現行英文法で、going toほど実態に合わない文法説明が流布しているものは他にないのではないかと思います。going toについての論文Burton2021では、世界のEFL向けの英文法が抱える問題を論じています。

 その序文から翻訳して引用します。

 

英語を外国語として学ぶ人々が未来形 'going to' を学ぶ際、通常、それは2つの未来の機能を表現するために使われることが教えられる。それは計画や意図について話すことと、現在の証拠がある場合に予測を行うことだ。

 しかしながら、多くの場合"going to"の後に"go"や"come"を避けるというルールが追加され、英語教育の教科書や文法書で何十年も繰り返されている。

 本記事は、これがなぜ正確でないかを、コーパスからの経験的な証拠を用いて示す。また、明らかに正確でないルールがなぜ繰り返されるのかについても議論し、広く受け入れられているELT文法の「標準」が存在し、文法の説明における不正確さが容易に継続される可能性があることを主張する

 Graham Burton『'Are you going to go?' Putting a pedagogical grammar rule

          under the corpus spotlight』2021

 

  Burton2021が問題視するEFL向けの文法説明の1つは付帯的なルールですが、実は「going toはその場で決めたことに使わない」というルールにも問題があります。前者のルールはgoを使用しているかどうかだけなので一見して分かります。後者のルールは文脈を見ないと判断できないので、真偽の判定は容易ではないのです。

 まずは、付帯ルールの真偽から見ていきます。Burton2021にある教育文法書の説明とそれに関しての記述を引用します。

 

“With verbs of movement, especially go and come, we often use the present continuous rather than going to.” (Eastwood 1994: 97)

 

“With the verb go, we usually say, I’m going to Italy. not I’m going to go to Italy. but both are correct.” (Redston & Cunningham 2005: 129)

 

“We usually avoid be going to with the verbs go and come.” (Foley & Hall 2012a: 124)

 

 going toルールは絶対的な言葉で表現されず、必ず相対的な言葉で表現される。使用については 'tend not to' または 'avoid' することが主張される。'going to go' や 'going to come' のような形を決して使わないとされているわけではない。この種の表現は教育文法のルールでは珍しくなく、他の文法領域に関連するルールでも同様の表現が簡単に見つかる」Burton2021

 

 近年では、多くの文法ルールが実態に合っているかは、簡単に調べられます。going to go…のような使い方があることは、コーパスデータで分かります。

Graham Burton『The canon of pedagogical grammar for ELT: a mixed methods

       study of its evolution, development and comparison with evidence

       on learner output』2019

 

 COCAでは、going to の後に来る語のうちgoは、be、have、do、getについで第5位の頻度で使われています。BNCでも8位に入っています。このように、形式上から使用が確認できるものは、真偽は一目瞭然です。

 

 Burton2021では、まれではあっても実際には使われている表現を、このような説明の仕方をすることで起きる問題を指摘をしています。

 問題とは、実際にはルールではないのに学習者に使わないことを勧めること、そのような不正確なルールまがいのものはいくらでも創り出せること、その不正確なルールは適正な検証を受けることなく広がり続けること、それは禁止するカノンになってしまい表現の選択を奪うこと、などです。

 

 EFL学習者は、この種の不正確な"文法ルール"を、他には載っていない詳しい解説と受け取り、歓迎する傾向があります。そのため、特に20世紀の後半には、生産者はこの種の"文法ルール"を盛んに創作します。そして生産者間の競争原理が働き、他書を真似た"文法ルール"が出回ります。結果として、多くの教育文法書やテキストに載っているからという理由で正当だとされ、あたかも伝統的な英文法の規範であるかのようになっていきます。

 その実態についてBurton2021では次のように記しています。

 

「歴史的かつ現代の主要文献の分析からは、動詞"go"、"come"、および他の移動動詞を禁止するルールは比較的最近のものであり、20世紀初頭にのみ現れたことが示唆される。

 20世紀前半の教科書の文法内容は、過去のものと比べてはるかに広範で詳細になっていることがわかる。教科書が出版される水準が高くなるに従い、文法の内容には以前よりも単純によりスペースが増加している。 

 Michael Swan自身も最近まで、1960年代と1970年代に文法の共通理解を「膨らませる」とインタビューで語っており、それは「伝統的なELT文法」とラベルされているものが実際には最近の発明であるということを意味している。」Burton2021

 

 実際にgoing to goのように使うことは、もともと20世紀に誰かが言い出した一部の意見に過ぎません。Websterの辞書にある例を紹介します。

  『Webster S New World Dictionary Of The American Language』1960

 

 この中の3行目と4行目に、それぞれ[going to 地名][going to go to 地名]のどちらも可能であることが分かります。2つの表現が可能なことは、言語学の論理で文法説明ができます。

 もともと内容を表していた語(内容語)が文法機能を担う語(機能語)に転用されることを文法化と言います。文法化が進んだ機能語は汎用性を持ち意味が広くなりますが、これを一般化といいます。一般化が進むとほとんど内容語の時の意味を失います。

 例えば、"Over there, there is an information center."という文では、前のthereは「あそこ」という具体的に場所を指す内容語です。後者のthereは構文という定型化した文を構成する機能語です。後続する語の存在を強調するという機能を持ちますが、there自体の意味内容はありません。だからふつう和訳には表れないのです。

 見かけは同じthereでも、内容語のthereと機能語のthereは別の語なので、同時につかっても不自然ではないのです。

 

 [I am going to 地名]のgoingは「行く」という内容語として使われています。一方で[I am going to go to 地名]のgoingはam going toという定型化した機能語(句)として働いています。後続する語がこれから実行されることを示す働きをしますが、going自体の意味内容はありません。

 後者の文では、goingは機能語で後続するgoは内容語なのです。見かけはgoという語でもthereと同じく、同時に使っても不自然ではないのです。

 

 文法的にはこのように正当な理由が説明できます。ただ、言葉は変化し、変化の過程にある表現の語感は人によって違います。同じ表現でも自然に感じる人とそう感じない人がいます。文法規則は自然に感じないという人が「ふつうは言わない」と言い出してある程度多数派になったものなのです。

 この程度が問題で、20世紀後半には、以前の文法書などを調べたり科学的な検証をしたりすることなく、個人的な語感から規則が作られたのです。その常套句がusuallyを使った「ふつうは言わない」というレトリックです。

 

 このように20世紀の後半にEFL向けに発明された不正確な"教育文法ルール"の例は数多くあります。Burton2021からいくつか引用します。

 

Face2face pre-intermediate student’s book, Redston & Cunningham 2005

“We don’t usually use going to in short answers: Yes, she is. NOT Yes, she’s going to.” 

(短い答えでは通常「going to」を使用しない。「Yes, she is.」のように使う)

 

Face2face upper intermediate student’s book, Redston & Cunningham 2016:

"We don’t usually use activity/state verbs in continuous verb forms."

(通常、行為/状態動詞は進行形で使用しない)

 

Oxford practice grammar, Eastwood 2003:

"We do not usually say a milk or two soups."

(通常、ミルクやスープなどは言わない)

 

「私たちは通常 / 普通にはXと言わない」と述べることは基本的に頻度に基づく主張だ。これは「Xを言うことはまれである」と言うことと同等であり、ネイティブスピーカーがXをまれに言うため、学習者も頻繁には言わない方がよいという暗黙の了解がある。文法の説明における頻度に基づく主張は、ELT教育文法において確立されており、少なくとも20世紀前半に遡る」Burton2021

 

 ここにある指摘のポイントは、usuallyという言葉の使用に象徴されます。「ふつうは使わない」というのは、使うことがあることを意味しています。つまり、そもそも命題になっていないので、反証があっても偽とはならないわけです。

 だから、ルールはいくらでも発明できるのです。海外の教育文法書では、こういう表現の説明の仕方がスタンダードになっています。英語話者は実際には使われていることは知っているから、使わないとは断言しないのです。

 

 ところが、海外の教科書などを参考に日本に取り入れるときに、usuallyを抜くということが起こります。例えば、上に挙げた「状態動詞進行形の使用」についての日本の予備校講師の説明を紹介します。

 

  

 海外の文法書で使わていたusuallyはなく「ありえない」という説明になっています。 ところが、この説明で「ありえない」とするknowやlikeの進行形は、実際には使われています。そのことは、Ngramで検索すれば簡単にわかります。近年では英米の文法書でも使用を認め、用例も載っています。resembleも「だんだん似てくる」という意味で進行形で使うことは英米の教育文法書には載っています。

「状態動詞は進行形にできない」という不正確な"文法ルール"は20世紀に広まったものです。標準語は新興表現を「言葉の乱れ」として禁止するのです。だから、実際には使用されているということです。20世紀はともかく、近年ではだれでも簡単に実際に使われていることは調べられます。

 ところが情報更新をしない生産者はいまだに多くいて、旧い情報を拡散していくのです。予備校講師に悪意があるとは考えられないので、本当に知らないのでしょう。

 Burton2021が問題にしているのは、使用実態を反映しない不正確な"文法ルール"がこのように何の検証も受けずに拡散して定着することです。和製の文法参考書は、海外の文法書をかじってusuallyを抜いて記述してしまうために、学習者は余計に混乱することになります。

 

 [going to go to]や[is liking]が使われていることは、見た目ですぐわかります。事実を検証するのは簡単なのです。

 やっかいなのは、見た目だけでは分からない、文脈に応じた使い方です。going toの用法に関する文法説明のように「その場で使う」のかは、その最たるものです。現在、教育文法書の多くで拡散している20世紀に発明された文法説明の1つです。

 

 GIUなどEFL向けのテキストの多くは、「going toはすでに決めていて、そうする意図があること」としています。これに類した説明は、日本の文法参考書にも見られます。

 

「明らかにその場できめたことであれば、be going toではなくwillを使う」(60頁)

「be going toは、前もって考えられていた意図を表す」(60頁)

「will その場で生じた話し手の意思・意図を表す」(90頁)

            マーク・ピーターセン他『実践ロイヤル英文法』2014

 

「be going toでは、心づもりが「すでに」できあがっています。すでに決心して今はそこに向かって邁進しているのです。一方willはスイッチがポンと入って今決めています」(584頁)             大西泰斗他『一億人の英文法』2014

              

 この記述にはusuallyというような表現がありません。これを読んだ学習者は、厳密な規則と思うでしょう。実際に、単文を示されたところで、その場で決めたかどうかは分かりません。その上、その場で決めたことをgoing toを使って表す用例は、コーパスなどのデータから容易に引き出すことはできません。

 その場で決めたという状況を確定するには、前もって決めるような状況が明確に存在していないことが必須だからです。また、それがたまたま使った人が誤ったからかもしれません。テレビやラジオなどの音声データでは、そのような場合があるので、これは証拠としては信ぴょう性がありません。

 

 この点、シナリオのある作品の使用例は、検証に適しています。ただし、やはり作品によっては作り手があえてキャラを設定して、通常は使わない表現をすることはあります。一般には使用を認められないdialectやslangは教育文法に優先して載せる表現とは言えません。これをもって反証にするのは、やはり問題があるでしょう。

 もっとも安全な情報の入手先の1つは、多くの英語話者が視聴し教育的な配慮が行き届いた子供向けのコンテンツです。シリーズになっていれば、特別なキャラづけではないか、あえて誤って使わせていないか、などは十分判断できます。

 

 では、実際に世界に配信されている幼児を対象に想定したアニメ作品に使われたgoing toの用例を紹介していきます。

 

1)“Whoa, there’s even pogo sticks. Oh, boy I’m going to ride on.”

   “Huh. I’m going to take a ball. It’s easier.”

  “I’m going to do the same Benjamin on the pogo stick.”

                                                        『Simon | The Beach Club Season』

 「おや、ポゴスティックまであるぞ。よし、ぼくのるよ。」

 「じゃ、わたし、ボールにするわ。簡単よ。」

 「僕は、ベンジャミンと同じポゴスティックにする。            

 

 この用例は、子供たちがその場にある遊具に気づいて、それに乗って遊ぶという場面です。この前の状況からいうと、この遊具に乗ろうと探していたわけではなく、たまたま見つけた遊具で遊ぼうときめたのです。「前もって」ではなく「その場で決めた」ことをgoing toを使って表現しています。

 もちろん、1秒でも考えたら「前もって」なんて言いだしたらwillだって「前もって」になってしまいます。現実的な使い方としては「前もって」という言い方自体に曖昧性があります。その点「その場で決めた」というのは分かりやすいでしょう。

 

2)King“Come on. Let’s go to dinner.”

  Queen“No, no, I can’t go out like this.”

  King“I’m going to get a snack.”

    『Ben and Holly’s Little King Kingdom | What on Earth is that』

            「さあ。食事へ出かけよう。」

    「無理、無理。こんな姿で外出なんできない。」

    「軽く食べるとしよう。」

        

 王様と女王様の日常的なやりとりです。王様は、もともと食事に出かけようとしていたのです。ところが、アクシデントがあって女王に断られます。それでしかたなく、とりあえず軽く食べようと決めています。その場で決めていますが、I’m going toという表現を使っています。

 

3)Look. This red dress matches my purse perfectly. I’m gonna try it on.

「見て。この赤いドレス、わたしの財布とばっちり合うよ。試着してみよう。」

               『Max and Ruby | Max’s Dragon shirt』

 

  この用例では、まず赤い洋服を見つけます。財布に合うと思ったので、その場で試着しようと決めてI'm gonna…と言っています。もちとん、見つけてもない服を、前もって試着しようなんて決められるはずはありません。

 

4)Peppa “I did it. I did it.”

    Daddy “Well done, Peppa.”

    Mummy“Yes, you did brilliantly.”

    Peppa “I’m going to do it again.” 

               『Peppa Pig | Skateboarding』

  ペッパ 「できた。わたしできたよ。」

   パパ「よくやったね、ペッパ。」

   ママ「ほんと、やったね、すばらしい。」

  ペッパ「わたし、もう1度やる。」

                      

 ペッパが、はじめてスケートボードをやったときの場面です。やってみたら、上手く出来たので、また、やろうと決めたのです。その場で決めていますが、I’m going toという表現を使っています。

 

5)Maybe you forgot how the song went. I’m going to try to refresh its

   memory.

                                       『Kid-E-Cats | The Musical Birthday Card』

 「音の出し方を忘れすれちゃったみたい。わたしが記憶を呼び起こしてみるね。」

                        

  プレセントしようとしている音が出るバースデーカードの音が鳴らなくなった。楽器を演奏して、音を思い出させようとします。もちろん、思いがけずに音が鳴らなくなったから、その場で対応しています。事前に決めていたなんてことはありません。

 

6)(Caillou still liked it but he knew he was bigger now and it didn’t fit here.)

  Mom: “Maybe we could put it away in a special place to keep forever. ”

  Caillou: “I’m going to give it to Teddy.”

                         『Caillou and the Baby』

(Caillouはそれ(Tシャツ)をまだ気に入っていたが、自分が大きくなってもう着られないと分かった。)

「そのTシャツ、ずっと取っておける特別な場所にしまうっていうのはどうかな。」

「ぼく、それテディ―にあげる。」

 

 ナレーションにあるように、Caillouは、直前まで、小さい時に来ていた服を手放すのが惜しくて、なんとか着ようと頑張っていました。だから、前もって着られなくなった場合のことなんか考えてはいません。あきらめた様子を見た母親が提案したことを受けて、その場で決めています。

 

7)Okey then, I think I’m going to choose some of everything.

                                                          『The Berenstain Bears – Toys! 』

  「わかった、じゃあ、みんなの意見を少しずつ取り入れたものにするわ。」

                     

 この前の状況を説明すると、家族で夜食に何を食べるかを話し合っていました。このセリフは、家族3人の食べたいものを聞いた後、Mamaが何にするかを言ったものです。みんなの意見を聞く前に決めていたわけではありません。当然、その場で決めています。

                      

8)Miss Appleberry, I’m going to make Mrs. Jenkins a get well soon card.

                             Timothy Goes to School | Get Well Soon | Ep. 12』

   「アップルベリー先生、ぼく、ジェンキンス先生にお見舞いカードを書くよ。」

         

 これは、担任のジェンキンス先生が怪我で休みになり、急きょ代用教員となったアップルベリー先生からその経緯を聞いたときのティモシーの発言です。怪我で休みのことを知らないのに、前もってお見舞いカードを書くことを決めるはずはありません。その場で決めたのは明らかですが、I’m going toという表現を使っています。

 

9)Franklin “We’re going to keep him?”

  Mommy “We’ll keep him for now, but only until we find his owners,

                  Right, dear?”

  Daddy “Oh, uh, absolutely. And we’re going to look very hard for them.”

                                                             『Franklin and the Puppy』

    フランクリン「僕たちが、この子を飼うのはどう?」

      母「一時的にあずかることにしましょう。でも、この子の飼い主が見つか

                     るまでの間だけよ。いいでしょ、あなた?」

      父「んっ、あ、もちろんいいよ。でも、飼い主を探す努力はしようよ。」

                                   

 迷子になっている子犬をどうするか話している場面です。飼い主が見つからないので、フランクリンは子犬を飼いたくて両親に相談します。両親は相談を受けてから、考えて答えています。

 ニュアンスは、多少違うにしても、be going toもwillも同じく、その場での意思を表しています。母と父のセリフは、willと、be going toのどっちでも変わらないことが分かります。

 

 以上のように、現代英語では、新しく生じた事態に対して、その場で決意したときも、be going toを使うことは、ごく普通にあります。実のところ、用例を探し始める前は、頻度は低いと予測して、見つけるのは結構難しいのではと思っていたのです。しかし、探し始めると、意外にも簡単に見つけられました。

 同じ作品だと制作スタッフの偏りという懸念があるので、それぞれ別の作品から用例を採っています。どの作品にも割と頻繁に、その場で決めるときにgoing toを使っていることが分かります。逆にgoingは「前もって」決めるときには使い「その場できめたこと」には使わないというルールはどこから出てきたのか不思議なくらいです。

 ここに挙げた用例は、YouTubeで一般に配信されています。出典をしめしているので、誰でも視聴することができます。

 

 この調査をしたのは、2022年の9月ですが、それからも「willはその場で決め、going toは前もって決める」という不正確な"文法ルール"は、相も変わらず拡散しているようです。それを見るにつけて、英文法が事実を検証し、科学的根拠に基づいて記述されるようになるのはもう少し先かなと思います。

 もっとも、情報環境が変わり、このように真相を求めようという気さえあれば、だれでも簡単にアクセスできるのです。次第に真実は知られていくようになっていくでしょう。

 

 このようなgoing toの用法が普通に使われていることは、偶然気付いたわけではなく、調べる前から十分にあり得ることは予想で来ていました。現行の英文法は、科学的な考え方を十分に活用しないで、誰か思い付いて言い出した"ルール"が拡散しているものが多いのです。

 科学的な考え方とは、言葉は多様で変化するものということです。その変化の仕方には一定の法則があるので、新たな用法が生まれていく可能性が予見できます。

 

 今回取り上げたgoing toは、文法化にともなう意味の一般化と主観化という基本的な変化です。これは、かつてwillやshallなど未来を表すと言われた表現がたどってきた変化なので、同種のgoing toや未来のことを述べる進行形にも適応できる可能性は極めて高いと考えられます。

 下の表は、shall、will、be going toの意味の変遷を示しています。


 Sali Tagliamonte, Mercedes durham, Jennifer Smith『Grammaticalization at

   an early stage: Future be going to in conservative British dialects』2014

 

 will の意味の変遷を追ってみます。Old Englishでは「意思を持って行動する」というような具体的な意味を持つ語でした。英語は1500年ごろに単語の屈折という文法手段を失い、代わりに文法性を示す助動詞などの機能語が発達します。

 16世紀にwillがmodal futureという抽象的な意味を持つ機能語に変化したのは、その流れに沿っています。「意思」や「予測」といった意味がより一般化した法助動詞に変化したということです。

 17世紀のprescriptive rulesというのは、ラテン語文法に合わせて、未来時制が辞意的に作られたので、自然な言語変化ではありません。

 Modern Englishでsimple futureとなっているのは、文法化がさらに進んで「これからきっとおこること」という広い意味もしくはほぼ意味を失って、記号化したことを示しています。

 

 ちなみにshallは16世紀には、いち早くsimple futureになっています。willよりも先に文法化が進み、意味を失うのが早く進行したのです。そうして今日では、廃れつつあるということです。

 

 今日のbe going toは句として機能語化しているとみることができます。もともとは、be going toで「具体的なことが~へ向かって行く」という意味だったわけです。だから当初は、事前に事態が動いているという文脈で使われたはずです。現行英文法の説明はそれを指しています。だから「前もって」という説明になるのです。

 ところが、機能語化した語句は、一般化という現象に従って意味を広げていきます。もともとの意味から派生して、今では「意思」や「予測」を表す用法へ意味を広げています。それは法助動詞一般がたどる法則通りです。「前もって」という意味にとどまる段階はとっくに過ぎています。現行英文法はその点を見逃しているのです。

 

 going toのコアは「実際に事態が動いている」ということですが、willの後を追うように、文法化が進んでいます。それに伴って、意味が一般化し、その場で決めたことでも表せるように進化したと考えられます。これは法則通りの言語変化なので、今後willとの区別がつかない領域は増えていくのは必然でしょう。

 

「英語の未来時制における「be going to」は、文法化の典型的な例であり、少なくとも1490年以来、「will」とともに使用されてきた。ただし、20世紀末のイギリスでは、be going to がまだ導入され始めたばかりで、未来の文脈の10〜15%しか表していない方言も存在した。

 統計分析によれば、be going toの使用は世代ごとに増加しているが、場所や主流の規範に対する方向によって異なる速度で変化している。文法化が非常に具体的な統語的文脈で始まり、世代を通じてシステムに影響を与えることを確認している。

 制約条件(第一人称単数でのbe going toの抵抗や、無生物主語や遠い未来の読み方への拡張)は世代を超えて浮かび上がり、それらが後発の発展であることを示唆している。」Tagliamonte2012

 

 これらの事実からも、going toは使用が広がっていく過程にあることが確認できます。I’m going to…という用法が比較的新しい用法で、若年層から広がっています。「その場できめた意思」を表す用法は、今後広がっていくことが予測できます。

 willとgoing toは現状新旧交代という局面にあるとみなせるので、明瞭な使い分けにはならず、重なる領域ができるのです。

 

  willとbe going toの関係を集合図のようなモデルで示しておきます。

      will        be going to

 (   ●   (   )   ●   )

 

 ( ● )について、はwillのコア「強い意志」を表します。( )はその意味の広がりを表します。

( ● )について、はbe going toのコア「~へ向かって行く」を表します。( )はその意味の広がりを表します。 の部分はコアから派生した、「事実として起こる兆候がある」とか「前もって決めていたこと」というような場合です。

例文1)I’ m going to watch TV this evening.

     「今晩は、テレビを見るつもりなんだ。」

 このように前もって決めていたことを表すこと自体は、willとは意味が違います。 コアとその近くの領域では、willの意味の広がりとは重なっていないので、使い分けることができます。

 

  しかし、be going toの漂白化が進んだ結果、前もって心づもりがなくても、その場で「(これから)~するよ。」という意思を表す用法が派生し、 の部分でwillと重なるようになったのです。(集合図でいえばA∩B) だから、現代英語では、その場で決めたかどうかで使い分けることはできないのです。

 言語変化の過程にある用法は、地域や世代にバラツキあり、人によっては「言葉の乱れ」と感じるのです。文法書を書くような人は、教養あるとされる標準語を学んだ人です。だから、多数意見ではなくても、「ふつうは使わない」ということになるのです。

 

 さらに、規範文法は、「先行研究」といって、前に誰かが書いた説明に準じて記述されます。標準語は「言葉の乱れ」を嫌うので均一化を志向します。そのため、みんな同じような説明になりやすいわけです

  以下に、ESL向けの学習書GIUの記述を引用します。

 

 We use will (Well invite …) to announce a new decision. The party is a new idea.

 We use (be) going to when we have already decided to do something.

Helen had already decided to invite lots of people before she spoke to Max.

      『English Grammar In Use Intermediate 2019 5th Ed』

「新たに決めたことを表明するために(Well invite …という例のように)willを使う。例では、パーティは新たに生じた話題。

前もってすでに決めていたときには、be going toを使う。

例では、ヘレンは、マックスに話す前に、すでにたくさんの人を招待することを決めている。」

 原書を見るとわかりますが、『English Grammar In Use』は非常にわかりやすく丁寧に、使い分けを説明しています。この説明自体は「~の時には…を使う」という形式ですから、誤りとは言えません。しかし、前もって決めていないときでもgoing toを使うことはどこにも書いていないのです。だから、これを読んだ人は規則であるかのように思うでしょう。

 実際に、和製英文法の生産者は、この種の本を参考図書に挙げています。その上で、規則であるかのように記述しています。言ってしまえば、研究不足なのですが。

 

 現状の文法記述は、機能語の文法化による意味の一般化を考慮していないことが明らかです。going toと対比される「wilはその場の決意を表す」の実態を見てみましょう。

 

 I’ll~は、「~する(よ)」という言い切る感で多用されます。現れた事態に対して、その場で瞬間的に判断して、すぐに行動に移るようなときです。じっくり考える感じはなく、比較的簡単に済むようなことに使われる場合が多いと思います。例えば、次のような場合です。

 玄関のベルの音を聞いて、I’ll get it. 「わたしが出るよ。」

 ちょっとした用事が出来て、I’ll be right back soon. 

                 「すぐもどってくるから。」

 人が困っている様子を見て、I’ll help you. 「手伝うよ。」

 やり方がわからない人に、I’ll show you. 「やり方を教えてあげる。

 

 これらの表現が、いわゆる「その場で決めた」とされる用法です。実際には、決めたというより、定型表現です。だから、たいして考えないでとっさに出てくるととらえる方が実態に合うと思います。

 慣用表現は、意味の違いを考慮して選択的に使うのではありません。慣用的な表現だからgoing toに言い換える人がほぼいないのかもしれません。これらの用例では言い換えしないことを根拠にして、willとgoing toの使い分けの一般的な規則にまでに抽象化することに妥当性があるかは疑問です。

 

 I’ll というように、しばしば短縮されるのは、文法化が進み意味内容を失われつつある機能語であることを示しています。決意ならwillを短縮しないでいうのが一般的です。

 これに対して、I’m going toは「~しよう。」というようにニュアンスは少し違うかもしれません。しかし用例にあるように、I'm going toはその場で自分がやると決めたときにも、ふつうに使うのです。また、やはりgonnaという機能語の縮約減少が起きているので、今後もwillの表す領域に広がってくる可能性があることは、頭に入れておくといいと思います。

 

 実践的な会話で広範に使われている以上、I'll とI'm going toを「その場の決意云々」で使い分けることは、もはや社会的にコードされてないということです。

 言葉は、社会的なコードがあってはじめて成り立ちます。自分の言葉遣いが、ほんとに正しいのか、誰しも不安を抱えているものです。規範的文法規則を「論理にも伝統にも背く、ラテン語文法の鋳型にはめた与太話、ばけものルール」と徹底的に批判する言語学者のピンカーですら、つぎのような告白をしています。

 

「身をもってルール破りの手本を示す勇敢な人がいたとしても、読者は自分の行動の意味を理解してくれるだろうか、単に無知なやつと思われるのではなかろうか、とつねに不安でいなければならない。(告白すると、これが理由で、分離してしかるべき不定詞を分離しなかったことが何度かある)」(『言語を生み出す本能』NHKブックス)

 

 自分の判断で選べる大人はともかく、心配なのは、アニメや絵本などの良質の英語を学んだ子供たち。学校や受験産業が、実態と合わない規範的規則を、英語力を測る基準にしてしまう。まるで学んでいない大人が、しっかり学んだ子供を、規範的規則を根拠に採点し、否定する。そんなことにならなければいいのですが。

 

 今世紀に入り、今回取り上げたBurton2021のように科学的に実証しようとする人は少しづつ見られるようになってはきています。個人的な語感に頼る前近代的なルールの創作と検証をしない安易な再生産の時代は早晩終焉し、科学的な事実と論理で構築される文法記述が増えていくことを期待しています。近年の情報技術の進歩と情報の民主化はそれを可能にしているのですから。

 

 

 

【補充用例】

YouTubeより

 

Simon:"Dad, I can't sleep."

Dad:"All right. I’m gonna tell you my secret technique for falling asleep."

         ――Simon | I can't get to sleep

「お父さん、眠れないよ。」

「わかった。寝るための秘訣を教えてあげるね。」

 

"Look! A shooting star! I'm gonna make a wish."

――Mouk | A Night Full Of Shooting Stars