※ この記事は公開から13年以上経過していることにご留意ください。
2024年1月追記
(ご注意)
今回の記事では、この発案について個人的実験以外一切の窃用を硬くお断りいたします。 2010.07.10 Shin
ECMカプセルを使った「単一指向性マイク」の実現にはかなり障壁がある。
最も苦労するのはまともな「単一指向性ECMカプセル」の入手困難さでしょう。
そこで、「無指向性ECMカプセル」を使い、さらに別の切り口から可能性を追求して見たい。
前回は「ワイドカーディオイド」について実験したがやはり中途半端、今回は普通の「単一指向性」を狙った。
発想を変えなければ出来るわけもなく、悶々とする中ひらめいたのは「速度成分の取り込み方とその処理」、もはやここには常識という概念は存在しない。
結果、人の声のみをクローズアップすることが確認されたのも収穫であった。
【温故知新】
単一指向性を得る為の変わった方法として歴史的にはALTEC・ウェスタンエレクトリックの639A(B)のようにリボン型特有の双指向性と無指向性ダイナミック型とを組み合わせた「複合型可変指向性マイク」がある(下写真)
これはRCAのパテントを回避するための苦難の結果である。
苦肉の策ではあるが決して「ひょうたんから駒」などという偶然の作ではない。
WE-639A(B) 1940年(昭和15年)の広告記事より
(それにしても素晴らしい完成度です、70年前ですよ)
1945年ミズリー号の甲板上で日本が無条件降伏、マッカーサーの前に 639 が見えます
今回のマイクは
「位置関係」という機械的要素+電気仕掛けの合体で、指向性を制御しようという物。
無指向性カプセル3個を使ったこのマイクの背面感度抑圧比は、WM-65AはおろかWM-55Aをもしのぎ、120°感度抑圧比では最大26dBを得ました。
正面はせいぜい30°までで、45°以上になると、もう消え行ってしまうようなシャープな指向性能、「オヤッこれは・・・・・もしかして?」
そうです、これは「ハイパーカーディオイド(狭角度単一指向性)」ではないか。
峡角度指向性と併せ、指向性の外れた角度では逆相であるためハウリングはきわめて起こりにくい。
しっかりした指向特性と引き換えに、低域が犠牲となっているのは実験段階ではやむをえないところ、今後の課題としてご勘弁ください。
【方式】
かつて見たことも聞いたこともないこの方式は、図の通り正面音圧を受けるマイクカプセル1個。
そして速度成分を取り入れる2個のマイクカプセル及び特殊な位相反転回路により単一指向性を得る。
理論的には速度成分用マイクカプセルは1個で可能だが、今回は実験しながら2個使いとした。
M-Sステレオ方式に似ているが双指向性カプセルは使わずオール無指向性だ、
これは「圧力傾度型」単一指向性マイクに分類されるのだろうがおそらく前例はない。
【現物写真】
マイクハウジングは100円ショップの着火ライター先端部、孔はもっとあってよい
【WM-61Aで「ハイパーカーディオイド」Shinさん発案の”超”へんなマイク】
回路図
このように実装しました
こういう信じられないような構造と回路が結果を決めました。
きれいなポーラパターンを示してくれ、特に正面特性のシャープさと120°迄のキレの良さを見る限り、無指向性マイクで構成されている事はちょっと信じがたい。
速度成分取り込み用2個のマイクからの信号の扱いがおかしいのでは・・・
と思われるでしょう、図面は十分確認しておりますが間違いはありません。
ご心配ありがとう御座います、大丈夫です。
回路上のFとSとのレベル差調整およびSの位置関係でポーラパターンが決定する。
未完成ですが可能性未知数のアイテムであり、かなり大きな手ごたえを感じます。
(ご注意)非業務用のマイクアンプやオーディオI/F、格安卓など低品質のファンタム環境での動作は保障できません。
【Shinさんのつぶやき】
「魂はかたちを求め、かたちは魂を求める・・・」といわれるように、優れた工業製品は 例外なく「姿かたちが美しい」ものです。
好ましくないデザイン・好ましくないマテリアル・好ましくない仕上げに好ましくない付属品でも付ければダメ製品の完成である。
コンシュマー用国産ダイナミックマイクや中国製安コンデンサマイクを見てください。
そうすると今回の私の試作品、70年前のウェスタンエレクトリックの639A(B)とこうして見比べてみるとガッカリするほどイージーな安っぽさがイヤですね。
(Shinさんの「手作り」に対する考え方)
デザイン・性能の点で「手作りである事の一切のハンディの非容認」と、メーカーでは絶対やれない「不合理に対する挑戦」・・・これに尽きる。
すでにShinのマイクをお使い下さっているアーティストの皆様、現場の皆様の声からもそれがはっきりと伝わってきます。
(手作りだからこそ)
先日、会社を経営している友人所有の「光岡自動車」 のオリジナル車に乗せてもらう機会があった。
その完成度の高さと材質にこだわった素晴らしい作りに大いに感動、しばし放心状態となった。
工房のURL http://www.mitsuoka-motor.com/atelier/
手作りの工場にこそ限りない夢、実にあざやかで素敵、大きな共感を覚えた。
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【おことわり】
★ここで公開している回路・写真・説明文などはアマチュアの方、音響家の方でハンドメイドまたは試験評価なさる場合の参考として考えております。
★製作物・加工物の性能・機能・安全性などはあくまでも製作される方の責任に帰し、当方(Shin)ではその一切を負いかねます。
★情報はどんどん発信していきます、Shinさん独特のこだわりと非常識を以て音響の世界を刺激してまいります。
管理人(Shin)
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