世界的ジャーナリストのシーモア・ハーシュ氏によれば、2022年9月26日にノルドストリーム・パイプラインを爆破したのは主犯格が米国、共犯格がノルウェーということでした。(以下の過去記事でそのことに触れています。)

 

 

 

 

 

ノルドストリーム1と2の各2本ずつ、合計4本のパイプラインのうち、3本は爆破されました。しかし爆破の影響がなくほぼ無傷で残ったのが完成したばかりだったノルドストリーム2の2本のパイプラインのうち1本あったのですが、ドイツのショルツ政権はロシアのウクライナへの侵攻を理由にその稼働を認めないままになったので、その後、ドイツ経済はたくさんの企業がエネルギー価格の高騰に苦しんでいます。

 

大手化学メーカーのBASFは従業員を2600名解雇して電気料金の安い中国に工場を移すなど、それまでロシアからのガス、石油パイプラインによる格安な電気料金に依存していたドイツ経済はその後、縮小の傾向を見せています。(米国のLNG価格はロシアからのパイプラインによるガスの4倍)

 

 

そして、ノルドストリーム・パイプライン爆破の恩恵を最も受けた と思われるのが主犯格の米国であり、北海油田の権益を持つノルウェーです。

 

欧州の中でNo.1の天然ガス輸出国となったノルウェー。↓

 

(上のグラフ:ノルウェーがロシアを追い抜いて欧州の中でNo.1のガスのサプライヤーになったことを示すグラフ)

 

下は欧州向けの米国産LNGの2022年以降の急激な伸びを示すグラフ↓

 

(上のグラフ:20211月~2023年6月の米国LNGの輸出先。特に欧州向け輸出が2022年、2023年に大きく伸びていることが分かる)

 

このように、米国にとっては ノルドストリーム・パイプライン爆破によって、ロシアのエネルギーから欧州を「切り離す」ことに成功したのですが、そうやって切り離しておいて、今度は 移民問題で連邦政府に歯向かう姿勢を見せているテキサス州に嫌がらせをする為に、LNGの輸出を一時停止する と発表したのです。

 

というのも テキサスはLNGの輸出港として、重要な拠点(全米のLNG輸出7箇所のうちの1箇所)となっていて、そこから得られる収入が大きいので、今回LNG輸出一時停止の理由をバイデン政権は「気候変動対策」と言っていますが、事実上、テキサス州への嫌がらせの為だと見られているのです。

 

下はテキサスのLNGハブについてのJETRO(日本貿易振興機構)の記事からの抜粋。

 

(記事抜粋引用開始)

 

米テキサス州メキシコ湾岸水素ハブ、バイデン政権の7つの水素ハブの1つに選定

米国バイデン政権が10月13日に発表した米国内7カ所の水素ハブ(2023年10月16日記事参照)のうちの1つに、テキサス州のメキシコ湾岸水素ハブ(HyVelocity Hydrogen Hub)が選定された。

メキシコ湾岸水素ハブには、最大12億ドルが提供される。同ハブはハイ・ベロシティー(HyVelocity、本部:テキサス州ヒューストン)を主体として、かねて「世界のエネルギー首都」と呼ばれるテキサス州ヒューストンを中心としたメキシコ湾岸地域が開発対象となる。ハイ・ベロシティーは、GTIエナジー(本社:イリノイ州デス・プレーンズ)を代表として、三菱パワーアメリカ(本社:フロリダ州レイクメアリー)を含む7社(注)のコアパートナー、テキサス大学オースティン校、センター・フォー・ヒューストンズ・フューチャー、ヒューストン・アドバンスド・リサーチ・センターなどによって構成される。

メキシコ湾岸地域は、総距離1,000マイル(1,609キロ)以上の水素専用パイプライン、48の水素製造プラント、多数の水素利用施設が存在するなど、米国の水素インフラ・水素利用の中心となっている。ハイ・ベロシティーによると、既存の設備やメキシコ湾岸地域の豊富な天然ガス、再生可能エネルギーの供給を利用し、天然ガスを改質して水素を製造しつつ、改質に際して発生する二酸化炭素(CO2)を回収・貯留(CCS)するほか、再生可能エネルギー由来の電力による水の電気分解による水素の製造などを計画しており、これら大規模な水素の製造によるコスト低減を目指すとしている。また、今後4万5,000人の雇用(3万5,000人の建設関連雇用、1万人の継続雇用)が見込まれるとしている。

 

(記事引用終了)

 

そして、この大きなLNGハブを持っているテキサス州への嫌がらせのためにLNG輸出の一時停止を発表したバイデン政権のニュースが↓です。NHKが報じています。

 

米 バイデン政権 LNG輸出許可一時停止 気候変動対策アピールか

 

(記事引用開始)

 

2024年1月27日 10時55分 

アメリカのバイデン政権はLNG=液化天然ガスの環境への影響を最新の手法で分析する必要があるとして、新たに輸出の許可を出すことを一時的に停止すると発表しました。ことし11月の大統領選挙に向けて、気候変動対策の取り組みをアピールする狙いがあるとみられます。

アメリカではFTA=自由貿易協定を締結している国以外にLNGを輸出する場合、エネルギー省の認可が必要になります。

バイデン政権はこの認可の手続きで、環境への影響を分析する基準がおよそ5年前のものだとして、最新の手法を取り入れる準備が整うまで、新たに輸出の許認可を出すことを一時的に停止すると26日発表しました。

ただ、この措置によってロシア産の天然ガスからの依存脱却を進めるヨーロッパ各国や日本を含むアジアの同盟国へのLNGの供給には影響しないと強調しています。

アメリカ国内では環境団体などからLNGの生産や輸出の増加に対する反発の声が上がっていて、バイデン大統領としてはことし11月の大統領選挙に向けて気候変動対策の取り組みをアピールする狙いがあるとみられます。

アメリカは世界一のLNGの輸出国で、2030年までには輸出量が倍増すると予想されていますが、認可の手続きが厳格化されることでLNGのプロジェクトに影響を及ぼすかが焦点となります。

 

(記事引用終了)

 

なんと身勝手な態度を取るバイデン政権でしょうか・・・。

 

欧州は 割安なロシアのエネルギーから無理やり引き剥がされて、その後は米国からの4~5倍の価格のLNGを大量に輸入させられ、今度は バイデン政権は 移民の流入を阻止しようとするテキサス州に対してあからさまに嫌がらせをするために、LNG輸出を停止する と言っているのです。

 

最近、エネルギー価格高騰に苦しんでいる農家が欧州各地で大規模なデモを行っていますが、庶民の怒りが爆発して、そのうちEU加盟国でクーデターのレベルになってもおかしくないかもしれません。

 

ウクライナ戦争へのスタンスを見ても ドイツのショルツ首相、フランスのマクロン大統領、英国のスナク首相含めて、EU加盟国とその周辺の国の大部分の首脳(声を上げているハンガリーとスロバキア以外)は 全く自国の利益にもならないことを自ら進んでやって、米国の属国的な立場にいるのを喜んでいるようですので、本当に情けない限りだと私は思います。