池波正太郎の「剣客商売」をたしなむ~川越中納言の巻~ | 池波正太郎・三大シリーズをたしなむ

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小説家・池波正太郎の代表作「剣客商売」「鬼平犯科帳」「仕掛人・藤枝梅安」(三大シリーズ)の原作の解説や見どころを紹介しています。
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池波正太郎の「剣客商売」をたしなむ~川越中納言の巻~

 
みなさん、こんにちは。管理人の佐藤有です。
 
さて、本日から「剣客商売」のあらすじ紹介を再開していきます。
 
今回紹介する「川越中納言」は、10年前に、秋山小兵衛の四谷道場時代を出て行った門弟の消息と、刃を交えながらの再会を描いた剣客商売・第6巻収録の短編です。
 

剣客商売・川越中納言あらすじネタバレ

あらすじ1)
秋山小兵衛の息子・大治郎と、老中・田沼意次の娘・三冬の結婚から間もない頃、大治郎の道場へある知らせが届けられました。
 
手紙の主は、大坂町奉行所の同心・菊村三吾であり、大坂天満に道場を構える柳嘉右衛門の急死が書かれていました。柳嘉右衛門は、大治郎が諸国を巡っていた頃に度々滞留した道場の主で、菊村は嘉右衛門の弟子であり、大治郎と面識がありました。
 
そこで、大治郎は急きょ、大坂へ向かうことを決め、翌朝、高輪の七軒茶屋で妻・三冬、小兵衛、弥七に見送られながら江戸を離れました。
 
その後、3人は休み茶屋「亀屋」で飲食を楽しみ、その帰りに奇妙な男を見かけます。その男は、町医者の朝帰りのような出で立ちであるが、刀の大小を腰にさし、品の良い顔立ちと優雅な足取りをしていました。小兵衛は、この男に見覚えがあるようで、弥七に彼を尾行させ、その日は、三冬を伴って鐘ヶ淵に戻りました。
 
結婚を機に、家事にいそしむ三冬は、何もかもが初めてのことばかりで、最初はお米を炊くこともままなりませんでしたが、義理の母上となったおはるから、料理などを習い始めていました。
 
その夜は、台所仕事の手伝いがてら、魚のさばき方を教わるものの、剣術の稽古の成果もあり、包丁使いにも危なげが無く、その飲みこみの早さに、おはるを関心させています。
 
その頃、弥七が鐘ヶ淵を訪れ、例の男の詳細を報告します。その男は、日暮里・道灌山の西側付近にある妙源寺に入ったとのこと。そして、妙源寺は、規模こそ小さいものの、大きい檀家がついており、去年、庫裡を新しく立て直したことのこと。
 
一方、例の男に見覚えのある小兵衛は、今夜は弥七を鐘ヶ淵に泊まらせ、その男の詳細を語りました。
 
あらすじ2)
その男は、小兵衛が四谷に道場を構えていた頃の門人の1人で、名を小野半三郎と名乗っていましたが、貴族のような品のある顔立ちから、小兵衛は「川越中納言」とあだ名を付けていました。
 
小野半三郎は、武州・川越城下の小間物屋・山城屋忠兵衛の養子で、出自は分かっていません。無外流・五十嵐専蔵の元で修行後、五十嵐の死後は、山城屋の援助で剣術の修行の旅に出ていました。
 
その後、山城屋では、半三郎を剣術で身を立たせてやりたいと考え、江戸・横山町の高級小間物屋・日野屋清七に道場の紹介を依頼し、その後、日野屋が出入りする川口左京のすすめで、小兵衛の道場に入門します。
 
川口左京は、四谷御門外に屋敷を構える三千石の大身旗本であり、彼の子息や家来たちも小兵衛の元に通わせており、道場の良き後援者でした。
 
そして、四谷の道場で稽古を始めた半三郎はその腕前を発揮し、当時の門人のうち、彼に勝てる者はわずか3人しかおらず、半三郎も自信を持っていました。
 
しかし、入門から一ヵ月後に道場主・小兵衛と対峙してひどく叩きのめされる事態に直面します。この出来事が面白くなかったのか、半三郎は、その日を境に道場を出ていきます。失踪から10日後、秋山家の下女・おみつが、こつぜんと姿を消します。
 
嫌な予感を察していた小兵衛は、すぐさま葛飾・松戸のおみつの実家を訪ねるも、帰ってきていないとのこと。おみつは、大変な働き者で、良き相手が見つかれば嫁がせてあげようと、彼女を可愛がっていた小兵衛は気が気でありませんでした。
 
そして、半三郎とおみつの失踪から1年後。小兵衛は、白金の瑞聖寺門前の茶屋で働くおみつを発見します。
 
1年前、半三郎と男女の仲になったおみつは、彼と共に道場を奔走するも、その間、渋谷・広尾の長円寺で見世物にされていたこと、近いうちに上方へ向かうことを聞かされ、二度と両親に会えなくなると悟って逃亡、5日前に茶屋の前で倒れ込んだいたことろを主夫婦に発見・介抱されました。
 
事情を聞いた小兵衛は、おみつを松戸の実家へ帰すと、事の真相を探るべく、半三郎を紹介した川口左京に問い合わせ、彼を通じて日野屋や山城屋にも伝わりました。日野・山城屋共に半三郎に弱みを握られていると思われ、彼とつながりのある長円寺の和尚も金百両で、見世物小屋として庫裡を貸し出していたことが判明します。
 
あらすじ3)
大治郎が大坂に辿り着いたと思われる10日後。鐘ヶ淵では、女性陣も含めた打ち合わせが行われていました。そして、傘徳の合図と同時に、一行は作戦実行に移り、鐘ヶ淵の隠宅にはおはるの父・岩五郎が留守を預かりました。
 
途中、女性陣を町駕籠に乗せた一行は、弥七と面識のある茶屋「蔦屋」へ入っていき、あたりが暗闇に包まれた頃、小兵衛・弥七・三冬・おはるは、傘徳の案内で妙源寺に近づきます。
 
そして、三冬はおはると共に見張りの男に近づき、座敷に呼ばれたと偽りながら、鉄扇で急所を打ち込んでいきます。その後、気絶した見張りの者は、近くで待機していた弥七と彼の手下たちの手で捕縛され、小兵衛一行は少しずつ庫裡へ近づきます。
 
その後、庫裡内部へ侵入した小兵衛・弥七・傘徳は2手に別れて、半三郎の様子を伺い、三冬は内部にいた見張りの者の監視にあたり、おはるは弥七の部下によって蔦屋へ向かいました。
 
その頃、庫裡では、半三郎と彼に囚われた女性が激しく絡み合っており、その様子を男たちが食い入るように見学していました。男たちは、立派な身なりから武士や商家の主人のように思われ、彼らは全員、白絹の頭巾を着用していました。
 
半三郎は、今は40歳を過ぎていると思われるが、錦絵の役者に例えられる美形と官能的な見世物は、見物客を虜にしていました。
 
一方、見世物の両隣の部屋では、それぞれ半三郎に連れ去られた女性たちと、見張りの者がいましたが、後者の2人は酒を飲んでおり曲者の侵入に気付いていませんでした。
 
そして、庫裡でこのようないかがわしい見世物が催されているにも関わらず、妙源寺の和尚や住僧たちは、本堂で眠っていました。
 
内部の忌々しい光景に度肝を抜かれた小兵衛でしたが、半三郎による見世物が終わり、別室で待機していた女性たちが客人にあてがわれようとした瞬間、小兵衛が乱入します。
 
同時に、隣の部屋の見張りは、弥七・傘徳によって強打されており、周囲の騒ぎをよそに、半三郎はそのままの姿を逃亡を始めます。
 
そして、やっとのことで刀を手に取った半三郎は、自分は京の都のやんごとなき御方の血を引く者と言い放ちます。しかし、小兵衛は、半三郎の暴露を間に受けることなく、切り捨ててしまいます。
 
あらすじ4)
半三郎が行なった見世物は、風紀を乱すとして、幕府によって厳しく取り締まれており、見物客も含めてそれらに関わる者全てが処罰の対象とされました。
 
しかし、半三郎郎はそれらに目をつけ、高い見物料を取りながら客人の弱みを握り、ゆすりをかけていました。そして、見物客の中には名のある武家もおり、彼らの中には刺客を放って半三郎を倒そうと試みるも、全て返り討ちに遭っていました。
 
一方、事件に遭遇した小兵衛は、今回の事件の被害者の多さから、江戸に多大な影響を及ぼしかねないと考えます。
 
そして、自らを寺社奉行与力・秋山弥右衛門と名乗って取り調べに当たり、彼らの身分と姓名を打ち明けることで、今回の事件はを見逃すように促します。
 
取り調べには、妙源寺の和尚たちも含まれ、夜明けと同時に見世物にいた男女は釈放されました。
 
また、半三郎に雇われた見張りの者たちは、妙源寺の納屋で厳重に監視され、弥七が所属する南町奉行所の同心・永山精之助に報告され、同時に小兵衛も、用人・生島次郎太夫を通じて老中・田沼意次に知らせました。
 
その後、田沼老中の密命が南町奉行所へ下り、この事件に巻き込まれた女性たちや、家族に影響が及ばないように手配され、事件は収束へ向かいます。
 
一方、川越中納言こと小野半三郎が、本当に公卿の落とし種だったのか、真相は誰にも分かりませんでした。
 
-終-
 

剣客商売・川越中納言の読みどころ

結婚後の三冬
結婚前は、お互いを「秋山先生」「三冬どの」と呼んでいた2人でしたが、結婚後は「義父上」と「嫁女どの」と呼び合っています。
 
一方、三冬の命でもあった剣術の稽古は、結婚を機に辞める決意を固めていましたが、そのような女に大治郎は惚れたのだからと、小兵衛の勧めで稽古を継続することになり、大治郎が不在中は、三冬が飯田粂太郎の稽古を担いました。
 
三冬の勘違い
また、川越中納言こと小野半三郎の事件解決に際して、小兵衛は三冬の力を借りるべく「一肌ぬいでいただきたい」と要請します。しかし、三冬はこの言葉の意味を勘違いしてしまい、さすがの小兵衛も慌てて弁明するなど、普段の2人からは考えられないやり取りも、この短編の読みどころです。
 
七軒茶屋の由来
七軒茶屋は、芝・田町九丁目のはずれに位置し、休み茶屋や飯屋などが七軒立ち並んでいることから命名されました。
 
剣客商売によると、七軒茶屋は、江戸を離れる人を見送るための待ち合わせや、地方から江戸へ帰る旅人を出迎える場所と言われており、大治郎が江戸を発つ3ヶ月前にも、国へ帰ることとなった剣客・小針又太郎を秋山親子がこの場所で見送っています(詳しくは、4巻・「夫婦浪人」の回を参照)
 
 

剣客商売を味わう

「川越中納言」の序盤は、大治郎・三冬の新婚生活からはじまり、慣れない台所仕事に苦戦する三冬の姿が初々しいでしょう。
 
さて、本日の剣客商売を味わうは、お米を炊くことに苦心する妻のそばで、食べ応えある卵かけごはんをこしらえた大治郎の料理を紹介します。
 
鶏肉入りの卵かけごはん
材料
・鶏肉
・酒
・砂糖
・しょう油
・みりん
・ごま油
 
作り方
鶏肉を、一口サイズに切り分ける。
鶏肉の皮は、お好みでつけたまま、または皮を剥いで切り分けて良し。
 
鍋にごま油をひき、鶏肉を入れて、火が通るまでじっくり炒める
 
鶏肉に火が通ってきたら、酒・砂糖・しょう油・みりんを加え、鶏肉に味を染みこませる。
 
ボウルに、卵を人数分割り入れて溶く
 
最後に、溶いた卵液に③の鶏肉をタレごと入れ、良くかき混ぜたらご飯にかけまわして完成
 
 
この料理は、大治郎が諸国を巡っていた頃、道場に滞留する者同士が寄せ集まって作っていたもので、本人曰く「料理と呼べるものではなく、誰でも作れる」と謙遜しています。
 
新妻・三冬の舌もうならせた江戸の男子料理は、女性だけでなく、料理初心者の男性でも手軽に作れるおすすめレシピです。
 

剣客商売~川越中納言~まとめ

秋山小兵衛の弟子と言えば、人柄は良いものの、剣術の筋がいまいちだったり、剣の腕前が立つことを笠に着て悪事を働くものなど、毎回のように、様々な意味で小兵衛の手を煩わせています。
 
今回登場した川越中納言こと小野半三郎の悪だくみも、その規模や関わった人々の多さ・身分から小兵衛も事態の収束に頭が痛かったでしょう。
 
さて、次回の池波正太郎の「剣客商売」をたしなむは、大坂から江戸に帰る大治郎の道中の出来事を描いた「新妻」を紹介します。
 
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございましたほっこり