週末の午後、俺は大田区へ向かう電車の中にいた。
家を出る前に入居者に電話しておいた。
「○○さん、おはようございます。大家です。
まだ修理の目処は立っていないのですが、
今回の不具合のお詫びをしたいと思いまして、
今からそちらに向かうのでお時間頂けませんか?」
「いや、お詫びなんて、そんないいですよ。
それに、出かけているので今日は会えないです。」
「あれ?シャワーはどうされたんですか?」
「ああ、仕方がないので水で我慢しました。」
「ええ、そうなんですか。本当に申し訳ないです。」
と、言うことで入居者には会えないと言われてしまった。
まあ、いいや。 2階のリフォームの進捗も確認したいし、
型番も調べなきゃいけないし、いずれにしても行かざるを得ない。
6月初旬だったと思う。 まだ梅雨にもなっていないのに、
真夏のような日差しにうんざりしたのを覚えている。
確かにこの暑さなら水シャワーでも全然いけそうだなと思った。
暑いのは苦手だが、この日ばかりは暑さに感謝さえした。
最寄の駅に降りて徒歩で物件まで向かう途中に、
敷金争奪戦で登場したニッカポッカとすれ違った。
向こうは携帯で話しながら自転車に乗っていたので、
俺には気がついていないようだ。
もちろん言うまでもなく格好はニッカポッカである。
もしかしたら、いつもその格好なのか?
あの時俺を威嚇する為の演出じゃなかったのか?
そして、相変わらず子供っぽい声だった。
もう今更どうでもいいか。
それより俺にはやるべき目の前の問題がある。
現場に到着した。
普段は愛らしい物件が今日ばかりは憎らしくも感じた。
まず1階の様子を確認する。 相変わらずのごみ屋敷だ。
この玄関からどうやって出入りするのかいつも不思議に思う。
その時俺の脳裏にある疑いが生まれた。
外出などしていないのではないか?
俺に会いたくないから外出と嘘をついた可能性もある。
実は今日もこのごみ屋敷に引きこもっているかもしれない。
だとしたら、もう立てこもっていると言った方が適切だろう。
まるでこのごみ屋敷が不落の要塞に思えてきた。
その時である!!建物の裏で物音がした。
向こうには確か給湯器が設置されているはずだ。
恐るおそる近づいてみる。 まさか入居者か?
ニャーッ!
ふぅー。猫か。 ニャンだ驚かしやがって。
1階に人影がないか1周回って確認してみた。
どうやら誰もいないようだ。 ホッとした。
俺は一瞬でも疑いの心を持った自分を恥ずかしく思った。
気を取り直して給湯器を探してみる。
1階の給湯器なのに2階部分に設置されていた。
明らかに古そうだ。 これでは壊れても仕方がない。
壁によじ登り型番がどこかに書いてないか確認する。
故障した給湯器の型番調査という明確な目的と理由がある。
としても、今の俺はどこから見ても怪しい人に違いない。
大家になってまでこんな泥臭いことをするとは思わなかったぜ。
なんとかして給湯器の型番をメモしすることが出来た。
ついでに2階のリフォームの進捗状況を確認して物件を後にした。
そうだ、お世話になった仲介業者にお礼をしに行こう!
今日はおしまい。明日は皆さんに神を紹介する。
お楽しみに!