トルコのエルドアン大統領がプーチン大統領との約束を裏切って、ネオナチのアゾフ連隊の司令官5人をウクライナに返したことで もう流れは決まったようなものでしたが、トルコや国連の仲介で合意した、ウクライナからの穀物を黒海を通じて輸出する という合意の延長はもうしないことをロシアは7/19に発表しました。

 

これまで何度か延長されてきて、なぜ今回ロシアが延長を拒んだのか、Yahooニュースのコメントを見てみたら 何も状況を調べもせず、一方的にロシアを非難し「ロシアのせいで小麦粉の値段が上がってしまう」ということを書いていた人が多かったので、今回は 穀物合意で何が起こったのか、また、私達がスーパー等で購入している小麦粉の価格はどうやって決まるのか について説明したいと思います。

 

まず、ロシアが国連と合意した「穀物合意」についてですが、ただウクライナの穀物をオデッサ港(今現在はウクライナが支配)から黒海を通じて輸出する というだけでなく、同時にロシア産の穀物と化学肥料も輸出する というものでした。

そのためには 国際的な決済の時に必要なSWIFT決済から外されているロシアの農業最大手の銀行を復帰させる という合意もありました。また、化学肥料の原料として欠かせないアンモニアをロシアからウクライナのオデッサまで送るパイプラインもあったわけですが 戦争によって止まっていたのを ウクライナ側破壊工作員が今年の6月にわざと破壊して大量のアンモニアを流出させてしまうという、化学肥料輸出に必要なインフラの破壊行為までありました。(詳しくは下の過去記事参照)

 

 

 

そして、国連のグレーテス事務総長が保障していたはずの ロシアの農業最大手銀行のSWIFT復帰も 欧米が課した制裁によって行われませんでした。

 

そしてこの「穀物合意」によって大量のウクライナ産小麦は黒海から輸出され、その80%は貧しいアフリカではなく、EUとトルコに流れて、多くは豚等の家畜の餌になったことが確認されています。(詳しくは下の過去記事参照)

 

 

また、ウクライナ産の小麦が 農薬等の基準が厳しいEUで、人が食べる食品用としては ふさわしくない品質のものであることも判明しています。(スロバキアはウクライナから輸入した穀物をEUで禁止の殺虫剤が検出されたとして大量廃棄。詳しくは下の過去記事参照)

 

 

 

そして、EUと同等に遺伝子組み換え(GMO)を禁止、農薬も基準を厳しくしている、ロシア産の穀物ですが、国連、トルコの仲介で世界にまた輸出できると期待していたのに、SWIFTから外されたまま、貨物の保険も制裁によって掛けられないということで、まったく輸出できず、自前で輸出先を探さなければならなくなりました。

 

そしてロシアは昨年は無償でアフリカの国に大量の穀物を提供したりもしましたが、その後、期待していた「穀物合意」が全く機能しないことから、ロシアに制裁を課している国から買い手を探すことは諦め、ラブロフ露外相はアフリカ各国を訪問し、ドル決済からも脱却する形で、アフリカや中東等への輸出ルートを新たに作ったのです。

 

下のニュース記事には 今のロシア産穀物の最も大きな買い手はエジプト(1190万トンを購入)、トルコ(1020万トン)、アルジェリア(330万トン)、イラン(310万トン)、サウジアラビア(310万トン)・・・等と報じられています。

 

Biggest buyer of Russian grain revealed

(ロシアの穀物の最も大きな買い手が明らかにされた)

 

穀物が輸出されるオデッサ港はウクライナが支配しているはずなのに、なぜ「穀物合意」が必要だったのか というと、それはウクライナがロシアのクリミアの黒海艦隊を破壊しようと、たくさんの機雷を黒海に撒いて船が安全に航行できなくなったからです。そして機雷を撒いたのはロシアだと責任をなすりつけていました。(詳しくは下の過去記事参照)

 

 

 

 

ウクライナが機雷を撒いたのをロシアになすりつけ、穀物合意ではロシアが裏切られて、結果的に この合意を通じては ただの1kgさえもロシアの穀物を輸出させなかったわけですから、ロシア側にとっては 合意を延長する意味など、何も無かったわけで、延長せずにそのまま期限切れで終了させた というのが真相です。

 

そして、Yahooのコメント欄で短絡的にロシアを非難している日本国民の多くの皆さんが知らない、というか、ネットで調べればすぐに出てくる内容なのですが、穀物の中で、小麦を例にとって、小麦の価格がどう決まっているかを説明します。

 

まず、日本は小麦の85%を輸入に頼っていますが(国産は15%)、日本が小麦を輸入しているのは ウクライナでもロシアでもありません。

半分がアメリカ、その次がカナダ、次がオーストラリアとなっています。

 

(上のグラフは日清製粉のHPより抜粋)

 

そして国がまとめて小麦を購入し、製粉会社に売り渡される形となっています。

 

そして、小麦の価格はどのように決まるのかというと、日清製粉のHPに下の記述があります。

 

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2007年4月より、輸入小麦の売渡価格については、年間を通じて固定的な価格で売り渡される「標準売渡価格制度」が廃止され、新たに、小麦の国際相場等の動向を、輸入小麦や小麦粉及び小麦粉を使用した製品の国内価格に、適切かつ迅速に反映されること等を目的として「相場連動制」が導入されました。
この制度は、過去の一定期間における政府買入価格の平均値に、年間固定のマークアップ(売買差益)を加える仕組みとなっており、1年間固定であった小麦の売渡価格が、年2回改定されるとともに、小麦の国際相場や為替相場等の影響が自動的に小麦の売渡価格に反映されるようになりました。

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つまり、2007年4月までは「標準売渡価格」によって年間を通じて固定価格で売り渡されていたので、小麦の価格は安定して低くなっていたのが、それ以降は「相場連動性」となって、過去6ヶ月間の市場での価格変動が売り渡し価格に反映されるようになった ということです。

 

そして、その「相場連動性」というのが 何の相場で決まるかというと、下の記述が同じページにあります。

 

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輸入小麦の価格にはシカゴ相場が影響

シカゴ相場とは、アメリカで最も取引量の多い商品取引所で形成される農産物の取引価格のことです。
穀物では特に、とうもろこし、大豆、小麦が国際的な指標になっています。

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そして、その「シカゴ相場」という言葉は 商品先物取引をされている方には馴染みがあるでしょうけど、下のグラフのような価格変動があります。下は証券会社のHPから抜粋したものです。(シカゴ相場の小麦の月足チャート)

 

 

つまり、商品先物取引で儲けたいという投資家や、投機的な動きに日本政府から製粉企業への小麦の売渡価格が左右されるようになった ということです。(過去6ヶ月の小麦の買付価格の平均が政府からの売渡価格となり、それが4月と10月に改定される)

 

小麦や大豆、トウモロコシなど、世界中の人々が主食にしている穀物が このように投機の対象になって、天候不順による不作以外の理由でも価格が高騰するようになったというのが そもそも穀物が貧しい国にいかない原因ではないでしょうか。

 

株やFXなどの取引をされる方は分かるでしょうけど、上のチャートを見て、グラフの左端にある2017年頃と比べて、2021年の半ば頃から、いわゆる「ローソク足」または「ヒゲ」が長くなって、価格がより大きく変動するようになっている というのが見て取れると思います。これは金融緩和でジャブジャブと流された投機資金も商品先物市場に流入して、さらに大きく価格が変動し、不安定な相場になっていることを示しています。

つまり、主食である大事な穀物が このように「儲けの対象」になり、天候不順だけではなく、政治的、外交的な動きによっても価格が変動しているのを 2007年から政府が買取価格に反映させたことで、じわじわと小麦粉の値段が上がってきた ということなのです。

 

昨年はウクライナ(小麦輸出世界3位)でもロシア(小麦輸出世界1位)でも小麦が豊作で、世界の人々が食べる小麦の量としては不足はしていないはずです。

しかし、7/17に「ロシアが穀物合意を延長しないことを発表」というニュースの後に 小麦の価格が まさに投機的な動きで一時急上昇しています。

 

あと、飲食店やパン屋、菓子店等、小麦を大量購入する人にとって馬鹿に出来ないのが円安の影響です。

証券会社のHPで確認すると、7/17時点の終わり値で 小麦は653.750セント/bu となっています。

そして7/17時点でのドル/円は1ドル138.702円です。

100セント=1ドルで、1bu(ブッシェル)=約27.2155kgですので、この場合の1トンあたりの小麦の価格(円)を計算すると、下のようになります。

 

価格(セント)÷100(ドル換算)×36.74(トン換算)×ドル円為替 

ですから、653.75÷100×36.74×138.70=約33,314円 となります。

 

これが1ドル100円だと、653.75÷100×36.74×100=24,018円で、1トン当たり9,296円の違いになります。

スーパー等でよく袋で販売されている1キロ当たりだと9.3円ほどの違いでそんなに変わらないように感じるかもしれませんが、これはあくまで穀物そのものの価格差であって、国が製粉会社に売り渡す時には 過去6ヶ月間の商品先物での平均買付価格の上に海上輸送の運賃、保険料等の経費が上乗せされるわけで、その経費もドル円相場の影響を受け、また、製粉会社も製粉にかかるコストや輸送費、利益を上乗せして私達に売るわけですから、相場と関係ない円安のみによる影響も かつて円高だった時代と比べると、キロ当たり数十円はあると見たほうがいいです。

 

そして上のチャートを見れば分かる通り、2022年露宇の戦争で、また穀物価格が急騰していますが、最近は落ち着いていたところでした。

 

そして、全体として小麦が不足しているわけではなく、ロシアへの経済制裁によって、貧困国に行かないようにわざと操作されている ということはEUの特に東欧の国々が ウクライナからの穀物輸入に強く反対している状況からも分かります。

 

東欧各国は自国内でも穀物を生産しているので、安全基準も緩いか、まったく安全性を無視して生産された安いウクライナの穀物が大量に入ってきたら、農家が困るのです。

 

Five EU states want Ukraine grain ban extended – official

 

(和訳開始)

 

EUの5カ国、ウクライナの穀物禁輸の延長を望む

EU5カ国、ウクライナの穀物輸入禁止措置の延長を希望 -当局者
ウクライナへの穀物搬入を禁止する現行規則は9月に失効する

 

ウクライナと国境を接するEU加盟国5カ国は、ウクライナ産穀物の輸入禁止措置の延長を求めている、とハンガリーのイシュトヴァン・ナギー農業相が土曜日に発表されたヴィラガズダサグ通信とのインタビューで語った。

同大臣によれば、この輸入禁止措置は、ウクライナ産農産物のダンピングによって苦しんでいるEUの農家を保護するために必要な措置だという。

輸入制限に関して、ハンガリーはブルガリア、ポーランド、ルーマニア、スロバキアと共通の立場をとっており、欧州委員会は9月15日以降もウクライナ産穀物製品の輸入禁止を延長すべきである。

なぜなら、ウクライナの巨大農業企業は、非常に良好な自然条件のもとで操業しており、EUの農産物を割高にするような環境保護規制もない。

 

また、ロシアとの紛争により、ウクライナの輸出業者が市場価格よりも安く穀物を売ろうとする状況が生まれ、「この1年間で、東欧やハンガリーの穀物に離散的な影響を与えた」と述べた。
同首相は、穀物市場の状況について、「最も影響を受けている国境諸国の負担増と農民の利益」を考慮した欧州共通の解決策を見出すための努力を続けることを約束した。しかし、キエフに対しては、輸入禁止措置をウクライナに対する措置と見なさないよう求めた。

「キエフが理解することが重要だ: 最前線5カ国の行動はウクライナに対するものではありませんし、私たちは共同解決に関心を持っていますが、私たちは農民の利益を守り、世界の食料安全保障を維持しなければなりません」。

 

ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアは、ロシアがウクライナで軍事作戦を開始した後、ブリュッセルがウクライナの農産物に対する関税を停止したため、ウクライナの穀物が流入し、大きな損失を被った。EU5カ国は4月、ウクライナ産穀物の輸入禁止に動いた。

 

ブリュッセルはこれに対し、貿易政策におけるEUの優位性を主張し、5月に5カ国へのウクライナ産小麦、トウモロコシ、菜種、ヒマワリ油の輸入に「一時的な制限」を課した。当初は6月5日までだったが、後に9月15日まで延長された。

インタビューの中でナギは、各国が現在求めている延長の期間については言及しなかった。

キエフはこの輸入禁止措置に不満を抱いており、ブリュッセルに廃止を求めている。先月、ヴォロディミル・ゼレンスキー・ウクライナ大統領は、ウルスラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長が9月中旬に禁輸措置を解除すると「個人的に約束してくれた」と述べた。

 

(和訳終了)

 

 

農薬等の基準が厳しいEU産の穀物と比べて、ウクライナ産は規制が緩いか、あるいは規制があっても守られていないという状況の中で穀物を生産しているのであって、それが優遇されて大量に入ってくるとなると、東欧諸国の農家にとっては たまったものではないのであって、彼らが 自国の農家を守るため、ウクライナの穀物や農産品の輸入を禁止してくれ と要望しているのも分かります。

 

「ウクライナがTPPへの加盟申請を出した」というニュースを見て、私が真っ先に心配したのは同様のことです。

ウクライナの隣国のポーランドやルーマニアには行き場のないウクライナ産の穀物が大量に溜まっています。

 

本来は バイオエタノールや医薬品原料のような工業製品にしか向かないグレードのものを ポーランドの製粉会社3社が「ポーランド産」だと騙されて購入してしまった という事件にもなっています。(詳しくは下の過去記事参照)

 

 

日本でスーパーで売られている小麦粉を見れば分かる通り、国産のものだけ、「国産」とありますが、その他のものには原産地は ほとんど表示されていません。また、外食産業、食品メーカーなどはできるだけ安い小麦を使いたいでしょうから、安い価格でウクライナ産小麦が入ってきたら飛び付くでしょう。

 

日本の小麦生産者を守るためにも、また、食の安全を守るためにも 安全性に疑惑のあるウクライナ産小麦は日本に輸入させてはならない というのが私の意見です。

 

欧米が小麦の世界最大の輸出国ロシアに課している経済制裁こそが 貧困国に穀物が配分されるのを妨げているのです。

 

米のブリンケン国務長官が「食料を武器化している」とロシアを非難していますが、「食料を武器化している」のは 穀物をアフリカに輸出しようと努力してきて今もアフリカに輸出しているロシアではなく、欧米の「反ロシア連合」なのです。

 

最後に、ウクライナの穀物輸出に関わるEUとウクライナの「汚職」について、面白いtweetを見つけたのでご紹介します。

 ↓

 

 ↓

穀物取引の腐敗についての説明

ーウクライナは6300万トンの農業製品をEUに運んだ。

ーウクライナは260億ユーロをEUから受け取った。

ーEUは「連帯」の意味を込めて、2300万トンをEUに送り返した。

ーウクライナは「連帯」の意味を込めて、480億ユーロをEUに支払った

ーウクライナは220億ユーロを失った!

 

ビデオの中の男性は↓のように言っています。

 

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それで有名な「穀物取引」についてですが、ウクライナは6300万トンをEUに運んだ。色々な農業製品、これらは主に小麦製品です。

ウクライナはそれらの製品で260億ユーロを受け取った。それで全てがフェアに支払われた。

しかし、彼らは本当の価格の1/3、または1/4を支払った。

最も興味深いことは ウクライナからヨーロッパに行ったこれらの6300万トンは ウクライナに2300万トンが戻ったことです。なぜなら人々は何か食べる必要があるからです。
彼らは それを「連帯のための回廊」と呼びます。

だからヨーロッパは ウクライナをそのような方法で助けました。
それ(ウクライナ)自身の製品をウクライナに送り返して、ほとんど1/3に当たる量です。

面白いのは彼らは無料で受け取ったわけではなく、お金が必要で、ウクライナは480億ユーロを支払った。
それは ウクライナは260億ユーロを受け取ったが、480億ユーロを払ったということです。

6300万トンを動かし、2300万トンを受け取った。

私は 全てのウクライナ人に対し、(調べるために)30分かけることをすすめます。それは自由にインターネットで利用できます。

もし誰かが「ヨーロッパはなんてクールなんだろう」と考えるなら、それはよいことです。そして「全てがきちんとしていて、正直です。」


おめでとう。あなたはバカです。
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ほとんどの人が気づいていないが、資金援助の大半はニューヨークの銀行口座に送金されている。つまり、アメリカはEUからの資金さえもコントロールしているのだ。そのため、ウクライナがロシアとの和平協定に合意すれば、資金を凍結/差し押さえすると脅すことができる。

 

あと、2014年暴力クーデター以降のウクライナの農地は 農業大手、モンサント(2018年独のバイエルによって買収)やカーギルによって支配されて遺伝子組み換えのGMO種子がトウモロコシ等に使用されるようになった事などを私のブログの過去記事でご紹介しています。こちらもご興味のある方はご覧ください。