うにの文化誌、ウニの加工、下関市豊北町 | 日本の歴史と日本人のルーツ

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『ウニの加工』1

「うに」の担ぎ屋で述べた「うに」こそ、ウニの加工品として純粋無比の最高級品である、と確信している。その名は、現在も「豊浦名産磯漬粒うに」の登録商標で売っている。

鯨博士として有名な奈須敬二氏に、「ウニと日本人」という小論がある(『食の科学』誌一九九二年三月号)。その中で「しかし、近年にいたり、ウニの名産地である山口県の見島産は除き、北は利尻から南は九州まで、ほとんどのウニを賞味した。なかでも、逸品は山口県豊北町の産、生産者名を書くことが許されるならば、吉田水産の雲丹である。(後略)」と書いている。

私は先般、吉田水産を訪ねた。ちょうど好運にも近くの海からとれたばかりの、バフンウニの身の選別をしているところだった。前記の豊浦名産の品も、バフンウニの身である。見島産の品も同様、バフンウニの身である(「見島を訪ねて」に詳記)

これには、生ウニの身(ウニ生殖巣)に食塩、アルコールを加えて、びん詰めにしたいわゆる「浜詰うに」、または「磯うに」とよばれる高級品で、価格も高い。賞味期限も約一ヵ年ぐらいである。右のような高級品を製造しているうにメーカーは、山口県雲丹製造工業協同組合(昭和二十七年設立)に加入している組合員の中にもいる。

ちなみにこの組合は、うにに関するJAS規格(昭和四十五年七月、農林省ー当時―制定)よりはるかに早く、昭和三十年に自主的に検査を行っている。その検査証紙は一びんずつに貼付されている。それは「名称 磯うに。原材料 塩うに九〇%、エチルアルコール。内容量○○g。製造年月日。製造者。」といった要領で明記してある。

(うにの文化誌 藤野幸平)


『ウニの加工』2

「ウニの加工」についての参考資料、文献の主なものには、次のものがある。

一、水産大学校助教授、河内正通『ウニ塩辛の性質と食品加工への利用』(「食品工業第1巻第2号、昭和3年5月刊」)   水産大学校教授、河内正通『ウニの加工と利用―消費者の嗜好は生鮮品中心に』(「食の科学・脇年3月号、㈱光琳刊)  水産学博士川村一廣監修『うに―増養殖と加工・流通』(北海水産新聞社・平成5年10月刊)    これは前掲ので、北海道立網走水試『ウニの加工』~その他のものを参考としている。

加工した「うに製品」は、前記のJAS規格によると次のとおりである。

ウニ加工品の種類と規格

一、粒うに
ウニの生殖巣に食塩を加えたもの(以下「塩うに」という)およびこれにエチルアルコール、砂糖、澱粉、酒かす、化学調味料(以下「エチルアルコール等」という)を加えたものであって、塩うに含有率が8%以上のものをいう。

二、練りうに
塩うにまたはこれにエチルアルコール等を加えたものを練りつぶしたものであって、塩うに含有率が8%以上のものをいう。

三、混合うに
塩うににエチルアルコール等を加えたもの、またはこれを練りつぶしたものであって、塩うに含有率20%以上的%未満のものをいう。

四、うにあえもの
粒うに、練りうに、または混合うにに、クラゲ、イカ、カズノコ、アワビ、シイタケ等(以下「クラゲ等)という)を加えて混ぜ合わせたものであって、塩うに含有率5%以上のものをいう。

これに基づいて昭和五十年「うに加工品、うにあえものについて「品質表示基準」が制定された。これにより、各種ウニ加工品に適正品質表示をすることが、法により義務づけられた。

(うにの文化誌 藤野幸平)


『ウニの加工』3

「ウニの加工」についての第一人者が、私の住む下関におられることを本稿をかくまで知らなかった私は、まさに灯台下暗しであった。

前述の日の小論の存在を知り、さっそく先般、河内正通氏を水産大学校近くのお宅に訪ねた。現在は同校を退官しておられ、名誉教授、農学博士の名刺をもらった。さっそく加工についての理論と実際について教えてもらった。ちなみに同氏の学位論文は「ウニの脂質成分(エイコサジエン酸)に関する研究」であった由(九州大学)まさに同氏こそ「ウニ博士」である。

旧家の跡地に新築されたばかりの広い日本間で、時のたつのも忘れて「ウニの講義」を傾聴した。要点を摘記すると次のようである。最近、水産動物の脂質成分の生理作用が注目を浴びている。すなわち、イワシ、サバ、サンマ、マグロなどの「青物」といわれる魚。それらの油に豊富に含まれているのが、EPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)である。

これらは、生体内で特殊な生理活性を示し、人の健康保持に重要な役割を果すことがわかった。EPAには抗血栓作用があり、脳梗塞、心筋梗塞などを予防する効果がある。この脂肪酸はウニ脂質にもかなり多量に含まれている。一方、DHAはウニ脂質には含まれていないが、脳の学習能力や網膜の機能と関連しているといわれる。

楽しいひと時を過した私は、八十四という歳を忘れて、国立水産大学生になったような気がした。それと共に去年のいま頃は、脳梗塞症で入院生活をしていたことを回想した。

唐戸の魚市場に出かけて、「ウニ」「雲丹」や「青物」の魚を食べるぞ、と決意したのであった。

(うにの文化誌 藤野幸平)


『ウニの加工』4

「ウニ博士」の学位論文は、昭和五十一年(一九七六)にパスされた由であるから、それから二十年の時が流れた。

ここで右記の文献一、二、三、を中心にして、ウニの加工のアウトラインを私なりに記述してみよう。

一、粒うに
A、アルコール無添加粒うに
「ウニ」→」「殻割り」→「生殖巣の摘出」→「夾雑物除去、水洗」→「水切り」→「食塩添加、混合」 「びん詰」→「熟成」→「製品」のプロセスである。

これは全国各地で広く製造されている。原料ウニは、主としてムラサキウニ(バフンウニも混合されるのもある) 食塩の量は身の20%ぐらいである。

B、アルコール添加粒うに
右のA、のプロセスの「食塩添加、混合」の後の作業として、「アルコール」の入った「びん」に、「びん詰」をするのが「B」である。

これをウニとりの浜先で行うので、「浜詰」あるいは「磯詰」といっている。山口県の北浦沿岸のものおよび下関のものの高級品はこれである。また長崎県、北海道などで製造されるアルコール添加の品もこの中に入る。

二、練りうに
アルコール無添加練りうに  一、のA、のプロセスの「びん詰」前の工程において(加塩、脱水)これを大型容器に入れて約一週間熟成させる。これを狙板の上に少量ずつとり出して、竹べらで練って、樽または桶に入れて再び貯蔵する。それが熟成された後に(販売前)とり出して俎板にのせて、竹べらでさらに練る。それを桐箱につめる。それがいわゆる「越前うに」である。越前うには、全部バフンウニである。二十一年前に福井県を訪れ、水産課で取材し加工業者の代表格の福井市の「天たつ」にも行った。文化元年(一八〇四)の創業で、店頭には、「宮内省御用達 ,旧藩爾来松平家御用達。などの古い看板がその歴史を物語っていた。

三、うにあえもの
兵庫県、北海道、東京都、大阪府、佐賀県、三重県など、一年中安定した量の原料が入るところで生産が多かった。消費地立地型の製品であった(除、北海道)。しかし昨今グルメ志向により、粒うに、練りうにへと生産が移った。また諸外国から生鮮ウニ、冷蔵ウニの輸入がさかんとなり、生うにへと需用が変向してきた。しかし、他の食品と練り合わせたタマゴうに、ウニバター、ウニ饅頭、ウニ茶漬け、などとウニの特有の風味を生かしたものも現存している。最近「うにめし」と称して、インスタントに炊き上げる食品もマーケットに姿を見せてきた。いろいろあるが、うにの風味は味わえるようである。

(うにの文化誌 藤野幸平)


『ウニの加工』5

ちなみに前記の論文一、に関連すると思われる事例が昭和三十五年(一九六〇)五月二十日の「朝日」に出ている。

それは下関特産「下関ウニ」のとれたままの風味を味わえるウニの塩辛はつくれないものかと下関市はいま市内吉見町の農林省水産講習所に頼んで研究してもらっている。という長い一文である。その次には「同講習所は北浦産の新鮮なバフンウニ七〇%、ムラサキウニ三〇%を密封、アルコール、防腐剤などをいろいろな割合に入れて風味を損わない最上の塩辛をつくり出そうと実験を続けている。」とある。その結果については新聞には見当らないが、当局の苦心のあとが想像される。

この水産講習所は、現、水産大学校の前身である。その翌年、昭和三十六年一月三十一日付では,あすから値上げビン詰めのウニ」の見出しで、山口県雲丹製造工業協組(山崎次昭理事長=大手十二業者加入)は、原料うにの採取がのびず、特に良質の山口、長崎ものの値が上り、ビン代などの包装コストも高くなったので、ビン詰うにの一、二割値上げを公表している。

それによると「ねりうに」、大二七〇円(二三〇円)、中一五〇円(一二〇円)小一○○円(九○円)「粒うに」、大五○○円(四五〇円)、中二八〇円(二五〇円)小一八〇円(一五○円)なお、大は二百三十グラム、中は百二十グラム、小は六十五グラム。(注、内容量)とある。また未加入の業者も同調するとみられる。全国的に需要増が見込まれ、六十五グラム入りの小ビンに換算して、昨年を二割方上回る四万本以上の売り上げが見込まれている。という。その後、昭和四十四年九月二十五日の新聞によると、下関のウニ加工業者(大和産業)が初の試みとしてフランスへ二千本(びん詰。一本五十グラム入り)輸出した。それを足がかりにしてイタリヤ、ドイツ、スペインなどへもサンプルを送った(一本百円)。

ちなみにびん詰うには、国内生産の七六%を山口県のうに業界で生産している、と報じている。昭和四十八年五月の毎日新聞では、山口県産のうに(びん詰)生産量は、全国の八五%と報じている。二月三日付の新聞では「大和産業KKの生産は特級粒ウニ、粒ウニ、練ウニ、それに数の子ウニ、クラゲウニなど(中略)売行きの良いのは小売価格四百円前後の中ビン(百グラム)の粒ウニである。粒ウニがよく売れるのは、生の状態のウニの形をできるだけ保っているためで、消費者の舌を掴んでいる。

塩漬けしたウニをアルコールと攪伴するとき粒の形を損わないようにするのが製造のコツのようだ」。と報じている。以前、下関市役所からの要請で、若き日の「ウニ博士」がウニの加工についての指導、助言されたのもこの工場であったと聞いている。

(うにの文化誌 藤野幸平)

(彦島のけしきより)


参考



下関の瓶詰めウニ(参考)