たとえば、印欧祖語で食べ物を表わす「pa(パー)」。ラテン語では「pater(パーテル)」(食べ物を取ってくる者、父)、ドイツ語でVater(ファーター)、英語でfather(ファーザー)と変化した。これが中国に移入され、「フー(父)」になったと考えられます。ちなみに韓国語は「アボジ」(父)。
印欧祖語で「食べさせる」を表わす「ma(マー)」は、口に入れて食べさせてくれるラテン語の「mater(マーター)」(母)になり、ドイツ語のMutter(ムター)、英語のmother(マザー)に変化した。反対の中国にやって来ると、「モー」「ムー」(母)、韓国語で「オモニ」となりました。
印欧祖語で「何?」という疑問を意味するkwa(クヮ)はラテン語でqua(クァ)、フランス語でque(ケ)、英語はwha(ホァ)(何)やquest(ケスト)(探求)になった。ラテン語で「問う」「探し求める」はquarere(クァレーレ)。これが中国に移入されて「クゥ(求)」「グゥ(求)」(求める)になったと考えられます。
印欧祖語の「フュ(feu)」は「小作料」の意だが、これが中国に移入されて「封(フゥ=現在の読み方は「フェン」)」(小作料が転じてお金を入れて閉じた封筒、さらに転じて諸侯として任命する)。君主が農民から地代を徴収する「封建制」「封建主義」という言葉も中国で生まれました。英語でも「手数料」を「fee」(小作料が転じたもの)、「封建的な」を「fudal」、「封建制」を「fudalism」、「封地」を「fief」という。
印欧祖語の「アミ(ami)」(愛)は、ラテン語だと「ami」(愛する)、フランス語では「aimer(エメ)」(愛する)、「ami(アミ)」(友達)、スペイン語は「amor(アモール)」(愛)、「amigo(アミーゴ)」(友達)。「ami」が中国に移入されて「アイ(愛)」(愛、愛する)になったと推測されます。
印欧祖語の「we(ウェ)」「wenウェン」(風が吹く)は英語だと「wind」(風)、「wing」(翼)、「window」(窓)、「weather」(天気)などになりましたが、これも中国に来て「フェ」(風)(現在は「フェン」と読む)になったと考えられます。ラテン語の「ven(ヴェン)」経由で、英語の「vent」(通気口)や「fan」(扇)などにもなりました。
「正しい」を意味する印欧祖語の「ju(ジュ)」は、中国語になって「ジェン(正、真)」。英語の関連語は「just」(もっとも正しい、丁度、まさしく)、「justice」(正義)、「adjust」(正しく合わせる)、「jurist」(法律家)、「judge」(裁く、裁判官)などがあります。
印欧祖語で「核」を意味する「ker(カーァ)」は、中国に来ても「カーァ(核)」、さらに現在の「ホーァ(核)」に変わった。kerは英語の「kernel」(核)、「core」(芯)、「cordial」(心からの)や、kがhに変わりドイツ語の「Herz」(心臓)や英語の「heart」(心臓)にもつながっています。
どうしても触れなくてはならないのが、ラテン語の「est(エスト)」(である)=フランス語の「est」「es」「suis(スィ)」、英語の「is」、ドイツ語の「ist」=と中国語の「是(スー、シー)」(である)との共通。文の中でまったく同じ位置(主語の次)で同じように使われる(後に主語と同格の補語がくる)ことから、発祥が同じであるとしか考えにくい。中国語はおそらく「エス」のエが抜けて「スー」になったものと思われます。
また、中国では「是的」(シーダ)というと「そうだ」という意味ですが、南部福建省地方では「スーダ」と発音します。これが日本に入ってきて「そうだ」という肯定の言葉になりました。
さらに、中国語で「そう」「YES」の肯定の意味がある「是」(シー)は朝鮮語で「シーハル」となり、ここから「ハ」の音が消失して日本語で「知る」となった。最初は「そうだ」という意味で「シル」を使っているうちに「知っている」という意味になったのでしょう。(注: ラテン語系のフランス語、スペイン語やイタリア語では、「yes」を「si」(シ)と言う)
印欧祖語の「gen(ゲン)」(種)は、中国に移入されて「ゲン(元)」(現在の読み方は「ユェン(元)」)。一方、欧州では、英語の「gene」(遺伝子)や「genius」(天才)、「gentle」(生まれがよい)、「genesis」(起源)などが派生しました。
印欧祖語の「セ(se)」(種まき)はラテン語になり「serere(セレーレ)」(種をまく)、英語で「sow」(種をまく)、「seed」(種)、「semen」(精子)などになりましたが、一方、中国に来て「種(シュ)」(種、植える)になったと考えられます。
印欧祖語の「サン(sank)」は「いけにえ、供物、神聖なもの」との意味。中国に移入されて「サン(餐)」(供物から転じて食事)。ラテン語では「sacer」(聖なる)、英語では「sacred」(神に捧げた、神聖な)、「sanctify」(清める、罪をはらう)、「sanction」(許可、制裁)などになった。また「sank」はラテン語の「sanctus」(聖人)になり、スペイン語・イタリア語の「san」(聖人)、英語・フランス語の「saint」(聖人)となった。英語で「sanctuary」は「聖なる場所」が転じて「鳥獣保護区域」。
印欧祖語の「カタ(cata)」(下へ)は、中国に移入されて「カー(下)」(現在の読み方は「シャー」)。これはローマの「catacomb」(カタコンベ、地下埋葬所)や英語の「catastrophe」(天から降ってくる大災害)、「catapult」(下から打ち出す投石機)などになりました。
ラテン語やイタリア語、スペイン語、ポルトガル語で「家」は「casa」(カーサ)。ペルシャ語で「カーネ」。中国に行くと「家」(カー、現在はチャー)。「k」の音が「h」に転換して古英語で「hus」(フス)、ドイツ語で「Haus」(ハウス)、英語でも「house」(ハウス)となった。ちなみにインド南部のタミール語では「ハヴス」。
② SOVの分布(参考)
アジアでは、中国語とインドシナのモンクメール語派がSVOの屈折語でヨーロッパの諸語、例えば東欧のスラブ語、西欧のラテン語、ゲルマン語などのインドヨーロッパ語族に近い。
その他は日本語と同じSOVの膠着語となっている。