豊岡中央病院の会長で、旭川市在住の小児科医50年の田下昌明先生のコラムからです。

女性は出産したら、その時から母になるわけではありません。
女性は全員母性発生システムを備えていますが、
そのシステムはスイッチを押さなければ母性は発生しない、
母親にはなれない。
母子双方にとって、最初の大切なスイッチは産後30分以内の初回授乳(もちろん母乳)。
赤ちゃんが吸いついたり、赤ちゃんと母親が素肌で触れあうことで、
産後の出血を止めるオキシトシンが分泌され、出発点になります。
基本的信頼が少しずつ積み重なり、子供が生まれてから生後六ヶ月まで、
母子はお互いを離れがたい存在としてインプリンティング(本能的な刷り込み)されます。
赤ちゃんが乳首に吸いついて母乳を飲むこと
赤ちゃんが母親の顔を見つめること
母親が赤ちゃんに話しかけること
母親が赤ちゃんと微笑みあうこと
赤ちゃんが母親にしがみつくこと
母親に赤ちゃんがついて行こうとすること
赤ちゃんが泣き叫ぶこと
これらのやりとりを重ねるうちに、母子それぞれの遺伝子に組み込まれている
母この関係成立のためのシステムの開発因子になっています。

インプリンティングが生後半年頃までに終わると、次はアタッチメント(愛着行動)が出てきます。
人間の場合、アタッチメントが成立するのに三歳までかかります。
要するに、子供は養育してくれる人にくっついてる状態をいかに維持するか。
母親にとっては、誰を一番に守らなければならないのかを確定させる行動。
このアタッチメントは、人を信頼するという、人間性の基本になり、一生続きます。

これは、鳥類からほ乳類まで共通し、人間では成立までに三年かかり、
短縮する方法も、代わりの方法もなく、
ゆえに、生まれてから三年間は、
母親と子供は24時間一緒にいることが望ましく、
育児途中で母子が離ればなれになることは、
母子ともに発達が阻害されます

こうして、発達が阻害されれば、母子の関係形成不全が発生します。
三歳までの健全なアタッチメント形成こそ、その後の食育や教育の基礎となります。
近年、いびつな心の青少年や、ニート、パラサイト、無気力な子供、小食な子供、いじめ、
青少年犯罪の凶悪化の多くは、根底に基本的な人間性の形成不全、母子の関係形成不全が叫ばれています。

いかがでしょうか?
今の社会全体は、人間として、人間らしい生き方をしているのでしょうか。
問われる時代ですね・・・