池波正太郎の「剣客商売」をたしなむ~剣客商売・名脇役の巻~ | 池波正太郎・三大シリーズをたしなむ

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小説家・池波正太郎の代表作「剣客商売」「鬼平犯科帳」「仕掛人・藤枝梅安」(三大シリーズ)の原作の解説や見どころを紹介しています。
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池波正太郎の「剣客商売」をたしなむ~剣客商売・名脇役の巻~

 
皆さん、こんにちは。管理人の佐藤有です。
 
さて、これまでの剣客商売・おさらい企画では、主人公・秋山親子と彼らを支える妻たちを紹介してきましたが、今回は、剣客商売と秋山親子には欠かせない名脇役たちを紹介していきます。
 

剣客商売・名脇役を知る

弥七
四谷・伝馬町の御用聞きで、与力・大沢主水直属の町奉行所同心・永山精之助(後に堀小四郎)の手の者であり、劇中では四谷の弥七で通っています。御用聞きとは、「岡っ引き」とも呼ばれ、町奉行所や火付盗賊改方の警察機能を持った末端の者を指し、江戸の治安維持のために同心が私的に雇った人々です。
 
御用聞きは、奉行所の非構成員のため、自分が付く同心から手札と呼ばれる小遣いが支給される程度でした。そのため、実際に御用聞きを専業とすることは難しく、弥七の場合は、妻・おみねが営む料理屋「武蔵屋」の2足のわらじで生計を立てています。
 
一方、秋山小兵衛とは、四谷道場時代に弥七が稽古に通っていた関係から長い付き合いがあり、劇中では小兵衛や大治郎の依頼で、情報収集や、時には悪役の捕縛も担います。
 

徳次郎

四谷の弥七の下っ引きで、劇中では弥七の部下として働いています。御用聞きやその部下の中には、奉行所の威光を笠に着て、悪事を働く者がいるものの、徳次郎も妻・おせきと共に傘屋で生計を立てており、「傘屋の徳次郎(傘徳)」と呼ばれています。
 
妻・おせきは、新宿の宿場女郎であり、後に弥七の尽力によって夫婦になれた経緯から、弥七に対して並みならぬ忠誠心を持っています。そのため、傘屋の商いはおせきに任せっきりで、弥七の下で身を粉にして働いています。
 

不二楼

浅草橋場の料亭「不二楼」は、与兵衛・およしの亭主夫婦が営む小兵衛行きつけのお店です。不二楼は、一般客用の座敷と、格式高くしつらえた蘭の間、離れで構成されています。
 
剣客商売では、秋山親子が食事に利用したり、妖怪小雨坊によって鐘ヶ淵の邸宅を全焼した際には、与兵衛のすすめで新居が落成するまでの間、離れを小兵衛夫妻の仮住まいとして貸し出したり、大工・富治郎を紹介しました。
 
蘭の間は、悪役の密会の場?
「蘭の間」の名前の由来は、絵師・井上某が襖へ蘭を描いたことから命名され、剣客商売では1巻・芸者変転、3巻・不二楼・蘭の間の回にて、不二楼の客人でもある悪役たちの密会が行われています。しかし、偶然、内部の話を聞いてしまった従業員や小兵衛によって、彼らの悪事は、未然に塞がれています。
 
不二楼亭主は恐妻家?
不二楼の女将・およしは、新橋加賀町の料理茶屋「梅松屋政五郎」の娘であり、その規模は不二楼より大きいとされています。与兵衛とお由の結婚当時、不二楼は四百両(約2000万円)近くの借金を抱えており、およしの輿入れを機に、不二楼の借金の清算を梅松屋に助けてもらった過去がありました。
 
そのような経緯から、与兵衛は、妻・およしに頭が上がらず、女房の目を盗んだ隠れ遊びは、同業者の間でも評判でした。しかし、この隠れ遊びが原因で、与兵衛は窮地に立たされてしまったことがありました(2巻・赤い富士)
 
しかし、意を決して小兵衛に打ち明けたことで、与兵衛は難を逃れることが出来ましたが、お気に入りの赤い富士の掛け軸が小兵衛の元に渡る代償を被りました。
 

元長

浅草・駒形堂裏にある小さな小料理屋で、亭主夫妻は、不二楼の板前・長治小兵衛付きの座敷女中・おもとです。お店の名前の由来は、夫妻の名前からとられ、当時は小料理屋という名称が無かったことから、小兵衛によって、「酒飯・元長」と命名されました。
 
不二楼では、従業員同士の恋愛に対して厳しい姿勢を取っており、お互いに惹かれ合う長治・おもとは、亭主夫婦の目を盗みながら、愛を育んでいました。そして、2人のあいびき場所として蘭の間が使用され、思わぬ事件を耳にしました(1巻・芸者変転)。後に亭主夫妻に2人の仲を認められたことを機に、小兵衛の世話で結婚・独立を果たします。
 
元長も、剣客商売には欠かせない場所であり、事件の際には秋山親子から協力を依頼されています。
 
又六
洲崎弁天社のそばで辻売りの鰻屋を営んでおり、年齢は大治郎と同じくらいと言われています。2巻・悪い虫で初登場し、四年間、酒を飲まずに貯めた金五両で、大治郎に剣術指南を願い出ます。その理由は、土地では無頼者として通っている腹違いの兄・大首の仁助とその一味に馬鹿にされたくないというもので、10日間の特訓に励みます。
 
又六の特訓には、小兵衛も加わり、時には叱責を浴びせながらも、彼の度胸の大きさに関心を寄せていました。その後、辻売りで再び仁助対峙した際には、もろ肌を脱ぎ捨てて刀傷を見せつけ、仁助一味を撤退させました。その様子は、対岸の茶店で休む秋山親子も見ており、又六の成長を見届けました。
 
その後は、深川の漁師から仕入れた魚介類売りもはじめたことで、暮らし向きも良くなり、平井新田のあばら屋から深川島田町の裏長屋へ転居しました。長屋では、老母・おみねと2人暮らしで、剣客商売では、事件に深く関わる人物が又六の長屋の隣に引っ越すことがあり、又六や彼の母親の話を元に、事件を解決に導いています(4巻・鰻坊主、5巻・手裏剣お秀を参照)
 
小川宗哲
本所亀沢町に住む江戸で評判の町医者であり、昼夜問わず秋山親子が連れてきた怪我人・病人の治療を快く引き受けています。また、大の囲碁好きであり、小兵衛とはあたりが暗くなるまで対局を楽しむ、良き碁がたきです。
 
若い頃、肥前・長崎に約2年滞在し、異国伝来の医術を研究後、諸国を巡っていました。その間に、村岡道歩を弟子に迎えており、道歩の娘婿で後に2代目村岡道歩を名乗る内田久太郎は、小兵衛の最期を看取ることを約束されており、秋山小兵衛とは、孫弟子の代まで不思議な縁で繋がっています。
 
本編では、身分の上下やお金の有無にかかわらず、分け隔てなく診察・治療を施す名医ですが、壮年期には、酒や博奕・女・金で荒れていた以外な過去も持ち合わせています。
 
お金にまつわる苦労も経験してきたであろう小川宗哲先生の名言は、200年以上たった現代でも通じるでしょう。
 
「どうも近ごろは、万事が贅沢になり、金また金の世の中になってしもうたが、そのくせ、人の暮らしに余裕が無うなったようじゃ」
 
飯田粂太郎
秋山大治郎の一番弟子で、1巻・御老中毒殺の回で初登場した、剣客商売に欠かせない若手剣士です。登場回数は、他の脇役に比べて少ないものの、小兵衛が不在の時には、鐘ヶ淵のおはるの警護を任されたり、大治郎道場に入門後は、三冬も関心するほど、たくましい成長を見せています。
 
粂太郎の呼称
初登場時の粂太郎の年齢は15歳であったため、剣客商売では「飯田粂太郎少年」と表記され、大治郎など親しい人物たちからは、「粂太郎」と呼ばれています。そして、成人を迎えてからは、「飯田粂太郎」に変更され、成人前と後の区別がなされています。
 
父親が犯した罪
粂太郎の父・飯田平助は、老中・田沼意次屋敷の御膳番であり、主君が口にする素材の毒味を確かめる役目を担う下級武士でした。ある日、大金と毒薬の入った包みを三冬に拾われたことで、平助による田沼老中の毒殺計画が判明します。しかし、平助は、田沼家に仕える前は、一橋家に奉公しており、平助の毒薬は、田沼意次の台頭を快く思わない、一橋家による差し金と推測されました。
 
一方、平助による毒殺は、田沼老中の耳にも入るも、その経緯を察する老中は、何事もなかったように平助をそのまま仕えさせようと考えます。しかし、罪の意識に耐えきれなくなった平助は自ら命を断ち、彼の死の真相は、平助の家族にすら知らされず、田沼家では平助の死は謎とされました。
 
その後、田沼老中の意向により、平助の遺児・飯田粂太郎少年が成人した暁には、彼を田沼家の家来として迎え入れることを明かしており、粂太郎も父の死をきっかけに、剣術に打ち込むようになります。
 

剣客商売~名脇役の巻~まとめ

秋山親子の剣客商売は、己の剣の実力だけでなく、今回紹介した名脇役たちの手助けも欠かせず、秋山親子との交流を通じて、和やかな雰囲気を与えています。
 
次回からは、剣客商売のあらすじネタバレの紹介に戻り、新婚まもなく、大坂・柳嘉右衛門の道場へ向かうこととなった秋山大治郎の道中を描いた第6巻・「川越中納言」です。
 
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございましたほっこり