、未来に完了しているという実現性が下がっていきます。特に最後の(4c)wouldでは、起こると考えるのは非現実的だという判断を示してるわけです。

この(4c)の「これから(将来・未来)それが実現するのは現実的(難しい)と感じている」という感覚を表明することが「遠慮」や「遠まわし」による依頼などにつながっているのです。

 

 この(4c)と同じ[would+have+done]がアニメで使われている用例を紹介します。

 

 I wish you’d be a king and go to costume day with me. But okay, be Super Bunny. I guess I can still be the queen by myself. But if Max was dressed as the king but it would have been more fan.

                                                         ――Max and Ruby | Costume Day

「あなたが王様になって一緒に仮装大会に出てくれたらなあ。でも、もういいわ、スーパーバニーをやりなさい。あたしは一人でも女王様になるつもりだから。でも、もしMaxが王様になってくれたら、もっと楽しくなってたのにな。」

 

 プリスクールの仮装大会で優勝したいと思っているRubyは、弟のMaxと女王様と王様のペアに扮して出ようとします。しかし、ヒーローのSurper BunnyになりたいMaxは王様役をやりたがらず、Rubyはあの手この手で説得しますが叶いません。この用例は、もう諦めたという場面でのセリフです。[would have been]はもう全く可能性は無いと判断したことを表しています。

 wouldに完了を後続させると、原形を後続させるよりも「今・ここ」からの距離がより離れると感じられます。そのため、「もう全く見込みなし」という感じが出るということでしょう。

 じつは、このあと、最後のこの一節が決め手になって、弟のMaxは王様になって大会に出てくれることになります。百聞は一見に如かず、です。YouTubeで公開されており、この発話に至るまでの文脈を通してみると、その感覚がよくわかると思います。

 

 同様に、用例(1~4)の(a.)を取り出してみます。

(1a) The letter will have arrived yesterday.

(2a) The letter may have arrived yesterday.

(3a) The letter might have arrived yesterday.

(4a) The letter would have arrived yesterday.

 

(1a)昨日手紙はきっと届いている。

(2a)昨日手紙は届いていたかもしれない。

(3a)昨日手紙はひょっとして届いていたかもしれない。

(4a)昨日には手紙は届いていただろうに(いればよかったのに)。

 

 これらの用例を概観すると、過去の出来事に対する認識を示していると言えます。

(1c)ではwillは「確実に」届いたと判断しています。何事もなければ手紙はいつものように届くものという場合に適します。 (2a、3a)は順に起こるという実現性が下がります。完了するともしないとも言い切れないような何らかの状況があったことが含意されます。(4a)は事情があって実際には完了しなかったことを表します。

 

 ここで改めて、 [would+完了]の型の(4a)と(4c)を比較してみます。

(4a) The letter would have arrived yesterday.

(4c) The letter would have arrived by tomorrow.

 

 [would+完了]の型は、過去のことについて述べると、「現実には起こらなかった」ということを意味します。未来のことについて述べると、「起こることは非現実的だ」と判断しているという心的態度を示します。先ほどのアニメの実例で見たように、どちらも文脈としては残念な気持ちを表すことができます。

 学校文法の見方では(4a)(4c)とも和式仮定法ということになるのでしょうか。もしそうするなら、未来のことは「非現実的」な見込みであって「非現実」ではありません。(4a)の過去、(4c)の未来をまとめて仮定法とすると、「仮定法は非現実のことをいう」とする和式の定義はあてはまらなくなります。仮装大会の用例ではMaxは王様として実現しています。未来のことは未確定なので非現実とは言えないのです。

欧米では、これらをsubjunctiveとして区別はせず、現実的、非現実的、現実、非現実にかかわらず、単にconditionalとしてひとまとめにして扱います。

 

「現代英語では仮定法過去と仮定法過去完了は、形態上、直説法と変わりがないことから、海外の学習者・教師向けの文法書は直説法と仮定法過去および仮定法過去完了を1つにまとめて、conditionalとして提示している。英語話者の感覚として、仮定法の存在が意識されていないのだとすれば、少なくとも教育上は、これらをsubjunctiveとして独立させる必要は感じられない。「仮定法」という用語は使わなくても、条件文として指導すればよいだけである。」

   石田 秀雄『仮定法指導の改善―問題点の整理と新たな用語の提案―』2021

 

「仮定法」は、海外の学習用文法書でも、英語ネイティブの感覚でも特に区別していない日本独特の解釈です。もちろん、その解釈が学習者に有用なら問題はないと思いますが、実際には普通に使う表現を使えていないという指摘がされています。その上、[would+完了]が未来のことに使うことは、幼児対象のアニメでも使われていて正用とされているのに、学参に載っていないのです。

 

 過去、現在、未来を含めた[would+完了]は、「現実からかけ離れている」という感覚を表すと言えます。未来のことは未確定なので非現実的、過去のことは確定しているので非現実ということになるのです。

 

 ここまで[will/would/may/might+have+done]の型を、横軸を時間time、縦軸を広い意味のtenseとして示して各用例を見ました。これら[法助動詞+完了]の型は現実との距離感をもとにした「想い」表す叙想法で、過去時・現在時・未来時のことを述べるということで共通しています。

 そのような見方ができれば、当然、他の助動詞はどうなのか?という疑問がわくのではないでしょうか。学参では、[could+完了]は「仮定法過去完了」の1つとされていますが、未来のことをのべることはないのかということです。

文脈が分かるように、少し長いですが用例を引用します。

 

 "How long will it take to make, anyway?" said Harry as Hermione, looking happier, opened the book again.

"Well, since the fluxweed has got to be picked at the full moon and the lacewings have got to be stewed for twenty-one days ... I'd say it'd be ready in about a month, if we can get all the ingredients."

"A month?" said Ron. "Malfoy could have attacked half the Muggle-borns in the school by then!" But Hermione's eyes narrowed dangerously again, and he added swiftly, "But it's the best plan we've got, so full steam ahead, I say."

                ――Harry Potter and Chamber of Secrets

"それは、いったいどれくらいかかるの?" とハリーが言いました。ハーマイオニーはうれしそうに再び本を開きながら答えました。

"ええと、フラックスウィードは満月の夜に摘まないといけないし、レースウィングは21日間煮込まないといけないから… 材料がすべて手に入れられれば、約1か月かかると思う。"

"1か月?" とロンが言いました。"その頃にはマルフォイが学校の半分のマグル生まれに襲いかかるかもしれない!" しかし、ハーマイオニーの目は再び危険な光を帯びて狭まり、彼は素早く付け加えました。"でもこれが今のところ最善の計画だから、全速力で進めるしかないと思う。

 

 この中のMalfoy could have attacked…は未来についての実現可能性を述べています。[could+完了]の型も過去について述べると確定した「非現実」を意味しますが、未来のことについて述べると未確定なので「実現性の低い可能性」の意味を表すのです。

 このように、英語の述語動詞VPの用例を平面として広く渡すと、これまで見えなかったことが見えてきます。これは科学史で言えば、元素周期表のもたらし効果と同じで、存在が確認されていない用法でも、ある程度予見できるわけです。

 

 現行英文法は時間time、時制tense1つの数直線という一次元のパラダイムに収めようとします。しかし、時制tenseは距離感としても1つの軸を想定すると、二次元の時空間として表現できます。

 これは科学史で言えば、かつて物理学で三次元の空間では説明できない現象を取り込んで、時間を加えた四次元時空間というパラダイムにシフトしたようなものです。次元を1つあげたパラダイムを採用してみるのは悪くないのではないでしょうか。物理学からは百年余りは遅れはしましたが…。