今日の学習文法で構文と言えば、there構文、形式主語itを使った構文などがあげられます。これらは英文の構造としては、特殊な型とみられています。これに対して、伝統的な5文型は英文構造の一般的な型とみられてきました。

 近年、文型を構文としてとらえなおす見方が主流になってきています。今回は、従来の学校文法ではSVOOとされてきた構文について見ていきます。

 

 従来の学校文法の説明は、100年以上前からあります。1898年のNesfieldの英文法書から引用します。

 

「二重目的語。一部の他動詞は、物を示すものと人を示すものの2つの目的語を取る。物を示すものは直接目的語と呼ばれ、人または動物を示すものは間接目的語と呼ばれる。

  I forgave him (Indirect) his faults (Direct).  

間接目的語は常に最初に配置される。直接目的語の後に配置される場合、"for"または"to"という前置詞が前に付けられる。

  He taught Euclid (Direct) to his sons (Indirect). 」(しんじ訳)

     Nesfield『Manual of English grammar and composition』1898

 

 今日の5文型は、20世紀初頭のOnionsの考案とされています。Nesfieldは、5つという数は明言していませんが、19世紀にはすでに、SV、SVC、SVO、SVOO、SVOCの型の文を示しています。この記述は、ほぼそのまま我が国に取り入れられて、現在の学校文法には引き継がれています。

 

 近年の文法研究では、主に構文文法という立場から、5文型の見直しが進んでいます。以下はそれを体系化した表です。

 

年岡智見『英語構文体系の認知言語学的研究―重目的語構文と関連現象―』2014

 

 

 英語は語の配列に意味がある言語です。近年ではその配列自体に込められた意味を詳細に分析するようになってきています。SVOOという文型についての見直しは、その典型の1つです。

 

「これまで学校文法では、(1a)(1b)のような give, find を含む文において「人」と「物」という2つの目的語(間接目的語/直接目的語)の順序を逆にする場合、(2a)(2b)のように「人」に相当する目的語に前置詞to/for が付加されると説明されてきた。

 

(1)a. John gave Mary a diamond ring.

    b. John found Mary a good job.

 

(2)a. John gave a diamond ring to Mary.

        b. John found a good job for Mary.

 

(1)の構文は二重目的語構文(double object construction)、(2)のように授与の相手を表わす与格をとる構文は与格構文(dative construction)と呼ばれ、(1a)と(2a)、(1b)と(2b)が意味的に対応して交替可能であることを与格交替(dative alternation)と言う。」

  林高宣『二重目的語構文とその拡張例における意味の違いについて』2004

 

 構文文法では、(2a)のように[物+to+人]の型をto与格構文、(2b)のように物+for+人]の型をfor与格構文と呼びます。従来の学校文法では、二重目的語構文は、与格構文に書き換えられるという説明でした。これはNesfieldの説明と同じです。

 

 近年の研究では、与格交代は機械的に置き換えられるとは限らないことが指摘されています。二重目的語構文と与格構文は必ずしも同じ意味とは限らないということです。

 それぞれ別の論文から二重目的語構文とto与格構文と対比した例を2例引用します。

 

(3) a. Mary taught Bill French.

      b. Mary taught French to Bill.

                                                                ――Goldberg1995

 (3a)のに準目的語構文の場合にはBillが実際にフランス語を習得したという含みがあるのに対して、(1b)の与格構文にはそのような含意は必ずしもない。

                                  濱崎孔一廊『英語二重目的構文における事象構造』2003

 

(4) a. He tossed Tom the ball.

      b. He tossed the ball to Tom.

 

 (4b)の to付き与格構文 3は、移動の経路に焦点が当たるため 「Tom の方-投げた」 という意味を表 し、Tom が実際にボールを受け取ったか否か問わない (ボールが Tom の頭の上を越えて行っても Tom が寝ていてもよい)のに対して、(4a)は Tom がボールをキャッチしたことを合意している

                                                  年岡智見『「二重 目的語構文」再考』2008

 

 以上の2例に共通しているのは、二重目的語構文は結果としてIOはDOを得たしたことを含意していることです。それに対して、to与格構文は、IOはDOを得たかどうかは分からないということになります。

 2つの構文の意味の違いを模式的に示してみます。

 

(3) a. Mary taughtBill French.     Maryは教えたBillはフランス語を習得した

 

     b. Mary taught French / to Bill.  Maryはフランス語を教えた/Billに対して…

 

(4) a. He tossedTom the ball.       彼は投げたトムはボールを受け取った

 

     b. He tossed the ball / to Tom.   彼はボールを投げた/Tomの方へ

 

 この⇒は、[S+V]が[O1+O2]と連動していることを示しています。[S+V]という事象が起き、その結果として[O1がO2を得た]ということを含意します。SVOOという配列は、単に目的語を2つ並べてものが移動したことを述べるだけの文型ではなく、結果としてO1がO2を得たという意味を派生している点が重要なのです。

 

 二重目的語構文とfor与格構文と対比した例を引用します。

 

(5) a. Chris baked Pat a cake.

 

     b. Chris baked a cake for Pat.

                                                                          ――Goldberg1995

  二重目的語構文で既存の品物を手に入れて相手に渡す buy 型、新しく創造した品物を相手に渡す bake 型、行為の恩恵を相手に授ける clean 型等に共通しているのは、動詞の示す動作を行って「物」を手に入れ、その「物」を未来のある時点で他者に受け取ってもらうという意味である。(濱崎2003)

 

  模式図にすると下のようになります。

 

(5a) Chris bakedPat a cake.      Chrisは焼いたPatはケーキを得た

 

(5b) Chris baked a cake / for Pat.  Chrisはケーキを焼いた/Patのために…

 

 (5a)は、「Chrisが焼いたケーキをPatが受け取った」ことを含意します。

(5b)は、「ChrisはPatのためにケーキを焼いた」ことを意味します。受け取ったかどうかは文脈次第ということになります。

 

  二重目的語構文とはSVOOと語を配列することによって、「IOがDOを得る」という意味を生じる構文として解釈されます。

  英語は語の配列によって文法性を示す言語です。構文文法では、一つ一つの単語自体には「得る」という意味はなくても、配列によって独自の意味が発生すると考えます。

「構文文法(Construction Grammar)」は、構文を自立した文法単位とし、構文には構成単位の意味を複合するだけでは得られない独自の意味が存在する」

                                          浅川照夫『動詞の意味と構文の拡張(1)』2005

 

(年岡2014)では、「二重目的語構文がひとつの構文と認められる理由」として次の3点を挙げています。

 

a. 二重目的語構文は、生起する語彙項目に還元できない意味を持つ。

b. 二重目的語構文の着点項は有生物、つまり受容者でなければならない。

c. 二重目的語構文は、動詞のすぐ後ろに非叙述的な名詞句を二つ取るという独特の形

   式を持つ。

年岡智見『英語構文体系の認知言語学的研究―二重目的語構文と関連現象―』2014

 

 (a)は、一般的に構文と呼ぶための要件というところになります。 (b)と(c)は二重目的語構文に固有の特徴になります。

 SVOOの型を二重目的語構文と呼ぶのは、この型に配列された構成単位である単語の中にはない「IOがDOを得る」という独自の意味が存在するからです。

 

 そうすると、to与格構文というのは「独自の意味が存在する」とは言い難いという疑問が残ります。この辺りはひとまず保留しておいても、SVOOの型を構文と呼ぶことには意味があるでしょう。

 

 二重目的語構文と与格構文では意味が異なるとすれば、与格交代はいつも成り立つわけではないということになります。二重目的語構文の方が意味が厳密で、成立するための制限があります。それはSVの結果として「IOがDOを得る」という意味が成立するかどうかが問題になるということです。

 用例で確認します。

 

(6) a. John opened the door for Mary.

 

      b. *John opened Mary the door.

    

  この用例では、(6a)は自然な英文ですが、(6b)は非文とされます。それぞれを模式的に示します。

 

(6a) John opened the door / for Mary.  Johnはドアを開けた/Maryのために…

 

(6b) John openedMary the door.    Johnは開けたMaryはドアを得た

 

 (6b)の「ドアを得た」というのは不自然です。この不自然な感覚から、一般的には使わないと考えられます。このことから与格構文では成立しても、二重目的語構文に置き換わるとは限らない場合があることが分かります。

 

 多くの論文では与格交替が可能かどうか、あるいは二重目的語構文が成立するかどうかという言語学的に厳密な説明をしています。しかし、英語の話者がそんなに複雑に考えているかどうかは必ずしも分かりません。言葉にはそれを使う人の想像力に頼る部分があります。

「Goodman and Sethuraman(2006)とGoldberg(2006)が引用しているAhrens(1995)の実験結果では、she mooped him something. に見られる存在しない人工語moopの意味を問われた大人の母語話者の60%が、‘give’の意味であると回答している。この事実は、母語話者に二重目的語構文という構文(型)が所有の意味を表すことが心的に内在していることを示していることに他ならない。」

   登田 龍彦『二重目的語構文における所有関係再考』2017

 

 英語母語話者が幼少期に二重目的語構文を使うようになる際に、まずgiveを使ったSVOO型の文をひな型として使い、後に他の動詞を使うようにという報告があります。その過程で一般的に使わないような動詞を試して修正しながら正用とされる表現を使うようになるとされます。

 人工語moopの例は、派生的な意味を想像する人と、そうでない人もいることを示しています。語外の派生的な意味は想像力に頼る部分が大きいので語感は人によって異なることもあり得るでしょう。

 

 専門家は厳密な考証を行いますが、その成果を学習文法に取り入れるにしても、できることなら簡単に感覚的にわかる方は実践的だと思います。

  もう1例あげます。

 

(7) a. Originally, I bought this tea-kettle for my wife, but I decided to

          keep it.

 

       b. *Originally, I bought my wife this tea-kettle, but I decided to

            keep it.

                                                                            ――Oehrle 1976

(7b)は当初の意志が途中で変わってしまうと、意味に矛盾が生じてしまうことを示している。品物を相手に渡そうとする意志(intention)が品物が相手の手に渡る直前まで継続することである。(浅川2005)

 

 「当初の意思」云々は置いといて、それぞれの構文を模式で示して考えます。

 

(7a2) I bought this tea-kettle / for my wife,  

    私はこのやかんを買った/妻のために…

 

(7b2) I bought / my wife this tea-kettle. 

    私は買った妻はこのやかんを手に入れた

 

  (7a)のfor与格構文は妻のためにやかんを買った事実をいっているだけで、それをどうするかは「…」です。だからbut以下が成り立つわけです。

 (7b)の二重目的語構文は、妻がやかんを得たことを含意します。それをまだ渡さずに持っているというのはおかしいということが分かります。

 

 このようにとらえていくと、英語話者が使わない理由が推測できると思います。二重目的語構文の意味が浸透すれば、試験で次のような問題が出題されることがあるかもしれせん。

 

問題】次の中に不自然な文が1つだけあります。それはどれですか?

 

(8) a. John fixed the radiator for Mary.

 

     b. John fixed Mary the radiator.

 

     c. John fixed Mary sandwiches.

 

     b. John opened Mary a beer.

 

 それぞれを模式的に示します。 

 

(8a) John fixed the radiator / for Mary.  

       Johnはラジエーターを修理した/ Maryのために…

 

(8b) John fixed Mary the radiator.  

       Johnは修理したMaryはラジエーターを得た

 

(8c) John fixed Mary sandwiches.   

       Johnは作ったMaryはサンドイッチを得た

 

(8d) John opened Mary a beer.     

       Johnは開けたMaryはビールを得た

 

 サンドイッチやビールは手に取ることができます。ラジエーターは車の部品など放熱機です。「Maryが得た」というのは不自然です。よって(b)は一般的には想像しにくいので使わない非文ということになります。

 

(林2004)では次のように指摘しています。

「すべての動詞において与格交替が見られるわけではないという事実は、二重目的語構文と与格構文に意味論的な違いがあり、学校文法における両者の「言い換え」は便宜的なものにすぎないことを示していると考えられる。」

                林高宣『二重目的語構文とその拡張例における意味の違いについて』

 

 以上のようにSVOOの型は汎用する文型とするよりも、目的語や文脈に制限がある構文としてとらえる方ことに妥当性があるようです。

 

 この型を作る動詞は、似たような性質があります。(年岡2014)にリストされている動詞を挙げときます。

 

【to‐与格交替を起こす動詞】

a. 授与:feed, give, hand, pass, serve, etc.  

b. 交換物のある授与:pay, repay, sell, etc.  

c. 一時的な授与:lend, lease, loan, rent, etc.

d. 遺贈:bequeath, leave, will, etc.

e. 授与の約束:guarantee, promise, etc.

f. 割り当て:allocate, allot, assign, etc.

g. 送付:forward, mail, post, send, ship, etc.

h. 通信:e-mail, fax, phone, radio, wire, etc.  

i. 携行:bring, take, etc.

j. 弾丸的移動:throw, toss, etc.

k. コミュニケーション:read, show, teach, tell, write, etc.

l. 許可/不許可:permit / deny

 

【for‐与格交替を起こす動詞】

a. 創造:bake, build, cook, draw, knit, make, sew, etc.  

b. 獲得:buy, earn, find, gain, get, order, win, etc.  

c. 確保:keep, leave, reserve, save, etc

 

  年岡智見『英語構文体系の認知言語学的研究―重目的語構文と関連現象―』2014

 

 この中で、許可/不許可を表す動詞を見ておきます。

 

(9) a. Joe permitted Bob a cookie.

 

     b. Joe denied Bob a cookie.

 

  それぞれ模式で示すと次ようになります。

 

(9a) Joe permittedBob a cookie.  Joeは許可したBobはクッキーを得た

 

(9b) Joe denied⇒Bob a cookie. Joeは否定したBobはクッキーを得なかった

 

それぞれのこの文意は次のようになります。

(9a)「ジョーがボブにクッキーを与えることを許可した」

(9b)「ジョーがボブにクッキーを与えなかった」

 

 二重目的語構文はSVがOOと連動するので、SVが許可を意味するとIOはDOを得ることを含意し、SVが拒否を意味するとIOはDOを得ないことを含意します。

 これらの動詞に、もともと「与える」や「得る」というような意味があるというのは想像しにくいと感じます。「物が移動」して結果として「得る/得ない」という意味は、SVOOという語を配置することで了解されることが英語話者の間でコードされているのでしょう。

 

 二重目的語構文は構成する単語だけではなく言外に派生する意味を含むことから、その成立は想像力に頼ります。SVOOの型というだけで意味が派生するとは言い切れません。

 登田は次の例を挙げて、動詞によっては結果として「所有」の意味を含意するかどうかを検討しています。

 

10) a.  He wrote his lawyer a note, but he didn't mail it.

 

      b.  He wrote a note to his lawyer, but he didn't mail it.

 

      c.  He wrote me with the result of investigation.

 

『ジーニアス』が記述するような「彼は弁護士に短い手紙を書いて送った」という意味は与格構文He wrote a note to his lawyer.及び二重目的語構文He wrote his lawyer a note.にはなく、この「(書き)送る」の意味は取り消すことのできる意味、すなわち含意(implicature)である。

 「書く」という動詞は直接目的語を創造を目的とする達成動詞の1つであり、その遂行行為の意味自体から「送る」という意味は含意されない。目的語にさらに目標が伴った「…に手紙を書く」という二重目的語構文の構文的な意味及び語用論的・常識的意味から「(手紙を)送る」という意味が加わるために、「(手紙を)受け取り所有する」ことを含意されることになる。

 「調査結果を書く」という行為から「調査結果を(書いて)送る」という行為は連想し難いので、彼が私に調査結果を書いて送ってきたことを示すためには(c)のように前置詞withが必要となる。二重目的語構文においてwriteが「書いて送る」意味を含意するためには、動詞writeと目的語との間に結合的意味が関与するが、writeの意味だけでは‘write and send’の意味はまだ成立していないことを示している。」

  登田 龍彦『二重目的語構文における所有関係再考』2017

 

 言葉は人の想像力に頼るものであり、語感は人によって異なります。言語は地域や世代やコミュニティーの違いによって変わることがあり一様ではありません。文法的な枠組みは変わらなくても、内容語は変化しやすいので、注意が必要です。

 次のような指摘があります。

 

「物理的移動」と「所有関係の転移」の区別は微妙な場合があり、話者・方言によって差異が生じる (影山2001: 134)。throw, toss, kickなどの動詞が二重目的語構文に現われるのに対して、carry, pull, push, lowerなどでは二重目的語構文を許す話者(Green 1974, Levin1993, Tenny 1987)と、許さない話者(Gruber 1965,Pinker 1989, Gropen et al. 1989)に分かれる。

 

(i)a. John {threw/tossed/kicked} Mary the ball.

 

   b.John {threw/tossed/kicked} the ball to Mary.

 

(ii)a. %John {carried/pulled/pushed} Mary the ball.

 

       b. John {carried/pulled/pushed} the ball to Mary.

(%は話者によって違いがあることを示す。)

 

(iia)を認めない Pinker(1989), Gropen et al. (1989)によれば、throw, toss, kickなどのように移動のきっかけを与える行為(ballistic motion)を表わす動詞は二重目的語構文をとれるが、carry, push, pullのように主語が移動物といっしょに連続的に動いていく場合

(continuous motion)には二重目的語構文をとれないとしている。carryなどの動詞は連続的な移動に意味論的重点を置くため、移動物が相手の所有物になるということを伝えにくいからである。

 一方、同じ連続的移動を表わす take, bring が二重目的語構文をとることができる

理由について、take, bring はその語彙的意味の一部として着点を定めているため、所有関係の転移が語彙的に含意されているからである

     林高宣『二重目的語構文とその拡張例における意味の違いについて』2004

 

  構文文法は、従来の学習文法にはない視点を与えます。そのメリットは、これまで個別の文法事項とみられていた構文が、有機的につながるということを明らかにしつつあります。それは、さらに文法から語法、コロケーションへとつながることも示されています。

  今後の学習英文法に構文文法の視点は欠かせないと感じます。これからも継続して取り上げていこうと思います。