2006年1月5日

「偽」という言葉を読み解く

目 次

序 章 このレジュメに至った契機 ~朝日新聞社説より~

第一章 市場原理がもたらす効率性が破壊したものとは

第二章 金融業界がもつ「公共性」の欠落

     ① 三井住友銀行 ~金利スワップ~

     ② 明治安田生命 ~保険金不払い~

結 論

序 章

師走ももう終わりという頃にたまには日経以外の記事を見てみようということで朝日新聞に目を通した。社説には朝日らしい記事が書かれており強く胸を打たれた。まずはその記事を紹介したい。その見出しは「企業不祥事 『職業人』の倫理を磨こう」というものであった。ここでは核心部分だけ抜粋する。

多くの企業事件の背後には、「定時運転」や「もうけ」といった効率性や経済性に目を奪われた経営姿勢がちらつく。働く人々から倫理観を奪い、あるいは発揮する機会を与えない空気が企業社会に充満してはいないか。

 上場企業は投資家向けの情報提供に力を入れるようになり、業績の報告に余念がない。もっと利益を、という株主の厳しい要求に応えようとする経営姿勢が見て取れる。

 その一例がJR西日本だ。事故の直前に出した中期目標では、08年度の数値目標に「株主資本純利益率」など、資金を効率よく使って利益を上げるほど高くなる指標を並べていた。

 欧米に比べてないがしろにされていた株主の権利が、日本でも重視されるようになった。ともすれば独善に走りがちな経営陣が株主の監視の目にさらされることは歓迎していい。

 とはいえ、経営者が製品やサービスの質よりも、株価や利益率といった目先の数字にこだわり過ぎれば、安全にかかわる投資や出費を無用なコストと受け止めても不思議ではない。[1]  というものであった。

第一章 市場原理がもたらす効率性が破壊したものとは

社説を解釈すると、市場原理があらゆるところで浸透し、企業は絶えず市場からの厳しい目に晒されることとなった。市場原理が働くと企業にとって大事なものは「数字」である。いかに業務の効率化を図り、数字に反映されない無駄なものを排除し収益につなげるか。結果として効率性向上が至上命題化する。このおかげで大企業を中心にV字回復を達成し日経平均も1万6千円台にのせた。

しかしこの効率重視という薬は重大な副作用をもたらした。上記で記されている通り、働く人々から倫理観を奪い去ったのである。JR西日本は株主からの厳しい目に応えるために株主が要求する利益をたたき出さなければならない。そのために何をすればよいか。競合する阪急電鉄から少しでも多くの顧客を奪うために過密なまでの運転スケジュールを組み、定時運転を強行する「もうけ第一主義」に邁進した。経営効率を限界まで高めて株主の期待にこたえる必要があったのである。そうでなければ経営陣は常に退陣を求められるためである。

 しかし払った代償はあまりに大きすぎた。福知山線の事故である。現場で働く運転士は会社が要求する仕事に応えるため「無理」を強いられた。経営効率重視の会社の姿勢を貫く限り、このような事故は彼が起こさずとも遅かれ早かれ起こっていたことであろう。

 このような現象は運輸業界には多く散らばっている。東京・大阪間を移動する手段として新幹線以外に高速バスという手段が存在する。高速バスのメリットは安さだ。相場では7800円ほどというのが業界の標準価格であったが、

最近では東京-大阪間が従来の半額あまり(3900円)というものもあるそうだ。

乗客の多くは学生などの若者や外国人が目立つ。市場原理が働けば、より運賃が下がる。一般的には理にかなった理想的なことである。しかしそこには福知山線脱線事故同様の重大な問題が潜んでいた。安全性の欠落である。

格安バスで働く運転手は東京-大阪間を行ったりきたりするのだが十分な休息を得ないまま次の運行にでるのだ。

たいていのバス会社では次の運行にでるまでに運転手にホテルなどを手配し休ませてからバスに乗せるのだが、この激安バスの運転手にはホテルも手配もされないし、休息も数時間の仮眠でしかない。つまり、ろくに休息も取らないまま次の運行に出ているのだ。

会社からの過剰なまでの要求。私にはJR西日本とダブってみえる。効率・収益性を重視するあまり、安全性は二の次とされる。

 結局消費者は市場原理が行き渡った社会では「安全性」という項目まで逐一チェックをしなければならなくなったということである。「自己責任」の時代なのである。

第二章 金融業界がもつ「公共性」の欠落

①三井住友銀行 ~金利スワップ~

三井住友銀行が融資元という優越的地位を利用して中小企業に金利スワップと呼ばれる金融派生商品購入を強要したとして、公正取引委員会は二日、独禁法違反(不公正な取引方法)で同行にこうした行為をやめるよう排除勧告した。三井住友銀は公取委の指摘を応諾する方針で、第三者による調査委員会を設置し、ほかにも同様な取引がなかったかどうか内部調査して、再発防止を図る。

 大手銀行に対する勧告は、取引企業に一方的に役員を送り込んだ日本興業銀行(昭和二十八年)、三菱銀行(三十二年)以来三件目で、ほぼ半世紀ぶり。

 三井住友銀は、他の金融機関から借り入れが困難な中小企業などの顧客に対して、金利スワップの購入が融資条件であることや、購入しなければ融資に不利な取り扱いをすることを明示、または示唆していた。

 公取委はこうした「優越的地位の濫用(らんよう)」にあたる違反行為が四件あったと指摘。このほか、融資期間より長い期間のスワップを購入させられ、返済後も金利返済を迫られる例も判明している。公取委はこのため、金利スワップの取り扱いに関する内部規定の整備などを勧告した。

 公取委が立ち入り検査を行わず、任意で審査に乗り出し、排除勧告にまで至るケースは極めて異例という。[2]

 

少し難しいが解釈すると、金利スワップという金融商品を中小企業を中心に銀行という優越的な地位を利用し購入を強制したということである。

 金利スワップという金融商品について詳しく言及するつもりはないが、この商品自体何も悪の商品ではない。むしろ企業が望むまたはニーズがあればお奨めできる商品である。問題は三井住友銀行が企業にニーズまた潜在ニーズがないのに拘らず購入を強制したことである。

 三井住友銀行は公的資金が注入されて以来、営業力強化に努めてきた。少しでも株価を上げるために短期の収益を重視せざるをえない外部環境もこの問題に影響した。金利スワップという商品は長期にわたって効力を発する金融商品であるが、特異な商品特性から短期収益に直結する。売れば売るほど短期収益が潤うのである。

 銀行業界でも株主価値向上のため短期収益目当ての姿勢が現れていた。

② 明治安田生命 ~保険金不払い~

金融庁、明治安田に業務停止命令・新規業務を無期限停止

 金融庁は28日、明治安田生命保険に対し、今年に入って2度目となる業務停止命令を同日付で出したと発表した。新規の保険契約や募集を11月4日から2週間禁止するとともに、同日から新規業務を無期限停止する。同庁の検査で、不適切な保険金不払いが多数あることが分かったほか、内部管理体制が未整備で不適切な保険金不払いが生じる構造的な原因があることが分かったため。金融庁は、業務改善命令も出し、経営体制の整備や責任の明確化などを求めた。
 金融庁によると、明治安田生命は死差益(低死亡率で得られる利益)の拡大に目標額を設定し、担当部門が保険金の支払い抑制目標を作っていたほか、不適切な内容の顧客対応マニュアルを作成して営業拠点に配布していた。金融庁は「不払い優先の風土が醸成された」として、厳しい行政処分にあたると判断した。
 また、明治安田生命の子会社である明治安田生命保険代理社に対しても、11月4日から半年間、すべての業務を停止する業務停止命令を出した。[3]

 この問題は生命保険という「煩雑な金融商品」と「無知に近い顧客」がキーワードである。生命保険の契約書は見たことがある人は分かると思うがすべてを理解するのには容易ではない。いや不可能である。

 日本の生命保険会社は生保レディーと呼ばれる外向員を中心に販売される。生保販売にあたっては見込客に対して数回に渡って訪問し顧客ニーズを汲み取り契約につなげる。当然保険に素人である顧客は十分な知識を持っているわけでなく、契約内容を誤解することは多々ある。これは明治安田生命に限ったことではなく他の生保会社にもおこりうる問題なのである。しかし明治安田生命は意図的に契約内容を顧客に誤解させたことが問題なのである。契約時には調子の良い言葉を並べ、いざ契約履行となると「それは契約内容に含まれていません。よく契約内容をお確かめ下さい」と返答する。契約書を隅々まで見渡すと確かに契約に含まれていない。契約時に顧客が錯覚していたということになる。

結 論

何をするにしても自己責任。他人が言うことは信用してはならないということが私なりに解釈した「市場原理主義」という言葉を読み取る上でのキーワードだろうか。騙されないためにはすべてを疑いぬく。その上で判断する。姉歯元一級建築士による耐震構造偽造書問題もこれに繋がるだろう。我々はマンションを買う上で構造書まで見て「安全性」を確認しなければならないのだろうか?

昨年をあらわす漢字一文字は「愛」であった。愛子様。愛・地球博。しかし私の一言は「偽」であった。これは昨年だけを表す言葉なら何よりなのだが・・・

 



[1]  朝日新聞社説 朝刊  12月31日

[2] 産経新聞 朝刊 2005年12月3日

[3] 日本経済新聞2005年10月29日朝刊