「子と面会交流させないなら婚姻費用・養育費を払わない、減額する」とか言うど阿呆な男たち | 金沢の弁護士が離婚・女と男と子どもについてあれこれ話すこと

金沢の弁護士が離婚・女と男と子どもについてあれこれ話すこと

石川県金沢市在住・ごくごく普通のマチ弁(街の弁護士)が,日々の仕事の中で離婚,女と男と子どもにまつわるいろんなことを書き綴っていきます。お役立ちの法律情報はもちろんのこと,私自身の趣味に思いっきり入り込んだ記事もつらつらと書いていきます。

1.
ひさびさに婚姻費用・養育費の記事です。
これまで、このテーマは、ひたすら算定表適用上のお話ばかりでしたが、ちょっと視点を変えまして、婚姻費用・養育費の話し合いや支払いの場面でよく出てくる夫(父)側の言い分を考えたいと思います。

その言い分というのは、表題にかかげたように、子供と面会交流させないから婚姻費用・養育費を払わない、減額するという言い分です。
裏から言いますと、子供と面会交流をさせてくれたら婚姻費用・養育費を支払うという言い分になります。

2.
私はこれまで依頼者には恵まれておりまして、なぜかDV夫の依頼というのはないんです。
男性の依頼者は、本当に、よく物事の道理をわきまえたかたばかり。
弁護士的にとてもうれしいことです。

 法律相談でも事件として受任した後でも、「向こうが面会交流に応じてくれない以上は婚姻費用(養育費)を支払いをしたくないんですが。」といった相談を受けたとしますでしょう。
そういうとき、私は、こんな話をします。
 少し長いですが。

(1)
 子どもに会いたいのに会えない苦しみとか相手方の姿勢に対して怒りの感情が出てくるということ自体は人情として理解できます。
 でも、いったんは、その感情から離れて、物事を冷静に考える必要があります。
 相手方が面会交流に応じないというのは、相手方なりの理由があることでしょう。もちろん、その理由について、あなたはそれを正当なものと思っていないので子との面会交流を求めていて、それに応じない相手方の態度に我慢がならないのでしょう。
 でも、面会交流は、あなたが権利として当然に要求できるものと思ってはいけません。面会交流は、それが子の福祉に叶うものかどうかという観点から決められるもので、たとえ父親であろうとも、子をその父に会わせることが子にとって害となると考えられるなら、父が子との面会交流を求めても、裁判所は、これを否定します。
 あなたが子との面会交流を求め、相手方がそれを拒否しているということは、あなたが子と会うことが子のためになるのかどうかについて、あなたと相手方の言い分がまっこうから対立しているわけです。
 こういうとき、本当に子のことを考えるのであれば、父も母も、双方が、独自のものの見方から離れて、子のありのままをみようと努力することが大切です。口で言うのは簡単ですが、人はそれぞれ自己中心的ですし、また、子は、自分自身を守るためにそれぞれの親と良好な関係を保とうとして、複雑な心の動きで行動しますので、あなたからみた子と相手方からみた子は、全くイメージが違うことっていくらでもあるんです。それぞれに独自の視点で子をみているわけで、子は忠誠葛藤の中でそれぞれの親に迎合したりしますので、そういう表面だけをみて、子は自分になついているはずだとか、子は父を嫌っているとか簡単に決めつけることは難しい面があります。
 そういう中で、家庭裁判所では、子の状況をきちんと把握する必要があるケースでは、調査官という専門の方が家庭訪問をしたり、子の行動観察や面談などをやって、子の姿を浮き彫りにしていくんですね。
 面会交流について、本当に、父として、子のために、これを求めたいというのであれば、一般に、離婚問題の中で子がどういう状態に置かれるかを知識として知ることから始めたらいいと思います。
 そして、どういう面会交流が好ましくてどういう面会交流が好ましくないかについて、それなりに解説した本もあります。そういう本を読んで、これまでの自分の行動をチェックすることも有益でしょう。
 また、離婚問題の中で子とともに別居した母親がどういうことで思い悩んでいるか、子のことでどういう不安を抱えているかということも、それなりに解説した方がありますので、そういうのも読んでみたらいいですね。
 面会交流について、「父親だから子と会う権利がある、それなのに会わせてくれん。けしからん。」という姿勢だとしたら、それは、面会交流というものを誤解しているということになります。
 子は、物じゃないんんですから。権利の対象として、あっちいき、こっちいきさせて振り回すようなことはすべきじゃないんですね。

(2)
 さて、あなたが子と面会することが子のためになるのかどうか争いがあるわけで、現在のところ、それは、分からないわけですよ。
 もちろん、あなたは、「そんなはずない、子が自分と会うのは子のためだ」と強く言いたいでしょうが、それは、あなたの主張、あなたの思いであって、そのあなたの思いが、本当にそのとおり正しいかどうかは分からないわけです。
 少なくとも、私には分からない。裁判所にも分からない。
 分かっているのは、あなたと相手が、その点で対立しているということです。
 そういう中でですね、あなたが、「子と面会交流させないから、婚姻費用のお金を支払わない。」って言ったとするでしょう?
 これは、子のためになるのかどうかはっきりしていない子とあなたとの面会交流を、金を出す出さないという圧迫でもって、相手に受け入れさせようとする姿勢と受け止められますね。
 金を出す、出さないで相手の行動を左右しようとしているわけです。
 あなたの気持ちとしては、「それは違う、納得できないだけで、そういう考えまではない。」というのかもしれない。でもね、「相手が応じないから金を出さない、応じたら金を出す」というのは、まさにお金を出す出さないというアメとムチで相手の行動を左右しようとする効果を持っていますでしょう。
 もしね、母親が、「子を父を会わせるのはこの子のためにならない。」と考えているとするじゃないですか。または、子自身が、父と会いたくないと言い続けているとするじゃないですか。
 そうするとね、あなたが、面会交流に応じないなら金を出さないということは、相手方である母親に対して、子に対して、こう言えと言っているに等しいことですよ。

「お母さんは、おまえが父親と会うのはおまえにとってつらいことだと分かっているし、おまえも父親に会うのが嫌だというのは分かっている。でも、お父さんがね、おまえを会わせないとこれまで送金してきたお金をもう支払わないと言うの。そうなったら、おまえも私も生活が大変困るでしょう。だからね、おまえが嫌だ嫌だと思っているのは分かってるけど、そこをなんとか我慢して、お父さんがお金を送ってくれるように、おまえはお父さんと会ってきてくれるかい。」

 子を養育中の母親に、子どもに対してこういうことを言わせる行動って、それは、父親としてはやっちゃいかんでしょうね。
 お金で圧力を加えて子どもと面会交流するって、それ、子どものためじゃなくて、あなた自身の別の目的でやっていることじゃないのかって裁判所に思われかねないですよ。
 あなたが本当に面会交流を大切に考えているなら、面会交流とお金の問題を取引材料に持ち出すような発想は、自分自身でいけないことだと抑えきることです。
 もしね、あなたが、相手方や裁判所に対し、面会交流させないから婚姻費用を払わないとか減額するとか言ったとたら、相手方も裁判所も、その時点で、あなたが子と面会交流を求める姿勢の真摯さを疑い出すでしょうね。
 子のことを考える姿勢に足りないと思うでしょう。面会交流について争いがある中で、最終的に、あなたに不利に働きますね。
 それとも、あなた、まさかとは思いますけど、本当は子と面会したいというより、婚姻費用を払いたくないに主眼があって、まさか、相手が面会交流を拒否していることを格好の口実にして婚姻費用を支払わないでおきたいというのが主目的じゃないでしょうね。
 まさか、そんなことはないでしょう?
 でもね、「面会交流に応じないから婚姻費用を支払わないとか減額する」とか言い出した時点で、相手方や裁判所は、あなたの主目的は、面会交流じなくて、お金を払いたくないの方じゃないかって思うかもしれませんよ?

(3)
 こういう次第だから、面会交流と婚姻費用の問題は、完全に分けて考えることです。
 婚姻費用は、あなたが義務としてしなければいけないことです。義務として支払いをしなければいけないものは、そもそも、それを減らすとか止めるとかいう取引に使えるものじゃないんです。
 相手の行動がどうであれ、あなた自陣が、そうするのが正しいこととしてやらないといけないことなんです。
 だから、あなた自身がやるべきことは、感情として感じるものをぐっと押さえ込んで、しっかりとやり続けることです。
 
 そういう姿勢を貫いて、そして、面会交流でもね、相手が何を気にして面会交流を拒絶しているのかを、まず謙虚に聞くことですよ。面会交流をなにかで取引するような姿勢は絶対にやっちゃだめですね。
 それが正しい、正しくないは一端、置いておいて、まず聞くことです。
 先ほど言ったように、子は、あなたと相手方と、それぞれの関係の中で、それぞれ違う顔を見せているかもしれない。それ自体が、子にとってはつらい状況なんですけどね。
 あなたが思う子の姿も相手方が言う子の姿も、どちらも、それぞれに、子の姿を反映しているものかもしれない。
 そういう可能性もあると思って、まず、相手の懸念について、感情レベルでの反発を抑えて、じっくりと落ち着いて聞いて、考えてみることですよ。

3.
 当時者の方の記事を読んでますと、面会交流を認めないから、婚姻費用(養育費)を払わないとか減額するとかいう夫(父)側の言い分ってそれなりに多い。
 私の体験上も、私自身の依頼者にはありませんが、相手方からそういう言い分が出てくることはやたら多いですね。
 
 驚きなのは、そういう言い分を、その夫(父)が委任した弁護士が伝えてくるという場合です。
 とてもじゃないですが、私、そんな恥ずかしいことはできませんね。
 それをしてくれと言われたら、先の2項のような話を延々として、自分の依頼者を説得しますよ。
 それでもやってくれと言われたら、断りますね。辞任・解任レベルの話にします。
 弁護士として口にするのも恥ずかしいようなことを依頼者に言われて、「はいはい」とやるようじゃ、法律知識のあるロボットですか?と言いたくなります。

 弁護士は、依頼者の利益を実現するものですが、他方で、依頼者から独立して自由でなければいけないんです。
 よく「弁護士を雇う」という言い方がありますが、これは間違い。
 私は雇われて事件をやっているわけじゃない。
 法律的にも、雇用関係じゃなくて委任関係なんです。
 そして、ご本人の自己決定と専門職の専門性との関係の中で、ご本人の利益を本当に実現していく方法を考えていくわけです。
 心臓病にかかったとして、大学病院の医者に診てもらってですね、外科的手術が必要なケースであるとして、患者さんが、「体にメス入れるの嫌だから、なんとか内科的治療で治してくれ。私が金を出して治療のために先生を雇っているんだから、私の言うとおりにしてくれ。」なんて言う人はおらんでしょう?

4.
 調停でもね、ときおり、調停委員から、「長期的に養育費を払ってもらおうと思ったら面会交流が大事だ。子と実際に会う中で、子に対する愛情も出てきて、苦しい生活の中で、頑張ってでも養育費を払っていこうという気持ちになる。」という言葉を聞くことがあります。

 この言い方、私は、100パーセント否定はしません。
 ただ、かなりヤバイ面があるということを自覚して、こういう話をしていいケースかどうかをしっかり考えて言う必要がありますね。

 問題となっている面会交流が、子を父と会わせることが子のためになるかどうかという点で、熾烈に争われていないならいいんですよ。
 面会交流拒否にもいろいろなケースがありまして、妻(母)の方が、子とは無関係に、夫(父)へのさまざまな感情から面会交流に否定的な場合もそれなりにあります。
 そういうケースで、妻(母)に、長期的に、離婚後の、子を介した夫(父)との関係を安定化させていくための知恵の一つとして助言するなら、それはOKだと思います。

 でもね、まさに父を子に会わせるのが子のためかどうかが熾烈に争われているケースでね、調停委員が、相手方の言い分に乗っかって、婚姻費用確保、養育費確保のために面会交流における譲歩を迫るとしたら、それって、調停委員は、相手方のモラルハラスメントにのせられちゃってるってことじゃないですかね。
 そういう調停委員っていないと思いますけど。当事者の方のブログを読んでいると、一抹の不安を感じます。
 もし、相手方から、「面会交流させないなら婚姻費用(養育費)を支払わない、減額する」という言い分が出てきたら、私、調停の席では、調停委員に対し、その相手方の意図、気持ちをじっくりお聞きいただくことをお願いしたいですね。
 先の2項の理屈を念頭に置きつつ。
 
 「面会交流させないなら婚姻費用(養育費)を支払わない、減額する」という言い分が、あまり考えない感情レベルの話で出てきたもので、ゆっくりと説明されていく中で自分自身の不明を恥じてその言い分を撤回するならOKです。
 説明してもその言い分に固執し続けるなら、その時点で、その相手方については、DV加害者傾向がかなり強いタイプという見方をしてもいいと思います。
 そして、そういうDV加害者傾向が強い人が事実関係についてあれこれ話すことと妻(母)が事実関係について話すことと、どちらがまともなのか、しっかり考えてほしいなぁと思います。
 場合によってはね、「あなたがそういうことを言い続ける限り、裁判所は、あなたと子との面会交流は子の害になるのではないかという相手方の言い分の方がもっともと思うようになりますよ。」とはっきり相手方に伝えてほしいなぁと思いますね。
 実際、そうされている方も多いと思いますが。

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