参考
創業者の理想実現 別府市発祥の「ゼンリン」
ゼンリンが創業当時、事務所として使っていた建物=別府市千代町
6月に国内の全市区町村の住宅地図を完成させた地図大手ゼンリン(北九州市)は別府市で創業した。戦後、観光ガイドの出版から始まり、住宅地図発行第1号となったのも別府市だ。国内で人が住む、ほとんど全ての地域の地図を作製し終わった同社は「全国の地図を作るという創業者が掲げた理想をついに実現することができた」と話している。
ゼンリンは1948年、同市で設立された観光案内・宣伝を手掛ける観光文化宣伝社を前身とする。同社の出版部門を引き継いで49年、宇佐市出身の大迫正冨氏(80年死去)が華交観光協会を創業。名所や温泉を紹介する観光冊子「年刊別府」の出版を始めた。当時、事務所として使っていた建物は現在も市内千代町に残る。
ゼンリン広報室によると戦後、別府の地理に不案内な遠方からの湯治客が増えていたため、簡単な地図をとじ込んだところ評判になった。道案内の目印として掲載した商店に立ち寄る客が増加。地域の商店から掲載依頼が殺到したという。
「大迫は別府での出来事で地図が添え物でなく重要な情報源だと気付いた」と扇隆志室長(48)。以降、本格的に地図作りに乗り出す。地図は戦時中、軍事機密だった。「隣近所が平和でないと作れない」と、会社名も「善隣出版社(83年、ゼンリンに改称)」と改めた。
52年に第1号の別府市住宅地図を発行。62年ごろには大分市版が完成し、86年には県内全域をカバー。その後も都市部だけでなく、過疎地にも範囲を広げ今年、最後に残った東京都島しょ部の作製が終了した。
調査員が実際に街を歩き、一つ一つ建物の名称を確認するのは創業時から変わらず続く地図作製の必須作業だ。扇室長は「採算を考えれば都市部だけを作ればいいが、地図は公共的な価値が高い。人が住む状況を写し、地域の歴史を残すものでもある。これからも都市部だけでなく地方でも、地道な調査と地図の更新を続け社会に貢献したい」と力を込めた。
同社では今後、ドローン宅配や車の自動運転にもデータを役立てていく計画がある。地に足のついた仕事を残しつつ、新たなステップに踏み出そうとしている。