以前、このブログで「成年後見人」について話題にしました。

日本の高齢化が進むとともに、認知症などによって、金銭管理ができなくなったり、様々な手続きが難しくなったりする方が増えています。

そのような方々をサポートする人が、「成年後見人」です

 

今日はその中の、「市民後見人」について、お話しましょう。

 

さて将来、判断能力が衰えて、誰かに後見人になって貰いたいとしたら、あなたはどんな人に後見を頼みたいですか?

お子さんや身内の方など、ご親族でしょうか。

それとも弁護士などの専門家でしょうか。

頼れる親族もいなければ、どうしたら良いのでしょう。


市民後見人は、親族でも、専門家でもありません。

市民後見人における「市民」とは、「地域社会で生活する住民であり、その生活の中から物事を考え、地域の人たちと関係を築き、共に地域で暮らしていく人たちのこと」です(介護と連携する市民後見研究会H23年度報告)。

いわば、お隣さんです。

 

もちろん、市民後見人は、お仕事として後見をしますので、単なるお隣さんではありませんが、市民としての目線でサポートを行うというところに特徴があります。

市民後見人は、地域社会での生活の延長線上で、後見業務を行う成年後見人なのです。

 

成年後見人になる人

 

成年後見人には、特に資格等は必要とされていません

後見される人の親族か、親族でないかで、「親族後見人」と「第三者後見人」の2つに、大きく分かれます。

親族は、配偶者、親、子、兄弟姉妹、その他親族です。

さらに、「第三者後見人」は、「専門職後見人」と「市民後見人」、「その他(知人、友人など)」に分かれます。

専門職後見人は、弁護士、司法書士、社会福祉士が主ですが、他の専門職も、続々とその数を増やしています。

 

成年後見人として市民後見人が登場するまで

 

法定後見制度の場合、申し立てに基づいて、家庭裁判所が成年後見人を選任します。

後見開始や後見人の選任など、家庭裁判所が扱った成年後見に関係する事項

成年後見関係事件の概況(最高裁判所)」

という資料で、制度開始の平成12年度から、毎年度公表されています。

 

この資料の中の「成年後見人等と本人との関係について」という項目を見ると、成年後見人にどのような人が選ばれているか、さらにその変遷もわかります。

親族後見人と第三者後見人の割合の推移は、次の通りです。

 

(平成13年度~H20年度は省略)

 

成年後見制度が開始された平成12年度の段階では、親族後見人が90%以上を占め、第三者後見人は10%にも満たない割合でした

当時、第三者後見人は専門職と法人のみで、市民後見人は、まだ影も形もありません

 

その後、徐々に第三者後見人の割合が増えていき、平成24年にとうとう、親族後見人との割合が逆転しました

第三者後見人が増えた要因としては、親族後見人は不正が多いという理由で、家庭裁判所が選任しなかったり、そもそも後見人の候補となる親族が存在しないケースが多くなったり、などが挙げられると考えられます。

 

第三者後見人の中の専門職後見人として、弁護士、司法書士、社会福祉士以外にも、行政書士、税理士、社会保険労務士等の団体が、それぞれ独自に成年後見人の人材育成に力を入れ、どんどん後見人の数を伸ばしています。

ちなみに、令和3年度の報告で、社会保険労務士が初めて専門職として明記されました

 

とはいえ、増え続ける認知症高齢者、増え続ける第三者後見、これに対応するには、専門職だけでは間に合いません。

 

市民後見人が初めてこの資料に登場したのは、平成23年からです。

それ以来、人数は徐々に増えていますが、割合としては、いまだ1.0%~1.1%と、けして充分多いとは言えません。

現在、市区町村の主導で、市民後見人の普及が目指されている最中です。

 

そもそも市民後見人が注目されるようになった背景には、地域の認知症高齢者や判断能力が不十分な人を、その地域で生活する住民が支える仕組みを作らなければならない、という機運が高まったことがあります。

平成23年の老人保険法改正では、市区町村に市民後見を推進するための努力義務が課されました。

中核機関として、地域連携ネットワークを作り、市民後見人を養成・支援・監督することが、広く市区町村に呼び掛けられるようになったのです。

 

最近、申し立てがあれば、親族後見人の選任を増やそうという方向に、家庭裁判所が舵を切りました。

ですが、後見人になる親族がいなかったり、身寄りのない人が、今後も増えると予想される中、地域社会における市民後見人の重要性は増していくでしょう。

 

市民後見人が目指す地域社会

 

市民後見人は

専門職以外の自然人のうち、本人と親族関係及び交友関係がなく、社会貢献のため、地方自治体等が行う後見人養成講座などにより、成年後見制度に関する一定の知識や技術・態度を身に付けた上、他人の成年後見人等になることを希望している者

と定義されています(成年後見関係事件の概況より)。

 

つまり、市民後見人は、営利を目的に活動しているわけではなく、社会貢献のために他人の成年後見人になることを希望している人です。

同じ地域に根ざした市民として、目の前の困っている人を、身近な地域住民の立場で支援したいという思いで活動しています。

そしてそれは、自分が暮らしている地域を良くしていきたい、地域の福祉を向上させ、将来にわたって、自分も安心して暮らしていける地域社会を実現していきたいという思いに繋がるものです。

 

時代の要請に応える市民後見人

 

今、国をあげて一億総活躍時代と言われ、住民一人一人が地域活動に参加して、助け合うことができる「地域共生社会」の実現が目指されています。

 

地域共生社会とは

地域のあらゆる住民が役割を持ち、支え合いながら、自分らしく活躍できる地域コミュ ニティを育成し、公的な福祉サービスと協働して助け合いながら暮らすことのできる「地域共生社会」を実現する必要がある。厚生労働省「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部資料

 

また、成年後見制度の利用促進に関する法律(平成28年)にも、

……財産の管理や日常生活に支障がある人を社会全体で支え合うことが高齢社会における喫緊の課題であり、かつ、共生社会の実現に資すること、及び成年後見制度がこれらの者を支える重要な手段であるにもかかわらず十分に利用されていない……

そのためには、

「……成年後見制度の利用の促進に関する施策を、総合的、かつ計画的に推進する……」

ことが必要である謳われています

 

単身者、身寄りのない方、判断能力が衰えた方、等々、支えが必要な人は、今後もどんどん増え続けるでしょう。

こうした社会構造の中で、市民が成年後見人となって、支え手になることは、市民一人一人が安心して住める地域共生社会を実現する、有効な途として期待されているのです。

 

このように、市民後見人は時代の要請に応えるべくして生まれ、国や地方自治体の期待を背負い、後押しされています。

市町村や都道府県、そして自治体に業務を委託されている社会福祉協議会やNPO法人などの組織には、地域連携ネットワークの中核機関としての役割が求められています。

そして、市民後見人を養成し、後見監督人となって、監督・指導・支援し、バックアップしていくという役割を果たします。

 

果たして普通の一市民に、自分の将来を任せて良いのかと、不安に思う方も、このような背景を知れば安心できるのではないでしょうか。

 

市民後見人を探すには

 

それでは、市民後見人に後見人になってもらうには、どうすれば良いのでしょうか。

 

法定後見の場合でも、知り合いの市民後見人をつけたいという申し出を、自分で申し立てることは可能です。

また、「市町村申立て」と言って、申し立てる親族等がおらず、代わりに市町村が成年後見人選任の申し立てを行う際、地元の市民後見人を候補とし、社会福祉協議会が成年後見監督人となって、市民後見人を監督・指導するケースも、近年増加しています。

 

ただ、後見人の選任は家庭裁判所が行うため、必ずしも、ご自分の望む人に後見人になってもらえるとは限りません。

また、法定後見制度は、かなり判断能力が衰えてから利用する制度ですから、細かな委任内容を自分で決めにくいという難点もあります。

 

まだまだご自分は判断能力があるけれども、将来の不安に備えて後見人を決めておきたいという場合は、任意後見制度を利用する方法があります。

 

任意後見制度は、ご自分で後見人や委任内容を決め、公証役場で契約します。

そのため、自分の意思を尊重した支援を受けるには、最も適した制度と言われています。

 

判断能力が衰えたら、家庭裁判所に任意後見監督人を選任してもらいます。

監督人に対して、市民後見人は報告の義務を負い、また指導・監督を受けます。

後見する側もされる側も、安心して利用できる制度と言えるでしょう。

 

地元のお役所や社会福祉協議会は、市民後見人の育成・指導をし、後見人候補者を集めています。

市民後見人を探したいと思ったら、まずは、お住まいの自治体に問い合わせてみることをお勧めします。

 

市民後見人の問題点

 

さて、これまで述べたように、明るいビジョンばかりが謳われる市民後見人ですが、その数は、思うように伸びていません。

まだまだ問題は、山積みなのです。

 

問題点の一つ目は、市民後見人の人材不足、特に若手不足です

 

前述の「成年後見関係事件の概況」という資料で定義されているように、市民後見人の基本は「社会貢献」です。

そのため、その報酬は、わずかなものです。

その結果、市民後見人になろうという若い人が少なく、後見人候補者も、リタイア後、地域に貢献したい、報酬は二の次という人が多くなりがちです。

 

しかしながら、後見人は、人の一生を見守り、その人に代わって契約を結ぶなど、広い代理権を持った重い責任を伴う仕事です

 

60代、70代で後見人になろうかなと思う人がいても、自分の健康や将来にも不安を抱えながら、他人の人生を亡くなるまで見守らなければならない、この先何十年続くかわからない後見人になるのは難しい、と二の足を踏むこともあるでしょう。

 

もっと、仕事内容に見合った報酬を得ることができれば、若い人も、たとえば副業として等、市民後見人を目指す人が増えるかもしれません。

また、後見人ただ一人に負担がかからないような仕組みづくりも必要です。

最近、後見人の報酬や、後見人のスムーズな交代について、見直しが進んでいるのは嬉しい傾向です。

 

もう一つの問題は、市民後見人をバックアップする自治体の地域格差です

 

市民後見人の育成やバックアップ体制が、良好に進んでいて、たくさんの後見人が安心して活躍できている地域もある一方、体制が不十分で、後見人に過度の負担がかかっている地域が、まだまだ多いのも現状です。

 

市民後見人を探したいと思った時、まず地元のお役所や、社会福祉協議会に問い合わせてみることをお勧めしました。

自治体等にコンタクトを取ることによって、地域の支援体制を確認することができます。

お住まいの自治体は、後見人の候補者を多く抱え、バックアップ体制も整っているでしょうか。

それとも、これから整えて行こうとしているのでしょうか。

そのあたりの情報を手に入れましょう。

 

市民後見人は、善意の市民の力だけでは長続きしません。

やはり、それを支える自治体の力、後見人を支える組織が大切です。

市民後見を利用するなら、それを確認してから利用した方が、後々のトラブルを回避できると思います。

 

地域共生社会の実現に向けて、包括的な支援制度が構築され、全国どこででも安心して制度が利用できるようなる日が来ると良いですね。

 

成年後見制度と任意後見制度について、過去記事はこちら

 

 

 

参考資料

・厚生労働省 「成年後見はやわかり」 (わかりやすいです)

 

・成年後見制度の利用促進に関する法律(平成28年)

・成年後見制度利用促進計画(第一期、第二期)

・成年後見制度利用促進専門家Web会議

・最高裁判所 「成年後見関係事件の概況」

 

 

クリック、お待ちしております。


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