ドラマde空想「おはよう、サイコ」 | 信の虹 ー신의 nijiー

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ここは韓国ドラマ「信義」の登場人物をお借りして楽しんでいる個人の趣味の場です。
主に二次小説がメインです。ちま(画像)の世界も大好きです。
もしも私個人の空想の産物に共感してくださる方がいらっしゃったら、
どうぞお付き合いください^ ^

前回、ウンスに初めて乗馬を教え、江華島へ向かう途中に野宿をした夜の続きです。
少し長いかも、です。
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ドラマde空想「おはよう、サイコ」



「グッナイ、サイコ」
そう言って一旦眠りについたものの、肌寒くなって目を覚ました。
女の人とサイコの話し声が聞こえた気がする。
それに怖い夢も少し見た。自分が一人ぼっちで闇に置いて行かれる夢。

ぼんやりと瞼を開けると目の前の暗い茂みが目に入る。
あ、そっか。私ここで野宿してたんだっけ。
ふと暗闇の中、遠くに鋭く光る何かが見えた。
動いてる…もしかして、野生の獣?
急に繋いであった馬達が落ち着かぬように嘶(いなな)き出した。

慌てて振り返り起き上がると、サイコの姿が見えない。
「さ、サイコっ」
大声を上げようとしたが喉がつかえて、囁くような音で叫んだ。

「如何しました」
近くに居たのか、サイコは瞬時に現れた。

どれだけ安堵したかわからない。
こんなところで一人にされたらと、考えただけでぞっとする。

「何か、何かいるのよ」

立ち上がり、思わずサイコの袖につかまると、
「下がっていてください」
と背中の後ろへ隠された。

「狼かしら、それとも熊?」
今度は背中につかまり後ろから言うと、

「ただの野犬です」
サイコが指笛をぴいっ、と鳴らすと、闇の中の気配の主達はあっと言う間に立ち去った。

「さあ、寝てください」
と眉をしかめて、私が握ったままの背中の衣を引き剥がすと
何でもないようにさっき座っていた場所に腰を掛けている。

「さあって言われても…。だいたい何処へ行ってたのよ。
守ってくれるんじゃなかったの」

「何処へも行きませぬ。
周囲を警戒していただけです」

「そう、ならいいんだけどっ」
敢えて強い口調で言ってみても、動揺した気持ちは治らなかった。
眠いけれど、怖くてとても寝れる気がしない。

地面に敷いていた毛皮をくるくると巻き、ぎゅっと抱きしめると
「…隣に座ってもいい?」
と聞いてみた。

「寝てください」

「あなただって寝てないじゃない。
それに、離れてたら守れないってことは、近くならより守れるってことよね。」

ウンスがぺらぺらと喋りだす様子を見て、まだ怯えてると察知したのか、諦めたのか、
ヨンは渋々顔で溜息をつくと
「どうぞ」
と、ウンスが隣へ座れるように腰をずらした。
が、思ったよりも近くに座られ、ぎょっとした眼差しを隣に向けたが
ウンスが肩をさするのを見て、問いかける。

「寒いのですか」

ウンスがこくりと頷く。

「ではその敷物を体にかけてください」

「いやよ。こうしてると落ち着くんだもの」
と、丸めて折りたたんだ毛皮の敷物を、もう一度離さぬように抱き締める。

ヨンは再び溜息をつくと、おもむろに衣の帯を解き始めた。

「ちょ、ちょっと、人肌で温めるって言うんじゃないわよね?」
驚いて後ずさるウンスに「まさか」と冷笑して、上掛けの長衣を一枚脱ぐと
ウンスに差し出す。
「こんなものしかございませぬが」

「い、いいわよ。
あなたが風邪引いたら困るし」

「風邪などひいた事も無い。こちらこそこれから先王を診察していただくのに
あなたに熱など出されては困ります」

ウンスが戸惑っていると、ふと思いついたように今度はその一枚下の上衣を脱ぎにかかった。

「なな、何してんの」

「俺の衣じゃお嫌でしょうが、まだこちらの方が血の匂いも気にならないかと」
長衣を引っ込めて、今度は脱いだ上衣を差し出してくる。
下着一枚で緩んだ合わせから見えるチェ・ヨンの逞しい肉体を、何故か今は直視できない。
散々治療で見たはずなのに。…それにさっき、"俺"って言った?

「どうぞ」
仏頂面で、押し付けるように渡してくる。
…そこまでされると断れないじゃない。

「ありがと」

微妙な心地で受け取ると、
渡された濃藍(こあい)色の上衣を肩に掛けた。

(なによ、こっちの衣も血の匂いがするじゃない)
…けどそれよりもっと漂うのは、汗の匂いと…男の人の逞しい香り。

◇◇

ヨンは立ち上がって衣を直すと、再びためらいがちにウンスの隣に腰を下ろした。
沈黙が落ち着かない性分でもないはずだが、何故か静寂が気まずかった。
先程心に掛かった事でも聞いてみようか。ヨンは鼻の頭を少し搔いた。

「一つ、聞いてもよろしいですか」

「…ん?何?」
もう眠くなってきたのか、うつらうつらとしながら答えてくる。

「あなたの名前の事ですが、」

「ユ・ウンス…よ…」

「どのような字を書くのですか」
言ってから、やはり余計な会話だったと後悔した。
これではまるで俺が女人の事に興味があるみたいじゃないか。

ヨンが唇を噛んで
「いえ、やはり何でもないです」と言おうとしたその時。
柔らかいものが肩に落ちた。

ふわり、と羽が触れたような心地だった。

どうやら座ったまま寝てしまったらしい。
ヨンの肩にもたれて。

女人の甘い香りが鼻に届いて、落ち着かぬ心地になる。
まただ。
逃げ出したくなる衝動が、ヨンの体に溢れ出す。
急に胸が苦しくなって困ったように夜空を見上げると
銀雨のような星達がヨンの心地などお構いなしに、穏やかに脈々と降り注いでいた。

◇◇

明け方、ウンスはもう一度夢を見た。今度は一人ぼっちになる夢じゃない。

誰かが肩を抱き寄せ、ウンスにこう言うのだ。
「お守りします。命に代えても」
その低い声を聞くと、何処ででも生きていける気がする。
この地で家族と離れていたって、その人がいれば大丈夫な気がする。

目覚めると、腕に抱いたはずの毛皮が地面に敷かれ、その上に横たえられていた。
夢、か…。私、寝ちゃったのね。
すぐに頭だけを起こしてサイコを探すと
とっくに起きて馬の支度をしているようだった。
…あの人、ちゃんと寝たのかしら。

まだ肩を抱かれている気がして、夢うつつで起き上がると
濃藍の衣がはらり、と落ちた。
見上げると空はいい天気で、ウンスを元気付けるように青々としている。

ま、なるようになるわ。

不思議と昨日よりは気持ちが強くなっている。

「おはよう、サイコ。これ、ありがとね」

借りた上衣を差し出しながら
「それとお腹の傷口、診察したいから見せて」
と話しかけると、

「結構です」
こちらを見もせずに断ってくる。
一度は死にそうになったというのに、「もう大事ないので」と頑なに診察を拒む。
ほんっとに、可愛く無い患者だわ。

「あっそう、でも抜糸はしなきゃ駄目だからね。
その時はちゃんと見せなさいよっ」

大きな声で投げつけるように言ってやると、
チェ・ヨンの唇の端が少しだけ、上がったような気がした。









近くにいると安心する。
悔しいけれど、そんな気がする。