《これまでのお話》
この本を読んでみて、正直なところ、頭の中が?マークでいっぱいになりました。
井上内親王を陥れたのは、藤原百川ほかの藤原式家だという説がありますが、
この本を読んで私が感じたのは、この人たち、陰謀を企てられるほど頭は良くない
ということでした。陰謀にしては一つ一つが場当たり的で、一貫性がなさすぎます。
藤原氏は、井上内親王事件の実行犯ではあったと思います。
けれど、藤原氏以外に、皇統に渡来の血筋を入れようとした真の黒幕がいたと
感じられて仕方がありませんでした。
下世話に考えると、桓武天皇が皇位につくにあたり、渡来人から藤原氏に裏金が
流れていたんじゃないか? と勘ぐりたくなります。人が行動を起こすには、
それなりの動機が必要です。そして、危ない橋を渡るとなれば、なおのこと、
それなりの見返りを要求することもあり得ます。
この時代に、金銭的なやり取りに基づき、藤原氏が行動を起こしたということも
本当にあったかもしれません。でも、実際は、見えない力が真の黒幕であり、
藤原氏はそれに動かされていたにすぎないのではないかという気がしました。
井上内親王事件の前にも、様々な事件が起きています。
729年 長屋王の変 → 長屋王一族が自害
740年 藤原広嗣の乱 → 以降5年間、聖武天皇が行幸や遷都を繰り返し、挙動不審
744年 安積皇子(井上内親王の弟)没。暗殺説あり
757年 橘奈良麻呂の変 → 黄文王・道祖王が処刑され、安宿王は流罪になる
764年 恵美押勝の乱 → 淳仁天皇廃される。塩焼王も犠牲になる
これらの事件によって、皇位に近い人たちが消えて行きました。これらの事件は、
藤原氏が関与したと思われるものもあれば、そうではなさそうなものもあります。
白壁王(光仁天皇)が即位したのも、こうやって皇位に近い人たちが亡くなり、
選択肢が少なくなっていたためでしょう。
本では、このことを
「藤原氏が娘を介して婚姻関係を結ぼうとするにも、その相手となる天武系の
血を引く有力な皇子は枯渇している現状だった」
と書いています。
光仁天皇の即位後、井上内親王と光仁天皇の皇子である他戸親王が皇太子と
なりましたが、井上内親王の呪詛の罪に連座して、廃皇太子となります。
そして、後に桓武天皇となる山部親王が皇太子となります。
これについては、藤原氏が、当時11歳だった他戸親王が若すぎて、娘を嫁がせて
子をもうけるまでに時間がかかりすぎ、そこまでは待てなかったと書いています。
けれど、果たしてそうなのか、疑問です。
11歳と言えば、元服まで2,3年、井上内親王も聖武天皇が17歳の時の子ですから、
5年も待てば後継者が生まれる可能性は十分あります。若い他戸親王の方が、
アラフォーの山部親王(当時37歳)よりも、後々のことも考えたら、皇太子として
よかったのではないかという気すらします。廃后、廃太子してでも、山部親王を
皇太子にしたかった理由は、年齢の問題ではないように感じました。
このように、山部親王擁立を藤原氏の外戚関係の陰謀という視点で見ると、どうも
辻褄が合いません。それもあって、藤原氏とは別に黒幕がいたように感じました。
この本を読んでいる間、寝ている間に不思議な夢を見ているように感じたことが
数回ありました。実際は眠っているはずなのに、頭はずっと起きていて、誰だかは
よくわからない人と対話し続けている夢でした。内容は、全く思い出せません。
本を読んで一連の流れを見ていく中で感じたことと、夢の中の対話から感じたことは、
見えない力が桓武天皇の即位を助けたのではないかということでした。
そして、その見えない力は、奈良時代よりももっと古い時代からあったように感じました。