1815 :ビンテージ・リボンマイクのメンテナンスについて(続編)RCA-77DX | ShinさんのPA工作室 (Shin's PA workshop)

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RCA-77DX

名機を名機としてメンテナンスするには独特のワザがあります。

 

リボンマイクのメンテナンス最大の難所は張られているリボンそのもののコンデションにあります。

 

RCA-77DX(D)を例に書きますが基本的には他機種でもご参考いただけます。

 

この写真ではリボン固定台(下)にはリボンがへばり付いている。

上側はフリーになっているのでこちらをわずかたくしあげている。(竹ピンセットを用いていますが、真鍮製のほうがリボン用には向いているようです。)

 

上写真は幅1.6mmの磁極ギャップ間に1.5mm幅のコルゲーション・リボンを再取付しているところです。

磁極とのスキマは0.05mmしかないが左右の壁にはいっさい触れてはならない。

(ちなみにコピー用紙の厚みが0.2mm)、材料切り出し、成型をふくめ想像以上にミクロな世界です。

 

 

1.リボンの伸び

超極薄アルミ箔を成型したコルゲーション(ひだ)は常に元に戻ろうとする力によって経年、自然に伸びてコルゲーションを消し去る方向に形状変化します。

 

単に伸びただけなら高域が出にくくなります。

リボン固定板の上下どちらを外してリボンを分離できれば少したぐりよせて再度音色調整できる場合があります。

 

経時変化ですので磁極タッチ、微鉄粉吸着などを伴うことが多く簡単に直せることはまずないでしょう。

大抵はリボン固定台にへばり付いたまま手が付けられないと思いますが運良くそっとリボンを剥がすことができれば極端な「コルゲーション消え」がない限り、かなり良質なリボンメンテナンスができる場合があります。(引っ張ってリボンが切れたら一巻の終わりです)

ただし、仮に条件が整っていたとしても77DX(D)特有の音をご存じない限り何をもって「直った」といえるのか判断はつかないと思います。

そのベストチューニング領域はかなりピンポイントに近い狭さ、独特のラビリンス構造に起因しこの点が他のリボンマイクと少し異なります。

 

とはいえ条件さえ整えば経時によるリボンの伸びは張替えナシで直せる可能性があります。

 

双葉 なぜあの音が出る?(ラビリンス構造)

秘密はリボンの裏側、指向性切り替えシャッターとの間(連結管)を通じケース下側に隠れている「ラビリンス」(迷路)につながります、ここはハチの巣状の多数の穴に吸音材をザックリ入れた「共鳴器」と「消音器」の中間のような独特の音響構造、人でいえば「鼻腔」にあたる。

ここに響かせた音をミックスしてリボンで拾う、あのマネのできない音はここから生まれます。

 

ココが決め手であるにもかかわらず国内ではマイクロホン研究者を含め、この秘密に触れて構造をあきらかにするのをなぜか避けているように思えます。

 

 

 

「コルゲーション調整ヘラ」・・・爪楊枝を削ったもの(幅1.5mm)

 

磁極間の適正位置にリボンをおさめる、あるいはリボンのわずかな浮きの修整に用いる。

(相手は厚さ1.8ミクロン(1/550mm)のアルミ箔ですので普通の力では触っただけですぐ破断します、磁極間は0.05mmしかありませんのでこれも曲芸的なワザになるでしょう

処置後は音が変わるので、このあとモニターしながらさらにリボンの位置関係・テンション調整などを含めて納得の77サウンドを出すまで追い込みます。

 

 

2.磁極~リボン間への微鉄粉の吸着

経時変化でリボンの伸び同様に避けることの難しい問題として「微鉄粉」の問題があります。

 

リボン調整でベストポジションを探る過程でどうしても音が決まらない場合があります。

そんな場合の原因としてこの微鉄粉(砂鉄)吸着があります。

リボンは全長で振動しますが、途中にこのような異物があるとそこが「節」になって振動するため低域が出なくなります。

微鉄粉吸着部分がリボンの裏でない限りまず取り去ることは可能です。

(裏側に手を出せないのは77DXなど可変指向性または軸方向単一指向性型に限られます。)

 

この意味でも未使用時はホコリよけの布袋をかけるのが好ましいわけです。

 ポリ袋厳禁:かぶせるとき、特にはずす時の空気の強い流れによりリボンに与えるストレスは致命的となり得ます。

この為リボンマイクをポリ袋保護するのは厳禁です。

 

 

双葉 以下の写真はリボン張替えを前提とした様子です。

 

微鉄粉の付着がよく見えます

 

 

   

他の付着物を含めてまずはアルコールと爪楊枝で清掃。

必ず上か下端で楊枝の動きを止める。

 

 

   

ネオジ磁石を使い両端から何回も吸い取り最後はルーペで状態を確認する。

 

※ この応用でリボンの張られたままで微鉄粉除去できる場合がありますが、リボン裏側にもぐっているものが浮いてきてリボンにあたり、かえって重症をまねく場合があります。

リボン交換が自身でできることが前提です。

 

※音が変だ

1.低域が出ない

リボンが磁極にあたっている。磁極に吸着した微鉄粉がリボンにあたっている。指向性切り替え、 リボンの張りが強い、 リボン固定版取り付け不適正、  低域減衰SW確認、 リボン固定板に接続される極太エナメル線によって電極に無理な力がかかっている。

 

2.高域が出ない

リボンの伸び・たるみ、 防塵布が不適正

 

3.音に力がない

リボン固定版取り付けネジ締め不完全、 リボンが磁極面から浮いていると逆相成分の混入により違和感のある音になる。

 

4.低~中域を中心に特定の周波数に共鳴した違和感のある音

リボンテンション不適正、リボンよじれ・異常なたるみ

 

5.マイクを動かすと「ポツポツ」と異音が出る。

構造上軽微な症状は無視、 リボンが磁極または吸着した微鉄粉に触れている可能性あり、 コルゲーション変形の可能性あり。

 

 

 

若葉 マイナスネジはダテじゃない

RCA-77に限らず多くのリボンマイクでリボン支え電極はあえてマイナスネジを使うことが多いです。

 

リボンの導体抵抗だけでなくリボンを挟み込む電極も接触抵抗は限りなく「ゼロΩ」です。

そこではこの止めネジの「締め付け強度」が問題になります。

2mmかそれに満たない小ネジで繰り返し調整の必要なこの個所にプラスネジで同様の締め付け強度を得るのは事実上困難といえるでしょう。

 

右差し それにはこんな違いもあるからです、プラスネジでは締付強度もそこそこに頭をナメてしまうでしょう、そもそもプラスドライバーとマイナスドライバーとではネジ締めメカニズムが異なるのです。

・マイナスネジ回転締め付け

・プラスネジ  回転押しつけ締め

 

ためしにRCA-77DXで締め付け強度を変えてモニターしてみるとよくわかります。

マイナスネジで強力に締めたものはレベルが上がるだけでなく生き返ったように「ダイナミックレンジ」まで変えてくれます。

 

双葉 以上RCA-77DX(D)の場合を前提に書きましたが他機種にも通じるノウハウとなっていると思います。

 

 

若葉 ビンテージリボンマイク全般で現在、リボン張り技術がうまく継承されていません。

ぜひこの素晴らしい技術を絶やすことのないよう本気で継承していきたいと思っております。

 

半世紀前の日本人ができていたことが現在では国内メーカーすら二の足を踏み敬遠されている。

尻込みすることなく、どなたでもぜひ勇気をだしてぜひ挑戦してください。ここからきっとなにかが拓けます。

 

 

 

 

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