ニュースでご存知の方も多いと思いますが、2023年5月12日に、改正健康保険法などが、参院本会議で可決されました。

(全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律)

 

高齢者に関係するポイントは次の3つです。

・75歳以上の医療保険料を段階的に引き上げる

・出産育児一時金の財源の一部を、後期高齢者医療制度も負担する

✳️出産育児一時金の支給額は令和5年4月から42万円→50万円に引き上げられました

・高齢者医療を全世代で公平に支え合うために、高齢者医療制度を見直す

 

順番に見ていきましょう

 

医療保険料の引き上げ

 

引き上げの対象となる高齢者は、年金収入が年153万円を超える人で、75歳以上の約4割に当たります。

激変緩和措置として、2024年度については、年211万円を超える人に絞り、2025年度からは、年153万円に対象が拡大されます。

今回の改正では、低所得者層に新たな負担が発生しないように配慮されて、対象者が定められています。

 

厚生労働省の試算によると、2025年度の保険料は、年収200万円の人が、年3900円増で9万700円。

年収400万円の人が、年1万4000円増で23万1300円となる見込みです。

 

保険料の上限額の引き上げ

 

また、保険料の上限も引き上げられることになり、2025年度には、現在の66万円から14万円増80万円となります。

14万円もの引き上げは、過去最大だそうです。

もっとも、この引き上げが影響する人は、現在上限の66万円に該当する方ですので、14万円増といっても、皆さんがびっくりされる必要はないと思います。

 

後期高齢者の医療保険料は、

所得割額+均等割額

=賦課のもととなる所得金額×所得割率+均等割額

で計算されます。

 

令和4年度と5年度の東京都の所得割率は9.49%、均等割額4万6400円ですから、保険料の上限に達している人は、賦課のもととなる所得(前年の所得から基礎控除を除いた所得)が約640万円以上という、かなりの高額所得者です。

従って、この上限引き上げの影響を受ける人は、ごく一部の方で、「高額所得者に、より多くの負担を求める」という改正の主旨に見合った引き上げと言えるでしょう。

 

出産育児一時金の財源を一部負担

 

出産育児一時金は、4月から、42万円から50万円に引き上げられました。

出産育児一時金の財源は、これまで原則、現役世代が加入する医療保険の保険料で、賄われてきました。

支給額は年額3千億円規模で、2019年は3800億円余りです。

 

2024年度からは、より幅広い世代を含めて社会全体で負担を分け合うために、後期高齢者医療制度から費用の一部を回す仕組みが導入されます。

負担の割合は7%分ですが、24年度と25年度は、激変緩和措置のため、半額の3.5%を負担することになります。

 

今回の保険料引き上げも、この新たな負担に伴い、導入されました。

 

高齢者医療制度の見直し

 

現在、窓口負担を除いた後期高齢者の医療費は、4割が現役世代の拠出金、5割が公費で賄われており、後期高齢者の保険料で負担しているのは、1割に過ぎません。

制度が創設された2008年度に比べると、1人当たりの後期高齢者の負担が2割増えたのに対して、現役世代の拠出金は7割も増え、その差が問題となっています。

 

今後は、後期高齢者の医療給付費を、後期高齢者と現役世代で公平に支え合うため、負担率の設定方法について、

・後期高齢者1人当たりの保険料と、

・現役世代1人当たりの後期高齢者支援金

の伸び率が同じになるように、負担割合も見直されることになります。

 

また、65歳~74歳の、いわゆる前期高齢者の医療費に対する現役世代の支援金も見直されます。

健康保険組合や全国健康保険協会(協会けんぽ)等、保険者間で負担の均衡を図ります。

報酬水準に応じて負担が調整できるような仕組みが導入され、協会けんぽの負担は、減ることになりそうです。

 

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現役世代の社会保険料の負担は、この20年で1.4倍に増えたという統計もあります。

(総務省家計調査 2022年度)

そのため、お給料が上がっても、使えるお金が増えないという結果となり、個人消費が伸び悩んだり、少子化が進むなど、色々な問題が指摘されています。

 

高齢者の負担増や、高齢者医療制度の見直しが、今後とも進んでいくことが予測されます。

 

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※データは、令和2年度、3年度のものです。

 

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