英検の受験指導をされている先生のブログに次のようなことが記されていました。

 

 英検受験予定の海外在住の生徒さん(小学校低学年時に渡米現在すでにティーンエイジャー)とレッスンを進める中での出来事。その生徒さんにみられる意外な間違いの例としてのIt's safeとすべきところをIt's safetyにすることを挙げられていました。

 その先生は次のようなことを述べられていました。「英検面接では減点に繋がりかねない上記のような英文を指摘したところ、(その生徒さんは)“そうだったんですねあせる…今までそう使ってきちゃってた”…と。

 “幼少期を海外で過ごす”ことについて、文法説明を現地校の授業ではどの程度の英文法に触れているのかわからないのですが、会話が流暢なため、今更周りも指摘しないのでしょうか

 

 指摘されているように、It's ~のように使う場合は標準語ではsafeが正用です。興味深いのは、この種の誤りを周りが指摘しなかったという点です。

 基本的にはsafeは形容詞、safetyは名詞として使う語で、どちらもSVCの補語Cの位置で使います。正用ではなくても意味が通じる場合が多々あり、それほど違和感もないのです。それほど品詞の境界には不明瞭なところがあるということになります。

 

 今日の学習英文法の基本的な枠組みを創ったNesfeildは、品詞について次のように記しています。(下に和訳を付しています)

 

The Parts of Speech 

The different kinds of words used for different purposes in a sentence are called Parts of Speech.

Until we see a word in a sentence, we are often unable to say to w r hat part of speech it belongs :

 

 (a) Water the roses, (b) Take some water, (c) A water bird.

 

 In (a) water is a verb. In (b) it is a noun. In (c) it is an adjective

 or a noun used as an adjective.

   Nesfield『Manual of English grammar and composition』1898

 

品詞(ひんし)とは、文の中で異なる目的に使用されるさまざまな単語の種類を指さす。文の中にある単語を考慮しないで、その単語がどの品詞に属するかを判断することは難しいことはよくある。

(a) バラに水をやって (b) 適量の水を取って (c) 水の鳥。

"water"は(a)では動詞、(b)では名詞、(c)では形容詞または名詞として使用されている」(しんじ訳)

 

 Nesfieldは、英単語の品詞は文の中での働きで見るしかないということを述べています。屈折という標識を失った無標の英単語の多くは、その語自体の形態だけでは品詞が判別ができないのです。

 英単語waterの品詞について、(a)では動詞(the rosesを目的語とし命令文を構成)(b)では名詞(takeの目的語O)です。(c)では、waterの品詞は、形容詞あるいは形容詞として使う名詞として、どちらの品詞か特定していません。waterがbird(名詞)を修飾しているとみなせば形容詞ということになり、waterとbirdという2語を並べているだけみなせば名詞ということになります。

 

 先ほど挙げたsafeは基本的に形容詞としましたが、英英辞書のCEDでは次のようにh品詞分類しています。

 We shall take the tresure away to a safe place.   ADJ(形容詞)

 The UN decleared it a safe area.  N-COUNT(可算名詞)

 このようにsafeについて後ろの語を修飾するとみなせる場合は形容詞、語を並べて一体とみなす場合は名詞と解されます。もっともsafe areaは2語が一体という別項目になっているのでsafe単体での品詞は保留しているとも言えます。

 

 実際に品詞を定義するのは簡単なことではありません。論文にある名詞と形容詞のそれぞれの判定基準を引用します。

 

■英語・品詞判定基準

【名詞】

a)主語,(間接)目的語,補語になることができる(動詞,形容詞,前置詞の項になる)。

b)冠詞,数量詞(all, someなど),theseなどのあとに生じる(ことがある)。

c)普通名詞の場合,限定用法の形容詞や現在分詞・過去分詞の形容詞的用法により修飾されうる。

d)普通名詞の場合,形容詞や現在分詞・過去分詞の形容詞的用法により後置修飾されうる。

e)可算,不可算の区別がある。

f)可算名詞の場合,複数形の-sがつくことがある(例外:単複同形のfish,不規則変化のchild/children, man/menなど)。

g)代名詞は格変化(主格,所有格,目的格など)がある。

h)所有格(-’s)がある(例:John’s)。

i)名詞化接辞で終わるものがある(-ance, -ness, -tionなど;happiness)。

m)モノの名前,抽象的な概念,身体感覚を表す

 

【形容詞】

a)名詞の前に置かれたり(限定用法),名詞を叙述したり(叙述用法)する。

b)程度を表す副詞(例:very)により修飾されうる。

c)比較級,最上級がある(ものもある)。

d)形容詞化接辞で終わるものもある(-ful, -less, -iveなど;beautiful)。

m 1 )モノの属性を表す。

m 2 )一時的状態,恒常的状態を表す

安部朋世 他『大学生に対する品詞の理解度調査からみた英文法学習と国語科文法学習との連携の可能性』2018

 

 この中の名詞判定基準(a)には「補語になることができる」とあり、形容詞の判定基準(a)には「名詞を叙述」(叙述用法)とあります。この記述はSVCという文型で言えば補語Cの位置で使う場合に該当し、この用法を叙述用法と言います。It's safeでは、補語Cの位置にあるsafeは叙述用法の形容詞とされています。

 形容詞の判定基準(a)には「名詞の前に置かれ」(限定用法)あります。ところが、safe areaでは、safeは名詞areaの前に置かれていますが形容詞とはされません。

 一番初めの定義(a)だけでも、明確は判定基準とはなっていないのです。このように英語の品詞が分かり難いのは教え方のせいでも学習者の理解力のせいでもありません。それは構造的な問題なのです。論文の記述を一部要約したものを引用します。

 

屈折語の判断基準に基づく伝統的品詞「分類」による英語の品詞説明は、理論的に無理があり、EFL(English as a Foreign Language)学習者には混乱をきたすのみである。また、多くの者にとっての母語である日本語は、単語の形式(カタチ)で品詞を表すが、その概念は英語学習の妨げとなる。英語は一つの形で様々な品詞たる可能性を持つからである。

 

(e.g.  Am I making myself clear? (形容詞)

Can anyone suggest a good, clear, easy beginner's book to the Kabbalar?(形容詞)

He had time to get clear away.(副詞)

Carolyn cleared the table and washed up.(動詞) )。

 

 とはいうものの、語順によって文法・意味関係を表す英語においては、全く品詞の概念なしには正しい文の構築は望めない。

 学習者が品詞を理解するのに困難さを伴う原因はいくつかある。言語間のシステムの差異は一対一対応ではないという理屈がわからないということ、英語は語順で単語間の文法関係を表す言語であるということが理解できないこと。そして最大の原因は、未だ適切な品詞論が確立されていないことにある。英語という言語における形式と品詞の不一致を見ても明らかだが、品詞は分類されるのではなく「分布」しているものである。」

  平岩 加寿子『学校文法と品詞分布―5文型を中心に―』

 

 この論文が指摘する「未だ適切な品詞論が確立されていない」と聞いてピンとこない人も多いかもしれません。学校文法は、元々屈折に基づいて決まる品詞という概念を使って、屈折を失った英語の文法的仕組みを説明します。伝統的品詞「分類」とはいっても、実際には英語にあてはめる方法は確立していないのです。

 

「最初の英文法書であるブロカー(William Bullokar, ?1513―1609)の Pamphlet for Grammar(1586)では,名詞・動詞・分詞・代名詞・副詞・前置詞・接続詞・間投詞の8品詞が認められている。現代の英文法との明らかな違いは,形容詞が独立した品詞として認められていないことである。

 ギリシャ語およびラテン語文法では,形容詞は名詞と形態変化が似ていることから名詞と同じカテゴリーに入れられ,その下位分類として,noun substantive(実詞)と noun adjective(形容詞)とに分けられていたのである。英語では17世紀末のレイン(A. Lane, fl . 1695―1700の A Key to the Art of Letters(1700)あたりから,形容詞が独立した品詞として認められるようになっていく。」

 宮脇正孝『動き出した品詞論―18世紀後半の英国の場合―』2013

 

 「品詞」はギリシャ語やラテン語文法などの屈折言語の概念です。だから、品詞を論じるには屈折言語の文法的仕組みを知る必要があります。

 品詞は本来、単語の屈折形態によって分類されます。格変化する語を名詞、定形変化する語を動詞といいます。ラテン語の名詞と動詞は形態で明確に分類できます。ところが、名詞と形容詞はどちらも格変化するので特性が似ています。

 ラテン語の名詞、形容詞の屈折について、概要を見てみましょう。

 

【ラテン語の文法】 格、活用型だけで以下のように非常にたくさんある

          不規則変化はほとんどない(文法・発音とも例外はまれ)

 

名詞 :男性・女性・中性 / 単数・複数 / 主格・属格・与格・対格・奪格・呼格

    第1変化、第2変化、第3変化

      冠詞は存在しない。定冠詞は関係代名詞で表現。

 

代名詞:男性・女性・中性 / 単数・複数 / 主格・属格・与格・対格・奪格・呼格

形容詞:男性・女性・中性 / 単数・複数 /主格・属格・与格・対格・奪格

    第1・第2変化、第3変化 原級・比級(比較級)・優級(最上級

      

 ITO Kei『学術ラテン語最小限マニュアル』1999

 

 ここに示してあるように、ラテン語の形容詞は名詞に合わせて屈折します。けっかとして名詞・代名詞と同様に格変化することになります。主格というのは主語になる格です。形容詞も主語になることがあります。

 

 Rara juvant(珍しいものは(人)を喜ばせる)

 

 この文の主語のraraは、英語の形容詞rareと同語源です。形容詞の名詞用法(中性・複数・主格)とされます。

 「品詞」の大本である屈折言語でも、名詞と形容詞の性質の違いは明確ではありません。だからラテン語文法ではnoun substansive(実詞)とnoun adjective(形容詞)はかい分類で、どちらもnoun(名詞)として同じカテゴリーとされています。

 

 最初の英文法書Bullokar1586が主要8品詞の中に形容詞が無いのは、ラテン語文法に基づいて英文法が創られたからです。英文法で、形容詞が独立した品詞と認められていくのは17世紀末あたりから(宮脇2013)とはいっても、20世紀になっても、専門家の間では確定してはいません。

 

 記述文法家Jespersenは、その著書『The philosophy of grammar』1935(邦訳版『文法の原理』)で次のような品詞分類を示しています。

 little man(小柄な男)、old Doctor(年を取った医者)について、little、oldを形容詞(adjective)、man、Doctorを実詞(substantive)と呼びます。そして、「形容詞と実詞は、多くのものを共有していて、ある語が形容詞に属するのか、実詞に属するのか決定しがたい場合がある」ということから、実詞と形容詞を含むより大きなクラスとして名詞nounという語を用いるとします。つまり、Jespersenはラテン語と同様の品詞分類にすべきだと主張していることになります。

 

 また、名詞と形容詞が分類し難いとして、boy messenger(少年の配達人)、

woman writer(女性作家)等を例示しています。

 これらは阿部2018の品詞判定基準では、名詞の前に置く語で後ろの名詞を修飾しているとみなせるので形容詞adjectiveになります。伝統的な定義で「名詞はモノの名前」で「形容詞はモノの性質」とするなら、boy、womanは名詞nounとなります。

 この伝統的な定義について、Jespersenは、wisdom(知恵)、kindness(親切)などはwiseやkindと同じ性質で、どこにも実体はないと主張します。これら「抽象語」の謎を解くには、古い定義は無力とまで言っています。

 先ほどのは名詞判定基準(m)モノの名前,抽象的な概念,身体感覚を表すの中でいうと抽象的な概念というのは、形容詞にも当てはまるというわけです。Jespersenはboy、womanを主要品詞として単にnounとはしないで、実詞(substantive)とします。それでも区別は決定し難いと述べています。

 

 『文法の原理』では、次の用例を挙げています。

 

(a) You are a dear. (きみって、かわいい人だね)

(b) You are dear. (きみって、かわいい)

               ――Jespersen1935

 この2文にあるdearの品詞を考えます。この2文は今日の文型でいうとSVCで、dearは補語Cにあたると考えられます。このとき、(a)も(b)もどちらも人の性質を表しています。その違いは冠詞の有無だけです。

 ここで、(a)について、従来の説明「dearは可算名詞だからaが付く」の妥当性を考えてみましょう。この説明が妥当だとしたら、(b)のdearはどのように説明するのでしょうか?この「dearは形容詞だからaはいらない」というしかありません。実際に現行文法ではそのように説明します。

 同じ人の性質を示すdearという実体のない抽象的な語について、冠詞があれば名詞と呼び、なければ形容詞と呼ぶのです。このときdearを可算名詞とする意味はあるでしょうか。Jespersenはdearをnounかadjrctiveかに分類するのは困難だとするのです。

 

 今世紀に入っても、英語の品詞の境界線は明瞭でないことは指摘されています。

Langackerの挙げた例で確認しておきます。

 

a. Yellow is a nice color.  (proper noun)

b. This yellow would look good in our kitchen.  (count noun)

c. The ball is yellow.  (adjective)

d. There’s a lot of yellow in this painting.  (mass noun)

                       ――Langacker 2008

 

  yellowの品詞分類です。用例(c)だけが補語になっているので形容詞としています。他は主語になっているから名詞としています。名詞の種類も決めていますが、これは決定詞から判断していると言えます。yellowは実体のない抽象的な概念ですが、主語にもなれば補語にもなります。

 

 英語の品詞判定が困難なのは、そもそも「品詞」は屈折に基づいた概念で、現代英語は屈折を失った言語だからです。屈折という品詞を示す標識を失い、無標となった英単語は品詞が曖昧なのです。見方を変えれば、無標の英単語は標識による使用制限がないので、自由度が高いと言えます。

 現代英語は屈折という文法手段を失った代わりに、機能語を発達させて、語順を固定化し、配列によって文法性を示します。SVOという語順によって、Sの位置にあれば主語(主格の名詞)、Oの位置にあれば(述語動詞)、Oの位置にあれば目的語(目的格の名詞)ということになります。「名詞が主語になる」のではなく、Sの位置にあることで主語という文法性を示し、事後的に「名詞としての働き」と判定されるのです。

 SVXと配列し、XがSの性質や属性を示すときには、SVCということになります。Xの位置にはa dearもdearもどちらも許容されます。それは文法規則というよりも慣用の問題です。CがSの性質をさらわしていることが分かれば意味は伝わります。品詞は事後的な解釈に過ぎません。無標のdearは抽象的な概念で自由度が高い表現です。その品詞を決めるのは語の配列で、実際にどのような用法に使うかは話者の慣用によるということです。

 

 現代語の名詞や形容詞とされる語は、古英語期には合った格変化という屈折を失っています。格変化が人称代名詞にだけ残っているのは、標準語の規範がラテン語文法に準じて残したからです。

 you、your、youは主格と目的格が同型です。しかし、それで困ることはありません。SVOと配列しSの位置にあれば主格、Oの位置にあれば目的格と判るので、格の区別は不要です。一般の名詞が屈折しなくても格が分かるのも同じことです。

 she、her、herでは所有格と目的格が同型です。それでも困るという人はいません。with herと配列するとwithが標識となりherは目的格と分かります。her nameと配列するとherは直後のnameを修飾する所有格と分かります。一般の名詞や形容詞が格変化しない代わりに語の配列が文法性を示すのが現代英語の仕組みなのです。実は、he-herと並べると分かるように、herはもともとheと同語源でsheとは別語源なのです。屈折が廃れたsheと別語源のherを組み合わせて、標準語では「格変化していることにした」のです。

 

 I、my、meはそれぞれ主格、所有格、目的格と呼ばれています。これもIと他のm-系のmy、meとは別語源です。It's me.など主語の意味として、標準語で主格とされる I ではなくmeを使うことはよく知られています。

「口語ではmeを I の代わりに使うことがあるが、次のような例では文法的には正しくない。

   Me and my brother sleep with them too.

   鈴木 雅光『小学1年生から3年生の誤用』2003

 

 また、herが所有格と目的格を兼用しているように、現代英語の仕組み上、myとmeも区別が無くても特に困ることは無いはずです。だから幼少期の子供は屈折を間違えることがあります。

 誤用例

  They are me heros.[age 4]

 鈴木 雅光『4歳から6歳の英語』2002

 

 meを所有格として使った誤用例です。しかし、誤用と判るのはthey areの後続してme herosと配置してあればmyの意味であることは分かります。herは目的格と所有格が検証だからher herosとしても不自然に感じないだけです。

 英語の文法的仕組み上、屈折による格の区別が必要ないので、区別しないで通用する地域はあります。

 

Eamon: Let’s go for a spin and have a listen in me car 

Guy: Great, man. 

Band Member: Yeah. 

Eamon: Go have a ride, yeah? 

――ONCE ダブリンの街角で(2006)

  田畑 圭介、山縣 節子『映画における英語の文法構文』2022

 

 この映画で使用されたme carはアイルラン英語で、標準語ではmy carの意味です。このように地域によってはmeを所有格として使います。

 格変化という失われた屈折を考慮せずに、文中に置く位置でmeを自在に使う地方語は、無理に残そうとする標準英語より、現代英語の本来の文法的仕組みをよく表しています。

 

 文法説明は、単文については何とでも言いようがあるのです。問題は一貫性があるかどうかです。dearやyellowは名詞や形容詞などに使われる語であるということは確かです。無標の英単語の文法的性質は、単語自体の形態で事前に決まっているわけではなく、本質的には文中で使ったときに決まると考える方が現代英語本来の仕組みに合致しています。

 

 表題に挙げた2つの英文について見ていきます。この2文はどちらも正用とされています。

 

(c) It's a funny. (それはおかしなことだね)

(d) It's funny. (それはおかしいね)

 

 (c)について、従来の説明では「funnyは可算名詞だからaが付く」となります。これで納得できるでしょうか?funnyの成り立ちはfunという語に形容詞語尾yを組み合わせた語です。easy(容易な)はeaseの形容詞形、bossy(指図ばかりする)はbossの形容詞形などと同じです。だから、一般の学習者にはfunnyは形容詞と認識されていると思います。実際にfunnyは(b)のように形容詞として使うとされます。

 このとき、SVCの補語Cにあたり、主語の性質を表すことから意味は解釈できます。品詞については、機能語aの有無で一応の判断ができますが、それは事後的なものですこの場合も、funny自体は、性質を示す抽象的な語で、名詞にも形容詞にも使うととらえることができます。

 現代英語は屈折を失い、語順と機能語が文法的働きを示す言語です。英語ネイティブは、基本的に屈折に無頓着で、語順と機能語を重視します。funnyは、yという語尾の屈折から見ると形容詞のはずです。しかし、ネイティブ感覚としては、三単現のSや人称代名詞の格変化と同じ屈折なので、それほど頓着していないと考えられます。

 

先に引用した論文には次のように記していました。

「屈折語の判断基準に基づく伝統的品詞「分類」による英語の品詞説明は、理論的に無理があり、EFL(English as a Foreign Language)学習者には混乱をきたすのみである。英語という言語における形式と品詞の不一致を見ても明らかだが、品詞は分類されるのではなく「分布」しているものである。」平岩

 無標の英単語は「分類」を絶対化するのではなく、「分布」するととらえて柔軟に対応するというとらえ方もあるのです。

 

 辞書には単語の品詞分類がしてあります。それは1つには学習者の便を考えてのことだと思います。ある時点では、名詞にしか使わない語、形容詞にしか使わない語、どちらにも使う語はあるでしょう。しかし、その使用に対する文法的な正誤は、基本的には社会的な正しさに基づくものです。だから慣用によって変わります。

 もともと形容詞として使われはじめたものが、後になって名詞に転用されるといったことは現代英語の仕組み上、起こりえることです。現時点での正しい運用法を知っておくことは大切ですが、言葉を変化するものです。その変化に柔軟に対応できる理解の仕方をしておく方がいいと思います。
 

 冒頭に挙げた“幼少期を海外で過ごす”生徒さんの事例を振り返りましょう。先生はレッスン中に「英検面接では減点に繋がりかねない」と心配し「文法説明を現地校の授業ではどの程度の英文法に触れているか」と疑問に思われた。一方で「会話が流暢」で「今更周りも指摘しない」生徒さんは、“そうだったんですね、あせる…今までそう使ってきちゃってた”という反応でした。

 もちろん、標準語として正しい表現を教えることは良いと思います。一方で、幼少期を海外で過ごし、会話が流暢な生徒さんがsafeとsafetyの品詞を気にしないのは、ネイティブ感覚に近いのではないかと推測します。英語ネイティブの間では、言いたいことは伝わるから、文法的正誤は特に問題にされなかったのではないでしょうか。