「日経新聞より気になる記事」

今回は11/3づけ「成年後見 進まぬ利用」という記事より、成年後見制度の問題点を考えてみることにしましょう。

 

成年後見制度については、このブログでも何度か取り上げました。

 

 

この制度、認知症支援の切り札として位置づけられているにもかかわらず、なかなか利用が進んでいません。

認知症の高齢者は2020年時点で約600万人、それに対して成年後見制度の利用者は、2021年時点で約24万人。わずか約4%にとどまります。

 

利用されなかった制度

 

新聞には、認知症の父親の家を売りたかった子の事例が、記載されています。

成年後見人を立てなければ売却できないのですが、制度に対する不満から、結局、この方が、後見人制度を利用することはありませんでした。

 

 

成年後見制度が敬遠される6つの理由

 

上の例以外でも、次のような理由で使い勝手が悪く、成年後見制度の利用に二の足を踏む方は多いようです。

 

(1)申請しても、親族が後見人に選任されるとは限らず、選ばれる基準もわからない

最高裁によると、2021年に選ばれた後見人のうち、親族は2割弱で、司法書士や弁護士などの専門職が、多数を占めています。

 

(2)後見人を辞めさせたり、交代させることが、難しい

成年後見人の辞任や解任については、家庭裁判所に認められなくてはならないと、法律で決められています。

 

「後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる(民法第844条)」

「後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、後見監督人、被後見人若しくはその親族若しくは検察官の請求により又は職権で、これを解任することができる(民法846条)」

 

つまり、家庭裁判所に認められるような正当な理由が無ければ、後見人を辞めることはできませんし、また、不正な行為や、著しい不行跡等のない後見人を、辞めさせることもできません。

ただ親族が気に入らないからといって、後見人を辞めさせたいと、家裁に請求することはできないのです。

 

(3)基本的に、亡くなるまで制度の利用をやめられない

法定後見制度が終了するのは、次のような事由があった時です

1.本人が死亡する。

2.後見等開始の審判が取り消される

 ①後見等の原因の消滅(本人の判断能力の回復など)

 ②任意後見の開始

 

例えば、認知症の親の家を売りたいと思って、そのために後見制度を利用し始めた場合、その家が売れて目的が果たされた後も、親が亡くなるまで、後見制度を利用し続けなければなりません

 

(4)後見が必要となる場面が終わっても、報酬の支払いが続く

弁護士などの専門職が成年後見人になった場合、報酬の目安は月額2万円。財産が多いと報酬も増えることになっていて、5千万円以上だと、報酬も5万~6万円に上がります

子どもが後見人に選ばれたとしても、後見監督人がついた時は、監督人に対して報酬がかかります。

そして、その額は、家庭裁判所の審判によって決められ、子どもの自由にはなりません。

報酬の支払いは、後見されている人が亡くなるまで続きます

場合によっては、トータルで、大変な高額となることもあり得るのです。

 

(5)財産の使い途が、限定されている

後見制度の主旨は、後見される人の財産を守ることです。

本人のためではない出費はできません。

 

たとえそれが、本人が望んだ出費であっても、認められないのです。

例えば、親が子どもたちと旅行をしたり、外食をして、自分がその費用を出したいと思っても、子どもたちに奢ってあげることはできません。

子どもたちにかかった費用は、本人のための出費ではないからです。

あるいは、孫の教育資金は出してあげる、と親に言われていても、親が認知症になり、後見制度の利用が始まると、孫のための出費はできなくなります。

せっかくの親の気持ちが、報われないことになってしまうのです。

 

(6)家庭裁判所への後見等開始申し立てや、

開始後の財産状況の報告など、事務が難しい

まず、親の後見開始を申し立てるには、戸籍謄本や住民票などのほかに、親の財産目録や収支状況報告書などの書類を、家庭裁判所に出さなくてはなりません。

また、自分が後見人に選ばれた後も、家庭裁判所による監督の下、後見業務が行われるので、通常1年ごとに、家庭裁判所から、報告書や財産目録、収支状況報告書などの提出が求められます。

後見監督人が選任されている場合は、監督人に対して報告などを提出します。

このような、手続きの煩雑さ、報告義務の負担も、成年後見人制度のハードルを高くしている一因と言われています。

 

 

成年後見人制度の改善を目指して

 

成年後見人制度を、もっと利用してもらうため、使い勝手の悪い制度を改善する動きが出ています。

 

●親族が後見人に選ばれることが増える

●柔軟に交代ができる

 

2019年に最高裁が、ふさわしい親族等の支援者が身近にいる場合は、その人を後見人にするのが望ましい」という見解を示しました。

また、2022年度から始まった成年後見制度利用促進計画では、「本人にとって適切な後見人の専任や、状況に応じた交代の推進が明記されています。(第二期成年後見制度利用促進基本計画より)

https://www.mhlw.go.jp/content/000917337.pdf

 

●「限定後見」の導入も検討されている

限定後見」とは、必要な時だけ制度を利用できる後見制度、つまり、後見制度の一時利用のことです。

後見が不要になったら、すぐに制度の利用をやめることができます。

従来から、成年後見制度利用促進専門家会議で議題に取り上げられてきましたが法務省と公益社団法人「商事法務研究会」が、6月に立ち上げた有識者研究会で、「限定後見」の論点整理が始まりました。

この研究会では、後見人の柔軟な交代や報酬のあり方などの改善点も議論されており、2026年度までの民法改正を目指しています。

令和4年6月7日 第1回 成年後見制度の在り方に関する研究会 議事録より

https://www.shojihomu.or.jp/documents/10448/18470707/gijiroku-2.pdf

 

●市民後見人の育成強化

市民後見人の育成は、自治体の努力義務とされており、養成講座を各自治体が実施しているところです。

市民後見人は、地域の実情に明るく、助け合いの精神で、きめ細やかな支援ができますし、報酬も専門職に比べて低く、さまざまなメリットが期待できます。

ただし、2021年4月時点で、約1.9万人が受講しているのに対して、専任された市民後見人は、約1600人どまりで、まだまだ活用実績は低いのが現状です。

市民後見人についても、過去記事を参考にしてください。

 

 

●任意後見制度の利用

任意後見制度は、成年後見制度の一つであり、判断能力がまだ十分にあるうちに、自分で後見人を選ぶことができる制度です。

子どもと任意後見契約を結んでおけば、将来、親が認知症になった場合、子どもが成年後見人になることができます。

親の財産が、直接第三者に管理され、子どもが財産状況を知ることもできない、といった事態を回避するためには、これも有効な手段です。

 

 

いかがでしょうか。

成年後見制度には、様々な問題があります。

しかしながら、その問題点が洗い出され、改善に向けた議論は、確実に進んでいます。

議論が進み、利用しやすい制度になることを期待したいと思います。

そして、制度の改善を待つだけではなく、同時に常日ごろから、親ごさんとのコミュニケーションを大切にして、お子さんご自身が、親の財産を守ることができるように、考える必要もありそうです。

 

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