甘酸っぱいのはなぜだろう? | 鹿吉の徒然なるままに by Shicayoshi Cake Lab.

鹿吉の徒然なるままに by Shicayoshi Cake Lab.

ひとつひとつを丁寧に、食べてくださる方を想って焼き上げる、を信念に掲げた焼き菓子屋の徒然なる日々を綴っております。

バレンタイン用にご注文いただいた特注品を納品したお客様からお喜びの声をいただけまして、天にも昇る心地の鹿吉です。

こんばんは!

 

いつも応援とご愛顧をいただいているお客様でございまして、イベント事がある度に鹿吉ケーキラボの商品をご注文してくださいます。その度に「鹿吉さんのお菓子は人を幸せにする素敵なものです」という励ましのお言葉までいただけて、これからも頑張っていこう!と心新たにさせてもらっております。

本当に感謝しかございません。

 

今回も「昨日鹿吉さんのチョコ職場の人に渡したけど、みんなすごい喜んでくれたよ!!!!早速食べてくれて美味しかったって♬」というお言葉をいただきました。

有難いことにございます。

 

さて本日は恋愛要素がひとつもない、けれどもほろ苦いチョコレートのように記憶に残っているバレンタインの話をひとつ。

 

あれは私が小学5年生のときのバレンタインのことにございます。

 

小学3年生くらいから色付く女子たちによってお菓子持ち込み厳禁の小学校にもバレンタインの大波はやってきておりました。中学に上がると2/14と3/14は荷物検査が実施されておりましたが、小学生のときにはさすがにそれはなく、厳禁だというだけでこっそりと本命チョコを持ち込む女子が多数いたのでございます。

 

私個人としては自分が食べたいくらいでございましたので、人にあげるチョコレートを持っていくわけがなく、男の子にあげるくらいなら誰か私にくれないかな、とおこぼれを期待するような色気のない女子でございました(笑)

 

私が本命チョコを持ってドキドキと胸高鳴らせるのは中学に入ってからでございましたので、このときはまだ男子以上に恋愛感の薄い女子だったのでございます。

 

小学3年くらいではまだ男子も2/14は普通の日と変わらないくらいにございましたが、小学5年にもなるとその日は特別甘い雰囲気を出しまして、モテるモテないにかからわず、奇跡を期待して朝から落ち着きなくソワソワする子がよく見られました。

 

色気の「い」の字もないような私にすら「渡すなら今だぜ」などと格好つけて話しかけてくる強心臓の持ち主もいたりして、先生方は朝からピリピリ雰囲気で居心地悪いですし、私にとってはとても面倒な日でもございました。

 

そして小学5年生のバレンタインデーほど嫌な意味で心臓がドキドキする日もありませんでした。

 

その理由は私のランドセルの中にございました。

 

毎年、誰かくれないかな、と思うだけだった私のランドセルにはこの年、可愛らしくラッピングされたチョコレートが入っていたのでございます。

 

それはその日の朝に母から玄関で渡されたものにございました。

 

「きちんと謝ってから渡してね」という言葉とともにランドセルに突っ込まれたチョコレート。

その行先は同級生の男の子、F君でございました。

 

2/14から遡ること、数か月前。

私の地元では華々しくお祭りが開催されておりました。

子供はひとり残らず参加するような、年に一度のお楽しみにございます。お菓子投げがあったり、餅投げがあったり、神事とはいえ子供が喜ぶ様々な企画がございまして、2日間に渡るお祭りの間、あちらこちらのイベントに顔を出しては大はしゃぎしておりました。

 

最後の餅投げは神事の行われる神社で開催され、家族総出でやる気満々に出掛けました。

それこそ袋は巨大なゴミ袋で、下に落ちたのを拾うのではなく、かき集める勢いで拾うのだ、と息巻いていたのでございます。

 

参加人数の多さとお餅の数のバランスが悪く、勢い込んだほどの成果を上げられないまま、それでもそれなりのお餅を手にして帰宅した、その道すがら。

 

狭い田舎道を車で走っていたとき、前方にF君を含む数人の同級生の男の子たちが自転車に乗って帰宅しているところに遭遇いたしました。

 

道幅ギリギリの車で、彼らのあとをつけるようにゆっくりと走っていたのですが、自転車の彼らは申し訳ないと思ったのか、なんとか車を追い越させようと道の隅ギリギリまで寄ってくれました。父はその気持ちを汲み取って、ゆっくりと慎重に車を進めましたが、どうしても追い越すことができずに、危険を回避するために車を停めました。

 

その様子を見ていたF君がさらに自転車ごと道の脇に寄ったとき、ふいに彼の姿が消え失せたのございます。

 

何事が起きたのか、と父も母も驚きに窓から身を乗り出しました。

 

道路脇には農業用水路が流れておりまして、とくに柵もガードレールもなかったものですから、まだ草の上だと思っていたF君は水路に飛び出して道路を偽装していた草の上に乗ってしまい、そのまま水路へと自転車とともに落ちてしまったのでございます。

 

お祭りの時期でございますから、すでに水路に水は少なく、泥だらけになったF君はむくりと起き上がってきました。大丈夫か、と声を掛ければ大丈夫だと返事がございます。

気付けば後ろからきた車から急かされておりまして、父も母もヤキモキしておりましたが、その場を後にせざるを得なくなっておりました。

 

週明け、大した怪我もなく元気いっぱいに登校してきたF君の姿があったことを母に報告したところ、いつかのチャンスにきちんと謝りたいものね、とずっと気にしていたようにございました。

 

その謝罪のチャンスがバレンタインデーだったのでございます。

 

重い意味を持ったチョコレートを背負いながら、私はどのタイミングで渡せばいいだろうか、と悩みに悩んでおりました。毎年のように誰誰が誰それにチョコを渡した、あいつらデキてる!と興味本位の噂が舞いまくる環境にございます。

 

実際に好きで噂になるならまだしも、恋愛感情一切なしの相手に噂を立てられたら私だけでなくF君だってきっと迷惑するでしょう。

 

タイミングを計りながら、けれども決していいタイミングがあるわけもなく、下校時間を迎えてしまった私は焦りました。なんとか彼に渡さなくてはならない、こうなったら噂もなにも言ってられない!と私は普段なら直行直帰する男子たちが無意味に残る教室へと向かいました。

 

けれどもそこにF君はおりません。

 

一体どこにいるのか、と校内を探し回っていたとき、校庭を帰るために歩いているF君の姿を見付け、私は走りました。

 

息を切らしながらF君のもとに行った私はまばらに残る人たちの視線を感じながら、ランドセルからチョコレートを取り出すと、無言でF君に渡しました。

 

予想外の私の行動にF君はきょとんとしておりましたが、急に顔を赤らめるとそっと優しく受け取ってくれました。

 

渡せたことに安堵した私はすぐに母から言われたことを思い出し、慌てて叫びました。

 

「これ、お母さんからだから!!!どぶに落としてごめんねって!!!!!」

 

それだけを伝えると、動悸激しい心臓を片手で押さえながら走り去ったのでございます。

 

近くで私のセリフを聞いていた人はともかく、遠くで姿だけを見ていた人たちからはかなり噂され、暫くは私がF君に告白をしたという話が広まり、ひどく揶揄われる日々が続きました。

 

当時は意地になって噂を否定しておりましたが、今からすれば子供だなと微笑ましく思います。

F君も揶揄われる度に「お母さんからだって」と答えてくれていたようにございます。

 

むしろ「どぶに落としてごめんね」のほうが気になるワードではないか?と思ってしまう私は今日も元気に焼いております。

タルト・オ・ショコラにございます。

 

ヴァローナ社のチョコレートをふんだんに使用したタルトでございまして、本当に美味しい焼菓子かと存じます。濃厚なチョコレートが大人の苦味を醸しておりまして、珈琲紅茶だけでなくワインやシャンパンにも合う焼菓子になっております。

 

今月末までの販売で一旦終了する商品でもございますので、是非一度ご賞味くださいませ~

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ちなみにF君は3/14にちゃんとお返しをくれました。

クッキーでございました。

 

小さな白い箱にブルーのリボンが掛かった可愛らしいものでございまして、照れながらも無表情で突き出すように渡してくれました。

 

「これ、お母さんに、だから!」

 

我が家のマダムへだと明言をしながら(笑)

 

F君が私の告白に返事をした、と噂が立ちましたが、教室で渡されたこともあり、多くの目撃者がございまして噂はすぐに下火になりました。

 

あれはお母さんに、らしいよ、と。

 

むしろなぜ母に?という疑問は残ったようにございますが、私とF君の恋仲説は一刀両断に否定されることになりました。

 

当然、渡されたクッキーは母へと手渡されました。

帰宅してすぐにF君から、と母に渡すと、母はとても嬉しそうに受け取って神棚の前に置いておりました。

 

後にも先にもあれほどにドキドキしたバレンタインはなかったな、と思います。

私の、はじめてチョコレートを渡したバレンタイデーの話にございました。

 

甘酸っぱいような、ただただしょっぱいような不思議な気分にございます(笑)


それから30年以上経ってから開催された同窓会でF君に再会しました。それぞれの友人と話すなか、彼と話すチャンスがなかったのですが、お開きになった刹那、ススス…と彼が寄ってきました。


そしてポツリと囁いたのでこざいます。


「あのときさ、貰ったさ、お母さんからのチョコ、人生一の旨さだったわ」

 

母がこの言葉で泣くほど喜んだのは言うまでもありません!


本日も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

またいらしてください~♪

お待ちしております!!!