今日、私たちは実にたくさんの物を与えられ、
便利に組み立てられた生活の中に実をおいている。
その全部を遠慮なく受け取るのが現代人の生き方であるに違いないのであるが、
ただやっかいなことは、そうすると、
誰も彼もが一つの方の中にはめ込まれてしまうことである。
…みんな大きなベルトの上に載せられて、同じところへ運ばれていくようなものである。
こうした現代において、自分が自分であることはなかなか難しい。
たくさんある物をみんな貰わないで、受け取らない物を自分で作る以外なさそうである。
みんな受け取ったら自分がなくなってしまう。
切り捨てることが大切である。
切り捨てなかったら、自分が自分でなくなってしまうからである。
故郷の鏡 井上靖