行きはよいよい、帰りは怖い。それでも出生前診断を受けますか? | いおりくんの色えんぴつ

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いおりは2012年生まれのダウン症の男の子。福岡市在住。
ダウン症についてたくさんの人に知っていただきたいと
思いブログをつくりました。

童謡 『通りゃんせ』の歌詞は不気味である。


通りゃんせ 通りゃんせ ここはどこの細道じゃ 天神様の細道じゃ
ちょっと通してくだしゃんせ 御用のないもの 通しゃせぬ
この子の七つのお祝いに お札を納めにまいります
行きはよいよい 帰りはこわい 怖いながらも 通りゃんせ 通りゃんせ


「行きはよいよい 帰りはこわい」とはどういうことなのか?
その理由が全く説明されないので、なんだか怖い。
子どものお祝いという幸せな場面とはとうてい結びつかない
不吉な言葉だけに、すこぶる不気味だ。
子どもが神隠しにあう、とか、貧しさのために口減らしで子どもを殺すことを
天神様に許してもらいに行くのだ、という意味だとする説が
出てくるのもうなずける。



 出生前診断の現場も、「通りゃんせ」の世界である。
出生前診断の検査を受けるとき、人々は事の深刻さを理解していないケースが多い。


出生前診断が普及しているイギリスの例であるが、
出生前診断に先だって検査についての説明が行なわれ、その上で
妊婦さんが検査を受けるかどうかを自分の意思で決める仕組みだという。


そこでの実際のやり取りを見ると、
「みなさんに提供しているお決まりの検査でして、受けるのは義務ではありませんが、」
(みんな受けますよ、と暗に誘導しているように感じられる)という切り出しで、
母体血清マーカーテスト(=ダウン症などの染色体異常)が紹介される。


助産婦「ダウン症候群はご存知ですか?」
妊 婦「ええ、知ってます。」
ダウン症についての説明は以上、終わり。ええっ~!!本当に知ってる?)

続いて検査の内容の説明が行なわれる。
「確定診断ではない、250分の1以上のハイリスク(≒陽性)とする、
検査でハイリスクと出た場合、希望するなら羊水検査を受けることができる」


 検査の内容については確かに説明されているが、
ダウン症の人がどんな特性を持っていて、どんな暮らしをしているか、は全く紹介されていない
 以上の説明を受け、この病院では約2/3の妊婦さんが出生前診断の検査を受けている。
そして検査の結果、およそ20人に1人(5%)の妊婦さんがハイリスクという告知を受ける
                (坂井律子1999『ルポルタージュ出生前診断』NHK出版)



お母さんの血液を使って検査する母体血清マーカーテストや新型出生前検査(NIPT)は
確定診断ではないので、ダウン症の可能性がある場合にはさらに羊水検査をして
本当にダウン症かどうかが確認される。


 ダウン症の赤ちゃんが生まれる確率は1000人に1人と言われるので
(晩婚化・高齢出産の増加で2011年度データでは1000人に3人に上昇している)、
検査を受けた人の大部分は結果陰性で「染色体異常なし」。ああ、よかったと
胸をなでおろし、以前と変わらぬ幸せな妊娠生活が続くことだろう。

しかし、ごく一部ではあるが、結果陽性だった人は、検査結果を聞いた瞬間から
地獄に突き落とされたような苦しみを経験することになる


お母さん「先生、赤ちゃんがダウン症だそうですけど、どんな治療をするんでしょう?」
医 師  「残念ながら、治療法はありません。」
お父さん「染色体異常があると流産しやすいと聞きますが、この子が無事に産まれてくる
      可能性はどれくらい低いんでしょうか?」
医 師 「いえいえ、心配せずともこの子は無事に産まれてきますよ。」
  (・・・ダウン症ってよく知らないけど、私たちに育てることができるんだろうか・・・)

医 師 「そうそう、中絶が認められているのは妊娠21週末までですから、今週中に
      赤ちゃんを産むか、中絶するか決めてください
。」
お母さん「そんなこと急に言われても決めれません。先生、どうしたらいいんでしょう?」
医 師 「私には何とも言えません。自分たちで決めて下さい。」


 こうやって、
①ダウン症のこと、社会の支援制度など、必要な情報がほとんどない状態で、
②予想もしなかった状況にぼう然自失になったり、パニックになったり、

とても冷静に物事を考えられない状況で、
③限られたわずかな期間で、
④医者には自分たちで決めなさいと突き放され、親族からも

あれこれ口出しされる状況で、
人生の中でも何度もない非常に重大な選択をせまられる。


まさに、行きはよいよい、帰りはこわい。
それでも、出生前診断を受けますか?


染色体異常という病気がわかったとしても、その治療法がないこと。
だから、陽性の場合は産むか人工妊娠中絶するかの二つの選択肢しかないこと。
産む決断をした場合、出産までの4~5か月、不安や苦しみを抱えて過ごすことになること。
中絶を選んだ場合、心の傷が一生残るかもしれないこと。
ダウン症は、本当は産むかどうかを議論されねばならないほど重度な障害ではないこと。
ダウン症の子どもがいても幸せに暮らしている家族がたくさんいること。


検査を受ける前に、ぜひ知っていてほしい。


治療法もないのに、病気だと告知して人を苦しめる。

医療技術は本来、人を幸せにするためにあるべきではないのだろうか。


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