近年、多くの研究によって、状態動詞進行形は世界的に広がっていることが明らかになってきています。今回は、アメリカの事情についての論文を紹介します。

 タイム誌コーパスによる通時的変遷と、他の言語コーパスによるアメリカのメディア等の状況についての論文(Magnus Levin2010)を見ていきます。まず、Introductionから抜粋した抄訳を紹介します。

 

「英語の進行相を分析するのに、タイム誌で使われる多くの用例をあたるに際して、以下の用例⑴のように単純形(think)と進行相(be thinking)の意味の違いを明確に言うのは難しいという問題がある。

⑴ I ought not to think about her, I should be thinking of China and the returned air crew of the spy plane. (Time; 2001)

このような動詞の進行形の使用頻度が低い理由は、これまでの研究では、この用法を文法的にどう位置付けるか結論が出ないからだ。

 伝統的に、進行相で使われるのに抵抗があった状態動詞(BE, BELIEVE, OWN)と、抵抗のなかった動作動詞(RUN, WRIE)(Biber et al.1999)は、区別されてきた。実際には、厳密に状態を表すとはいえない動詞を進行相で使うことは出来ないとする(*She is knowing the truth)一方で、And I'm loving every minute of it.(COCA; Spoken; 2008)のように、純粋に状態を表すわけではないときには、強調を表すと考えられる進行相として、このような動詞を実際に使う場合がある。

Magnus Levin『The progressive verb in modern American English』2010

 

 状態動詞をひとまとめにして、進行相を禁則にすることに対する疑問は、他の多くの国で提出されている論文と同じです。

 Time誌コーパスを利用することの利点をいくつか挙げていますが、主なものは以下の通りです。

1)タイム誌には80年以上の歴史がありコーパスのサイズと期間が十分に大きく,

  通時的研究ができる。(Millar 2009)

2)編集方針として“irreverence toward authority”(権威に対して畏敬すること 

 がない)ため、文法変化を研究するのに適している(Firebaugh 1940)

3)アメリカでもっとも読者の多い週刊誌(2006年の実績では400万部)

  (Hau 2008)で、雑誌全体の傾向として代表させることができる(Millar 2009)

 

 同論文では、BE being+形容詞(I'm being serious)と、private動詞と呼ぶbelieve、know、love、thinkなど(I'm wondering if you can't help me)(Quirk et al.1985)を分けてものを取り上げています。

 まず、タイム誌コーパスのBE being+形容詞の型の主な用例と、100万語中のこの型の出現頻度を示したグラフを引用します。

 

(2) “In other words,” a newsman asked, “it's best that the Governor is   not ‘brainwashed?’” “I didn't say that,” laughed Lindsay. “You're   being naughty.”              (Time; 1967/09/22)

 

(3) The European papers are doing the right thing. They're being   courageous.

                        (Time; 2006/02/13)

 

 

 このグラフは1920代、1990年代、2000年代の推移を示しています。BE being+形容詞の型は、タイム誌では、20世紀の後半に広く使われるようになったことが分かります。

 

 つづいて、BELIEVE, (DIS)LIKE, HATE,INTEND, KNOW, LOVE, PITY, WANT,WISHの主な用例と、出現頻度のグラフ、およびEXPECT, FEEL, HOPE, THINK, WONDERの主な用例と出現頻度のグラフを引用します。

 

(10) I'm really wishing I could watch the muddy brown water of 

    the‘mighty Miss’wash over my toes again.    (Time; 2001/04/31)

 

(11) I was not believing for a second that this guy has ever read 

     PEOPLE.                                                       (Time; 2004/04/26)

 

(12) If you've been wanting to try your hand at digital photography 

   but don't want to buy pricey equipment, this camera may be for you.

                                                                           (Time; 2003/08/04)

 

(16) “I'm feeling full of beans and very excited,” she said. 

                                                                          (Time; 1962/04/06)

 

(17) In case you're wondering whether combining porn and economics 

      makes economicsinteresting or porn boring, it's the former. 

                                                                         (Time; 2003/04/28)

 

 

 

 上図がbelieveなど10個の動詞の推移、下図がexpectなど4つの動詞の推移です。

上図で示される10の動詞の進行相の実数(( )内は進行相以外)は、1920年代が9(13,612)、1960年代が15(29,462)、2,000年代が21(19,221)と記載しています。中では、wantとwishがそのおよそ半分を占めるとしています。(Levin2010)

下図で示される4つの動詞の進行相の使用率は1920年代では20.8、1960年代では32.8、2000年代が87.8と記載しています。(Levin2010)上図で示される動詞と比較すると、下図で示される4つの動詞は、使用率が大きく伸びていることが分かります。

 通時的に見ると、21世紀には、タイム誌における全体での状態動詞の進行形の使用率は上がっていますが、動詞によるばらつきが大きいということです。

 

 全体として、状態動詞の進行形の使用率が伸びたのは今世紀ですが、その理由はタイム誌の文体が20世紀後半以降に口語的に変化していったとしています。(Levin2010) その見方は、進行相自体が口語的な表現であることに基づきます。  それを裏付ける資料として、1990年から2009年までの言語コーパスthe Corpus of Contemporary American English (COCA) (accessed in October 2009)と 口語言語コーパスthe Longman Spoken American Corpus (LSAC)のデータをもとに、進行相の10,000語のうちのBELIEVE, (DIS)LIKE, HATE,INTEND, KNOW, LOVE, PITY, WANT,WISHの使用数を示しています。

 

 

 COCAでは、文語をフィクション13.6、雑誌8.6、ニュース8.5、学術書5.3とジャンル分けしています。フィクションでは口語的表現が多く使われ、学術書では文語的な表現が使われる傾向にあることは、言うまでもないでしょう。

 このCOCAに含まれる雑誌には、The New York TimesUSA Todayが含まれています。タイム誌も雑誌ですから、口語に比べると、状態動詞の進行形が使われる頻度は、低い方であることが分かります。

 また、LASCは口語のコーパスなので、非常に高い数値を示しています。同じ口語(spoken)のデータでも、 COCAとLASCでは開きがあります。つまり、言語コーパスによって収集する対象が異なるわけです。口語と言っても、formalなものから収集するのとinformalなものから収集するのでは、大きく違います。

 

 今回紹介した(Magnus Levin2010)に、loveの進行相に関する記述がでています。

 

「これらの動詞は、ちょっとした要因で、特定のコロケーションが増加することがある。lovingの進行形のうちのloving itの使用頻度は、タイム誌では9用例中の7用例で、COCAとLSACでは316用例中の101用例を占める(e.g. Silicon Valley, meanwhile, was loving it all (Time; 2000/03/10))。それは、あるフードチェーンが、スローガンとして選んだI'm lovin' it. という用例が、この特殊なフレーズを増加させたのかもしれない。」(Levin2010)

 

 論文(Pârlog2011)には、24人のアメリカの教養あるネイティブスピーカー(24 educated native speakers of American English)を対象とした状態動詞進行形の許容度を調査したデータがあります。文章を示して、それが文法的に正しいか(OK)、正しくないか(Not OK)を聞いたものです。したの表はその結果を正しくない(Not OK)と回答した数と割合で示しています。数字が低いほど許容していることになります。

 Hortensia Pârlog『PROGRESSIVE ASPECT TODAY: THE STATIVE            VERBS』2011

 

 この結果から、年齢18から24歳の若年層では、圧倒的に状態動詞の進行形が許容されていることが分かります。ここに紹介したアメリカのネイティブスピーカーの年齢別の使用実態を示した調査は2011年に行われたものです。これからさらに10年以上が経過しています。

 

 Corpus of Contemporary American English (COCA)に現れる状態動詞進行形を分析した2018年の論文では、従来の文法書の説明に反して、believeの進行形が使われている実態を報告しています。

 

進行形の中の状態動詞「understand、believe」は一時的な意味を表す。

 

“…So we're talking not in Texas? Now you're understanding. You mean Pennsylvania. (COCA)”

(...だから、テキサスではないってこと?今、理解してくれたね。 ペンシルベニアってことか。)

 

“My expectation is that the next governor will be understanding of the need to protect jobs and to keep from moving people to welfare, " Prez said.” (COCA)

(私が期待しているのは、次の知事が雇用を保護し、人々を福祉に頼ることを防ぐ必要性を理解していることです。"とPrezは言った。)

 

  “I think we've reached a point in our market that the American consumer is believing todaythat some of the Japanese, just by the very name, build better cars. “(COCA)

(私たちは市場でアメリカの消費者が今日、日本車はその名前だけでより良い車を作っていると信じている)

 

  “She probably was believing that he was Gods choice for her, that he was a great prophet ofGod, and that her destiny was to be with him through eternity!”(COCA)

(彼女はおそらく、彼は彼女のための神がの選択で、彼が神の偉大な預言者であると信じていたのだろう。そして、彼女の運命は永遠に彼と一緒にいることだった!)

 

  “I've been believing that all my life, because I never got treated nice by the police,' Hey, how you doing,' or nothing.”(COCA)

(私は一生懸命信じてきた、なぜなら私は警察に良く扱われたことがないからだ。'こんにちは、元気ですか'とか何も言われない。)

 

 Leech(2004)によれば、進行形は通常、進行形に不適切な動詞と互換性がないとされる。Swan(2009)も同様に、進行形をほとんどまたはまったく使用しない非進行動詞または状態動詞があることを述べている。

 特定のルールや項目を正当な範囲を超えて一般化する過程を「過度の一般化」(overgeneralization)と言いう(Brown2000)。出現したデータをもとにすると、英語のネイティブスピーカーが状態動詞を進行形で使用する現象は、状態が進行している文脈で「過度の一般化」をしているためだと考えられる。

 状態進行形の中で使用される状態動詞が示す意味の中で最も顕著なものが一時的な性質である。この意味での使用は、Leech(2004)およびSwan(2009)によって述べられた英語の文法規則と矛盾している。」

Hanum『Forms of and Meanings of Stative Verbs in Progressive Tense』2018

 

 この論文では一時性を示す用例が多いことを挙げていますが、「状態が変化している」という意味でも使います。

 “Pretty soon, he is believing more and more in his own power,…” 

                             ――Newsweek

 (やがて、彼はますます自分の力に信じるようになってきている)

                 都築郷実『状態動詞の進行形の用法』2021

 

 状態動詞の進行形は、その用法を広げている過程にあると考えられます。だから、今後の変化には注視する必要があります。                            

 

 この論文Hanum2018では、Swan2009について述べていますが、以前のSwan1991では、「some stative verbs are never used the progressive: like、love、want、know、remember、think、hear、need、etc.」と記載していました。

 その後2021年に出版されたSwan『PEU第4版』2021では、Swan1991で「決して使われない」としていたlike、remember、need、wantなどの状態動詞の進行形を取り上げて用例を載せています。

 

「Occasionally ‘non-progressive’ verbs are used in progressive forms in order to emphasise the idea of change or development. 
 
 I’m remembering less and less. 
 
 I’m liking it here more and more as time goes by. 
 
Need, want and mean can have future or present perfect progressive uses.  
 Will you be needing the car this afternoon? 
 
 I’ve been wanting to go to Australia for years. 」

                 Swan『Practical English Usage』2021

  

  Swanは程度の変化や継続という限定的な使用を認めています。しかし、実際のところメディア等では、ここにあるような場合に限らないで使われています。

 

 I was delivered from my mother, my family, the girl I was loving

 passionately but did not love. ――Time

(私は母親から、家族から、そして私は情熱的に愛していたけれども愛されなかった女の子から解放された。)

 

“I don’t believe I’m hearing you say these things….” ――Newsweek

(あなたがそんなことを言っているのを信じられない。)

                都築郷実『状態動詞の進行形の用法』2021

 

 規範は、実使用に合わせて変わるものなのです。文法書の記述は、実使用に遅れて改訂されていきます。その時々に書かれた記述を固定的にとらえても、今後、情報は更新されていくと思います。

 実際に、2010年前後には、英米の文法書は相次いで状態動詞進行形の使用を容認しています。

 文法書によって、can be usedとして容認する動詞にバラツキはありますが、状態動詞だから進行形にならないという一律の禁則をしているものはありません。

 近年のコーパスデータでは、ここに挙げられている状態動詞は、進行形で使われています。そのうち規範的規則そのものが廃れることになるでしょう。

 

 状態動詞進行形について、規範文法の扱いかたの歴史的変遷を詳細に調査した樋口万里子は次にように記しています。

 

「英語学習の初期段階で、進行形には使えないと習う状態動詞feel, want, love, like等が同構文で用いられることは、実際には特に稀ではない。進行形と整合しない動詞の輪郭も多分に曖昧で「状態動詞」なる名称ができたのも20世紀後半ではないかと思われる。

 文法書記述の言語使用への影響を否定する向きもあるが、近代文法とは、既に英語を母国語とする人々が、品格を備えた正しい 英語を身に付ける為に自らの言葉遣いを律する術であって、一般庶民が実際にどう使っ ているかを記述したものではなかった。現にI am loving 等の状態動詞 進行形は規範意識から解放されたやり取りでは繁く使われる。規範は実際の普段着の英語と乖離していても不思議はないのである。」

       樋口 万里子『素顔の進行形と「状態」との関係を巡る小論』2017

 

 ネイティブスピーカーは、元々母語の文法を学校など教育によって学ぶのではなく、幼児期に接した多くの表現から分析して身に着けることが報告されています。

be V-ingのコアをもとに、これまで規範文法がformalで禁則にしてきた動詞でも、進行相を使うようになります。しかも、子供どうしのやりとりで通じることが確認できれば、そのまま文法的に許容していくということになるのです。長年にわたる文法変化は、このようにして世代をまたいで、継続していきます。

 

 進行相の使用率は、17世紀以降今日まで継続して増加しています。それは、一過性のものではなく、文語の口語化、主題化、一般化という一貫した変化の方向です。(Levin2010)から、状態動詞進行形の使用率が高くなっている要因をまとめたものを抄訳して紹介します。

 

「第一に、口語的なジャンルで、より進行相の使用が増加しているのは、タイム誌の文が口語化していることと密接にかかわっている。この結果は、口語化が文語での進行相の使用を進めるという仮説(Leech他2009)を支持している。

 

 第二に、主観化(訳者注subjectification:言語表現が話者の信条や態度の意味が持つようになる言語変化)が進行相の成長に影響を与えている。この研究で取り上げた動詞の進行相では、一般の進行相とは異なる用法として、丁寧さや断定を避けるための表現としてよく使われている。

 

 第三の要因は民主化で、それは口語化と関連する。状態動詞の進行相では、しばしば、丁寧さ、躊躇を表すが、それらがより巧妙になっていき、逆に権威主義的な表現が退潮していくのは、今日の社会的な規範意識が、従来の力や社会的な差を重視することを避けていく方向に変化していることが影響している。それは、このシフトが非公式化(informality)に向かっていることと関係する。

 

 第四そして最後の要因は一般化(訳者注gereralization:元々限定的な意味の語が文法化が進むにつれて広く使える一般的な意味を持つようになる言語変化)である。進行相の増加は、狭い範囲だけで見れば、新しい動詞の型や意味が拡張していくことによって引き起こされているが、その核心は数世紀にわたるゆっくりとした進行相の文法化による。

 

 自然に発生する言語変化は別にしても、現時点の研究では、言語の口語化、主題化、民主化、一般化が相まって、進行相の増加を促進していることを示している。

(しんじ抄訳)

Magnus Levin『The progressive verb in modern American English』2010

 

 この論文は2010年のものです。その後も近年のSNSの発達により、言語の口語化、民主化はさらに加速しています。例えば、「2006年にTwitterがサービスを開始して、2007年の時点で全世界の1日当たりのツィート数は5,000件ほどで、2010年1月までに1日5,000万件を超え、2022年時点では1日に5億件以上のツイートが投稿されています」(ウィキペディア)。

 SNS上で流通する生きた用例を目にすることで、口語に近い表現の使用実態を、だれでもリアルタイムで簡単に知ることができます。実際に使われている日常会話では、言語コーパスのデータに現れるよりも、状態動詞の進行形がよく使われていることは、論を待つまでもないでしょう。

 

 規範文法が創り出した禁則「状態動詞は進行形にしない」は、自然言語としての英語の進化に逆行するものです。それは20世紀の規範的規則で、21世紀には廃れつつあります。PEUやGIUなど規範文法をベースにした保守的なESL向けの文法書でも、状態動詞の進行形についての用例をあげて、用法を解説するように記述が変わっています。

 人々が民主化、表現の自由を志向する限り、文法化が進み、現代英語の表現がより豊かになっていく現象は止まらないでしょう。