6/24、突然世界中で大きなニュースになりましたが、ワグナー代表のエフゲニー・プリゴジン氏がワグナーのルガンスク州にある野営キャンプの1つが 後ろからのミサイル(ウクライナ側からではなくロシア軍から)によって攻撃されて十数人が亡くなった」と言って怒りのビデオをSNSに投稿しました。そして、ロシア国防省のショイグ大臣、ゲラシモフ軍参謀総長の両氏をあらためて非難、ワグナー兵士25,000人とともに「正義のための行進」を行うと言ってロシア南部のロストフ市に入り、国防総省の主な建物を占拠する等して、その後、1200キロ先のモスクワに向かって高速道路を通ってワグナーの兵士が乗る装甲車の列を移動させる等しましたが、結局 モスクワの200キロ手前で引き返し、ワグナーの兵士は北部ベルゴロド州の野営キャンプに戻る という一連の事件がありました。

 

このニュースで多くの日本メディアは色めき立って「ついに打倒プーチンの”クーデター”が始まった」とか「ロシアは内戦になるのでは」という彼らの希望を報道しましたが、私から見ると、かなりおかしな報道だと思います。

 

まず、「クーデター」の定義というのは 「現政権を倒す為」に起こされる武力による反乱のことですよね。あらためて国語辞書で調べてみると、クーデターとは「既存の支配勢力の一部が非合法的な武力行使によって政権を奪うこと。」とあります。

 

しかし、プリゴジン氏について言えば、彼はショイグ氏、ゲラシモフ氏が大嫌いで何度もビデオの中で彼らを罵倒してきましたが、プーチン氏の悪口を今まで一度も言ったことはありません。元々レストラン事業をやっていたプリゴジン氏がプーチン氏に気に入られて外国の要人との食事提供等を行なったことで、ワグナーの代表に指名された という経緯もあり、プーチン氏に恩義があるものと思います。

 

そして大事なことは ワグナーという民間軍事会社は2014年にロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)が設立したものだということです。 プリゴジン氏はその代表に「任命された」だけであって、例えるなら、大企業の雇われ社長みたいなものなのです。

(詳しくは下の過去記事をご参照ください。)

 

 

 

そして、ショイグ氏、ゲラシモフ氏を罵倒する一方で、プリゴジン氏と一緒にバフムートでの「ミートグラインダー作戦」を考案したと言われているセルゲイ・スロヴィキン将軍に対してもプリゴジン氏はリスペクトや感謝をする発言をしています。

 

そしてプリゴジン氏の過去のビデオを見れば分かりますが、彼がロシア国防省に対して怒りの投稿をしている時は ワグナーの兵士に犠牲者が出ている と訴えているときだけです。今回のミサイルを野営キャンプに撃たれた という訴えのビデオでは 単に森林が映っているだけで遺体も何もありません。(ビデオを見たい方はこちらからご確認ください。)建物が壊れた跡もなければ、森林の木が焼け焦げたような跡もなく、本当にミサイルが当たったのかすら、プリゴジン氏が投稿したビデオからは定かではありません。(もちろん、ロシア政府は ミサイルをワグナーの野営地に撃ち込むなど、あり得ない と否定しています。)

数週間前のバフムート攻略戦では、ロシア軍から供給される砲弾が足りないためにたくさんのワグナーの兵士が命を落とした と言って20数体の遺体が並ぶ前で怒りの投稿をしていました。

 

そして、この事件が起こる10日ほど前、プリゴジン氏はプーチン氏と電話で話していた というワグナー兵士からの情報があります。 (情報元はこのビデオ

 

プリゴジン氏は基本、愛国者であって、国防省の官僚トップであるショイグ氏に文句はあれど、ロシアを不安定化させたりプーチン大統領を打倒するとか内戦を起こす という意図は全く感じられないのであって、彼が今回このような行動を取った背景には「お金と契約」の問題が大きいと言われています。(情報元はこのビデオ

 

というのは バフムート攻略が完了した5/21をもって ワグナーはロシア国防省との契約をいったん終了させられ、所属している個々の兵士はロシア国防省と再契約することが求められました。この決定に対しショイグ氏が嫌いなプリゴジン氏が「国防省と契約を結ぶつもりはない!」と、怒りの投稿をしていましたが、ロシア国防省は 今までボランティア兵士とかドネツク人民共和国軍、ルガンスク人民共和国軍、ワグナーというバラバラにあった組織を統一して全てロシア国防省が管理する ということを決定したのであって、そうなると困るのは 契約をしない限りロシア政府から収入が入ってこなくなってしまうプリゴジン氏です。

 

プリゴジン氏はショイグ氏の下に入るのは嫌なので国防省と契約したくないけれども、契約をしないと宙ぶらりんになったワグナーの25,000人の兵士に支払う給料の収入源がなくなるわけです。(ワグナー兵士の給与はロシア正規軍兵士の給与の1.5倍とか2倍とか言われていますので、ロシア政府からの収入を絶たれるとビリオネアのプリゴジン氏でも兵士への給与が支払えない)

 

プリゴジン氏が明らかに不満を持っていたのは 契約の問題なのであって、ロシア南部のロストフ市を「占拠」と言っても 単にワグナーの兵士が国防省のビルの中に入って、プリゴジン氏が国防省の担当者や諜報機関の長官代理と交渉をしているだけで、ロシア軍との間に軍事衝突があったわけではありません。

 

 

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プリゴジンはユヌス=ベク・イェフクロフ国防副大臣、アレクセーエフ副参謀長と会談。プリゴージンは、リマン、ケルソン、その他の都市を放棄したことを批判し、兵士の損失を非難した。友好的な雰囲気ではないが、クーデターのようにも見えない。

 

 

交渉決裂したと報道された後、1200キロ北のモスクワに向けてワグナーの軍車両が移動しましたが、途中でワグナーの持っている防空システムでロシア軍のヘリコプター2機が撃ち落とされ、それらのパイロット2名は不幸にも亡くなっているようです。しかしプリゴジン氏の「正義の行進」はモスクワに向かっていたはずが、なぜ200キロ手前で引き返したかと言うと、ベラルーシのルカシェンコ大統領が登場しプーチン大統領の了解を得て、直接プリゴジン氏と交渉しました。

 

プリゴジン氏は刑事事件での訴追を免れる代わりにベラルーシへ出国、プリゴジン氏と行動を共にしたワグナー兵士25,000人も何の訴追もされないことが決定し、ロシア北部のウクライナとの国境沿いの町、ベルゴロド州の野営キャンプへと戻っていきました。ロシア軍のヘリコプターのパイロット2名が亡くなったようですが、ワグナー兵士は一人も死亡していません。

ワグナーの兵士も全員、今後ロシア国防省との契約をすることになります。ベルゴロド州の野営キャンプへと戻って行ったワグナー兵士は 度々起こってきたロシア領土内へのウクライナ軍・工作員による砲撃から市民を守る「緩衝地帯」を作る為に、近いうちに開始されるであろう新たな軍事作戦に参加するであろうと思われます。

 

そして、プリゴジン氏が嫌っているショイグ大臣、ゲラシモフ参謀総長ですが、情報元によっては 彼らは更迭される という話もありますし、そのまま任務を継続する との話もあります。これは どちらなのか、後日分かることでしょう。

 

プリゴジン氏、ワグナーの兵士たちは いずれもかなりの愛国者であって、ロシアを不安定化させたり国民の支持率80%もあるプーチン氏を打倒したり、ロシアで内戦を起こしたい人たちではないことは明らかです。

ワグナーの兵士は ロシア軍の他の部隊とは違って、危険な都市部での「突撃」任務を行なっています。これは死ぬ覚悟がないとできないことであって、プリゴジン氏もそのような突撃部隊の最前線近くにまで同行する 等、相当の度胸がないと、なかなか出来ることではないと思います。

 

それなのに、今回のプリゴジン氏、ワグナーの行動を大喜びして「ついにクーデターが始まった。プーチン政権の終わりの始まりか」と報道している日本のメディアは 彼らの「希望的観測」を報じているだけでしょう。

 

そして、ソ連崩壊直後のエリツィン政権時代にソ連時代のロシアの国営石油企業を二束三文で買い取って大儲けし、その後プーチン氏が大統領になったことによってロシアから追い出されて英国に亡命中のミハイル・ホドルコフスキー氏も この騒動に大喜びするようなコメントを出しています。

 

ロシア反政権派の元石油王、プリゴジン氏の支持呼び掛け

 

(以下、上記記事の転載)

 

【AFP=時事】ロシアの元石油王で反政権派のミハイル・ホドルコフスキーMikhail Khodorkovsky)氏は24日、ロシア軍指導部の打倒を宣言した同国の民間軍事会社ワグネル(Wagner)の創設者エフゲニー・プリゴジン(Yevgeny Prigozhin)氏を支持するよう国民に呼び掛けた。 【写真】ワグネル部隊2万5000人「死ぬ覚悟」 プリゴジン氏  英ロンドンで亡命生活を送っているホドルコフスキー氏はソーシャルメディアに、「今すぐ支援しなければならない。必要なら、われわれも戦う」と投稿。  さらに、大統領府(クレムリン、Kremlin)を敵に回すと自分で決めた以上、「たとえ極悪人であろうと」支援することが重要だと訴え、「そう、これは始まりにすぎない」と続けた。【翻訳編集】 AFPBB News

 

 

(転載終了)

 

ちなみに、このホドルコフスキー氏は ヤヌコビッチ大統領を暴力によって追い出したウクライナでの2014年クーデターにも参加していました。この時はジョージア(グルジア)から参加したスナイパーが無差別に人を撃っていたという証言もあり、100名以上が死亡するという大惨事になっていますが、誰ひとりとして逮捕されていません。

 

暴力クーデター(ユーロ・マイダン)では108名が死亡し、2014年5月に起こった通称「オデッサの悲劇」では48名が死亡したわけですが、いずれも逮捕者ゼロ というところが 2013年秋以降から2014年クーデター発生以降のウクライナという国は もうすでに まともな「法治国家」ではなくなっている ということを示しています。

 

そのような法治国家ではなくなっている国が 大手メディアが賛美している「自由と民主主義の為に戦うウクライナ政府」なのですが、残念ながら、多くの日本国民が大手メディアに騙されて嘘・捏造報道を信じ込まされています。

日本にいらっしゃる、ウクライナ人でよくメディアに登場されている、なんとかレンコさんも その暴力的なユーロ・マイダンの参加者であることを公言しておられますが、あの暴力シーンをビデオや写真で見る限り、これが「自由と民主主義」だと、何一つ自慢できるようなものではないことは明らかです。

 

上の記事に登場するロシアの国営企業を盗んだユダヤ人オリガルヒのホドルコフスキー氏は イギリスに亡命する前は シベリアで10年間勾留中されていましたので、とにかく、プーチン氏が憎くて憎くて仕方ないようです。

ですが、この"プリゴジン劇場"を「クーデター」だと思い込んでぬか喜びした上の記事のホドルコフスキー氏の勘違いコメントは 失笑ものだと私は思います。