世間はテクノロジーの進化とツッパリ文化が絶妙に同居し、街にはチェッカーズや松田聖子の曲が流れていた時代。
俺は、人生最大のハイライトを迎えていた。なんと!めーたんと初デートの約束を取り付けたのだ!
そして決して失敗は許されないこの日のために、俺はファッション雑誌『POPEYE』を熟読し勝負服を選び抜いた。
目指すイメージは、当時のナウいヤングの最先端スタイル。
そして、俺の脳内ファッションショー最終選考を見事勝ち抜いた組合わせは下記のとおり。
〇トップス:チェックの開襟シャツ
〇ボトムス:眩しい程に真っ白な少しダボついたコットンパンツ
“パンツ” と言ってもこーいうカンジではないことくらい、わかるよね?
待ち合わせは11時。ちょっぴり早めのランチを済ませ、午後からは薬師丸ひろ子と松田優作主演の角川映画『探偵物語』を観賞。その後はお時間許す限り街並みブラブラ、ウインドウショッピング …てな具合のデートコース。
なぜ、『探偵物語』をチョイスしたのか、映画の内容はどういうものだったのか?
この時のことを思い返す時、映画を観終わった後に降り掛かった衝撃過ぎるアクシデントのインパクトが強すぎて覚えていない。
その事件は、何十年経った今もなお、人々の間で語り継がれている。
そして、人はその事件をこう呼んだ…
~緑の悲劇~
映画観賞の後、街中を少しブラついた二人は、少し喉の乾きを潤そうと、街で一番大きなデパートの最上階にある喫茶店へ入った。
デパートの喫茶店は、大人の雰囲気が漂う特別な場所だった。
初めて潜入したその特別な場所に、緊張でカチコチの俺と、少しはにかむめーたん。
二人が注文したのは、当時のデートの王道と言われていたクリームソーダ。
程なくして、鮮やかなエメラルドグリーンのソーダ水に、真っ白なバニラアイスが浮かび、真っ赤なチェリーが添えられた芸術品が二人のテーブルに運ばれてきた。
「わあ、きれい!」
はしゃぐめーたんに、俺はここぞとばかりに格好つけた。
「ふっ、まあね。ここのクリソは街で一番さ。さあ、溶けないうちに食べなよ」
ほんの少しだけ、ルパン三世を意識したかのようなキザな口調で、「他にケーキでも頼むかい?」とテーブルの片隅に立てかけてあったメニューを取ろうとした時だった!
パウチッコでラミネート加工してあるメニューの角が俺のクリソグラスに触れた…
スローモーションのように傾いてゆくクリソグラス…
そして、ガシャーン!!という派手な音。
事態はそれだけに納まってはいない。
大量の鮮緑色の液体と、ドロドロに溶けかけたバニラアイスが、俺の真っ白なズボンのお股部分目がけて直撃した!
「ひゃうん!」
一瞬、変な声まで漏れた俺。
慌てて立ち上がったものの、時すでにお寿司!
純白のズボンの中心部は、クリソを120%吸収し、見るも無惨な「濃いエメラルドグリーン」に変色。
しかもバニラアイスのせいで、なんだか怪しいシミのよう広がりを見せている。
隣の席の奥様方からは、明らかに聞こえるような小声で「あらヤダ!」
ナプキンで必死に拭けば拭くほどに、緑色の液体は白い繊維の奥深くへと浸透し、まるでお股から新芽が芽吹いたかのような大自然の芸術的グラデーションが完成していた。
ズボンは緑に染まったが、俺の頭ン中は真っ白になった。
泣き出したくなる感情を必死に堪え、昭和男のプライドをかき集め、引きつった笑顔でめーたんに言った。
「ハハハハハ……大丈夫だよ、めーたん! チェッカーズの新しい衣装みたいでナウいだろ?」
しかし、実際のところは対して大丈夫ではない!
お股は冷気でキンキンに冷え、ソーダの糖分でジトジトと粘り気、バニラアイスの甘い香りが漂うという地獄の三重奏!
しばらくして、めーたんから
「今日4時からチェッカーズのライブがテレビで放送されるんで、わたしそろそろ帰るね」
と、遠回しにデート終了の合図を言い渡された。
それを引き止める余力も気力も、既に俺には残っておらず、
「フミヤにヨロシクね!」
と、彼女の後ろ姿を見送った。
俺は、デパートの紙袋を股間に充てがい、コソコソと家路についた。
家に帰るや否や、母親に「あんた!何やってんの汚いわねーッ!」と激怒されたが、初デートでめーたんの前でやらかしちまったドンヨリドヨヨヨ~ンとした放心状態の俺には、さほど響はしなかった。
その後母親は、洗濯板でゴシゴシ洗いを試みてはくれたものの、クリソの緑色は頑固で元の白さには戻らなかった。
そして、クリソのせいで戻らなかったものがもう一つ…
めーたんの、俺への愛情。
めーたんとのオデェ~トは、これが最初で最後となった。

