ドラマde空想「グッナイ、サイコ」 | 信の虹 ー신의 nijiー

信の虹 ー신의 nijiー

ここは韓国ドラマ「信義」の登場人物をお借りして楽しんでいる個人の趣味の場です。
主に二次小説がメインです。ちま(画像)の世界も大好きです。
もしも私個人の空想の産物に共感してくださる方がいらっしゃったら、
どうぞお付き合いください^ ^


「ユ先生。勉学が出来るようになるには、如何したら良いのでしょう」
利発そうな若者が、清らかな瞳でウンスに問う。

チェ家の一角にある、柳医院。
病気に不安を抱えた患者の相談事に答えてやる。よくよく話しを聞いてやる。
それもまた、治療と同じくらい肝要な医者としての務めだ。
…だが、最近は病に全く関係の無い相談事も増えてきた。

そもそも最初は、子育てに不安を抱えた母親を何の気なしに励ましたのがきっかけだった。
膝が痛いと言う年老いた姑の、嫁にたいする愚痴を聞き、
顔のできものを気にする娘の恋愛相談。
ウンスは治療や処方を施しながら、うんうんと耳を傾け、当たり障りの無い返答をしてやるだけなのだが
何故か相手にはそれが一番心に寄り添う返答らしく、
「やはり先生に聞いていただいて良かった」
「胸のつかえが取れました」
などと、褒め言葉を残して去って行く。

「…ここは病院なんだけどな」
でも感謝をされて悪い気はしない。
澄んだ眼差しで見つめてくる少年を困ったように見返すと、

「うーん、勉学に大事なのは…努力と好奇心、かな。
なぜ?、どうして?って知りたい気持ちを大事にするのと、、あとはひたすら暗記あるのみ。」
薬を含ませた白布を、筋肉の無い細足の打身の部分に巻きながら、
「これで、よし。次の方どうぞ」
そう言うウンスに礼を言うと、若者は「なぜ、どうしてが大事…」
小声で繰り返しながら、医院を背に歩いて行った。

◇◇◇◇


「なぜ、どうして、には答えませぬ」
ヨンはウンスの手のかかる立ち振る舞い一つ一つに、苛立ちを覚えた。

「急かさないでよっ。だって、馬が動くんだもの」
恐る恐る馬具を掴む、白い手首。
キ・チョルに乱暴に囚われて付いたのであろう赤い痣に、再び怒りが込み上げる。

「馬が私を信じないのよ」
「では私を信じてください。落馬したら私が受け止めます」
「ほんと?」
少しばかり安堵した女人のその顔に、心が躍る。
頼りにされている様で、応えたくなる。

戻らぬテマンを待たずに先に行く。気がかりだが…
しかし、この方を連れて戻るとなると更に危険が付きまとう。

やっと馬を進めたものの、
女人は道中、尻が痛い、足がもう駄目などと言い
ちっとも先へ進めなかった。
宿がある港町まで辿り着けず、野宿をする旨を伝えると

「うそでしょ?」
と、透き通る鳶色の瞳を丸くした。

◇◇

「うそでしょ?本当に?」
サイコと野宿?っていうか、、チェ・ヨン将軍と野宿…。

「だってトイレ、、用を足したくなったらどうするの。お風呂は?」

「湯浴みは我慢してください。厠はこちらで」

サイコは冷静にそう言うと、茂みの奥に木の枝でせっせと穴を掘りだした。

「ここで用を足せって?」
いっそこの穴に入って泣きたいぐらいだ。
「…あっちから、あなたから見えないでしょうね」

「気配ぐらいは。そうでなくば守れませぬ。、、見たくもないので、ご安心を」
「はぁ…。」
毎日がとんでもない事の連続で、もうヤケになれば何でも出来るような気がしてくる。

「ねえ。結婚してるの?婚姻。
そう…私もよ。シングル」
こんな武者男と恋愛だって出来るような気もしてくる。

、、って、いやいや駄目でしょ。違う違う。何考えてるの、ウンス!
ふと血迷う自分に狼狽える。
違うのよ。ただね、どうせ一緒に旅するなら、お互いをもう少し知った方がいいかなって思っただけ。ただそれだけ。

、、さっきから早く寝ろってうるさいわね。
そうは言っても、こんなところじゃ落ち着かないし…ちょっと怖い。
不安な心地で、もぞもぞと寝心地の良いポジションを探していると
「あなたのご家族には」
サイコが口を開いた。

「…本当に申し訳なく。この旅を終えたら必ずやお返しするよう、尽力いたします故」
大きな体をこちらへ向けて、じっと見据えてくる。
「それまでは私がお守り致しますので、ご安心を。」

一瞬だけ、今まで冷ややかだった黒い瞳が強く優しく色づいた気がして、
暗闇の中でざわつく心がすっと鎮まるように落ち着いていった。
しかしすぐにまた向けた体を元に戻し、枝で火種をつつき出すと
今度は煩わしそうに「いい加減もう寝てください」と付け加えた。

「わかったわよ、寝ればいいんでしょ…グッナイっ」
さっきサイコが一瞬見せた瞳の色を、瞼の裏で思い出す。
心もとなかった気持ちが嘘のように、優しく睡魔が包んでくる。
お守りしますので、ご安心を。か。

約束、、守ってよね。
おやすみ。サイコ。