状態動詞stative verbsと言われる語は、規範文法では「ふつうは進行形にしない」とされてきました。逆に言うと、ふつうではないときにはできるということです。進行形のコアは「普通とは違う事態が起こっている(進んでいる)」ととらえられます。「常態(常にある状態)ではない」という文脈では、進行形を使うことが相応しいのです。

 

 英米では今世紀に入って、20世紀の規範的規則を見直す動きが加速しています。以前は容認されなかった状態動詞の進行形も、実際に使用してる表現として認めれるようになってきています。

 それに伴って、表立って使われていることがNgramのデータにも表れています。

 ちょっと考えればわかりますが、「これ見える?」というように、今この瞬間見えているかどうか尋ねるという場面はあり得えます。例えば、眼科などでは日常的に使うでしょう。一時的な状態を述べることは、ふうつにあるのです。

  現代英語では、下のように使い分けることが可能になっています。

“Can you see this?” (これ見える?) 相手の視力や視覚の能力に焦点をあてる

“Do you see this?” (これ見えてる?) 相手に何かを見えているか確認

“Are you seeing this?” (これ見(え)てますか?)相手が今見(え)てるか確認

 

 下のグラフは一般の進行形と状態動詞進行形の使用率の歴史的な推移を示しています。グラフ(上)は進行形全体の使用率、グラフ(下)は状態動詞進行形の使用率です。

 

 17世紀に今の型の進行形が使われ始めて以来、状態動詞も一般的に使われていたことが分かります。20世紀に一時的に文法規範として禁則が広まっただけです。

 今世紀に入り、実際に英語のネイティブスピーカーの間でも使用が広がっています。昔の規則に縛られるの無意味でしょう。公的な場で使うことが適切かどうかを判断するにしても実情を知らないことには始まりません。実際にseeがどのように使用されているのか見ていきましょう。

 

 まずは、lookと対比して、seeのコアをつかみましょう

 lookは、「意識して対象に目を向ける」という意味がコアになっていると考えられます。Look!「見て」、look for~「~を探す」というように、外の対象に注意を向ける場合によく使われることからも、そのコアが分かると思います。

 seeのコアは、外から視界に入ってきたものが、頭の中でイメージになるというような感じです。I see. という表現が「見える」ことから「分かる」という頭の中での理解を意味することも、この感覚を表していますね。

 

 次の用例は、幼児対象のアニメ作品のものですが、lookとseeをネイティブスピーカーがどのようにとらえているかをよく表しています。

 

Pedro: My daddy is an optician. He checks that you can see clearly.

Peppa: How does he look inside your head?

Pedro: He does an eye test.

  『Peppa Pig Goes Shopping for Mother’s Day | The eye test』

  (ぼくのパパは、眼鏡技師なんだ。人が、はっきりとものが見えているかを調べる

     んだよ。)

  (どうやって人の頭の中をみるの?)

  (視力テストをするんだ。)

 

 ペドロがcan see「見ることができるか」を調べると言ったこと受けて、幼児であるペッパは、素朴な感覚で「頭の中を見る」と解釈しています。このことがseeのコアが、頭の中で見えているイメージであるという、ネイティブの感覚をよく表しています。同時にlook into~「~の中を見る」という表現から、lookが意識して対象に目を向けることを意味していると分かります。

 

 lookのコアは、「意識して対象を見る」です。意識したり、しなかったりはふつうにできるので、常態ではありません。だから、lookは、進行形を使ったり、無標の現在形を使ったりします。

 これに対して、seeのコアは、「外から目に入ってくるものが見える」です。覚醒している限り、ものは常に見えているので、「見える」という意味のseeは「常態」です。だから、seeは進行形では使いません。進行形のコアである「限られた一時的なこと」definiteに合わないからです

 

 ただし、前提としてseeは知覚だけを表すわけではことも押さえておきます。seeが表す意味にはvisitやmeetのように行為と言える用法もあります。これらの意味では、「具体的な予定として会うと決まっている」ことを表したい場合や、「(恋人として)付き合っている」という場合などは進行形を使います。後者の例を挙げておきます。

 

 Is she seeing anyone at the moment? (LDCE)

 「彼女は、今誰かと付き合っているの」

 

 知覚として使わない場合でも、進行形は一般に単純形よりも特殊な意味を持ちます。いわゆる「見える」という知覚の意味で使うseeは、「状態動詞は、ふつうは進行形にしない」とされます。

 しかし、言葉とは、規則に従って使うものではなく、伝えたいことを正確に表すために、文法コードを参照して使うものです。実際は、状態動詞だろうがなかろうが、単純形と進行形は、コアと文脈によって使い分けることに変わりはありません。

 

 英英辞典LDCEには、see⑧IMGINEとして次のように載っています。

31 [not in progressive] to form a picture of something or someone in    your mind

32  be seeing things to imagine that you see something which is not    really there

   There's no one there―you must have been seeing things.

 

 上記のLDCE31は [進行形ではない場合]は「人の頭の中にあるものや人の絵が目に浮かぶ」というような説明です。知覚としての意味のときには、ふつうは、進行形を使わず、単純形を使うという規範的規則と同じような記述になっています。

 32では、「実際にはそこに無いものが見えているとイメージすること」との説明があります。そこに付された例文で、been seeing thingsと表現しているのは、「実際にはないものを見たに違いない」つまり幻覚(思い過ごし)と言っていることになります。

 幻覚をbe seeing thingsと表現するのは、アニメや映画や小説などでは、普通に使われます。だから辞書にも載っているわけです。

(※幻覚が見えるという表現について、この記事を見ていただいた通訳経験のあるかたに、貴重なご意見をいただきました。記事の下にあるコメント欄をご覧ください)

 

 幻覚に限らず「ふつうなら見えないものが見える」「なかなか見ることがない光景を目にする」「これまでとは異なる変化が見られる」という「常態ではない」場合は、進行形を使って表現できます。

 

 以前の記事で紹介した用例も含め、用法分類はせずに紹介しておきます。進行形のコアを感じてつかんでもらえばいいかと思います。

 

⑴    ‘Am I seeing things?’said Willie.

                  ――H. Wouk: The Caine Mutiny

 「‘これは幻覚なのか’とウィリーは言った。」

 

⑵    …、as if he were seeing things other people didn't see.

                       ――B. Plain: Evergreen

 「彼は、まるで、他の人が見えていないものが見えているかのようだった。」

 

⑶    Old men are dreaming dreams and young men are seeing visions.

                ――Tom Doyle: Dreams and Visions

 「老人は夢を見、若者は空想する。」

 

⑷    By the time I killed that guard and ran away, he was seeing ghosts   every night.

               ――Richard Blake: The Curse of Baylon

 「わたしがその護衛を殺して逃げるまで、彼は毎晩、幽霊を見ていたんだ。」

 

⑸    There's something wrong with me. I'm seeing red spots in front of   my eyes. 

                             (南出2014)

 「何かおかしいんだよ。目の前に赤い斑点が見える。」

 

⑹    “What are you seeing what I'm seeing? There are two of them”

  “My boys are identical twins.”

             ――Kongsuni and Friends | Twin Trouble

 「私が見ているものを、みんなも見えてる?同じ人が二人いるわ。」

 「この子たちは一卵性双生児なのよ。」

                             

⑺    If you're seeing two of me, you'd better sit down for a while.

           ――The Berenstain Bears | Hug and Make Up

 「わたしが2重に見えているのなら、少しの間座っておいた方が良いよ。」

      

 下にリンクした動画3:33あたりにあるセリフです。

The Berenstain Bears: Hug and Make Up / Big Road Race - Ep. 32 (youtube.com)

           

⑻    I'm still seeing that blinding flash which occurred a moment ago.

                             (樋口2016)            

 「一瞬前に見えた閃光が、まだ残像として見えている。」

 

⑼    Imagine. At last I'm seeing the Statue of Liberty!

                             (南出2014)

 「思ってもみなかった。ついに自由の女神像を目の当たりにしているんだ。」

 

⑽    “I couldn't believe I was seeing it, ”…

                                                       ――Time

 「それを見ているなんて信じられなかった」

 

⑾    At first, I couldn't quite believe what I was seeing

                        ――The New Yorker

 「はじめは、自分が見ている光景を全く信じることができなかった。」

 

⑿    Plenty of people now are seeing icebergs,

                      ――The New York Times

 「多くの人々が、今まさに氷山を目の当たりにしている。」

 

⒀    She's seeing more clearly with her new glasses.  

                             (南出2014)

 「彼女は新しい眼鏡をかけて、これまでよりもよく見えている」

 

⒁ I was seeing him different than when he came first.

                                                                            (Smiecinska2002)

 「彼が最初に来た時とは違ってみえてた。」

 

⒂    “We are seeing more and more people coming out of places like   Malaysia, Indonesia, Singapore, Taiwan and Thailand.”

                              ――Time

  「マレーシア、インドネシア、シンガポール、台湾、タイなどからやってくる

 人を多く目にするようになってきた。」

 

⒃ I'm seeing a ship on the horizon.

                                          (平木1999)

 「水平線に船が見えてきた。」

 

⒄ Jake's seeing a lot of Felicity these days.

                                                                                (OPEU2010)

 「Jakeはこのごろ、Felicityばかり見ているんだ。」

 

仮に用法分類しようと思えば、

【幻聴、空想】実際には見えないものが見えている

【新奇な光景】思ってもみなかった光景を目にする

【変化する過程】これまでとは違う変化おきている

など、候補はあるでしょう。

 分類してあるとすっきり見えるかもしれません。しかし、自分で考えてみることに、意味があるように思います。大事なのは、規則とか分類よりも、コアと文脈です。

 実際にいくつかの用例を俯瞰してみると、進行形のコアは変わらないように見えます。例えば「見えるようになってくる」というのは、it's getting dark. 「しだいに暗くなる」、is resembling 「だんだん似てくる」、be stopping「止まりつつある」など「程度が変化する」というようなイメージで共通しています。これら他の動詞の用例を総合していけば、コアのイメージをつかめていけるのではないでしょうか。

 

 実際に使うかどうかは自分の判断です。英語であろうと日本語であろうと、その場に合った言葉使いをするのは常識の範囲でしょう。現状、seeの進行形の使用は、日常語ではふつうに使用されます。公的な場、とくに文章では必要がなければ、不用意に状態動詞進行形を使うことは注意した方がいいかもしれません。ただし、使用する人がいても、誤りだと考えるのは止めた方がいいでしょう。語感は世代や階層などによって異なるのは変わりゆく言語の常です。

 正誤は外国語として学ぶわれわれが決めるものではないはずです。in putは実際に英語話者が使っている表現を学ぶのが第一です。out putは自分の必要に応じて判断するものだともいます。

 実践で使う文法は、規範文法とは別のものです。それは実際に使われている生きた用例に出会って、上書きするものだと思います。時代とともに言葉は変わっていくのですから。