現在進行形は約束ができていたり段取りが済んでいるような将来の行為について述べるときに使うことは文法書にもありよく知られています。一方で現代英語ではその場で生じた事態に対応して、今決めた行為について述べるときにも現在進行形を使うことができます。事前に決めていない場合でも現在進行形を使うということがポイントです。
『PEU』には従来から言われている事前に決められた予定に加えてその場で決めた行為を現在進行形で表す用例が載っています。
解説の部分を和訳しておきます。
「現在進行形は、将来の行動や出来事に使用され、ある程度現実味(prsent reality)がある場合に使う。これは、個人の予定や確定した計画に関する言い方で最も一般的であり、時間と場所が決まっているときによく使われる。」
「現在進行形は、動作を始めることを表現するために行為を表す動詞で使用される」
現在時制Present Tenseは事実として起きていないことでも、過去・現在・未来という述べる事柄が属する時間(time)を選ばず、現実味がある(present reality)と感じたことを表したいときに使います。だから、まだ起きていないこと、つまり未来のことでも話者が現実味を感じていれば現在時制を選択して使います。
現在進行形は、be動詞がIndictive Mood Present Tenseですからやはりこれからの(まだ起きていない)行為について述べることができます。よく-ing形は「過去志向」という何の根拠もないその場限りの説明がされることもありますが、言語事実を一貫して眺めれば、そんなことはありません。
例えば、“What are we doing? ”は「私たち何やってるの?」と「今から何するの?」のどちらの意味も表すことがあります。現在進行形は、すでに事態が進行している場合にも、これから始まる(まだ始まっていない)場合にも使います。英語話者は過去に決まっていようと今決めようと、時間に縛られることなく適切に表したいことが伝わると判断できれば現在進行形を選択して使います。
では、PEUにあった後者の用例を深堀することから始めましょう。
Are you coming the pub? 「例のパブに行く(来る)?」という問いについての返答の仕方は一様ではありません。例えば、以下のような返答は自然でよく使われます。
1) a. Yes, I'm coming.
b. Sure, I'll be there.
c. Absolutely, see you at the pub!
d. Yep, I'll join you.
e. Of course, count me in.
この返答の用例(1a~e)はいずれも「その場で決めた」行動を示していますが、(1a)では現在進行形を使い、(1b、d)ではwillを使っています。「その場で決めた」かどうかはwillと現在進行形の選択には関与しません。慣用としての言い方が異なるだけのことです。
慣用として*I'll come.とか*I'm being there.なんて言うことはまずないでしょう。それは文法というより語法とかコロケーションの問題です。今決めた行為を述べるときに、willと現在進行形のどちらも使いますが、英語話者は規則ではなく一般的な慣用には従います。
2) “Are you changing and heading out?”
“I'm just going next door. I'll be right back.”
(着替えて、どこかへ行くの?)
(隣に行ってくるだけ。すぐ戻るよ。)
事前に予定になく何らかの事態が生じて、それに対応するためにその場で決めた行動について、このように返答することがあります。
3) A:“Get your coat on! I'm taking you down to the doctor.”
B:“Oh, do I really need to go? I'm feeling a bit better.”
A:“Better to be safe. The doctor can check you out and make sure
everything's okay.”
B:“Alright, I'll grab my coat. Thanks for taking me.”
A: コートを着て!病院に連れて行くよ。
B: あれ、本当に行かなきゃいけない?少し良くなってきてる気がするんだけど。
A: 念のためにも行った方がいいよ。医者が診て、何かあれば教えてくれるでしょ。
B: わかった、コートを取ってくるね。連れて行ってくれるなんてありがとう。
この用例のI'm taking…は、具合が悪そうにしていることに気づいて、その場で決めた行為を表現するときに使う分かりやすい例だと思います。
事前に予定になく、ある事態が生じてその場で決めた行動には、will、現在進行形、be going toのいずれの表現も使うのです。現在進行形は、be going toと比べると即座に行動に移すような感じがします。このあたりの語感は人にもよるかもしれません。多くの用例にあたって身に着けていくのがいいでしょう。
映像作品から採った用例を紹介します。
Simonが砂遊びをしていて、向こうで凧あげをしているところを見つけます。
4) Simon: “Hey, are you coming, Caspard? Let's go and see the kite. ”
Gaspard:“No no, I want to finish my castle.”
Simon: “Okay but I'm going.”
――Simon | I Can DO IT
「ねぇ、ガスパール、行く?凧を見に行こうよ。」
「いやいや、僕は自分の城を完成させたいんだ。」
「わかった、でも僕は行くね。」
凧あげをしているところを偶然見つけて見に行こということですから、前もって決めていたわけではありません。その場で行くことを決めて言っています。
次の用例は文脈が分かるように、少し長く引用します。
5) Brother:“What's today?”
Sister: “Mama's taking me to the bookstore to see Ursula Major.”
Brother:“Who's Ursula Major?”
Sister: “She wrote the big dipper mysteries.”
Mother:“Ms. Major is autographing books today.”
Sister: “And I'm going to meet her in person”
Brother:“Oh, Can I come, too?”
Sister: “Okay.”
Brother:“What time are you going?”
Sister: “Four o'clock on the dot.”
Brother:“I'm setting my watch right now.”
――The Berenstain Bears | Catch The Bus
兄: 「今日は何かあるの?」
妹: 「ママが私を本屋に連れて行ってくれて、アーシュラ・メージャーさんに会え
るの。」
兄: 「アーシュラ・メージャーって誰?」
妹: 「彼女、ビッグディッパー・ミステリーズを書いてるの。」
母: 「今日メージャーさんが本にサインをしに来るのよ。」
妹: 「それで、私、直接会いに行くの。」
兄: 「ああ、僕も行ってもいい?」
妹: 「もちろん。」
兄: 「何時に行くの?」
妹: 「ちょうど4時。」
兄: 「今、時計のアラームをセットしておくよ。」
最後のBrotherが使ったI'm setting…は、今初めて知ったサイン会に行くと決まって、教えてもらった時刻を時計のアラームにセットすると言っています。文脈からアラームをセットするという行為は事前に決まっているはずはありません。
このように「その場で決めたこと」を行うときに現在進行形を使います。また、2行目のSisterのセリフMama's taking…は文脈から事前に母親と約束していた予定であることが分かります。
引用元はYouTubeなので一般に公開されています。できれば、実際に視聴されるとよくわかると思います。
もう1例紹介します。自動車のトランクにある未整理の荷物の中に、それぞれのスーツケースがあり、その中にしまっている水着を取り出そうとする場面です。
6)Sister: “Look at all this stuff.”
Brother:“We'll just have to move a few things around. That's all.”
Sister; “There's your suitcase. See the green handle.”
Brother“That's it.”
Brother“Papa knows how to pack things tightly.”
(勢い余って出てきたスーツケースと一緒に後ろへひっくり返り中身が散らばる)
Brother;“Oh no.”
Sister: “There's my suitcase.”
Brother:“But try not to do what I did.”
Sister:“Don't worry. I'm leaving it right where it is.”
――The Berenstain Bears | By The See
妹:「見て、こんなに荷物があるよ。」
兄: 「数個のものを動かせばいいよ。それだけさ。」
妹: 「兄ちゃんのスーツケースがあるよ。見て、緑の取手」
兄: 「それだね。」
(取手を引っ張って、スーツケースを取り出そうとする)
兄: 「パパは、物をしっかり詰め込む方法を知っているんだ。」
(勢い余って出てきたスーツケースと一緒に後ろへひっくり返り中身が散らばる)
兄: 「ああ、なんてことだ」
妹: 「こっちに私のスーツケースがあるよ。」
兄: 「でも、僕がやったみたいなことはしないで」
妹: 「心配しないで。スーツケースは置いたままにしてやってみる。」
この最後の行のSisterが使ったI'm leaving…は、兄が失敗したのを見て、妹が自分はスーツケースを置いたままにしておこうと「その場で決めた」行動です。この後実際にスーツケースはそのままにしておいて、中にある水着だけを手探りで取り出そうとします。
起こった事態に対応して「その場で決めた」行動は、現状ではwillを使うことが多いのは確かです。ただ、このように現在進行形を使うこともあります。また、以前の記事でもいくつもの例を示したようにbe going toも「その場で決めた」行動を述べることはあります。
次の用例は、凧あげをしようとして失敗した直後の少年のセリフです。
7) “Oh, no, my kite. Wait a sec. I'm going to do it again. ”
――Simon | I Can DO IT
「ああ、だめだ、僕の凧。ちょっと待って、もう一回やり直すね。」
失敗したからやり直すと決めたわけですから、その場で決めたことは明らかです。このようにbe going toを使って「その場で決めたこと」を述べる用例は児童を対象とするアニメにも頻繁に出てきます。(以前の記事で多数紹介しています)
もう一例あげます。次の用例は、断食をしていたのに成り行きでつい戒律を破って食べてしまったFrankelehが後悔して自分を責めているときに、想像の中でおばあさんが出てきて言ったセリフです。
8)Bubby: “Eating on Yom Kippur. How could you…. You're no longer my
little Frankeleh…no, no, no, no ,no. From now on, I'm just going
to call you"F"…for"Failure."”
――Arthur | Is that Kosher / Never Never Never
おばあさん: 「ヤム・キプールに食べるなんて。どうして…。もうおまえは私の可愛
いフランケレじゃないわ…いや、いや、いや、いや、いや。これからは、
私はおまえをただ「F」と呼ぶことにするわ。「失敗者」の「F」よ。」
この用例のI'm just going to…は、戒律を破ったことに怒って思い付きで言っていますから、「今その場で決めた」行為を述べています。
なお、「Yom Kippur」(ヨム・キプール)はユダヤ教の最も重要な祭りの一つで、期間中に24時間にわたって飲食を控え、祈り、懺悔をして、過去一年間の罪や過ちから清めを求めます。
「その場で決めること」を述べるbe going toは比較的近年の用法ではありますが、今後、頻度が高くなっていくと予想されます。その中でもbe going to need(~する必要がある)という表現を見かけます。
このときのbe going toは起こった事態に対応して、その流れから「そうすべき/そうあるべき」というニュアンスで使われるという感じがします。用例を紹介ます。
9) “What should we do instead?”
“Well sometimes on rainy days Granny tells me a story.”
“Oh, a story!”
“Will you tell us a story, Granny?”
“Well, gather round”
“Oh, yes.”
“How should I tell?”
“How about Little Red Riding Hood?”
“All right, but I am going to need you all to help me.”
――Little Bear | Little Red Riding Hood
「代わりに何をしようか?」
「まあ、雨の日には時々おばあさんが話をしてくれるんだ。」
「お話!」「おばあさん、お話してくれるの?」
「さて、皆寄ってきて」
「うん、もちろん。」
「どの話をしようかしら?」
「赤ずきんの話はどうかしら?」
「わかったけど、皆に手伝ってもらう必要があるわ。」
雨が降って外で遊べなくなった子供たちが、おばあさんにお話をしてもらうという場面です。子供たちに配役してお話を手伝ってもらうことをおばあさんがこの場できめています。
実際に世界中で配信されている映像作品を見ると、現代英語ではwill、be going to、現在進行形はいずれも「その場で決めたこと」を述べるときに頻繁に使われていることは誰にも分かります。
ところが、学校教育では、逆行したことが行われています。世界の英語話者の使用実態に反して、いまだに、going toは「前もって決まっていた」ときに使い、その場で決めたことに使えないという通説が教育関係者の間で広がっています。それは中学教科書の記述にも見られ、学校でも教えられています。
<検定教科書の記述>
Sunshaine2(開隆堂2005 p.95)
a.「~するつもりである」とか「~することになっている」など、すでにきまっていることをいうときには、<be動詞+going to+動詞の原形>を使います。この形は、いま決めたばかりのことには使いません。
山田正義『未来表現の指導に関する一考察』2009
大村吉弘『英語に未来時制はあるのか―中高の時制とアスペクト指導における提言
―』2021
開隆堂2005年の記述に「いま決めたばかりのことには使いません」とあります。その後の2021年の論文でも、同教科書は「will-その時決めた予定、be going to-決まっている予定」としていることが記載されています。
また、「be going toはすでに決めてある予定や計画を述べるときに使う」と説明する教員が説明しない教員を圧倒的に上回っています。
このように全く使用実態に合わない通説が教育現場に広まっています。情報環境が異なる20世紀ならともかく、今世紀に入ってもまだこの状況なのです。
さらに問題なのは、ここに引用した2つの論文はどちらもこの実態を反映しない通説を教育に取り入れることを提言していることです。
(大村2021)では「‘be going to’ はあらかじめ決まっている予定や計画について、‘will’ は未来のこと、その場で決めたことを表す際に使われることを示すとよい。」としています。その場できめたことを表すbe going toには全く触れていません。
(山田2009)では「開隆堂2005a.の定義がふさわしい」とし、その根拠として「ジーニアス英和辞典第4版では不可とされていることを挙げ、次のように記しています。
「後半に述べられた 「この形は、 いま決めたばかりのことには使いません」 に関しては、次の例文で説明できる。
③Suddenly the phone rang. “Oh, I'll get it.”
④Suddenly the phone rang. *“Oh, I'm going to get it.”
④はジーニアス英和辞典第4版では不可とされているが、 be going toは 「いま決めた (=電話が鳴った時点で出ると決めた) ことには使」 えないからである。 あらかじめ電話が鳴ることが分かっており、 その時間に電話に出る心算をしているといった少し特殊な状況になる。」
山田正義『未来表現の指導に関する一考察』2009
まずもって問題なのは、この論文をすべて読んでもコーパスなど実際に使用されている用法を全く調べもせずジーニアス英和辞典に書いてあるということは根拠にしていることです。辞書や文法書は人が判断して書いたもので、誤った記述をしていることはしばしばあります。
法理には特別法は一般法に優先するという原則があります。また、特別な状況に適応する法をその範囲にない一般的な事例に適応することはできません。このことは文法法則も同じです。慣用的に使われる表現に包括的な一般的規則をあてはめることはできません。また特別の状況で成り立つというだけのことを一般的な法則にするのは飛躍のし過ぎです
例えばYou said it.は相手への動詞を表し「あなたの言う通り」という意味で使います。相手への同意を表すという同じ状況で*You were saying it.という人はいません。それは進行形を使えないという文法規則ではなく慣用にないからです。だから、 この2文をならべて、「同意を表すときに進行形は使えない」などと言えば飛躍のし過ぎです。
ちなみに、相手に同意する時には"You're telling me"と言うこともできます。同意表現のsaidやare tellingは慣用であって文法規則によって選択できる類とは違います。
I'll get it.は「自分が対応するよ」という文脈でよく使われる慣用的な言い方です。この状況で*I'm going to get it.という言い方はふつうはしません。だからといってそのことが、「いかなる場合もbe going toをいま決めたばかりのことには使わない」という一般的な規則の根拠にはなりません。
I'll get it.という慣用的な表現の使用頻度が高いのは当たり前です。目的語にitを取るという限定的な表現を外して、I will getとI’m going to getで比べれば一方しか使わないということはありません。「その場で決めた」ことを述べるかどうかはまた別のことです。
文法規則はその言語の一般的な規則で、汎用性があることが重要です。例えば、特定の一部の動詞だけに成り立つものは、語法やコロケーションに属します。文法規則としての妥当性は多くの用例を観察してはじめて検証できるものです。
多くのESL教材や文法書や辞書にある規則でも、特定の同じような用例を使い回しているものは、元は誰かが言い出しただけの一例に過ぎないと疑うべきです。偏った例が広く流布しているものは、実証研究が十分ではないかもしれないと考えるのが大学レベルの研究者がすべきことでしょう。
これらの論文と同じく、実証研究をしないで性急に誤った使い分けを、導入しようとしているものは他にもあります。次のような作問までしています。20世紀によくあった誤った「使い分け規則」を基準とした不適切な入試問題を思い出します。
「以下の英文では,will と be going to(語形変化も含む)のどちらを使う可能性が高いですか。will は 1, be going to は 2, will と be going to のいずれも同じ可能性の場合は 3 を選んでください。
問題3. Anna is in the hospital. Oh, really?
I didn't know. I ( ) go and visit her.
問題4. Anna is in the hospital. Yes, I know.
I ( ) visit her tonight.
相澤 一美、原田 依子『文法教材における法助動詞の提示法と学習者の理解』2015
この論文には、回答が記載されていませんが、この問題意図は『GIU』の次の記述であることは間違いないでしょう。
「代表的なESL用の文法教材から、法助動詞と疑似法助動詞との意味的な違いに関する記述を収集した。以下に、法助動詞と疑似法助動詞の違いを簡潔にまとめる。
(7) A: Let's have a party.
B: That's a great idea. We'll invite lots of people.
(8) Sue and I have decided to have a party.
We're going to invite lots of people.
(Murphy, 2009)
will は,「〜しよう」のように,話している時点で決めたことに用いる (7)。一方,be going to は「〜するつもり」のように,話す以前に決まっていたことを表す場合は be going to を用いる (8)。」(相澤2015)
EFL教材の説明を根拠に「通説」を検証しないで受け入れています。つまり先に挙げていた問題3は、事前に知らなかったから「その場で決めること」を表現するという意図でwillを唯一の答えと想定していると考えられます。問題4の事前に知っていた場合と対比していることからも明らかです。
論文の記述から、EFL教材の説明を正しいと考えていることが分かります。
まず、文法参考書について「will (=be going to) 〜 は,「〜するつもりだ,〜でしょう」という意味で,意思や未来を表す」と記されていた」という点を問題としてあげています。さらに次のように記述しています。
「ESL 教材で法助動詞と疑似法助動詞の用法の違いを概観した。高校生用の文法参考書よりも説明が端的であり,例文も違いが的確に表されていた。
中学校用の文法教材が,高校用教材や ESL の文法教材と比較して,大幅に記述が単純化されていることが明らかになった。入門期に過剰に単純化された文法規則が定着してしまうと,大学生になっても,法助動詞と疑似法助動詞の使い分けを誤解している学生が多いと予測される。」(相澤2015)
この論文のいう的確に表されているという使い分けの基準が「その場で決めること」です。当然、使用実態に合わない不適切な基準です。
will=be going toを大幅な単純化としながら、「その場で決めること」を基準とするwill≠be going toもまた大幅な単純化であることに気づいていないようです。
この両方には、旧表現が新表現と交替する時期には、一般にそれぞれに相応しい領域とどちらでもいい領域が併存するという言語の常識が抜け落ちているという共通点があります。英語の法助動詞は文法化という同じ意味変化の過程をたどり、旧表現が新興表現と交替するということを繰り返しています。
かつて未来時制の代表とされたshallは後発のwillに侵食されていきました。今はwillが後発のbe going toに表す領域を侵食されています。その大きな流れの中で「その場で決めること」を述べる領域をbe going toが侵食しているのです。
旧表現が表していた意味の領域を新興表現が侵食するときは、一般的に若年層の口語から交替が起こります。交替が進行中には新興表現を容認する人が世代や地域や階層によってばらつきます。willとbe going toについて、英語のネイティブスピーカーを対象に、容認度を調査した資料があります。要約して紹介します。
「通説ではbe going to は「現在の要因(意図や兆候)」に関心があり,will では「未来の出来事」に関心があるので,be going to には「現在志向性」,willは「未来志向性」があると言われている.その結果,「意志」の意味では,be going to は「前もってなされた決心」を,will には「その場でなされた決心」を表す。」としたうえで、「意志」に関する調査ではそのような「区別は必ずしも顕著ではなく,あくまで緩やかな傾向にとどまる」と結論しています。
その調査結果を以下のように示しています。
「その場でなされた決心」はwillを使うのは基本ですが、be going toを容認する英語話者が7割前後に達しています。これは旧表現のwillの表す領域を新興表現のbe going toが侵食しているという現状を表しています。世界で配信されているアニメのシリーズ作品には「その場でなされた決心」をbe going toで表す用例は頻繁に使われています。
現時点では「その場で決めた」これからの行為はwillを使うのが最も汎用性があり標準として認められています。公教育で標準的な表現を推奨することは当然のことです。
しかし、「その場で決めた」行動を表す場合、willを使うことだけが正しく、現在進行形やbe going toを使うのは誤りとするのはどうでしょうか。外国語として学ぶわれわれが、他の人々が使っている表現を正誤判定して「誤り」とするのは筋違いではないかと思います。さらに、たいした検証もしないで通説に過ぎないものを基準として作問し、将来ある子供たちにテストとして課すのは愚策としか言いようがありません。
文法規則を見直すなら、その例外とされる現象はないか実使用を徹底的に調べ、言葉というものの原理・原則、科学的な法則に基づいて一貫性のある説明は追及すべきです。そのとき、従来の辞書や文法書や論文に書いてあることは批判的検証の対象です。先達の研究を超えることが後世の務めであり特権でもあります。
これまでにこのブログで紹介してきた論文には、実証的な検証をしっかり行っている良いものが多くあります。現状、日本の文法参考書は入試で点を取るための指南書が主流なので、優れた新知見を示す論文は得てして埋もれがちです。できるだけ掘り起こして紹介してはいますが。
ただ、自分自身も含め完全無欠な人などいないので、きっと誤ったことを言っている場合もあるでしょう。少なくともできる限り手を尽くして、その上でさらに優れた知見を示す人が現れてくれればと願っています。
【補充用例】
YouTubeより
雪の彫刻コンテストで子供たちがそれぞれ作った雪像が壊れてしまいます。その後、それぞれの子供がその場で考えて再び雪の彫刻を作るときに言ったセリフです。
“I'm gonna shape my snow into a beautiful crown for a princess.”
“I'm making a snow roket ship.”
“I'll make a snow clown.”
(Now every Kitty cat was making thier own special sculpture.)
――Kid-E-Cats | Snow Sculptures(3;27)
「雪で王女様の美しい冠を作るわ。」
「雪のロケット船を作るよ。」
「雪でクラウンを作るね。」
(子猫たちはみんな自分だけの特別な彫刻を作っていました。)
Old Elf:“Nanny Plum, do you even have a magic license?”
Nanny:“Of course, I do.”
Old Elf:“Oh dear. It's expired.”
Nanny:“What does that mean?”
Old Elf:“It means tt's worthless.”
Nanny:“Can't I do magic then.”
Old Elf:“No. It's aginst the law. No grown-up fairy can do magic without
a license.”
Nanny:“What?”
Old Elf:“I'm taking away your wand.”
――Ben and Holly | Nanny's Magic Test
Old Elf:「ナニー・プラム、魔法の免許を持っていますか?」
Nanny:「もちろん、持っていますよ。」
Old Elf:「あらら。期限切れみたいですね。」
Nanny:「それってどういう意味?」
Old Elf:「それは役に立たないってことです。」
Nanny:「じゃあ、もう魔法を使うことはないできないの?」
Old Elf:「ダメです。法律に違反しています。免許がないと、大人の妖精でも魔法を使うことはできません。」
Nanny:「ええっ?」
Old Elf:「あなたの杖は没収します。」
Sister:“It feels like summer.”
Brother:“Hey let's play baseball”
Sister: “And soccer.”
Papa:“Or when was the last time we all went down to the swimming hole
for a family swim.”
Brother: “Swimming? But it's the end of October, Papa.”
Sister:“Yes. It's almost winter.”
Mama: “Not according to good old Mr. Sun. Who's given us the gift of an
unusually warm day”
Papa:“Well come on then. Get your swimsuits on.”
Brother:“We're going swimming”
――Berenstain Bears | Bears For All Seasons
妹:「夏のような感じがするわ。」
兄:「ねえ、野球しようよ。」
妹:「それとサッカーも。」
パパ:「あるいは、家族で泳ぎに行ったのはいつだったか、泳ぎの場に行こうじゃないか。」
兄:「泳ぎ?でも、10月の終わりだよ、パパ。」
妹:「そうよ。もうすぐ冬だもの。」
ママ:「でも、古き良き太陽さんによれば、普段にはない暖かい日をくれているんだから。」
パパ:「まあ、さあ。水着を着て。」
兄:「泳ぎに行くぞ!」
Mama:“ You'd better make sure you put that under your pillow tonight.”
Sisier:“Why?”
Brother:“Why? For the tooth fairy of cours.”
Sister:“No way. This is my first tooth. I'm keeping it.”
――The Berenstain Bears | Visit The Dentist
母:「今夜はそれを必ず枕の下に置いておきなさいね。」
妹:「なんで?」
兄:「なんで? もちろん歯の妖精のためさ。」
妹:「絶対嫌。これは私の最初の歯だから、私が取っておくんだから。」