診あう二人 その四(終) | 信の虹 ー신의 nijiー

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ここは韓国ドラマ「信義」の登場人物をお借りして楽しんでいる個人の趣味の場です。
主に二次小説がメインです。ちま(画像)の世界も大好きです。
もしも私個人の空想の産物に共感してくださる方がいらっしゃったら、
どうぞお付き合いください^ ^


ヨンがウンスの笑顔の裏に隠されたものを思うと、同時にその赤い髪を侍医の胸に埋め、涙している姿が思い出された。
苛立ちとやり切れない思いがヨンの胸に潮のごとく押し寄せる。
 
「あはは。やだわ、恥ずかしい」

なんだか自分が情けなくなって。と言いながら濡れた目尻を拭って笑みを繕う医仙に、かける言葉が無い。
肩を引き寄せ力の限りに抱き締めて、そんなことは無い。と言えば安堵してくれるのなら、そうしたかった。
その涙をこの手で全て拭ってやれたら。
言葉で伝えきれぬ分・・・いっそ口を寄せて、この想いを分け与えてやれたら。
艶めくように仄かに輝くウンスの口元から、ヨンはやっとの思いで視線を剥がして目を伏せると、胸に込み上げた卑しい欲念を砕くように打ち消した。
 
天界に比べれば地獄であろうこの地で、出来得る限り咲きたいのだと言う。か細くも気丈な花に心を惹かれる。
しかし、ままならずに打ちひしがれる様を見ると、胸が張り裂けそうになる。
帰してやらねばと固く心に誓う。留めてはならぬひとなのだと強く心に釘をさす。
 
 
程なくして出血が弱くなったウンスの左手を下ろすと、ヨンはそれを両手で包み込んで自分の膝の上へ置いた。
驚いてヨンへ顔を向けたウンスに、少し目を閉じていてください。と言うと、ヨン自身も瞼を閉じて意識を集中させる。
 
ウンスは戸惑いながらも瞳を閉じた。
じんとした痛みを持っていた左手がゆっくりと温かくなり、軽くなっていく。
チェ・ヨンの大きな手のひらに包まれると、気持ちが柔らかに落ち着き、満たされてゆく。
 
このままこの人に寄り添って頭をもたれたら、肩を引き寄せてくれるだろうか。
それともまた「やめてください」と迷惑そうに眉を寄せるだろうか。
言われた通りに目を閉じながら、そんな馬鹿な事を考えている自分に可笑しくなる。
じっとこちらを見つめる視線を感じる気がするけれど、きっと気のせいだわ。とウンスは思った。
暫くすると「終わりました」とヨンの声が聞こえて、ウンスはこくりと頷き瞼を開けた。
 
 
「少し気を送りました。治りが早くなると思います」
治療までできちゃうの?と驚くウンスに、ヨンは「大した事はできません」と告げ、白い手を包んだまま少し間を置くと、
「例えば、切れた首を繋いだり、腹の穴をふさいだりはできません。俺は神医じゃないので」
と付け足した。

触れられたところからだけではなく、ヨンのその言葉から、情の込もった優しい思いが伝わる。
胸の奥底にふわりと明かりが灯り、それは夜道を照らす道標のようにも感じる。ウンスは
「あら、それって励ましてくれてるの?どうも、ありがとうございます」
と、素直になれないながらも礼を言うと大袈裟に頭を下げてみせた。
照れ隠しと感謝の気持ちが混ざり混ざって、その暖かさにウンスの心がくすぐられ思わず笑みがこぼれる。

ヨンがやや安堵したように微笑みながらウンスの手を離すと「送ります」と言って立ち上がる。
「ええ」と応えてウンスも歩き出すと、一枚の葉がふわりと円を描いて地面へ落ちた。

 
空からの陽にたっぷりと照らされて目に眩しい程の木々の緑が、二人を見守るように揺れていた。
 
 
 
 


 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
なんだか懐かしい頃の二人。ヨンでいただき、ありがとうございました^ ^
(三話でウンスが喉に手を当てるくだりは後から書き足しました。流れが不自然だったらすみません。でもどうしても入れたくなったのでーふふふ)