前回記事【マリンの受験戦記0~多分、前書き~】はこちら

 

 

【マリンの受験戦記1~学習塾に入って~】

 

さて。

 

事の起こりは1年と4か月前。

 

マリンが中学2年生になる春のこと。

 

思えばマリンにとっての受験は、本人のこの一言から始まった。

 

「塾に行きたい」

 

よくある言い分だけれど、曰く、周りのお友達はみんな行っているとかなんとか。

 

当初、ママはあんまり乗り気でなかった。

 

だってさ?

 

「学校の課題も出せてへんもんが、塾の宿題まで背負ってどないすんねん!?」

 

ところがこれに、

 

「学校の課題は、塾の自習室でやる。塾の宿題も、塾の自習室でやる」

 

と、本人から反論が来た。

 

よそは知らんけど、この辺りの塾には大抵、自習室があって、マリンはそこで勉強するのだという。

 

確かに…我が家の自宅環境たるや、お世辞にも良い環境とは、言えない。

 

何が悪いって、パパが四六時中、リビングのテレビをつけっぱなしているのだ。

 

そんなんしとってから、子どもらがテレビに気を取られてやることが進んでいないとダメ出しする。

 

テメーがテレビ切れよ💢

 

と、何度思ったか知れない。

 

思ったというか、ちょいちょい、ママが切っている。

 

が、テレビのつけっぱなしが落ち着くらしいパパを、年中我慢させ続けるのも気の毒なので。

 

ママはいっちょ、マリンの自習室案に乗っかる事にしてみた。

 

「んじゃぁ、月曜日から金曜日まで、毎日塾にいくこと。

 週一で授業を受けるとして、授業の無い4日間は、自習室で塾の宿題と学校の課題をやること。

 授業と自習室に、欠かさず行っている限りは、塾に行ってよし。

 

 自習室をさぼったり、学校の課題が出せなかったりしたら、塾代は自腹のこと」

 

という条件の元、塾通いが始まった。

 

マリンが希望した、数学だけ塾の授業を受け、他の日は自習室通い。

 

ぶっちゃけ、ママとして、塾にそこまで期待して入れた、というほどのこともなかった。

 

けれど、代表の先生が思いの外デキる先生だったのと、最初のうちは、マリンも張り切っていたりで…なんと、中2の1学期、数学の点数がなんと…3倍に跳ね上がったのだ!!

 

ゆうて、1ケタだったのが、20点台に乗ったというだけのことなんだけれども。

 

とはいえ、3倍である。

 

ママとしては、

 

さすがに餅は餅屋!プロに任せただけの事はあったわ!!

 

と、とっても満足していたのだけれど…

 

当のマリンとしては、

 

「80点、取れると思ってたのに…」

 

と。

 

いやいや。

 

8点(あ、書いちゃった)からいきなり80点はなかろうよ。

 

と、ズッコケそうになったママであったが、マリンは真剣だったらしい。

 

曰く、

 

「だって、全部書けたのに」

 

と……

 

言われて、答案を見ると、確かに全問、解答欄が埋まっている。

 

マリンとして、正しく快挙である。

 

さらによくよく見ていると、基本問題の中には、凡ミスで点を落としたらしき問題が幾つもあって、80点はさすがに遠すぎるにしても、この先頑張れば、50点ぐらいはいくらでも狙えそうな感触だ。

 

ちゃんと、勉強の成果が解答に表れている。

 

思えば、塾に行った初日。

 

ほっぺを真っ赤にして、上機嫌で帰ってたマリンは、開口一番、

 

「ママ!分かったよ!!」

 

と、のたまった。

 

 

おそらく、マリン史上、初めての

 

“分かった”

 

だったに違いない。

 

先生にも友達にも、褒めてもらって、助けてもらって迎えた中学二年の中間。

 

マリンは、これまた初めての、

 

“あっ、この問題知ってる!解けるかも”

 

と、思いながら受けたテストだったのだろう。

 

集団授業では、何だかよく分からないままに、毎回妄想タイムに突入していたのが、塾の個別授業で、丁寧に説明してもらって、初めて「分かる」という事を経験したのだ。

 

それはきっと、マリンにとって魔法のような時間だったに違いない。

 

“皆は、この魔法で、あの点数を取ってるんだ。私だって、この魔法があればきっと、皆と同じようにできるに違いない”

 

そんな高揚感でいっぱいだったであろうことは、想像に難くない。

 

 

しかし…である。

 

マリンよ…

 

“分かる”と、“出来る”の間には、

 

“習熟”という名の、深くて暗い谷間があってだな…

 

魔法なんて無いんだよ。

 

あるのは、地味で地道な、積み重ねの先にある、

 

“やりこんだだけの分の、成果”

 

だけなんだよ…

 

 

てなこととこの時、ちゃんとマリンに伝えておけばよかったのだけれど。

 

当時は、パパもママも、とりあえずの成果(だって3倍だよ!?)に満足していて、マリンの失望感を、そこまで深刻に受け取れずにいた。

 

たった2ヶ月でこれだけ伸びるなら、このままコツコツと続ければ、公立は無理でも、私立の高校なら、どこか入れるところがあるかも、しれない。

 

そんな風に、おぼろげな期待を抱いていた当時、前述の通り、マリンの胸には、私たちの想像よりも深い失望が、静かに根付こうとしていた…

 

 

 

のは、また、次の記事にて。