音楽と人
1997年10月号(スガシカオさんのデビューはこの年の2月)インタヴュー市川哲史
"ヒットチャートをかけぬけろ""黄金の月""ドキドキしちゃう"
ソウルやファンク色が大胆にフューチャーされながらも、スマートなモダン・ポップとして成立している優秀な三枚のシングルで私はスガシカオという男に、妙に惹かれた。そして待望の1stアルバム「CLOVER」その個性的な音はより完成度を増しているし、詞はいよいよ感性に磨きがかかって、心地いい。
馴れ合いの打破は、「いけ!前人未到のハイジャンプ」と唄われ、自分の真摯な恋愛感情は「教科書のように健全」と語られる。いいセンスだ。
ソウル&ファンクという「肉体&情念」系の音楽にハマった人間が、ここまでスマートな「感性」系ポップ・ミュージックを作れる事自体が、驚異なわけで、びっくりした私はスガ君に会うべく、タクシーに飛び乗った。」
ー元々ブラックミュージックが好きなんですか?
スガ「ハマったのは、高校終わり頃からですね。」
ー今、ソロでやってるのは理由が?
スガ「他人の面倒を見たくないから。そういうしがらみで自分の音楽が壊されていくのが嫌だったの。」
スガ「バンドサウンドが欲しかったら、プロを雇えばいいし……自分の思い通りになんないと嫌なんで、友達やバンド仲間と不仲になっちゃうのが、目に見えてたんですよね。そういう意味で、他人の責任を負いたくなかったんで。」
ー気持ちは、わかりますね。私も昔は、物理的に許されるならば、一人で一冊まるまる雑誌を作りたいと思ってた。
スガ「そう、そう、そういう事なんです。」
ーその、冷静な主観が、やはり作品に表れているような気が。
スガ「いや、かなり直感が強いんですけどね。
ひとつあったのは、民族的にその伝統の血が無いじゃないですか、だから、リズムでその血とオリジナリティを濃くしたくて、自分のリズムだけで、ぐっと。」
ーマシンなんだけど、そんじょそこらの生リズムよりも遥かに濃いですもんね。
スガ「ありがとうございます。日本人って音楽的な血が薄いから、余計にそれをジレンマに感じて」
ーリズム以外の重要な「濃い血」の為の要素は何ですかね?
スガ「詞ですね、詞の匂いですね。(笑)」
ーブラック系の人達って、基本的に詞に気を使ってないけども。
スガ「はい、詞を気にしないのが、ヨコのノリの条件ですから。ノリを良くする為に詞を捨てる事が多いんで。でも、僕は、詞を読んでくんくん匂ってくるやつじゃないと駄目なんですよね。」
ー確かに、「そういう」詞ですね。だからリズムと詞が凄く印象的な楽曲達で、その詞へのこだわりは昔から?
スガ「こういう、詞しか書けないんですよ、薄い詞が書けないんです。テクニック的には可能なんですけど、書きたくない。だから自分のスタイルでゴリ押しなんです。」
ー資料を見ると自分で全曲解説してあって、しかもそれが的確過ぎて、これは前の職業の名残?
スガ「そうですね、そこは考えて左脳で書いていますから。普段のインタビューやラジオは左脳で仕事してますけど、音作る時だけ、右脳でがーっといくんです。」
ーそんな使い分けが可能?
スガ「僕一人っ子で大人の社会の中で育ったんで、大人の社会の中で上手くやってく為に左脳で一生懸命考えて、顔色窺ったり、色々するんです。ところが一人の時は、そういうの忘れて右脳全開でがーっと入って行くんです。いつか、左で全部作ってみたいと思ってるんですが。(笑)」
ーそれは、完璧なものはできるけど、面白くないかも(笑)