1808 :リボンマイク AIWA VM-15 心臓部の全修理記録 | ShinさんのPA工作室 (Shin's PA workshop)

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このたびオールドリボンマイク AIWA VM-15 (1950~1960年代)の修理をおこなう機会がありました。

これはその全記録です



   今回のAIWA VM-15

 

(はじめに)

このマイクは現在でもホールやスタジオ機材として目にすることのあるリボンマイクとして有名ですが、あるホールの音響をやっておられた私の恩人からいただきました。

 

最近ではヤフオクなどでひんぱんに見かけます。

(同一デザインのVictor  MV-104L はAIWA OEM品です)

しかしこれら経年によりコンデションの良いものに出会うことはまれになりました。

 

アセアセ ヤフオクなどのビンテージリボンマイクは値段に関係なく60年以上経過したものがマトモに動くものは皆無だと思ってください、当然ですよね。

 しかしお決まりの「当方専門知識が無く動作未確認です、現状渡しとなりますので、写真にてご判断の上NC・NRで願いします。」  の逃げ文章を隠れミノに悪質で無責任な出品が普通に行なわれています。

 また、「音声確認済み」「音出ました」も大ワナで悪質出品者は「音さえ出れば」どんな音でもいい、と考えています。

ヤフオクなどで、特にオールドリボンマイクでは「それが普通」だと思うべきです。

クレームでも付けたら 雨b で応酬されますのでやむなく 太陽 「大変良い出品者です」と泣き寝入り評価せざるを得ません、そしてまたダマシの出品、この悪い循環が普通となっています。

それでも20万のRCA 77DXを、55万の鉄仮面 639Bに入札しますか。

 

 そもそも50~70年経過したリボンマイクがノーメンテで現在なおマトモな状態で動くはずがありません、マトモだと考えるほうが異常だと断言します。

 

 

 

VM-15はリボンサイズがRCA-77D(X)と同一であり、別途中身だけ保有しているモノを私は「リボン張替え練習用」に使っています。

今回のマイクの出どころは地方のホール、「音出ず」だが蚊の鳴くような音はするさて原因はなんでしょう? 

 

 

【重要】 

リボンマイクではリボン切れを調べるためにテスターで導通をあたる事は絶対禁止という約束事があります


(これには1970年代、私自身、実際にやってみたアホな実験があります・・・VM-18及びBベロ)

・テスターをあてると「ガリッ」と音を立て、フレミングの左手の法則によりリボンは大きくふくらみ、コルゲーションを引き伸ばすように動きました。アルミ振動版ですので元に戻ることはありえず最悪は磁極からの脱落が起こりオシャカに・・・。

 

・また、「可逆作用」を期待してSPやヘッドホン出力を加えることも同様です。

この場合、「音が出た!」と喜んでいるうちに低音の振幅でコルゲーションが伸び、プツリとリボンが切れていました。

「リボンTW」の代わりにはならないことをこの時悟った、というアホな経験。

 

(当時リボン交換費用、両方で約30,000円でした、高い授業料でしたがまだアイワ、東芝ともにメーカーでのリボン張替え可能な時期でした) 

 

 

 

 

 

(診断と修理) 

 

リボンマイクの修理・調整を行うときは、いつも最悪のことを考えて手をつけ始めています。

 

1.ヘッドホンモニターするとほんのかすかに音声が聞こえています。

これによって、主な原因はリボン以外にあることを切り分けました。

 

2.リボン固定ネジがモーター部上下4箇所あり、強く締めてみました、

何も変わりません。 

 

3.リボンの固定されている上側電極からリボンとのスキマめがけて「ナノカーボンペン」で2~3回こすり、液体をリボンとそれを支える電極板に届くようにコスリ込みました。

そしてもう一度増し締め・・・何も変わりません。

 


 

4.このあとネジを緩めたり締めたりをくりかえすうちに「パッツ」と音が出ました。

「やった!」と思ったがそれはぬか喜びだった。翌日になったらまたウンともスンとも・・・


5.アルコールでリボン固定電極を拭いたりしたが何も変わらない。 

 

6.上側の電極板の片足を外して腐食具合などを確認。

 

すると、なんと分厚い酸化皮膜がビッシリと、ネジの周りは裏側が黒ずんで接触を拒んでいる。

ここはリボンマイクの心臓部、最大限の集中力で挑みます。

 

 U型マグネット 強い磁力にひっぱられたさながらマイナス精密ドライバーは磁極におもいきり張り付こうとする「磁気地獄」、微小サイズのマイナスネジ、「そりゃ1回や2回は脇にすべらせるかもしれないワ」、ではまずリボンを突き刺して失敗しますのでこの作業は無理です。


(リボンが途中でやや右にかしいでいますがこの例では一応OKです)

 

 

7.上側電極をそっと外し、極々細目のサンドペーパー(1000番以上)、私は10000番を用いた水ペーパーで黒ずみ、酸化皮膜を磨き落としました、リボンに当たる面はなるべく素手で触れないようにしましたがどうしても触れてしまいますね。

注 なおこのときリボンが外れてしまった場合、自力で戻すには訓練が必要です。

 


電極板の酸化皮膜除去、微細研磨中

(コーティングやメッキ剥がれを避けるため(水ペーパーに使用したのは#10000の耐水ペーパー)

 

8.もとの位置に戻し、ネジを仮締めした。

(リボンをはさむ相手側金属にリボンが張り付いているが決して手をふれない)

 

9.下側電極も同様におこなった。

 

 

10.音が戻ってきたため、モニターしながら上部電極を指先で下に向けて押し、微妙に変化する音色、テンションを調整。

最も感度が高く、低域まで自然に出るポイント1か所を探り当て4つのネジを本締めした。

 

(保存の上拡大してご覧ください)

 

磁極のスキマ(ギャップ)が左右平行に見えています。

スキマが凸凹に見えるのは防塵メッシュとコルゲーションの影です。

リボンを張った状態を光に透かして磁極とリボンのきわどい関係を確認します。

 

リボンが左右の磁極に触れていないことを目と音を聴いて確かめる。

(中間点でやや折れ曲がりが確認できるが、磁極タッチはナシの為このままにした。

 

これでもRCA-77D(DX)よりはこのスキマ(ギャップ)は広いです。

(リボンが磁極にあたっていると「低域が出ない」、わずかショックをくわえると「ピキピキ・グシャグシャ」と出力に異音が出たり楽器の余韻で「ビリツキ」を生じたりします。 

11.ケースなどを元に戻し再度モニターテストしました。 

 

 

葉っぱ 以下の点に特に気をつけました。
 

1.マイナスネジについて

ビンテージマイクはマイナスネジです、普段プラスネジ、プラスドライバーに慣れていますので、不慣れなマイナスネジの取扱は独特の注意が必要です。  

 

リボン取り付け部分のマイナスネジの扱いは強力マグネットに吸い付かれながら「磁気地獄」の中での作業、マイナスネジへの慣れがないとまず高い確率でリボンを突き刺し、破ります。

 

幸いShinの時代はマイナスねじが基本であった事、強磁気の中で練習をしているので問題はありません。

 

2.オリジナル部品について

ビンテージマイクの修理で特に意識しなければならないのは分解時に出てくる数々のオリジナル部品の保管、作業中の紛失防止についてです。



 

ネジひとつでも代替品のないことを肝に銘じて周囲を整理して作業にあたりました。 

 

葉っぱ かくして数10年を経過したAIWA VM-15リボンマイクは元気な姿で戻ってきました。

東芝Bベロと音声比較しながら作業を進めました。

音はBベロに良く似たリボン独特のやわらかな音です。

 

以上で修理完成しました。       

 

 

あとがき

「接触不良」とは素人に故障原因を説明するとき、ダマシの常套句として有名です。

リボンマイクではこの「接触不良」、それが本当にシビアに性能に響き、マイクの生き死をも左右します。

 

なぜならば幅1.3mm、長さ30mm足らずのリボンの直流抵抗はいくらになるでしょう?

それは1mΩ以下といわれています。

そのリボンをホールドする部分があるかぎりその接触抵抗は1mΩをさらに十分下まわるのか、そのことが問題なのです。

 

インピーダンス変換は必ずトランスでおこないますが一次側インピーダンスは0.5Ω程度が一般的です。

 

したがって一般電子回路ではあまり問題にならなかったミリΩの接触不良(接触抵抗)でも「サー」ノイズの原因としてここでは大きな問題になる凄い世界なのです。

 

リボンマイクのノウハウとしては案外知られていないのでそんな点を加えてご理解ください。 

 

 

 

(お願い)

葉っぱ リボンマイクの修理調整をやりたい、とお考えの方へ   

Shinはオールドリボンマイクのリペア技術は、国内において過去の専門技術者がすでに故人となったり高齢のためその技術が十分伝えきれなくなってしまっている状況にあることを大変危惧しています。

今わずかでも引き継ぐことのできる自分は懸命に身に付けてでも伝承しなければ消え去ってしまうと考えています。

アルミリボンのマイクロホン研究開発にあっけなく挫折し、「工業生産性」云々言い訳に腰の引けた「エセ・リボンマイク」を作って逃げている国内メーカー、更なるトランス開発にすら意欲をそそぐことなくファンタム動作AMPにすがりつく姿勢には私は賛成できません。

マイクロホンは演者の芸術活動の伴侶としての高い内容が求められますがそれらの製品はあまりにもレベルが低い。逃げ腰マイクはしょせん「代替品」、決して名機にはなり得ません、「AEA」の姿勢に学んでほしい。

日本人ならではの手先の器用さを生かし真正面からアルミリボンの本物技術を習得したい、あるいは現在この技術をお持ちで後世に伝えたい、そんなことをお考えの方、ぜひ連絡をお待ちしています

 

 

最後に

RCA-77D、77DX限定でリボン交換を含めた整備を承ります。

ただし、東京都内で手渡し可能な方のみ。

 

 

 

                                     以上

 

 

(お知らせ)
fetⅡ、fetⅡi、fet3 など、ご注文により人気機種の製作を承っておりますのでお問い合わせください (いまや貴重品、秋月のパナソニック WM-61Aとオリジナル・パーツで製作) 

 

 

 

モノ作り日本もっと元気出せ 

 

【おことわり】

★ここで公開している回路・写真・説明文などは音響家の方、アマチュアの方でハンドメイドまたは試験評価なさる場合の参考として考えております。

★製作物・加工物の性能・機能・安全性などはあくまでも製作される方の責任に帰し、当方(Shin)ではその一切を負いかねます。

★第三者に対する販売等の営利目的としてこのサイトの記事を窃用する事は堅くお断り致します。

★情報はどんどん発信していきます。ご覧いただき、アレンジも良し、パクリも結構です、Shinさん独特のこだわりと非常識を以て音響の世界を刺激してまいります。 

  
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