[述語動詞+目的語(to do/doing)]の型では、不定詞to doと動名詞doingの選択は第一義的には述語動詞の指向性によって決まります。例えばenjoyという動詞は動名詞を目的語にとる指向性があり、refuseはto不定詞を目的語にとる指向性があるということです。つまりto doあるいはdoingは述語動詞の指向性に呼応して従属的に決まるのであって、不定詞・動名詞自体には「前向き」「後ろ向き」のような指向性はありません。 

  need mending「修理が必要」という表現では「修理が必要なのは今」で「実際に修理するとしたらこれから」といえますが、「今/これから」という時間の違いは明確ではない場合は多々あります。「動名詞は過去的」というような、doingに時間志向性があるかのような一時しのぎの受験対策で広まったとらえ方の功罪について、従来の文法書では十分検証されてこなかったのではないかと思います。

 今回は主に動名詞を目的語にとる動詞を取り上げて、準動詞に時間指向性は無く、述語動詞の指向性、文脈によって「いつのこと」を表すのかは変わるということを検証していきます。

 

excuse doing】

1a) I can't excuse lying to your parents.

 (両親に嘘をつくことを許すことはできない)

 

1b) He couldn't excuse forgetting his anniversary.

 (彼は結婚記念日を忘れたことを弁解できなかった)

 

 用例(1a)のlyingは「嘘をつこうとするのは今またはこれから」のことなので、「過去的」とは言えません。一方 (1b)のforgetting「忘れていた」のは過去の事実です。

 excuse doingという表現で動名詞doingがいつのこと」を言っているのかは文脈次第ということになります。

 

resist doing】

2a) She tried to resist crying, but the sad movie was too touching.

 (泣かないようにしようとしたが、その悲しい映画はあまりにも感動的だった。)

 

2b) They couldn't resist laughing when they saw the funny video.

 (彼らはその面白い動画を見て笑わずにはいられなかった。)

 

  resist doingは「~しそうになることに抗する」という意味になるので、動名詞は「過去」ではありません。用例(2b)のように、can't help doingと似たような使い方もあります。

 helpには「(倒れそうな人を)支える」というような意味があるので、help doingは「~しそうになるのを支えて止める」という意味になると解せます。このような場合の動名詞はむしろ「これから」のことを指していて「過去的」ではありません。

 

resent doing】

3a) He resents being the only one in the group who has to do all the

   work.

 (彼はグループ単独で、すべての仕事をやらなければならないことを不快に思って

  いる。)

 

3b) Many employees resented doing extra work without proper

   compensation.

 (多くの従業員は、適切な報酬がないまま追加の仕事をすることを不満に思ってい

  た。)

 

 resent doingは出来事や状況に対する不満や憤慨を示します。ここで使われる動名詞は述語動詞の時制に呼応していて、「その時点」での状況について述べています。「いつのこと」なのかは文脈次第です。

 受験英語では「動名詞が過去的」という説明にあう述語動詞を主にとりあげています。resentやresistなど動名詞を目的語にとる動詞の範囲を広げてみると、この類の説明は偏った動詞を取り上げたことによる刷り込みであることが分かります。

 

admit doing】

4a) She admitted making a mistake in her report and promised to   correct it.

 (彼女はレポートでミスを犯したことを認め、それを修正すると約束しました。)

 

4b) She admitted having made a mistake in her report.

 (彼女はレポートでミスをしたことを認めました。)

 

 admit doingは事実を受け入れるという意味です。(4a)では「ミスしたことを受け入れて認めた」ことを意味しています。事実とは実際に起きたことを指します。実際に起きたこととは「過去の事実」ともいえます。admitは「事実・現実志向」とも「過去志向」ともいえる可能性がありそうです。

 ところで(4a)では、動名詞を完了相で使っています。時間的にそれ以前のことつまり過去のことを明示したいときには完了動名詞にすると言えます。動名詞自体に過去志向があるのなら完了動名詞は不要なはずです。このことから動名詞doingは時間的な指向性よりもdoingがもつ生き生きとした感覚から「事実・現実志向」があると考える方が自然だと思います。

 

justify doing】

5a) She tried to justify taking a day off from work by explaining how

   exhausted she was.

 (彼女は、自分がどれだけ疲れていたかを説明して、仕事を休むことを正当化し

  た。)

 

5b) The company had to justify increasing the product's price due to

   rising production costs.

 (生産コストが上昇したため、会社は製品の価格を上げることを正当化しなければ

  ならなかった。)

 

 justify doingは、行動や決定に対する説明や合理的な理由を示すときに使います。妥当性、正当性につながることから、動名詞の「現実的志向」と親和性が感じられます。

 

deny doing】

6a) The suspect denied knowing anything about the missing money.

 (容疑者は、行方不明のお金について何か知っていることを否認した。)

 

6b) The athlete denied having used performance-enhancing drugs.

 (そのアスリートはパフォーマンス向上の薬物を使用したことを否定しました。

 

 deny doingは事実や証言などを否定・否認すことを意味します。用例(6a)のknowingは「今、事実を知っていること」を否認しています。はっきりと過去のことを指す場合は(6b)のように完了形にします。

 これまであまり取り上げてこられなかった動詞の指向性を見ていくと、「時間志向」ではなく「事実・現実志向」とする方がむしろ動名詞のもつ広範な用法に対応sします。admit、justify、denyは、突き付けられた「事実」を受け入れる、正当化する、否定するというように一貫性があります。

  また、excuse、resist、resentは、直面する現実に対処する点で一貫性があります。動名詞自体は「現実的に想定される事態」を表し、動詞がその事態への対処を表しています。回避や抵抗など「後ろ向き」という言い方もできますが、それは現実に対する対処の仕方の一面です。

 動名詞自体には生き生きとした感覚があり、事実に対する態度や現実に対する対処を表す動詞との親和性が高いととらえられます。動名詞に指向性があるとすればコアからくる「事実・現実志向」で、しかもそれは第一義的に述語動詞の指向であって動名詞の指向性は従属的なものと考えた方が妥当でしょう。

 

give up doing】

7a) I have to give up playing football due to a knee injury.

 (膝の怪我のため、私はサッカーをやめるしかない。)

 

7b) He had to give up playing football due to a knee injury.

 (膝の怪我のため、彼はサッカーをやめるしかなかった)

 

 give upはこれまで継続しておこなっていたことをあきらめてやめることを意味します。このことは言い方を変えれば「今後はもうやらない」と表現することもできます。give up ~ingは時間でいえば未来のことになります。

 どちらの用例でもplayingに過去志向は無く、have to give upが「止めざるをえない状況があるたことあきらめなければいけない事態にあること、had to give upが「止めざるをえない状況があって止めたこと」を表しています。have toが「現在・未来的」、had to「過去的」であって、どちららの用例でもplayingに特定の時間志向は無く、その時点での状況を示しています。

 定形形変化(時制・主語の種類に応じた動詞形変化)するのは述語動詞であり、無標の動名詞に時間制が無いことは、英語の一般的な原理に合います。一般的な原理を損ねるような特殊ルールを安易につくると、学習が進んだ学習者に「英文法には例外が多い」といういわれの無い意識を生むことにつながります。

 

report doing】

8a) She needs to report seeing a suspicious person near the building.

  (彼女は建物の近くで不審な人を見かけたことを報告する必要がある。)

 

8b)The patient reported having a fever and a persistent cough. 

  (その患者は、発熱と持続的な咳を経験したことを報告しました。)

 

8c)The company will report releasing its quarterly financial statements 

    tomorrow.

 (会社は明日四半期の財務諸表を発表する予定です。)

 

8d) The hikers reported having encountered a bear during their trek in 

      the wilderness. 

(ハイカーたちは、野生地でのトレッキング中にクマに遭遇したことを報告した。)

 

  用例(8a)は「過去に見かけたというの事実」、用例(8b)「その時点での症状の状況報告」用例(8c)は「明日発表するという予定」です。ここでも動名詞自体には時間指向性はなく、文脈依存です。 用例(8d)のように、動名詞を完了にすると「過去」の出来事だと明確になることからも、単純形の動名詞自体に「過去志向性」が無いことが分かります。

 report doingは「事実を伝える」ということで一貫しています。動名詞は、その伝える対象である目的語で「事実」を表しています。

 

fancy doing】

9a)I fancy going for a walk in the park this afternoon.

 (今日の午後、公園で散歩したい気がする。)

 

9b)Do you fancy watching a movie tonight? 

  (今夜、映画を見る気がする?)

 

  どちらの用例も、動名詞は「これからのこと」です。「過去志向」とは真逆です。feel like doingも「これからのこと」ですから同様です。V-ing形の現在進行形が「未来志向」なので、動名詞が「過去志向」というのは矛盾しています。

 enjoy doing、feel like doing、how about doing?と、このfacy doingはいずれも「前向き」と言えると思います。また他にもlove、like、dislike、detestなども含めて「前向き」「後ろ向き」は動詞の属性で、動名詞自体は中立でどちらにも呼応します。

 

avoid doing】

10) I try to avoid eating junk food to stay healthy.

 (健康を保つためにジャンクフードを食べないように心がけています。)

 

 avoid doingは好ましくない結果を避けるために特定の行動を避けることを表現します。

 

escape doing】

11) He couldn't escape doing the dishes, even though he really didn't

  want to.

 (彼は本当にやりたくなかったけれど、彼は皿洗いを避けることができなかっ

  た。)

 

 escape doingは何かを避ける、回避する、あるいは避けることに成功するという意味で使用されます。動名詞は「現実に差し迫ったこと」を表し。escapeはその対処と見ることができます。

 

postpone doing】

12) They decided to postpone doing the renovations until after the

   winter season.

 (彼らは改装工事を冬季が終わった後に行うことに決めました。)

 

 postpone doingは、予定されていた行動や作業を後で行うことを示す表現です。

 

resume doing】

13a) They plan to resume working on the project tomorrow.

  (彼らは明日プロジェクトの作業を再開する予定です。)

 

13b) they had to briefly pause the live broadcast but were able to

   resume broadcasting shortly after.  

  (ライブ放送を一時中断する必要がありましたが、すぐに放送を再開することが

   できた。)

 

   postpone doingとresume doingで「延期する」「再開する」で関連しています。

 

delay doing】

14) He decided to delay getting a new car until he saves more money.

 (彼はもっとお金を貯めるまで、新しい車を手に入れるのを遅らせることに決めまし

   た。)

 

 postpone、put off、delay、keep、resume、give upはいずれも動名詞を目的語にとります。延期、継続、再開、断念として見ると、関連性が感じられます。

 

risk doing】

15a) He decided to risk losing his job by speaking out against the

        company's unethical practices.

    (彼は会社の倫理に反対するために声を上げることで、仕事を失うリスクを冒す 

      ことを決めた。)

 

15b) She risked being late for the meeting to help a colleague in need.

    (同僚の助けになるために、会議に遅れるリスクを冒した。)

 

 riskは事態を打開するため対処を表します。「事実・現実志向」の動名詞を目的語にとるのは自然だと思います。

 

involve doing】

16a) His hobbies involve painting and sculpture.

    (彼の趣味には絵画と彫刻が関わっている。)

 

16b) Her job responsibilities involve managing the team.

     (彼女の仕事の責任にはチームの管理が含まれています。)

 

  この用例(16a)はあえて入れたものですが、paintingはsculptureとandでつながっているので名詞と言ってもいい語です。1語単独で他の語句を伴わないV-ing形は静的な名詞そのものです。英語は語尾の形だけで品詞が決まらない仕組みの言語なので、動名詞も名詞の仲間です。その静的な面が客観的な事実へつながる気がします。

 

 

 以上、今回取り上げた動詞は下記の論文の動詞リストから選んで検証しました。

Oxford Learner’ Grammar(Eastwood, 2005)が掲げる動名詞をとる動詞リスト

admit, allow, avoid, consider, delay, deny, detest (=hate), dislike, enjoy, can’t face,fancy, finish, give up, can’t help, imagine, involve, justify, keep, keep on, mind, miss, postpone, practice, quit, resist, report, resent, resume, risk, suggest

         佐藤芳明『不定詞/動名詞の選択に関する原理的直観の習得』

 

 これまでは動名詞を目的語にとる動詞と言えば、何十年も前から受験生が語呂合わせで覚える「megafeps」とremember、forget、tryなど限られた語が中心でした。これらの中でも特にrememberタイプでは、to doは「未来志向」でdoingは「過去志向」と説明しておけばその場はしのげます。

 出所はともかく、受験テクニックとして広まったこの説明には違和感を感じていました。英語話者はこのようなとらえ方はしていないのではないかという疑念です。今回改めて、多くの用例に当たって、動名詞に「過去志向」はあり得ないと確信できたと思います。

 

 言語感覚は人によって異なるので、述語動詞の目的語になる動名詞doingに感じる「指向性」に絶対的な正しさを求めるものではないでしょう。しかし、英文法の記述の在り方として、多くの現象を可能な限り例外が少ない原理で体系化することは有意義だと思います。

 to不定詞と動名詞の関係も、一見分かり易いように見える狭い範囲だけに偏ることなく、広い視野で体系全体をみることが大切です。英語本来の文法は、伝えるためのしくみとして社会的に広く認められたコードです。規範文法の規則のように個々の現象を取り上げて特殊な規則にすることは、試験で点数を取ることには一見すると役立つように感じます。しかしその反面、特殊な規則では説明できない現象を排除し取り上げないというリスクが生じます。

 

 現状では、不定詞to doが「現在・未来志向」の述語動詞と専和性が高いことはある程度は認める価値が無くはないかもしれません。この指向性は、歴史的にも言語学的にも「動詞の原形」に感じられるモダリティにつながります。

  モダリティとは法moodに関連する概念で、[法助動詞+原形(不定詞)]が現在・未来の「想い」を示す傾向があるこということです。また、昔の祈願法や仮定法現在(実際は原形)や命令法が動詞の原形であり「今、これからの想い」を表すことも モダリティとつながります。wantやhopeなどの「想い」を表す動詞はモダリティを帯びるため、法助動詞willなどとは共起しにくく、未来のことを表します。

 

 to不定詞がモダリティを帯び「未来志向」に近いコアがあるのは、現代英語の根っことつながっているとみなすことができます。これに対して、動名詞の「過去志向」なるものには、英文法体系の中のどこともつながりも感じられません。おそらくrememberなどの動詞でto不定詞と対比してたまたま上手くいったことを拡大解釈してしまったのでしょう。

 従来の規範的規則の真似事のような単純化した場当たり的説明は要りません。とはいっても、代替案を示さない従来説明の単なる否定は学習者の利益になりません。これからの文法説明は、英語という言語の幹につながるもの、しっかり根付いたものに全て変えていけばいいと思います。

 

 to不定詞と動名詞は互いに排他的に対立するものではなく以下のような関係だと思います。集合図のようなイメージです。

 

   to infinitive     V-ing

     

  現在・未来志向   事実・現実志向

 

 がto不定詞のコアで( )がその用法の広がり、が動名詞のコアで( )がその用法の広がりを表します。どちらも用法の範囲が広いので、 のところでに多様な用法が重なっているという感じです。不定詞のコアと動名詞のコアはそれぞれ独自のもので、それが明確に対立する必然性は無いということです。

  

 無理に単純化して対立関係を想定する必要もないし、そうして創ったところでたいして有用でもないでしょう。

 

  to doとdoingが時間の違いではないことを示す文法現象はいくらもあります。

[allow/advise/forbid/permit 人+to do]の型の文では、文脈から分かる主語は省略してdoingに置き換わります。結果としてこれらの「未来志向」といえる動詞がdoingを目的語にとることになります。

 

17a) In the Us, the law allows citizens to possess a gun.

17b) In the Us, the law allows possessing a gun.

       (米国では法律で銃の所持を認めている)

                                                         ――WED

18a) I wouldn't advise you to take the car.

18b) I wouldn't advise taking the car.

      (車では行かない方がいいですよ)

                                                     ――PEU

  動名詞は「未来志向」の動詞にも柔軟に対応します。人を省略しないときでも形式上、動名詞を使って表現することもできる場合もあります。

 

19a) Circumstances do not permit me to leave.

19b) Circumstances do not permit my leaving.

       (事情があってこの場を去ることができない)

                                                         ――WED  

20a) The doctor forbids me not to smoke.

20b) The doctor forbids me from smoking.

         (医者はわたしに喫煙を禁じている)

                                                        ――WED

 

  中でも用例(20b)のsmokingは名詞としてもいい語です。これは動名詞の本質を示しています。V-ingはもともと純粋な名詞形だったので、静的な名詞の性質も持っています。名詞には時間志向性はありません。この点は、原形となってモダリティを帯び、機能語toを先行する不定詞とは異なるのです。

 

 今回取り上げて検証したことで、動名詞は「事実・現実志向」の述語動詞との親和性が高いということが確認できました。以前取り上げた、[suggest / consider / imagine +doing]などは明らかに「過去志向」はなく、「事実・現実志向」とする方が「今、これから」のことを述べることと根本的な矛盾はありません。[remember / forget / try+doing]は「現実のできこと」と考えれば、「過去」という時間を想定する必要はありません。

 

 英語の進行形は18世紀までV-ing形にはin/on/at/an/a-/zeroが前置し、概念的意味的には名詞構文の性質を帯びていたとされます。V-ing歴史的には静的な名詞V-ingと動的な分詞が融合したものであることを考慮すると、静的な名詞としての「客観性」と動的な「現実感」のようなものが感じられるのは自然なことです。樋口2011はこの歴史的経緯から、V-ingは時間志向性が希薄で、事実・現実志向性があるとする見方を示しています。

 

大まかな傾向としては、 相対的に、不定詞の方が、 或る特定の個体が特的の時間と場所でこれから或る事態の実現を目指している動詞性の高いイメージがより強く、 動名詞は、 そのような具体的な動作主体や時間や場所が捨象され、 動作そのものの一般性がより強くイメージされ、 少なくとも概念やideaとしては実態性があり、 その意味で名詞性が高いということは言えるだろう。

 

 これは、to不定詞の場合、toがもともと前置詞だったことに深く関係しているように思われる。誰かがto以下の動詞の表す事態の実現に向き合い、 対峙し、 その実現が目的やgoalとして意識されることが多いことから、to不定詞のイメージが形成されたのではないだろうか。 一方、元来名詞だった動名詞の指す物は、 何らかの意味で実態がある概念として、目的語が伴ってもより名詞的に認識され、 時間軸上の位置の明確性は相対的に希薄なのではないかと思われる。

 V-ing形はもともと名詞なので多様な前置詞と共に用いられてきたが、 特にinと共に用いられる際に、 現在分詞的に認知されるようになり、 更に動詞に連なる際に進行形の意味が形成されたのではないだろうか。

 即ち、 不定詞も動名詞もどちらも前置の意味や性質に引きずられて、 現代の使い分けのあり方へ、 役割を分担するようになった面もあるように思われる。

 

 進行形も動名詞も今でもその使用範囲を拡大し発達し続けていると言う点も興味深い点である。 いずれにせよ、V-ingが今でも発展しつつあるというのは、 ブリテン島の住民達が古来慣れ親しんできた表現への回帰現象だと言えるかも知れない。」

樋口万里子『英語・ノルウェー語の-ing形とウエールズ後のVNに関する覚え書き』2011

 

 不定詞とV-ing形と広くとらえて、be to doとbe doingを比較するのもいいかもしれません。be to doは義務や予定など未来寄りの意味を持つ構文と呼ばれます。現在進行形be doingは今の事実・現実に中心があって、未来の予定も表します。be going to doは、be goingとto doが共起した未来志向の表現です。

 to doは「未来」寄り、doingは「現実」寄りと緩やかにとらえるのがいいと思います。どちらも歴史的に静的な名詞という側面もあり、対立するより重なり合う面も多いのです。to doは「未来志向」であることから「過去的」なことは親和性が低く、結果として時間志向性の無いdoingが担うことが多いのは自然なことでしょう。「実際に起きたこと」は、doingの「事実・現実志向」と親和性が高いからです。

 

 また、避ける、逃れる、見落とす、などの「後ろ向き」と言える動詞が多いことは事実です。それらの対象が「置かれている現実や差し迫った状況」であるととらえれば「事実・現実」との親和性がある動名詞に合います。「後ろ向き」もコアからの派生とすることに矛盾はありません。「後ろ向き」とは関係ない動詞はfacy、admit、suggestなどいくらでもあります。

 実践的には、言葉はできるだけインプットしてストックしておく方がいいのは当然です。「後ろ向き」と範囲を狭めるより、「置かれている現実や差し迫った状況」に対処する動詞は目的語にdoingをとる傾向があるととらえるのがいいのではないでしょうか。refuse to doやdecline to doのように、to不定詞を目的語にとる「後ろ向き」ともいえるような動詞もあります。

 

 avoidやrefuseがとる型に関して樋口2011では次のように記しています。

「興味深いのは、今では動名詞しか取らないavoidやpreventなども、以前はthat節や不定詞をとっていた時期があり、逆に現在では不定詞しかとらないrefuseなども、過去には動名詞をとっていた例もある等、意味だけでは完全には説明が付かないという点である。」樋口2011

   言葉は、必ずしも意味の面から機械的な規則で決まるようなものではなく、ある程度の揺れがあったものが、次第に社会的にコードされることによって慣用として定着していくものです。一律の文法規則に従うと考えるだけではなく、実践的にはそれぞれの動詞の特性とコロケーションとして考慮することも大切な視点になります。

 

 ことばに例外現象があるのは避けられません。しかし、「過去」と「未来」というような排他的な対立は根本的な矛盾です。「前向き」「後ろ向き」も排他的な対立なので、例外は根本的な矛盾になります。それは対立しない概念どうしの違和感とは次元が異なります。単純明快であっても根本的な矛盾・例外を抱える原理は有用性に欠けます。

 以前の記事で取り上げたように、以下の(  )に動名詞が適するという三択問題の正答率が12.5%と極めて低かったのは、動名詞が「過去志向」という発想が引き起こしたものです。

 He suggested (   ) the meeting till next week.

 (彼は会議を来週まで延期することを提案した)

「現実的、具体的」な提案なら未来のことでもあり得るでしょう。同じV-ing形の現在進行形は具体性のある未来の予定は守備範囲です。to不定詞も動名詞もどちらも「これからのこと」を述べるときに使うのは、両方とも「時間志向」がコアにあり排他的に対立する、というわけではないことの証左です。

 

  これまであまり取り上げてこられなかった動詞を加え、excuse、resist、resent、justify、report、admit、denyなどは事実を争うとか現実を受け入れるかどうかといような動詞が多いと分かります。動名詞のコアを「事実・現実」に近いものととらえれば、これらの動詞との親和性が視野に入ります。 

 また、事実とは「実際にあったこと」なので「過去」へもつながります。「過去志向」は動名詞のコアではなく「事実・現実」からの派生に過ぎないのに、それをコアにしてto不定詞と時間の対立にすると根本的な矛盾が生じると考えられます。

 排他的に対立する概念は一見「使い分け」が明確なので採用しがちです。ところが、それがあだとなり根本的に矛盾する例外を生み、学生の正答率の低さとして表れています。動名詞とto不定詞には似たようなところもあり、無理に排他的な区別をする必要などないでしょう。 

 

 文法説明は、多くの表現を一貫した原理で体系化するもので、その原理はできる限り、それに反する根本的な例外が無く、シンプルで分かり易いものがいいのは当然です。それを新たに見つけていく作業は簡単でありませんが、多くの用例にあたりながら獲得していくというのは、言葉を習得する上での基本ではないかと思うのです。

 文法は語法・コロケーションにつながり、表現を豊かにしていく土台でいい。ここで考察して示した案は、出発点のようなもので、これからさらに多くの用例を検証しながら、ゆっくり確実に育てていきたいと思っています。