傭兵企業ワグナーの代表、エフゲニー・プリゴジン氏はかなり強烈な個性の持ち主のようで、彼が前線近くから投稿する様々なビデオやメッセージに多くのメディアが釣られてしまっています。

 

ある時は「砲弾が要求した量の30%しか届いていない。砲弾があれば失わずに済んだワグナーの兵士を多数失った。」と20数体の遺体が並ぶ前でロシアの国防大臣のショイグ氏や参謀総長を務めるゲラシモフ氏の2人を罵倒したり、「このまま砲弾が来ないなら5/9の戦勝記念日まで戦って5/10にはワグナーを撤退させる」と投稿、その後、「無制限に砲弾を供給するとの約束があったので残って戦う」というビデオを投稿するなど、メディアの側が彼の投稿に振り回されている状態です。

 

軍隊経験がなく元々レストラン事業を営んでいたビリオネアでありながら、最前線にいるワグナーの兵士たちの少し後ろで 命の危険をも顧みずビデオを投稿し続けるプリゴジン氏は 前線近くに行かないショイグ氏とゲラシモフ氏が嫌いなのか、よく彼ら2人を非難していますが、彼のやり方は この「特別軍事作戦」を支持していたりワグナーを応援しているロシア人の間でも非難の声が上がっているようです。

 

ワグナーが砲弾不足 というのは バフムートで戦っているウクライナ兵士も そのような兆候はないと言っていますし、砲弾不足ならば、高いビルが立ち並んで本来防御側に有利なはずのバフムートでワグナーが進軍できていないはずですが、ほぼ毎日進軍していますので、砲弾不足はないはずです。

味方からも賛否両論あるプリゴジン氏のビデオメッセージは おそらく「西側メディアやウクライナ軍を騙す為の演技だろう」 という説と、「軍経験のない素人(プリゴジン氏)が前線近くで本当に正気を失っているのでは」という説がありますが、私も どちらが本当なのかは分かりません。

 

ただ、言えることは 私の下のビデオを見るまで知らなかったのですけど、傭兵企業の「ワグナー(ワグネル)」はプリゴジン氏が設立した私企業ではない ということです。

 

 

 

実はワグナーは ロシアの諜報機関である、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)が設立したもので、プーチン大統領と親密になったプリゴジン氏が そのGRU付属のワグナーの代表へと指名された ということです。ですから、ロシア大統領の報道官のペスコフ氏が セルビアのマスメディアからのインタビューでワグナーのプリゴジン氏のことを質問されて、「前線からビデオでSNSに投稿している"個人"がいるが、ワグナーはロシア軍の一部」だと答えている とのことです。

ですから、ワグナーの兵士たちは 事実上、ロシア軍の司令官の命令で動いていて砲弾も供給されているのであって、軍経験のない代表のプリゴジン氏が指揮しているのでも何でもない というのが実情です。

 

そのようなワグナーの成り立ちを踏まえて考えると、あえて前線近くにいる必要のないプリゴジン氏がわざわざ危険を犯して前線近くに行って色々なビデオをSNSのTelegramに投稿する というのは 代表の彼が「メディア戦略」を担当しているのではないか というふうに私は思いました。もちろん、そのプリゴジン氏の「メディア戦略」の中には 大手メディアやウクライナ軍を騙す、心理戦や情報撹乱も含まれています。

 

その例として、ロシアでの戦勝記念パレードが終わった翌日の5/10から、ウクライナ軍の「反撃作戦」が始まったのですが、この反撃作戦の中で 明らかにウクライナ軍がプリゴジン氏のビデオに騙された と思われる戦闘がありました。

プリゴジン氏は5/12に 「バフムート郊外の南部からワグナーの兵士を撤退させてその後を正規のロシア軍部隊に引き継いだら、ウクライナ軍の反撃が始まった途端にロシア軍が逃げた。全員だ!」と怒りのSNS投稿をしました。

そのようなプリゴジン氏のビデオを ウクライナ全力応援の西側メディアが取り上げないはずがありません。すぐに拡散されて「ウクライナ軍がバフムートの一部を取り返した」とニュースになりました。しかし、運河の東側まで撤退したロシア軍がそこで待ち構えており、ウクライナ軍を運河の西側に入ってきたウクライナ軍に壊滅的な打撃を与えた というのがその後の展開です。

 

 

上の写真はウクライナでの戦闘の前線の動きを毎日Youtubeで配信されている、Defense Politics Asia さんの5/13のビデオからキャプチャしたものです。

上の写真の赤い線がロシア軍の動き、青い線がウクライナ軍の動きです。ここを守っていたワグナーが撤退して正規のロシア軍に変わった途端に少数のウクライナ軍が攻撃してロシア軍が死傷者ほぼなしの状態で白い線のところ(運河の東)まで撤退→プリゴジン氏がロシア正規軍の弱腰の撤退に対して怒りのビデオ投稿→ウクライナ軍兵士が上の地図の狭いエリアにさらになだれ込む→運河東に建設されたトレンチや近くの森に潜んでいたロシア軍に攻撃されて多数の死者を出す ということが起こっています。

 

この例では まさにプリゴジン氏のビデオによって「釣られ」て、ウクライナ軍が作戦に参加した千数百人のうち500数十名を失うという大損害を出したということであって、ロシア軍から見れば プリゴジン氏の行動は 結果的にメディア戦略が上手くいった事例と言えるのではないでしょうか。

 

もちろん、一部の人がネットで言われているように、プリゴジン氏が 本当に前線で精神的に正気を失っている可能性もなくはないです。 でも、あくまでロシア軍との契約で、ロシア政府からのみ多額のお金を貰っているワグナーが そのような正気を失ったオジサンを前線からビデオメッセージをSNSに投稿させ続ける というのもかなり不自然な話です。

本当に彼が精神的に正気を失ったとか、ロシア軍上層部との深刻な対立により、ロシア軍にとってネガティブな情報ばかりをビデオで流しているのでしたら、プリゴジン氏を前線から連れ去る とか、場合によっては殺してしまう ということは 仲間のロシア軍ならば、簡単にやろうと思えばできるはずですので、それをやらないで放置している という事自体、プリゴジン氏が「メディア戦略」や「心理戦」を担当しているのだ と思うことのほうが 無理がない気がします。

 

今回、ウクライナ軍が 反撃作戦で バフムート郊外の北と南での一部のエリアの「解放」の為に、どれだけ多くの被害を出したか、インドのメディアも報道しているので、下でご紹介します。

元のビデオは↓です。

 

 

ビデオのタイトルは「ロシア軍、前線での激しい攻撃により、24時間で1600人以上のウクライナ軍を掃討」です。

 

__________

 

ウクライナの反撃へのロシアの激しい反応

 

 

ゼレンスキーの男たちは前線付近でロシアの怒りに直面

 

 

1600名以上のウクライナ軍が1日のうちに排除された。

 

 

ウクライナが反撃作戦をバフムートから開始したという報告の中、ロシア軍は前線に沿ってヴォロディミル・ゼレンスキーの男たちに「地獄の炎」を放った。

 

 

ロシア国防省はその防空システムが3発のHIMARとURAGANロケット推進飛来物を過去1日で迎撃したと発表した。

 

 

25機のウクライナのドローン攻撃もまた、過去24時間以内に撃墜されたと報告されている。

 

 

ドネツク州だけで、伝えられるところではロシア軍は900名のウクライナ軍兵士を殺傷し、3台の榴弾砲と7台の自動車を破壊した。

 

ウクライナの110機械化旅団の弾薬庫がアヴディフカ近くで破壊された。

 

 

YUGグループの部隊は ロシアの発表通り、チャシヴヤルで”敵の”部隊に砲撃被害を与えた。

 

ウクライナのSu-27戦闘機1機もまたロシア軍によってここで撃墜された。

 

 

ロシア国防省:敵は540名の犠牲者と8台の戦車の喪失に苦しんだ。

 

60名以上のウクライナ軍、1台の装甲戦闘車両、2台GRAD MLRS、米国製のM109PALADIN 大砲システムがクピヤンスク方面で壊滅させられた。

 

クラスニリマンでは75名以上のウクライナ軍兵士が報じられるところによると全滅した。

 

 

ロシア国防省はドネツク南とザポリージャ方面でのウクライナ軍の損失は110名の兵士、戦車、大砲、2台の車両と付け加えた。

 

 

伝えられるところによると、最大40名のウクライナ軍兵士がヘルソン方面で殺された。

__________

 

このインドのメディア(Hindustan Times)のニュースで伝えられている通り、ロシア国防省の発表が本当ならば、ウクライナ軍は反撃作戦で バフムート郊外の北と南の少しのエリアは解放できたものの、それによる人命の代償があまりにも大きすぎる状況ではないでしょうか。

 

下の地図の薄い青色で塗られた部分は ウクライナ軍が5/10~12の反撃作戦で取り返したエリアを示しています。(バフムート郊外の北と南。ちなみにバフムート市内中心部はこの2日間の間もワグナーがさらに進軍してロシア支配下エリアを広げています。)

(上の地図の薄い青色で塗られている部分が ウクライナが5/10~12の反撃作戦で取り返したエリア。この地図はウクライナの戦況マップをYoutubeで配信しているNWE WAR REPORTS さんの5/13ビデオよりキャプチャさせていただきました。)

 

ゼレンスキー大統領も 反撃作戦で多くの兵士の命を失うことになることは予想はしていたようで、「勝利は可能だと思っているが、多くの人命を失うことになる」として、もっと完全な準備ができるまで、反撃作戦の延期を示唆する発言をしていました。

下の記事はニューヨーク・タイムズの5/11付記事です。

Zelensky’s Announcement of Counteroffensive’s Delay Stirs Debate

(ゼレンスキーの反撃作戦の遅れのアナウンスが議論を巻き起こす)

 

(以下、記事の一部抜粋和訳)

 

ゼレンスキー氏はインタビューで、ウクライナがすでに受け取った武器があれば「我々は前進することができ、成功すると思う」と述べた。「しかし、我々は多くの人を失うことになるだろう。それは受け入れられないと思います。したがって、待つ必要があります。まだもう少し時間が必要だ」

 

(一部抜粋和訳終了)

 

私がこの記事の下書きを書いているのが5/13の午前の時点ですので、今後も続くと思われるウクライナ軍による反撃作戦の展開はまだ分かりませんが、ウクライナ軍の戦い方の過去の事例から見て、彼らは地上戦で劣勢になればなるほど、ドンバス地区の市民をターゲットにした砲撃やロシア国内に越境してのテロ攻撃を行う傾向があります。

しかし それらのテロ攻撃は ロシアに併合された4州の住民やウクライナ国境に近いロシアの町の市民に恐怖を与えることにはなっても、地上戦の結果を大きく左右することにはなりません。

そしてウクライナ軍や諜報機関の工作員がやっている一般市民を狙ったテロ攻撃を ほとんど報道しない というのが大手メディアの姿勢です。

 

5/19から日本で行われるG7サミットでは ウクライナに対する金銭・兵器支援をできるだけ長く続ける ということをG7首脳の間で確認して、発表するようです。

 

日本国民の多く、おそらく約90%は 単純に大手メディアの報道に騙されて、ウクライナに支援しなければならない と思っているようですが、岸田首相がキエフに訪問する前、ウクライナに2兆円を支援する と発表したときには Yahooのコメント欄等を見ると、「日本のどこにそんな余裕があるんだ?」と、批判的な意見が大多数でした。ですから、多くの方は 自分の生活で精一杯なのに日本政府が行っている海外への金銭支援には否定的な見方をしているということです。

 

ウクライナという「巨大なブラックホール」に 今後も日本政府からお金が注ぎ込まれ続け、そのお金は 汚職大国のウクライナで どのように使われるかの調査もできない ということを考えれば、ウクライナとロシア、どちらが善で悪かという善悪論はさておいて、何よりもまず、私達自身の国や自国民をもっと大切に考えるべきではないでしょうか。仮に善悪論で判断するにしても、アメリカやNATOが中東やアフリカ等で行ってきた数々の侵略戦争が「善」であるはずがないのですが、米追従の日本はそれに対して闇雲に支持とか賛成しかしていないので、日本政府の今の立場は大いに矛盾していることになります。

 

岸田政権がやっているように、日本国民には実質的な増税や社会保障の負担増を強いる一方で、NATOがロシア解体やプーチン政権崩壊を諦めない限り、汚職や兵器転売のブラックホールと化したウクライナに 今後も日本から私達の税金が流れ込み続けるのです。

 

そう考えれば、日本が取るべき立場は NATOからは距離を置く、1日でも早く戦争を終わらせる為の和平の推進であるべきなのですが、岸田政権がやっていることは真逆で、ロシアの外交官を追い出したり政府の資産を凍結したり、NATOの日本事務所開設予定とか、日本の国益は全く無視しています。 そのように、ただ米追従しかできない、自国を守るための核武装もできない日本は 今後も 国民を苦しめる代わりに、海外には多額の支援をし続ける、米の言われるがままに高額な兵器や在庫処分の兵器を買い続ける ということになります。