動名詞と不定詞はどちらも文の主語、目的語などに使われます。その違いについてはよく取り上げられますが、明確に使い分けられる場合もあれば、必ずしも明確ではないときもあります。どちらの表現にもコアの広がりがあり、用法が多方面にわたります。

 今回は動名詞のコアの広がりを、不定詞との比較、その成立の歴史的経緯から探っていきます。

 

 論文の中で紹介されている動名詞と不定詞の意味の違いについての文法説明の一例を検証します。

 

「安田(1970)は TO 不定詞と動名詞の意味の違いとして,場面の有無があることを指摘している。

 

 1a) I like to read a book.

 1b) I like reading a book.

 

 安田によれば(1a)は「本を読みたい」というある特定の場面における気持ちがあり,(1b)は「読書が好き」という場面のない一般論を表す。そのことがよく分かる例として次の文を挙げている。

 

 1c) I like reading books, but I don’t like to read a book now.

 

(1c)の文では動名詞と TO 不定詞が一文に共存していて,「私は読書は好きだが,今本を読むのはいやだ」という解釈ができる。このことから,TO 不定詞は特定の場面を想起させる働きがあるが,動名詞にはそれがないといえる。」

      龍野 祐輝『動名詞の意味の多様性―多様性の原因と意味の根幹―』

 

 この説明に使う用例(1c)には、明らかな作為があります。それは動名詞とTO不定詞の違いとしながら、reading booksとto read a bookとなっていて目的語がそもそも複数と単数で、同じではありません。比較するのなら目的語を同じbooksにして条件をそろえるべきです。

 

2) I like to read books on history in my free time.

(空き時間には歴史の本を読むのが好き)

 

3) I love reading books because they transport me to different worlds.

(私は本を読むことが大好きだ。なぜならそれは私を異なる世界に連れて行ってくれる。)

 

 このようにreading booksもto read boolsも特定の場面を想起しません。「複数の本を読む」場面は、数々の本を読むということを想起するので、動名詞でも不定詞でも不特定の場面を想起し一般的な文脈になります。「習慣的に本を読んでいる」「様々な本を読んでいる」というようなイメージです。

だから用例1cを根拠として「TO 不定詞は特定の場面を想起させる働きがあるが,動名詞にはそれがないといえる。」というのは完全なミスリードです。「場面の有無」はTO 不定詞と動名詞の違いとは無関係です。

 

 このように「2つの表現を対比してその違いを解説する」という形式の文法説明は、よく見かけます。一見すると「単純化」は分かり易いし、たいていの場合用例そのものは覚えても問題ないものです。ただし、それはあくまでも特定の事例だけか、もしくは類似のいくつか事例に成り立つものが多いものです。そこから一般的な法則としてしまうときに問題が起きます。

 英語のネイティブは、単純化した規則で使い分けを覚えるのではなく、多くの表現に接してそのコアを分析して身に付けます。その感覚に近い文法説明にするには、多くの表現を集めて矛盾がないかを確かめることが大切です。

 

 さらに「本を読む」という時に使う表現を掘り下げてみましょう。

 英語のa bookは標識aが想起するものを決めることになります。a は1つを意味するので「一冊の本を読んでいる」という特定の場面を想起することがありえます。また、aはいくつかあるものの1つを含意するので、不特定の1つでもあります。個物としての1冊の本と総称としての1冊の本はどちらもありえます。

 

4) I feel like reading a book tonight instead of watching TV.

 (今夜はテレビを見る代わりに本を読みたい気がする。)

 

5) When I'm stressed, I feel like reading a book to escape into a  different world for a while.

  (ストレスを感じたとき、しばらく違う世界に逃げるために本を読みたい気がしま

     す。)

 

6) I was completely engrossed in reading a book when the 

   thunderstorm started outside.

        (本を読んでいる最中に外で雷雨が始まりました。)

 

  用例4は今晩という特定の場面です。用例5はある条件下での習慣です。用例7は過去の特定の場面です。これらは前置詞の後ろにあるので、形式的には動名詞ということになります。用例6のような場合は、むしろ進行形に使われる分詞に近い用法と言えます。

 

 このように動名詞の用例を広く見ていくと「本を読むこと」という抽象的なことから「本を読んでいる」という具体的な場面に対応していることがわかります。動名詞もTO不定詞と変わらない汎用性を持っています。

 

 動名詞が多面的で汎用性があることは、その成立過程に求められます。論文(伊関)にある用例を引用します。

 

7a) John’s refusing the offer suddenly surprised us.(動名詞)

 

7b) John’s sudden refusal of the offer surprised us.(派生名詞)

 

伊関 敏之『動名詞を中心とした世界-不定詞および現在分詞との比較を中心に-』

 

 この用例にあるrefusingとrefusalはどちらも動詞refuseの派生形です。動名詞のrefusingは、後ろに目的語を取るなど動詞と同じ機能を持ちます。内容語であると同時に機能語でもあるのです。

 これに対してrefusalは静的な語で動詞のような機能はなくrefuseの名詞形と言われます。純粋な名詞形は直後に目的語を取ることができず、前置詞など別の機能語が必要になります。こちらは内容語ということになります。

 

 OE期の動名詞は形態は語尾–ingでしたが、性質としてはrefusalと同じ動詞から派生した名詞形でした。形態上はV-ingでもコアの意味も性質も名詞だったのです。

 ところが、その後、今日のような動的な意味のコアと動詞的な機能をもつことになる大きな変化が起きます。簡単に言うと、もともと別の語だったOEの現在分詞(語尾–ende)と音韻、形態上の区別がなくなり融合します。

 その結果として、動名詞(語尾-ing )は、OE期の現在分詞(語尾–ende)が持っていた性質を譲り受け動詞的性質をもった動名詞となります。こ の新たな動名詞は、16世紀頃から急速に発達していきます。

 その後、否定辞 notを 伴ったり、完了形や受動形の形式が、16世紀後半から生起し始めます。 この頃から文に似た内部構造をもつ動名詞が出現するようになったことを意味しています。

 

 また、進行形の成立には主に2つの説があります。1つは〈be+on+V-ing〉という動名詞の型から、onまたはaが弱化したという説です。もう1つは〈be+V-ende〉という現在分詞の型から語尾が-ingeを経て動名詞と同じ-ingになったという説です。 

 a-という接頭語を付加したV-ing形は、マザーグースの歌にもよく出てきます。 

 

  The drake was a-swimming――マザーグース[22-13]

 

 もっとも当時は共通語があるわけではなく、英国の北部、中部、南部など地域によって形態、音韻は異なります。厳密に1つの経路で進行形が成立したとは言い切れないところはあります。どちらにしても、名詞形と現在分詞形の2系統の表現が融合して1つになったということは確かです。

 

 現在の動名詞は、歴史的に名詞としての静的なOE期の動名詞V-ingと、動的なOE期の現在分詞V-ende が融合したものです。名詞のような静的な面と動詞のような動的な面をもつ多面的なコアの広がりと用法は、この歴史的経緯に起因します。 

 次の記述は、この新たな動名詞と、あわせて新たな不定詞の出現したことの意味を表しています。

 

「英語の歴史のなかで動名詞 と現在分詞 または不定詞の間に、形態的・音韻的交差が存在した。 ここで、次のような結論が導かれる。 (純然たる名詞であった)動名詞 と、現在分詞や与格不定詞 といった動詞範疇 の間に形態的・音韻的交差が生じた結果、統語的特徴 (たとえば、副詞 との共起や前置詞 of無しで目的語名詞句をとるなど)を もつ動名詞が現われるようになった。このことは、当時の英語話者が現在分詞や与格不定詞からの類推によって、(純然たる名詞であった)動名詞を動詞的に解釈する ようになったことを意味している。」

            大村光弘『動詞的動名詞の歴史的発達について』2008

 

 現在の動名詞も不定詞も、名詞的要素や動詞的要素が交錯して新たに生まれたのです。それは英語話者がこれら準動詞に対する解釈を大きく変えたことを意味します。この変化を念頭に入れると、用法を単純化して決めつけると、実態にそぐわない場合がありえます。

  The car needs mending.のように一語で使われる(目的語などを後置しない)ような動名詞mendingは、名詞的に解釈される静的な表現で「修理」を意味すると考えられます。だから、動的な動名詞のように受動形にはならないのです。

 また、go(on) -ingの型では、どの語でも用いられるというわけではなく、swimming, fishing, hunting, visitingなど名詞的な概念がはっきりしたものに限られ、 seeingとか eatingなどは 一般には用いられません。進行形に使う現在分詞が動名詞と交錯したという経緯は、動名詞と言っても静的なものから動的なものまでイメージに幅があることを示唆します。

 

 今日ある動名詞もto不定詞も、その成立の経緯から、どちらにもコアの広がりと用法の自在さがあることはもっともなことだと言えます。きわめて汎用性の高い動名詞とto不定詞の違いを、単純化した基準を想定し、それによって使い分けるという従来の発想は、必ずしも建設的ではないことは自明でしょう。

 ではどうすればいいか。動名詞と不定詞を単体で比較するのではなく、他の語句や文脈ごとにまとめて掴むという方法に切り替えればいいのです。連動性に富みそれによって意味を変化させる動名詞、to不定詞を、それぞれが連動した語句とまとめて掴むのは自然なことです。

 

 先ほど「本を読む」という時の用法は、readingとto readを比べるのを止めて、他の語句を加えて比較しました。目的語のa bookとbooksを加えて比較する、あるいは述語動詞と一体として用法をつかむという手法を使ったのです。

 考えてみましょう。動名詞も不定詞も単体では無標の表現とみなせるほどのコアの広がりと自在性を持っているのです。わざわざ連動したものを分解して準動詞単体を比較することに意味があるでしょうか。

 

 準動詞は内容語であると同時に汎用性が高く文法化による意味の一般化が進んだ機能語でもあるのです。他の語句との連動性こそがその真骨頂です。

 このように他の語句と一体とする見方に切り替えると、従来のよくある動名詞と不定詞の違いと称する説明のほとんどは、その場しのぎのものであることが見えてきます。

 

 もう1例、従来の動名詞とto不定詞の違いについての文法説明を検証してみましょう。(龍野2016)にある文法説明の記述を引用します。

 

8a) I want to talk to Mary about it.

 

8b) I am considering working with him on it.

 

 Duffley によれば,(7a)は“talk to Mary about it”が実現に向かうという方向がある。一方,(7b)では“working with him”を考えているだけで主語の気持ちは表さないため,実現に向かうという方向がないとしている。言い換えれば,TO 不定詞は積極的であり,動名詞は消極的であると言える。

   龍野 祐輝『動名詞の意味の多様性―多様性の原因と意味の根幹―』2016

 

 後の文の(7b)の説明から先に検討しましょう。

(7b) では“I am considering”が「考慮中」ということを表し、目的語の “working with him”は「彼と仕事をすること」という具体的なことを客観的に述べているだけです。この2つの要素が連動して、対象に対して考慮中ということを表しています。ただの対象である目的語が「主語の気持ちは表さない」のは当然の話です。「だから動名詞は消極的であると言える」は何の根拠も論理性もありません。

 

 同じことをI like reading books.で考えます。目的語reading booksは「本を読むこと」つまり読書という名詞と同じ静的な意味です。このとき[読書]が特異的な1つの主語の気持ちと相関するなどと言うことがあり得るでしょうか。

 世の中には「本を読むこと」が好きな人もいれば嫌いな人もいます。好きな人が「本を読むこと」に気が向くときもあれば向かないときもあります。嫌いな人でも「本を読むこと」をやってみようと思うことだってあるでしょう。「本を読むこと」自体が積極性や消極性など特異的な意味内容を表すことはありません。

 動名詞は内容語であると同時に動詞としての機能性を備えた機能語です。広い意味的なコアを持ち汎用される語です。他の語との連動なしに特異的な意味を表すことはないのです。

 

 しかし、動名詞を消極性と結びつける発想はどこから来たかは分かります。それは次のような語との連動性が知られているからです。

  mind (嫌がる)、avoid (避ける)、miss (逃す)、deny (否定する)、

give up(諦める)

これらが動名詞と連動した用例を挙げます。

 

9a) Would you mind passing me the salt?

 (塩を取っていただけますか?)

 

10a) You should avoid eating too much junk food if you want to stay

   healthy.

  (健康でいたいなら、ジャンクフードを食べ過ぎないようにすべきです。)

 

11a) She misses taking art classes because her schedule is too busy

    now.

  (彼女はアートクラスに通えなくなりました。今では忙しすぎるため、)

 

12a) The athlete denied getting any unfair advantage during the    competition.

  (そのアスリートは競技中に不正な利益を受けたことを否定した。)

 

13a)  He decided to give up smoking for the sake of his health.

    (彼は健康のために喫煙をやめることを決心した)

 

 これらの用例で使っている動詞は消極的あるいは否定的な意味あいを持ちます。しかし、passing(取ること)、eating(食べること)、taking(履修すること)、getting(受けること)という動名詞単体が否定的あるいは消極的なことを表すわけではありません。

 like eatingも love eatingのように消極的ではない動詞とも連動します。like to eatやlove to eatとの違いは前向きと後ろ向きでは説明できません。

 enjoy playing tennisとかfeel like going for a walkむしろ積極的な表現と結びつくこともあります。また、消極的あるいは否定的な動詞がto不定詞を目的語に取ることもあります。

 

14a) Despite his best efforts, he failed to repair the old car's engine.

 (最善の努力にもかかわらず、彼は古い車のエンジンを修理することに失敗し

  た。)

 

14b) She refused to go to the party because she was feeling unwell.

  (彼女は体調が悪かったため、パーティーに行くのを断った。)

 

 用例(14a)のfail(失敗する)は、miss(逃す)などと同じく否定的な意味合いを持ちますがto 不定詞と連動します。

 また、用例(14b)のrefuse(拒否する)は、deny(否定する)と同じく消極的あるいは否定的な意味あいを持ちますがto 不定詞と連動します。to不定詞が前向きで、動名詞が後ろ向きというのは、広く動詞の使い分けとして一般化できるほど確かなものではありません。

 denyとrefuseは文脈によっては同じような意味に使います。

 

15a) He denied my request for a raise, citing budget constraints.

 

15b) He refused my request for a raise, citing budget constraints.

 

(彼は予算の制約を理由に、昇給の要求を拒否した。)

 

 このとき、目的語はmy requestは名詞です。この名詞自体に消極性はありません。そして、目的語としてdenyは動名詞と連動して、refuseはto不定詞と連動します。

 動名詞が否定的だからdenyと連動するわけではないことは明白です。実際はdenyという動詞が動名詞を目的語として取り、連動して[deny+~ing]の型が「~したことを否定する」という意味になるだけのことです。切り離して原理だけを一般化するものではなく、いわばコロケーションのように連動して覚えるべきものです。

 

 確認のため、消極的な意味合いを持つと言われる動詞が、一般の名詞を目的語にとる用例を挙げておきます。

 

16a) Please don't mind the mess in my room; I haven't had time to

    clean it.

  (私の部屋散らかってるけど気にしないでね。掃除する時間がなかったの)

 

17a) She tried to avoid eye contact with her ex-boyfriend at the party.

  (彼女はパーティーで元彼氏と目を合わせないようにしました。)

 

18a) I missed the bus this morning and had to take a taxi to work.

  (今朝、バスに乗り遅れてタクシーで仕事に行かなければならなかった。)

 

 このとき、目的語のthe messやeye contactやthe busが消極的という特性とは関係ないはずです。同様に動名詞も特定の一部の特性と結びついてはいないのです。「動名詞は消極的、否定的」と単純化して、一般化するのはミスリーディングです。

 実際にその弊害は報告されています。それは学生を対象に次のような質問をして、その正答率をまとめたものです。

 

質問】次の[  ]に適するものはどれですか。

 

 She refused [  ] to the party because she was feeling unwell.

 

  (a)   to go   (b) going   (c) to goも going も両方可

 

    佐藤芳明『不定詞/動名詞の選択に関する原理的直観の習得』より作成

 

 この質問に対する正答率refuse(41.9とあります。同種の問題[avoid, miss, mind]の平均正答率75.2%と大きな開きがあります。原因は言うまでもなく、「動名詞は否定的」と単純化し一般化して覚えたことにあります。後の3語はこれに当てはまるので正答率が高いのです。それをrefuseに当てはめたために、正答のto不定詞が選択できなかったわけです。
 

 不幸なことに英文法事項は、英語試験の選択問題で出題されることがあります。その対策として、「動名詞は否定的」のような誤ったその場しのぎのテクニックが広まっています。それは、試験でそこそこは通用します。教える方もいかにも教えた気になります。そして、成功体験になってしまいます。英文法を試験の具にしていいのでしょうか。

 

 これまで日本の英語教育は、受験産業が支えてきたという面は確かにあると思います。私自身もかつて身を置いていたので、事情は熟知しています。目の前の試験で点を取るためにテクニックを覚えることをすべて否定するつもりはりません。しかし、それと引き換えに、動名詞、不定詞の本質を無視して矮小化した姿を伝えることのリスクを知っておくべきでしょう。

 

 現代英語において、動名詞、不定詞は、汎用性が高く、自在に使える表現です。その機能性の高さから、他の語句と連動して、様々な場面で使うことができます。その本質から言って安易に単純化したテクニックとは相容れません。

 動名詞の文法説明は連動した表現としてとらえ体系化するのがいいと考えます。1つ1つの表現を大切にして、しっかり使えるように身に着けていくのが言語習得の王道なのですから。