成年後見制度とは

 

近頃、認知症の話題になると、必ずと言って良いほど、成年後見制度のことが取り上げられます。

成年後見制度は、介護保険制度と同じ、2000年に生まれました

これまで、あまり浸透してこなかった成年後見制度ですが、2016年には、「成年後見制度の利用の促進に関する法律」が施行され、市区町村が中心となって、その利用促進計画が進められています。

今後、ますます高齢者が増えるにつれ、認知症の人も増えると予想される中、成年後見制度は、それに対応できる手段として、徐々に知られるようになってきました。

 

でも、自分には子どもがいるから関係ないとか、手続きが難しそうで使えない、と思っている人は、まだまだ多いのではないでしょうか。

 

この制度は簡単に言うと、「判断能力が不十分なために、自分のことが自分でできない人を支援し、必要な手配をする制度」です。

「支援する人」を「後見人」と言います。

 

成年後見制度は2種類ある

 

その後見人を、後見される人が自分で選ぶことができるのが「任意後見制度」で、家庭裁判所が選ぶのが「法定後見制度」です

 

任意後見制度」は、まだ判断能力のあるうちに、将来、認知症になった時に備えて、自らの意思で後見人を選んでおくことができる「事前措置」です。

それに対して、「法定後見制度」は、すでに判断能力が不十分になってしまった場合に利用する、「事後措置」の制度です。

 

今回は、その任意後見制度について、仕組みや手続きを見ていきましょう。

 

任意後見制度とは

 

「将来、自分の判断能力が低下したときに備えて、あらかじめ信頼できる人を選んで任意後見契約を結んでおき、判断能力が低下したら、任意後見を開始させて、任意後見人のよる支援を受ける制度」

 

後見人選びも契約の内容も、すべて自分で決定できます。

そのため、自分の意思を尊重した支援を受けるには、最も適した制度と言われています。

 

利用できる人(委任者)

判断能力が十分な人でも、少し不安な人でも、誰でも契約できます。

ただし、自分で契約できる程度の判断能力は、当然必要です。

後述しますが、契約は公証人が作成する公正証書で行いますので、判断能力の有無や契約の意思については、公証人が面接の時点でチェックすることになります。

 

任意後見人になれる人(任意後見受任者)

成人であれば、誰でもなれます。

特に資格などは必要ありません。

委任者が、自由に選ぶことができます。

子どもなどの親族はもちろん、親族以外の第三者の場合は、近所のお知り合い、友人、任意後見を扱う法人、市民後見人など、信頼できる人を選べます。

弁護士や司法書士、社会福祉士といった専門家に依頼することもできます。

 

任意後見人に委任する職務

任意後見人に委任する職務は、委任者と受任者の話し合いによって、自由に決めることができます。

その内容は、

・財産管理に関する法律行為

・身上監護に関する法律行為

の2つに分類されます。

 

これら法律行為の具体的な範囲について、委任者の生活状況、財産状況などによって決めていきます。

一般的には、財産管理に関する法律行為として、預貯金の管理や払戻し、不動産の処分、遺産分割、賃貸契約の締結や解除。身上監護に関する法律行為として、介護契約や施設に入所する契約、医療契約。さらにこれらに伴う行政手続きなどを、後見人の職務の範囲とし、契約を結びます。

 

任意後見契約の流れ

 

任意後見契約の特徴的なことは、希望する相手と契約を結んでも、それだけでは後見が始まらない、ということです(契約の効力がまだ発生しない)。

委任者の判断能力が低下して、後見を始めたい時は、まず家庭裁判所に任意後見監督人を選んでもらわなければなりません

監督人が選ばれて初めて、任意後見契約の効力が発生し、任意後見を受任した人は任意後見人になれるのです。

任意後見人は、監督人の監督の下で、後見業務を行います。

監督人には、特に資格は必要ありませんが、司法書士などの専門職や、社会福祉協議会などが選任されることが多いようです。

 

報酬について

後見が開始されると、委任者は、任意後見人と任意後見監督人に報酬を払うことになります。

任意後見人は、委任者との話し合いによって報酬額を決めて、任意後見契約の中に定めることができます。

通常月に1万円~4万円程度です。

一般的に、専門家に頼むと、高いです。

親族の場合は、報酬なしとすることもあります。

任意後見監督人の報酬額は、自分たちでは決められません。

家庭裁判所の決定に従います

だいたい月に1万円~2万円程度です。

 

 

後見が開始されるまでの支援は?

 

任意後見制度は、将来の備えとしての成年後見制度です。

では、将来とは具体的に、いつのことでしょうか。

 

現時点で、契約を結ぶことは可能でも、既に判断能力がかなり衰えていて、すぐ後見を開始する必要があるケースもあります。

このタイプの契約は即効型」と呼ばれ、任意後見契約後、直ちに監督人を選任する申し立てが行われます。

 

また、今は充分に判断能力があっても、将来、いつ衰えるかは予測できません。

もしかしたら、後見開始まで、何年も、何十年もかかるかもしれません。

それまで、任意後見契約は効力を持っていないわけですが、もしその間に、何か支援をしたい場合は、どうすれば良いのでしょう。

 

そもそも、判断能力というのは、徐々に衰えていくものです。

後見開始まで何もできないような状態では、その変化にも気づけません。

常日頃、見守りながら、いよいよ後見を開始すべき時を、見定める必要があります。

また、判断能力はまだあるのだけれど、病気や身体の衰えにより、財産管理や生活の支援をお願いしたい、という要望が、委任者から出る場合もあるでしょう。

 

もしも、任意後見契約しか結ばれていない場合は、このような要望に応えられません。

このような契約のタイプを「将来型」と言います。

将来の備えとしての契約だけ、というタイプです。

 

それに対して、任意後見契約と同時に、通常の委任契約も結んで、財産管理等の事務を委任したり、見守りを行う、という方法があります。

 

このような任意後見契約は「移行型」と呼ばれます。

将来、判断能力が低下するまでの間、別の委任契約で財産管理や見守りを行って、任意後見契約が始まるまでの繋ぎにするわけです。

任意後見契約の3つのタイプの中で、一番普及しているタイプです。

将来への備えに加えて、今の不安に対応することもできる、柔軟な方法と言えるでしょう。

 

この委任契約の内容は、委任者の生活状況や財産状況によって、自由に決めることができ、報酬も当事者同士で自由に決められます(第三者であれば、通常1万円~2万円程度)。

 

次のように、大きく2本の柱があります。

・見守り契約

 任意後見が始まるまでの間、支援する人が、委任者と定期的に連絡を取り、生活を見守る。

・任意代理契約(財産管理委任契約)

 任意後見が始まる前でも、支援する人に財産の管理や身上監護をしてもらう。

 

具体的に委任する内容は、任意後見契約と同じように決めておきます。

この任意代理契約は、すぐに開始しなければならないわけではありません。

委任者がまだまだ元気で、代理も不要であれば、将来、委任者が財産管理等に不安を覚え、必要と感じた時から開始することも可能です。

 

自分が亡くなった後に備える

 死後事務委任契約と遺言

 

人が亡くなると、入院費用や施設費用の精算、遺体引き取りなど、必要な手続きが様々ありますね。

これを誰にやってもらうか、ということは、いわゆる「おひとり様」の懸案事項の一つと言われています。

 

これは、任意後見契約を結んでいても、同じです。

任意後見契約は、生きている間の財産管理事務や、生活の支援を目的とする契約であって、委任者が亡くなると終了してしまうからです。

 

任意後見人に自分亡き後の事務を依頼したい場合は、任意後見契約と同時に、「死後事務委任契約」を結んでおくと安心です。

 

死後事務委任契約の内容は

・医療費の支払い

・賃料、管理費などの支払い

・介護施設利用料の支払いなど

・葬儀や埋葬、納骨に関する事務

・遺品整理

・お役所への手続き

など、多岐に渡り、通常、別途報酬を定めます。

 

また、公正証書遺言を作成しておくと、自分の財産をどのように処分して欲しいか、葬儀はどのように行いたいか、など、自分の希望を叶えることができます。

 

任意後見制度を有効に利用するために

 

任意後見制度は、将来、信頼できる人に、財産管理や身上のことを任せることができる制度です。

これに委任契約を組み合わせることで、より柔軟な対応が可能となり、亡くなった後まで自分の意思を反映した支援が受けられます。

 

最も普及している「移行型任意後見契約」であれば、

 

・財産管理等委任契約+見守り契約

・死後事務委任契約

を同時に結び、遺言書を作成し、セットで備えてておくと安心です。

 

公証人と公正証書

任意後見契約を結ぶには、必ず公正証書によって、行わなくてはなりません。

公正証書とは、法律の専門家である公証人が作成する公文書です

任意後見契約は自由度が高く、委任する人が本人の意思で契約するものである上、任意後見を受任する人も、法律の専門家とは限りません。

契約の内容や、手続き方法など、まずは最寄りの公証役場の公証人に相談して、任意後見制度を上手に利用しましょう。