可能性に賭ける | スガ シカオという生き方 ~history of his way~

スガ シカオという生き方 ~history of his way~

1997年デビュー、2011年フリーランスとなった音楽侍スガシカオさんの記録。
本名:菅 止戈男。戈(ほこ)を止める=争いを止めることが「武」の本義であるという孔子の著から取られた名前に込められた思い、それに恥じない生き方の足跡。

トーキンロック2003年7月号
アルバム「SMILE」発売時インタビュー



―作品的には「アシンメトリー」以降の1年間が完全に空白になった理由は?

スガ「ひとつは所属レコード会社がなくなり、物理的にリリースが出来なくなったのがありますね。そしてちょうど同じ頃、・・・肉親が亡くなり、そのすぐ後に親友が亡くなったりして・・精神関にも音楽を作れる気分じゃなかったというのもあって。
『4Flusher』が、楽曲自体は満足のいくできだったんだけど、自分の制作ペースと、レコード会社のリリースプランとが噛み合わなくて、本当に時間のない中で作ったアルバムだったから、『Sugarless』の時はその反動も強かったかな」



―でそのまま『Sugarless』での手ごたえを持ってシングル「青空」「アシンメトリー」の制作に入りいい感じの流れできたわけですよね。

スガ「そうだね・・・・と言いたいところだけど、実はその2枚のシングルを作りながら、相当に悩んでいたと言うか。なんとなく頭に描いた目標とする音のイメージはあったんだけど、実際に何を自分の音楽の中に吸収して、どう作って進めばいいのか、すごく迷ってたんだよね。

音のイメージが掴めてないどころか、もしかしたらそんなものは存在しないんじゃないかと思ったりもして。もっと違う大きな変化がオレのなかに必要なのかなと考えたりもして・・・そう思って悩んでいた時にレコード会社との契約もなくなり、プライベートで悲しい出来事もあったりして・・・それらが四重苦ぐらいの重みで、のしかかってきたわけで、完全にノックアウトみたいな感じで。曲を書こうとしても死んだ人のこと考えて・・・ズルズル引っ張られて。次のページがめくれないのね。このままだとオレ・・・終わるかも・・・と思ったりもして・・・

まぁ、贅沢な悩みだけどね。方向性を変えずに『FAMILY』や『SWEET』で見せた世界をやり続けること可能だし、なんだったら『Sugarless』の印税で小さい喫茶店でも建てて暮らしてもいいわけじゃん、これが俺の生き方だって言えば済むわけじゃん。

でも、まだまだ自分に可能性がある気がするのね。その可能性に賭けたいという気持ちが強いんだよね。

で、そうこうしているうちに今のレコード会社と契約が決まりかけて、あとはモヤモヤしてる私生活は東京を離れることで気持ちを落ち着かせようと、そしてもう一度冷静に自分の音楽を見つめ直そうと思って、機材一式を持って山梨の別荘に山篭りしたんです。」



―山篭りした中で掴んだ“これだ”というのは具体的には何だったんですか?

スガ「他の人が真似できないことを徹底的にやるってことかな。例えば今までは歌詞が行き過ぎるかなと思う内容だとすると、“また狙い過ぎだと言われるかもしれない”とか“変な風に解釈されるかも”という感じで自分でブレーキをかけてた部分があった。“イジメテミタイ”とかがいい例でさ、何の気なしにパッと書いた曲なんだけど、理解のされかたって全然違って“スガさんはSMが趣味なんですか?”って何度も何度も言われたわけ(笑)で、いちいち説明するのが面倒だから投げやりにそうですよって返事してみたり。

そんな風に自分を抑えてしまうところがあったか、それを取り払って思ったことを、気持ちのままガンガンやろう。そういう潔さを出すことが大事なのかなと」

―なるほど。それは1曲目の「THANK YOU」や、男が男に恋をした9曲目の「はじめての気持ち」も際限なく表現された歌詞ですね。

スガ「うんうん、ちなみにこの歌詞は20分くらいで書きました(笑)
『優等生』も男のフェティシズムというか、女性に対する妄想の世界を生々しく書きたかったという、これも際限なく書いた曲ですね。

『桜並木』も、普通は新入学と言う新しい始まりを、普通は希望の光に包まれた世界のように捉えるもんなんだろうけど、僕は子供の頃からそういう感覚が嫌いだったからね。

―でも、そこから逃げ出そうとはせずに、遅刻してしまうと かすんでしまうから”と、一応その道は歩いていこうという(笑)

スガ「そう、ヘンなところが純粋なんだよね。例えば最初から遅刻すると高校の3年間がダメになりそうな気がするじゃない。そういう小心者な感じが表現された曲ですね」

―僕は個人的に『優等生』と『あだゆめ』のサウンドに新しさを強く感じたといいますかね。

スガ「とにかく基本的にスガシカオ=ファンクという姿勢は変わってないし、山篭りでファンクが好きだという気持ちを改めて確認した中で、カラーを思い切り出した『THANK YOU』はもちろんだけど、アルバムを通して聴いた時に、音の肌触りや質感が今までと確実に何か少し違うと思うのね。
その変化を具体的な言葉で上手くいえないんだよね。とにかくエネルギーが外に向かって溢れているアルバムだと思うんだよね。」