文化祭当日、生徒会役員だった俺は、1コ下の大山さんと二人で、昼の焼きそば配布担当を任されていた。
大山恵さんは1年生。華奢で色白で目がクリっとした笑顔の可愛いらしい子だった。
昼12時を回ると引換券を持ったお客さんが、わんさかと訪れてなかなかの繁盛ぶり。結構てんやわんやだったけれど、それでも30分ほどで人の波は消えてゆく。
すると、大山さんが小言で「あ~お腹空いたな」と、ひとり言を呟いた。
たぶん本人はわざと俺に聞こえるように意識したわけではなかったのだろうけれど、俺の耳に入り込んで来たからにはこのセリフを言うしかあるまい!
「お客さんも落ち着いて来たし、あとは俺ひとりでも大丈夫だから、もうお昼ごはん食べて来ていいよ?」
それでもフツー、先輩からそんなふうに気を遣われたら、
「あ、いえ。あと30分、決められた時間は先輩と一緒に頑張ります!」
とでも返してくるのかと思いきや、彼女はその予想を華麗にヒラリと翻してきた!
「えっ!いいんですか?ありがとうございます!お先に失礼しま~す」
たぶん世界一、むっちゃ素直…
小走りに去って行く大山さんの後ろ姿を見送りながら、今度は俺がひとり言を呟いた。
気を取り直して、ひとり気合いを入れて焼きそば捌きをしていたところに、3年生の生徒会長が副会長たち取り巻を引き連れ、陣中見舞いにやって来た!
会長「磯野上等兵、大山二等兵の姿が見えんがどうした?」
シャ「は!軍曹殿!大山二等兵、アニサキスとやらに腹ワタをかぶりつかれた!とかで、調子が悪いと用を足しに行っております!」
会長「何ぃ~~~!?その程度の事で持ち場を勝手に離れるとは何事だ!貴様の教育不足だ!歯を食いしばれっ!」
と、大日本帝国陸軍であれば一発二発ぶん殴られていたかもしれないシチュエーションではあったが、1名減であることも、俺がひとりでアタフタと一生懸命動きまくってること等、一切気に留める様子もなく、立ち去っていった。
それはそれで、
おいおい、そこはちょっとは気に留めようや~という気分にもなった。
何はともあれ、かくして無事に文化祭が終わった。
『情けは人の為ならず』という言葉はこの後に知った言葉だったが、この一件がキッカケとなり、大山さんから俺は『優しい素敵な先輩 💕』との認識となり、いつしか二人は淡い恋心を抱く仲となり、彼女の呼び方も“大山さん” から“めーたん”に変わった。
学年も違えば、帰る方向も違い、自転車通学のめーたんに対して歩き通学の俺、特に学校内では会話するような機会もなく、俺たちの交際は、もっぱら交換ノートオンリー。
その橋渡し役として、女子卓球部のめーたんのクラスメイトたちが協力してくれていた。
俺はその後輩たちを心の中で勝手に“愛のキューピットたち”と呼んで毎日拝む気持ちで頼りにしていた。
それはそれで毎日楽しい日々ではあったが、さすがに8ヶ月もの長期間に及び、膠着状態が続いていると、何やら得体のしれない不安と恐怖が胸の中に渦巻いて来ていた。
このままではいかん!
どげんかせんと!!
そして俺は、勇気を振り絞って行動に移した!
頼む!めーたん、直接出てくれ!
頼む!めーたん、直接出てくれ!!
恐る恐る、祈る思いでめーたんの家に電話をかけた。
ちょっ!神様!
俺、親じゃなくて、めーたんが直接電話に出てくれるように頼みましたよね?
どうもこの時タイミング悪く、神様は推しのコが主演のテレビドラマに夢中で、俺の願い事など上の空だったようだ。
電話に出たのは、あろうことか…
お父さん!
超~ 緊張しまくりボンバー!
手のひらと脇の下に変な汗が滴り落ちたけど、そこは何とか冷静に、学校名と学年、そして本名、この電話の要件は、生徒会での緊急を要する伝達事項であり、決して娘さんのことを、どっかの馬の骨がいかがわしいデートへと誘おうしている迷惑電話ではないことを伝えると、すんなりめーたんに取り次いでもらえて、俺とめーたんの記念すべき初デートの日程が決まった!
ちなみに
“嘘も方便”という言葉も、この後に知った
つづく
