前回の診あう二人のその後…っぽい雰囲気のお話しになったので、番外編という形にしました。
診あう二人<番外編> 染まる二人
真紅に染まった葉が茂る、宮奥の林。
毎日典医寺にいるばかりでは息がつまる、気晴らしに何処かへ出かけたい。とやかましく言う医仙に顔を顰めながら、ヨンは人目を忍んでウンスをとっておきの場所へと連れてきた。
土の上にこんもりと厚く降り積もった落葉に足を取られるウンスを見て、ヨンが手を差し出す。
「ありがと」と言って、ウンスはヨンの大きな手を頼るようにそれを確りと握りしめた。
ヨンは握り返さずにウンスを引いて木々の間を分け入る。
「着きました」
ヨンが伝えると、ウンスは目の前に広がる景色をひとしきり眺め、大袈裟なくらいにはしゃぐ姿をヨンへ見せた。
掴まれたままの手に意識がいかぬよう、ヨンは紅い葉の切れ間に見える青い空を探るように見上げ、
「今がちょうど見頃です」
と低い声で告げた。
しかしふと、先ほど意識から切り離したはずの指先から痺れるような気がヨンの身体の芯へ走り来て、心の臓が跳ねる。
何事かと見ると、ウンスがヨンの手を取りその細く柔らかい指と骨太い指を一本ずつ絡めるように、繋ぎ直している。
ヨンが思わず驚きの眼差しでウンスを凝視すると、「ああ、これ?」と言った後に
「ずっと掴まってるのも疲れちゃうから、この方が楽かなと思って」
そしてすぐに「あ、でもこれじゃまるで恋人繋ぎよね」と突然何かに気付いて慌てだしたかと思うと、手を振り払うようにして離し、「嫌よね、好きでも無い女にこんな事されたら。ごめんなさい」と軽く頭を下げた。
「・・・いえ」
ヨンが俯いて応えると、ウンスは「あはは」と気不味く笑って、ヨンに背中を向けて前へ歩み出た。ウンスの口元が悲しげに歪んだような気がしたが、ヨンは掛ける言葉が見つけられずに押し黙った。
頂に白いものが散らつく山々から、乾いた風が吹き下ろす。
背を向けて離れてゆくウンスと、それを為す術なく見つめるヨンの間を引き裂くかのように、身を縮らせた枯葉達が舞い上がった。
突然視界が遮られて、ヨンは目を細めた。
霞む小さな背中。ウンスが遠くなる。
行くな。
不意に大声で呼び戻したい衝動にかられ、ヨンの身体が無意識に動いた。
途端、三歩も歩まぬうちにウンスは腕を掴まれた。
ヨンに引き止められるように肩を強く引かれ、体の向きが変わる。
そして、なに?と返事をするその前に
ウンスの唇に、温かいものが押し付けられた。
再び山から風が吹き、錦に彩られた木ノ葉達が一斉に舞い、二人を包む。
光を含んだもみじが歌うように舞いながらヨンの頬を掠め、ウンスの髪にそっと触れた。
瞳を落としそうなまでに目を見開いたウンスからヨンの唇が離れるまでの時は、一瞬のようにも一刻のようにも感じられ──。
今度はヨンが気不味い風に眉をひそめ、喉元を微かに動かすと「すみません」と言ってウンスの腕をゆっくりと手放す。
「・・・いえ」
とウンスが短く応えて、二人は俯いたまま、土の上に積もった落葉をただひたすらに見つめ続けた。
随分と長い間そうしていると、木々の上から見かねたように鳴くカラスの声が響き渡った。
カアッ、カアッ、と呆れて鳴く音が沈黙を決め込んだ二人の耳に飛び込んでくる。
ウンスは今気づいたかのように木々を見上げ、
「景色が・・・凄く綺麗ね」
と言って微笑んでみせた。
戸惑うようにヨンがその瞳の先を追うと、先程見上げた青い空はいつの間にか夕陽に染まり、浮かんだ雲の縁を橙に照らしている。
「はい」
そうヨンが応えると、二人はどちらからとも無く手を繋ぎ、
彩る木々の隙間から陽が落ちてゆく茜空を眺め続けた。
終
こんばんは。
前回は堪えに堪えたヨンでしたが、今回は思わず行動に出てしまったヨンでした。
我が家の二人は再会までのキスは婚儀に乗り込んだあの一回だけ・・・というイメージが強かったのですが、フトこんな二人も書いてみたくなりました^ ^
徒然な妄想にお付き合いいただいて、ありがとうございました♪
オマケの秋ちまをこちらへ置いておきます。