長期出張が終わり、新幹線で帰宅の途についていたときのこと、三人座席の窓際をキープしていた俺の隣の隣の通路側の席に、サラリーマン風の男が座った。
なんだかスーツを着ているわりにはチャラそうな兄ちゃんだった。
仕事からの開放感から、既に駅で一杯ひっかけてチョッピリいい気分だった俺は、シートを倒してウトウトしていた。
しばらくすると列車は新横浜駅に停車したようだった。
デッキから車内にザワザワと新たな乗客が入ってきた気配を感じながらも、俺はタヌキ寝入りを続けていた。
すると、隣の隣の席に座っていたチャラい兄ちゃんらしき声が聞こえて来た。
「あ、俺そこの空いてる席に移動しますんで、よかったらここ座って下さい」
そして、俺の隣の真ん中の席には幼稚園くらいのわんぱく盛りな男の子、チャラい兄ちゃんが座っていたその席には、その子の母親らしき若い女性が座った。
チャラい兄ちゃ……いや、心優しきその好青年は、母子二人で一緒に座れる席を探していたこの親子に、自らが席を移動して譲ってあげたのだ。
母親は青年に対し何度も「すみません、ありがとうございます!助かります」とお礼の言葉を繰り返していた。
俺は、タヌキ寝入りを続行しながらも 『あぁ、この国もまだまだ捨てたモンじゃないなぁ』 なんて、この好青年の美しき行いに、たいそう心を打たれ、『チャラそうな兄ちゃん』呼ばわりしてしまった非礼を心の中で何度も詫びた。
若いのに、彼は誰もが認める立派な社会人だ!
数分後、列車が走り出すと隣のわんぱく盛りな男の子が、俺の右耳の近くで興奮気味にしゃべくり始めた!
「わーい!うごいたー!ママ~ あれな~にぃ?」
ママは、その質問には答えずに小声でこう言い聞かせていた。
「シーーっっ!隣のおじちゃん起きちゃうでしょ!」
この母子のやり取りを聞いてまで、このままタヌキ寝入りを続けていたのでは、先ほどのご立派な好青年に対し申し訳が立たない。
そう、いよいよ機が熟して俺の出番が来たのだ!
俺はすぐに起きて
「あぁ、ボクごめんね。良かったらちゃんと見える窓際に来るかい?」
と席を譲り、俺は通路側に身をひいた。
母「ご親切にすみません」
俺「いえいえ。ごくごく当然のことをしたまでです。礼には及びません」
母「どちらまでですか?」
俺「名古屋です」
母「あら!偶然ですね!私たちも名古屋に観光で…」
俺「それは偶然ですね!ご主人とは名古屋で待ち合わせですか?」
母「… 実は、お恥ずかしながらうち、母子家庭なんです」
俺「それは知らなかったとはいえ、失礼なこと聞いてしまいました。あの~よかったら私が観光案内いたしましょうか?」
母「え?いいんですか!それは嬉しいです♡ あ、でもわたし、何もお礼できないなぁ~」
俺「奥さん … 💓」
な~んて展開にはならず、
母親は俺に軽くお礼だけ告げると、あとは『どうか、話しかけてくれませぬように…』と言わんばかりに、終始俺に背を向けて、子供と一緒に車窓の流れる景色を楽しんでいた。
俺の横の通路を通り過ぎる、どっかの知らない人がこちらを見たら、『なんだか、仲の悪そうな夫婦だな…』とでも思われちゃうんだろうけど、
隣の奥様、赤の他人ですから!www
