幸薄な顔 | スガ シカオという生き方 ~history of his way~

スガ シカオという生き方 ~history of his way~

1997年デビュー、2011年フリーランスとなった音楽侍スガシカオさんの記録。
本名:菅 止戈男。戈(ほこ)を止める=争いを止めることが「武」の本義であるという孔子の著から取られた名前に込められた思い、それに恥じない生き方の足跡。

音楽と人 1997年12月号(スガシカオさんデビューはこの年の2月)
インタビュアー 市川哲史



1STアルバム「CLOVER」がいきなりオリコン初登場10位の快挙となったスガシカオである。
既にリリースされていた3枚のシングルが全国各地のFM曲を中心に話題を集めていたし、レコード店など所謂関係者筋に熱心なファンを獲得していたこともあるから、別に不思議ではないのだけれど、こんなに迅速に結果が出るとは思わなかったのでやはり驚いた。

ファンクという基本はしっかりありながらも、右脳と左脳を各々駆使しつつ、優秀なポップソングとして構築する手綱さばきは見事だが、本人自ら「まだまだ第一段階クリア程度」という。

さて、今回のシングル“愛について”はスガにしては、オーソドックスなラブソングだ。そこは元代理店制作マンだから、何らかの脈略がるのだろう。ただ売れたことによって、殺人的なプロモーション活動を広範に演っているだけに、逢っても疲弊しきってるし、10月3日の段階でカップリング曲が出来てさえもない(発売日は11月21日だ!)という地獄絵図の中、このインタビューは行われた。

―完璧にヘロヘロですなぁ。
スガ「忙しいっすねー。FM中心だから全国の局にいかない事には話にならないんで(笑)それにインストアライブも並行してやってるんで、もうヘロヘロです(泣笑)」

―まあそれもアルバムが売れたから・・・もう少し時間がかかると思ってたんだけど。
スガ「俺もそう思ってたんですけど。その分、スケジュール自体が濃くなりましたけど、ホント。地方でも行って聴かせてなんぼという地味な作業をデビュー以来やっててそれを続ける限りはもうずっとこんな感じですよね。」

―カップリング曲も未定で。
スガ「未定どころか・・・そもそも曲作ってもいませんから、まだ(苦笑)」

—発売日まで1ケ月半しかないですよ。
スガ「このままだとあと2日で作って録んなきゃいけない事になるんです。」

—こんな時にインタビュー受けてる場合じゃないと?
スガ「・・・・うん、もしかすると(笑)」

—そんな状況ならば、今回の“愛について”も描き下ろしの新作じゃない?
スガ「ええ・・かなり前からあった曲なんですが。・・というか、この曲でアルバム“CLOVER”は完結するという感じで。」

—えらいオーソドックスな、ノーマルな曲ですよね。
スガ「そうです。そういうところあってのアブノーマルありなんで(笑)」

—こういうノーマル部分も見せないとアブノーマルも活きないぞと・・。
スガ「そうそう、それに僕の作品ってやっぱりアブノーマルに見られがちで『もっと、きわどいの出してください』って期待が大きいんですよ。するとやっぱり・・・どうだ普通だろう!・・・的な衝動に駆られるんですよね。そういう意味も含めて引っ張り出してきたんですけど。」

—でも、秘蔵品なら随分愛着もあるんじゃないですか?
スガ「あちこちで随分長く歌ってきましたね。僕ね、結婚式で歌えるような歌がこれしかないんですよ。書いたときは、俺にはこういう感情がストレートに出たタイプの曲が足りないからこういうのが欲しいと思って書いたんですけど。。(笑)」


—さっきの話じゃないけど、人から『変わったポップス』を求められてる現状を本人はどう受け止めてるんですか?
スガ「最初、こういう反応にはびっくりしましたもん。『どうしてそんな風に見られるんだろう』って思って。・・詞とか(笑)」

—てっきり私はそういうの計算して演ってるのかと思っていたんですが。
スガ「いや、計算してるようで意外に計算なんてしていないんですよ。作ってる時って。」

—スガシカオってどんなアーティストに捉えられてると思いますか?
スガ「うーーーん、まだ探ってる感じじゃないですかね。たぶん色んな事がわかんないと思うんですよね(笑)鏡に映った僕を見てて『これ分身ぽいけど、本物はどこにいるんだろう』みたいな」

—そういうのを観察して愉しんでいるように映るんだけど。
スガ「まあそうですね、あまり深刻に考えてもしょうがないんでね。長くやってればどんどん理解されてく事だと思ってるから、あんまり『そうじゃないんだ』って否定したってしょうがないから。」

—では、売れた要因は何だと分析してますか?
スガ「フンァレター読んでると、衝動買いが多いですね。全国のレコード店の人が『これ買え!』みたいな感じで薦めてくれるらしくて迫力に押されて買って聞いたらハマるってパターン。
新小岩にある小さなレコード屋さんは、手作りでPOPなんか用意してくれて店中僕で150枚も仕入れてくれて“うちはこれを5年かけてでも売る”なんて言ってくれたり・・・あまりに凄いんで1回挨拶に行ったら、『タレントさんが来たの初めてです』みたいな(笑)
でも、自信になりますよね、悪いもの作ってきたんじゃないんだなって。
あと、たぶん僕不幸そうな顔してるから『応援してやろうかなぁ』とかってなってるんじゃないですかね(笑)」

—わははは!確かに!
スガ「俺、TVに映った自分とか嫌だもん、幸薄そうで(笑)」


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