下の過去記事でも少しご紹介しているのですが、イスラエルが誇る「アイアンドーム」システムは 実際の性能よりも かなり誇大広告されているようです。

 

 

今回、物理学者でもありミサイルやミサイル防衛の専門家であるマサチューセッツ工科大学のセオドア・テッド・ポストル教授が出演されているビデオが面白かったので、内容をご紹介したいと思います。(ビデオのタイトル:イスラエルの”アイアンドーム”あなたが考えているようなものではない)

 

 

 

このビデオは1時間13分ほどもあって長いので、今回は重要なポイントを要約してご紹介します。

 

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下の写真の方は イスラエル軍のスポークスマンであるダニエル・ハガリ氏で、「イスラエルとその同盟国が行動し、ほとんどのイランのドローンとミサイルをイスラエルのシステムで迎撃した」と4/14にアナウンスしているところ。(イランからイスラエルの報復攻撃が行われたのは4/13)

 

(上の写真の向かって左側はこのYoutubeチャンネルのホストである元米軍中尉で今は軍事評論家のダニエル・デイビス氏で、右側がマサチューセッツ工科大学のテッド・ポストル教授)

 

まず、公式に宣伝されているイスラエルの防空システムの構造ですが、下のようになっています。

 

 

上のイラストで分かる通り、アイアンドームがカバーしているのは 短距離で狭い範囲のみで、その上に、中距離防空用のデービッド・スリング、大気圏外でミサイルを迎撃できると言っているアローシステムがあり、それが組み合わせれているのがイスラエルの防空となっています。

米ペンタゴンと共同でアイアンドーム・ロケットシステムが開発されたのは2000年代です。

 

イスラエルは4/13のイランの攻撃で たった5発のミサイルが防空システムを通り抜けただけだと言っています。

 

上の写真はアイアンドームのロケットランチャーからロケットが発射されているところ。

 

アイアンドームのロケットを発射する砲台は全部で10個あり、各砲台は4つのロケットランチャーで構成されており、各ロケットランチャーには20発のミサイルがセットされています。

これらは70km先からの飛来物に対応しているものです。

 

 

長距離または中距離からの飛来物には下のデービッド・スリングで対応するようになっています。デービッド・スリングはアロー2及びアロー3で構成され、弾道ミサイルやクルーズミサイルに対応している とされています。

 

 

(公式発表によれば)デービッド・スリングは大気圏外からの脅威にも対応していて3番目の保護層となっています。

 

また、発表によれば、イスラエル軍が保有しているステルス戦闘機のF-35もイランからのドローンを迎撃している とのこと。

また、4/13のイランからの攻撃では ニュースによれば、イスラエル軍だけでなく、米軍、イギリス軍、フランス軍、ヨルダン軍も迎撃に参加しています。ですから、ドローンのうちの多くはアイアンドームではなく、戦闘機から迎撃された と見たほうがよさそうです。

 

次に、このアイアンドーム・システムの経済的なコストはどうなのか?性能に見合うものなのか?についてですが・・・

 

(上の写真:米のFOXチャンネルでアイアンドームシステムの有効性を92%だと説明している専門家)

 

ポストル教授によれば、これはアメリカ国民の税金を騙し取るための一種の”ペテン”であり、悪だくみです。

アイアンドームの迎撃率は非常に低く、たった3~4%程度だそうです。

ポストル教授が「迎撃率が低い」と言っているのは大砲に対してです。

弾道ミサイルに対してなら、もっと迎撃するのは難しい。

(弾道ミサイルへの迎撃率は ほぼゼロ)

 

大砲と長距離弾道ミサイルの最も重要な違いは速度です。

弾道ミサイルは3.5km/秒の速さでやって来るのに対し、大砲のロケットは200~300m/秒,つまり0.2~0.3km/秒と遅い。

だから弾道ミサイルにはそもそもアイアンドームは機能しない。

 

ドローンやクルーズミサイルは飛行速度が遅く飛行機のようなものなので、アイアンドームで飛行機のレーダーで探知され迎撃できる。航空機は飛行しながらドローンやクルーズミサイルを探知や追跡ができ、それをダイレクトに戦闘機へと伝えて位置を教え、それらを迎撃できる。それはよく働きます。

 

下の2枚の写真はイスラエルの防空システムや航空機で迎撃できなかった4/13のイランのミサイルです。この場合は 迎撃用ミサイルが周囲を飛んでいる形跡さえもなく、地表にヒットしています。

 

 

 

 

 

 

下の写真はイスラエルのアイアンドームがカバーしているエリアです。

 

上の写真の中の黒い線の枠内のみが カバーされているエリアです。

このカバーされているエリア(人口の多いエリア)内に飛翔体が落ちる と予測された場合のみにアイアンドームのシステムが働くようになっています。

 

上の写真で、一番左下の黄色い〇で囲われているのがレーダー、その上にあるのが人が常駐しているコントロールセンター、そしてその横3つが迎撃ミサイルを発射するランチャーです。

 

 

上の写真は敵のロケットが向こうから跳んでくるところです。

地上の赤い〇で塗られた部分が着弾地点だと予測されて迎撃のミサイルがランチャーから放たれようとしています。

 

 

そして、上の写真のように、迎撃ミサイルがランチャーから発射されました。敵のロケットに対して真正面からぶつかった場合、それは迎撃成功になります。

 

しかし、ロケットに対して正面からではなく、真横や斜めからぶつかるような場合は 迎撃に成功することはほとんどありません。ロケットの先端に爆発物があるので、その先端に綺麗に当たらないとそのすり抜けた爆発物が地表にヒットして爆発するわけで、あくまで先端部分に当てないといけないわけですが、真横からの迎撃だと、通り過ぎるスピードが一瞬になってしまい、速すぎてタイミングが合わなくなってしまうからです。迎撃ミサイルがロケットの先端にヒットできなくて中間のところや後部にヒットしても 爆発物が搭載されたケースは地面に落下するので地表で爆発します。

 

下は非常に稀な写真で、アイアンドームの迎撃ミサイルが実際にハマスのロケットを迎撃したところです。このときは2発の大砲のロケットに対して16発もの迎撃ミサイルが打ち上げられましたが、1発のみの迎撃に成功しました。(迎撃ミサイルを16発打ち上げたうちの1発だけが迎撃に成功したので、迎撃率は0.0625)

 

上の写真の左上にある大きな火の玉が迎撃に成功したものです。

それ以外のたくさん飛んでいる小さな光は迎撃に失敗したアイアンドームからのミサイルです。

 

下の写真はアイアンドームの迎撃ミサイルが迎撃に失敗しているところです。

 

上の写真の上のほうで明るく光っているのがアイアンドームからの迎撃ミサイルです。しかし、敵のミサイルはすでに先に下のほうに向かっていて、アイアンドームからの迎撃用ミサイルは 迎撃に失敗して自爆しているところです。

 

 

上の写真も迎撃に失敗しているところです。線香花火のように尾を引いて出ているのは未使用の迎撃ロケットの燃料が放出され空中で燃えているところです。

 

そして、ハマスが使っている大砲やロケット砲は そもそもそんなに精度の良いものでもありません。

 

上の写真はハマスが使っているロケットの種類とその飛距離です。

最長で60kmのものもあり、イスラエルに脅威を与えるには十分な飛距離を持っています。しかし、「精度」となると、下のようになります。

 

ハマスが使用しているGRADロケットの精度は 上の写真の中央の×印のところを狙っても 50%精度でその外側の小さな丸い楕円内に落ち、94%の精度で一番外の大きな楕円内に落ちる という程度の精度となっています。そもそもGPSガイド機能のないロケットランチャーだから、このようにおおざっぱな精度になっています。

ですから、人口密集地ではなくて人の住んでいない場所や砂漠等に落ちるような場合も多々あり、空襲警報が鳴った時にすぐにシェルターに逃げ込めば、人の命に係わる大けがにはなりません。

 

そして、ロケットの先端の爆破する部分が 鉄パイプに火薬を詰めたような手作りで作られていることもあって、火薬の密度が低いと思われ、そもそも着弾しても「大爆発」までにはならない ということもあります。

 

しかし、飛距離はどんどん伸びているようです。

最近のものは 爆発物の搭載量も多く、ロケットも大型化して距離も伸びています。

 

上のイラストの一番左にあるのがアイアンドームの迎撃ミサイルで、その横にあるのが色々なロケット砲、一番右側はイランの最新型の多連装ロケットシステムFadjr-5(ファジル-5)です。飛距離は75km、爆発物の量が90kgになっていてアイアンドームの迎撃ミサイル(一番左)と比べればかなり巨大なものなので、これも迎撃は難しいのではないではないかと予想できます。

 

ファジル-5最高速度はwikipediaによれば秒速1.1kmとのことですから、弾道ミサイルの秒速3.5kmよりは遅く、普通の大砲の秒速0.2~0.3km/秒よりはかなり速いと言えます。そして このファジル-5になると、GPSまで付いているFadjr-5Cという派生型もあります。

 

 

そして、米国民にとって一番重要で詐欺的なことは このイスラエルが使っているアイアンドームに米国民の税金が多額に使用されていることです。

 

コストについて、イスラエルは1つの迎撃ミサイルに対して50,000ドルと言っています。

アイアンドームはほとんど米国で製造されている(レイセオン社:ロッキード・マーティンの子会社)もので、米国民がそれのほとんどをイスラエルに無償で差し出しています。しかし他国を守るためのものに米国の予算が使われるのはどうなのかという問題があるでしょう。

 

アイアンドームは基本的に空対空ミサイルを地上から発射できるように、地対空ミサイルへと改造したもので、その原型となった空対空ミサイルの「サイドワインダー」は$500,000かかっています。レイセオンがアイアンドームの迎撃ミサイルを製造しているが、イスラエルが言っている50,000ドルよりも高い200,000~500,000ドルもかかるのにそれを一般の人々が真実を知らされていないのです。 ジャーナリストがなぜ積極的に本当のことを言わないのか、私(ポストル教授)は理解できない ともおっしゃっています。全てアメリカ国民のお金です。

 

イスラエルが要求して適用しているものが アメリカ政府によって資金は提供されてレイセオンで製造したものが(イスラエルに)引き渡されています。

迎撃ミサイル500,000ドルが米国の会計に計上されて、米国民はそれをイスラエルに与えて、それがレイセオン社へと渡っている。そのお金はけっして米国を出ることはありません。

 

ポストル教授がいるマサチューセッツ州ではレイセオンは最も大きな雇用を生んでいる企業です。だからこの企業にお金が注ぎ込まれるのは重要なものとなっています。教授も防衛予算そのものに反対するわけではないが、アイアンドームに関してはこれらの兵器をイスラエルに与えています。自分たちが直接必要とするものではないものに国民の税金が使用されるのは如何なものかと思う。

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以上、教授の話に私が他のサイトで調べたことを付け加えて、要点のみまとめてみましたが、ご興味のある方は上のリンク先からビデオをご覧ください。

 

今回貼り付けた写真のうちの2枚は 元CIAのラリー・ジョンソン氏のブログ記事から

取っています。ラリー・ジョンソン氏も下のリンクでポストル教授の説明を写真入りでご紹介されています。

 

 

 

そして、日本国民にとって重要なのは 同じレイセオン社が製造していて日本が導入しているパトリオットミサイルシステムです。

これも最初は湾岸戦争当時から使われている古い迎撃システムですが、元々はミサイルではなく、速度の遅い「航空機を撃ち落す」為の迎撃システムです。

 

湾岸戦争時にイラクのスカッドミサイルを ほとんどこのパトリオットが撃ち落した とアメリカは言っていますが、それは嘘で、ポストル教授が詳しく調べたら実際に撃ち落せたミサイルは ほとんど無かったということが分かっています。

 

スカッドミサイルはソ連製の古い弾道ミサイルですが、イラク軍はそれをイスラエルに撃ち込む為、弾頭を軽くして射程を伸ばしたものを使用していました。もともとパトリオットシステムで弾道ミサイルを迎撃すること自体が難しいのですが、イラク軍が弾頭を軽くしたことで空気中でブレながら飛ぶ効果が加わった為、より迎撃困難になって、実際は一発も迎撃できていない というのが事実のようです。(しかし、ほぼ100%迎撃されたと今でも宣伝されている)

↓はwikipedia日本語版にあるの「スカッドミサイル」の記事の一部です。

 

 

パトリオットシステムについては アイアンドーム同様、かなり誇大広告が世界的に流布されています。

パトリオットシステムを運用している国の1つにサウジアラビアがあるのですが、イエメンのフーシ派(アンサール・アッラー)との戦争で、フーシ派からのイラン製のミサイル攻撃に対し、サウジアラビアのパトリオットはあまり役に立たなかったようです。下の写真をご覧ください。サウジの製油所にある4個の石油タンクのちょうど同じ位置を 驚くほど正確にイラン製のミサイルがヒットしています。(写真は元CIAのラリー・ジョンソン氏のブログより転載)

 

 

 

 

 

 

このサウジの石油製油所への攻撃に使われたのは4発のイランのクルーズミサイルです。

パトリオットが作動していたはずなのに、弾道ミサイルと比べてそんなに速度は速くないクルーズミサイルにも迎撃が出来ていないことが分かります。

 

ですから、私は以前からブログで言ってきたのですが、日本が導入しているパトリオットシステムが北朝鮮のミサイルを迎撃できるとは全く思ってないです。

北朝鮮は 弾道ミサイルをすでにたくさん持っていると思われ、それを近距離用として使用する場合、ロフテッド軌道でほぼ垂直落下するようなことになりますので、それをパトリオットで迎撃できる等と考えるのは幻想です。

ポストル教授の話では 「ミサイルを真正面から迎え撃って先端にヒットしないと迎撃できない」ということですから、垂直に落ちてくるミサイルならば、その真下から迎撃しないといけなくなります。そんなことができるはずもなく、もしも日本に撃たれた場合には 迎撃率は0%でしょう。

 

そして、イスラエルのアイアンドームの話に戻ると、ポストル教授の話が事実なら、アメリカ国民は 真実を知って怒るべきでしょう。

自国を守るものでもなんでもない、イスラエルの防空システムをアメリカの武器企業が米国民の税金で作って、イスラエルへ直接納品して差し上げているのです。

 

イスラエル以外の同盟国には パトリオット等の防空システムも多額の利益を上乗せして売るのに、イスラエルに対しては迎撃ロケット1発あたり500,000ドルのものを与えていて、イスラエルは「コストは50,000ドルしかかかっていない」と言っているということは 正味のコストは おそらく50,000ドルで、それを水増しして500,000ドルとして計上しアメリカ政府が買って、武器メーカーのレイセオンは大儲け、差額の450,000ドルは レイセオン社の高額な役員報酬や米国議員への政治献金として消えている という詐欺のようなものではないでしょうか。

 

ちなみに、今ペンダゴンのトップである国防長官を務めているロイド・オースティン氏は バイデン政権に入る前はレイセオン社の重役を務めていた方です。(下の写真はwikipediaからの引用)

 

 

このアメリカがイスラエルの為の兵器を作ってほぼ無料で差し出している というところを見ても アメリカとイスラエルの間にしかない、「同盟国以上の特別な関係」 があると言ってよいでしょう。

 

それに比べると、ボッタクリ価格で米の在庫処分の兵器を買わされている日本は 完全に馬鹿にされている というか、未だに米国政府は日本に対して第二次世界大戦の時と変わらないような"レイシスト"的な発想があって、完全に日本を舐めきっていると私は思います。