ふるさと豊北の伝説と昔話、お爺さんに化けたタヌキ | 日本の歴史と日本人のルーツ

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(豊北の伝説と昔話 挿し絵)



お爺さんに化けたタヌキ


この話は幼い頃、私の祖母から聞いたものです。滝部の寺畑、当時は宇賀村の寺畑にあった昔話です。


この寺畑の西嶋家、門名は確かテントウダ (天当田)と呼んでいたと思いますが、この一家にお爺さんと父を亡くした若い兄弟が住んでいました。ところがお爺さんが今で言う心筋梗塞でぽっくり死んでしまいました。葬式がすんで十日もたった頃、夕方になると墓に亡くなったお爺さんが現われ、墓に腰をかけているという妙な噂が立つようになりました。


この噂を聞いた若い兄弟が墓にでかけたところ、お爺さんがションボリ墓に腰掛け夕空を眺めています。驚いた兄弟は「ここにいると冷えるから帰ろう」と口々に言いました。お爺さんは淋しそうに「葬式を出したのに親戚や近所の手前、帰ることはできない。帰るのは嫌だ!嫌だ!」と駄々をこねます。


「このままでは風邪を引くから」と兄が無理やり抱きかかえ、おんぶして家に連れて帰りました。家族は死んだお爺さんが戻ったと聞き、怖れて納屋に逃げてしまいました。弟は早速囲炉裏に焚木をドンドンくベ始めました。兄はお爺さんをしっかり抱きかかえ「お爺さん今すぐ暖かくなるから」と言いました。


やがて鉄瓶がシュッシュと音をたて湯気があがりました。煙でモジモジしていたお爺さんに鉄瓶の口から湯気が飛び出してかかりました。お爺さんは「ギャーギャーン」と奇声をあげた途端、体から尻尾と四つ足が現われ、大きな白毛のタヌキに変わりました。


怒った兄は「この古狸め、よくも爺さんに化けやがって!」と言うや力一杯土間にたたきつけました。古狸はキューと一声あげて死んでしまいました。このことがあってからお爺さんは墓にでなくなったということです。


(豊北の伝説と昔話 第二集)



フカの恩返し


昔むかし、この港の沖には、フカ、サメ、クジラがたくさんやってきました。その港にある小浜の丘に、おじいさんとおばあさんが仲よく暮らしていました。野や山に若葉が美しく、海にトビウオがはねる季節のことです。


ある夜、浜辺の方から苦しそうなうめき声が聞こえてきました。声は朝まで続いていたのです。おじいさんは空が白むのを待って、浜へ降りてみました。すると、血の匂いがつんと鼻をついてきました。近寄っていきますと、そこには大きなフカが腹を血まみれにして苦しんでいます。


傷口を見ますと、どうやら漁師に追いつめられて銛を打ちこまれたようでした。フカはなみだながらに助けを求めるようでした。おじいさんはおばあさんを呼びに帰り、手当ての用具をかかえて再び浜へ降りてきました。おばあさんは、「おお、かわいそうに」と、つぶやきながらフカの傷口の血をぬぐい、おじいさんがチドメグサをもんだ液を傷口にすりこんでやりました。


しばらくすると、フカは痛みがおさまったらしく、うめき声もとまり、すやすやと眠りにつきました。

そのあいだにおじいさんは、フカのえさにする魚をつりに出ていきました。


やがて目をさましたフカにえさを与えると、とてもおいしそうに食べていました。おじいさんとおばあさんは、その日から日課のようにフカの面倒をみました。フカが日に日に元気をとりもどすのがうれしくてなりませんでした。季節も梅雨にはいり、毎日雨が続きました。


ある朝、いつものようにおじいさんが浜に降りると、なぜかフカの姿が見えません。驚くやらがっかりするやらで、気が抜けたようになりました。老夫婦は思いなおし、「フカは仲間のいる海に帰ったのじゃろう。それがいい」と、言いながらあきらめました。


梅雨があがり、土用の寝苦しい夜のことでした。おじいさんの枕もとにフカの主が現われ、「このたびは、仲間のフカがたいへんお世話になりました。おかげで仲間も元気になって私どものところに帰ってきました」と、言って深ぶかと頭を下げました。


さらにことばを続け、「私たちフカが漁師に見つかると、いつも生け捕りにされるか傷を負わされます。この世で人間ほど恐ろしいものはありません。その人間の中で、このようなおじいさん、おばあさんがおられることを、はじめて知りました」言い終わるや、フカの主の姿はすうーと消えてしまいました。


まもなく、港の中がざわめき、大きな魚の大群が寄せてくるような音が聞こえてきました。音は夜明けまで続きました。浜に降りたおじいさん、おばあさんは、あっと驚きました。


沖の瀬から港の中ほどまでの泥沼がなくなって、海が深くすみきって、見違えるようになっているではありませんか。「こりゃあ不思議なことじゃ。フカの大群が一晩中かかって港や港口の泥を吸いこみ、沖に捨てたのじゃろう」と、老夫婦は話しあいました。


おじいさんは、「私たちに恩返しのお礼をしたのじゃろう。なんと感心なフカじゃ」と、言って大よろこびでした。それからのちは、磯に海草が育ちはじめ、魚もふえてきました。深くなった港には大きな船も出入りするようになりました。その後、毎年土用の季節になると、港に数頭のフカがお礼参りに入ってきたといわれています。


(豊北の伝説と昔話 第二集)



吉吾とフク汁


むかし、吉吾という、とてもとんちのよい子どもがおった。ある日のこと、浦の者が戸締めをしてフク汁を炊いていると、吉吾がさっそくにおいをかぎつけてやってきた。


そうして戸の外から、「こぼれる、こぼれる」と、さけんだ。みんなはさぞうまい物を持ってきたのであろうと思って、戸を開けてやった。みると何も食べる物を持っていない。


そこでひとりが、「吉吾、おまえはさっきなぜ『こぼれる、こぼれる』と、いったのか」と、尋ねると、吉吾は、「みんなが自分にかくれて、フク汁を食べるので、涙がこぼれる、涙がこぼれるといったのだ」というので、みんなはあきれかえってしまった。


そのうち吉吾は、フク汁を一杯だけ食べただけで急に横になった。みんなは、もしやフクの毒にあたったのではないかと、恐ろしくなって、一人減り、二人減り、だんだんいなくなった。吉吾は一人になると、ゆっくり起き上って、フク汁をみんな平らげてしまった。


(豊北の伝説と昔話 第二集)


(彦島のけしきより)