顔たち、ところどころ 2018.9.22 シネスイッチ銀座1 | ギンレイの映画とか

ギンレイの映画とか

 ギンレイ以外も

 題名がピッタリこない。原題の VISAGES, VILLAGES が韻をふんで素敵なのに、それと対応するのを付けられなかったのか、残念だ。英語はどうか、FACES PLACES だ。

 

 inside out project と書かれた車で田舎をめぐる。この車、内部は写真室と印刷所になっている。JRは人物を撮って大きく印刷して、家の側とか建物の外壁にのりで貼り付けるパフォーマーだ。彼が写真家でもある映画監督アニエス・ヴァルダとコラボすると、どうなるか。

 

 大々先輩のヴァルダもJRの仕事に興味津々で、まるで少女のような面白がり方をする。映像での実験は、自分の映画でさんざん試している。映画作家はSNSのように決められた箱に、入れ子の文章を書くのでは物足りないはず。はみ出て飛び出すから面白くなる。そこがアーティストたる所以だ。つまりヘンテコに尖ってなけりゃアートは作れない。JRのアイディアが秀逸であり、その思いつきを形のある作品にしたことがすごい。もちろんヴァルダも負けてはいない。

 

 似たので言えば、建造物に幕をかけるのがあった。それよりずっとインパクトがあるし、真似たくても印刷機がない。特別製だろう多分。貼り方とかのりの具合に工夫があったと思う。貼る下地が板や壁ででこぼこ、穴が開いているのや窓がついてるのやら、いろんな表面のバリエーションにかかわらず貼る、とにかく貼る。この技術だけでも見事。ズレたりひんまがったりしないのだから。流行りのプロジェクションマッピングに似ているような、そうでないような。手作り感満載なのがいい。

 

 外壁とか海岸のコンクリの大きな塊とか、雨でも降ったらのりと紙では剥がれることもある。こういうテンポラリーな芸術はいさぎよい。まず売って金にするわけにいかない。田舎町の人たちの写真を撮って大きく引き伸ばし壁に貼る。自分が大きくディスプレイされる経験はないから、恥ずかしがるが、それより嬉しい気持ちがまさる。おもわず笑顔になる。いいなあ、近所にあの車が来たら撮ってもらいたい。

 

 港湾労働者には特に応援する気持ちが入っている。だからディスプレイは特別大きい。ここで働くことを楽しんでいるし、労働者としての誇りがある。彼らへの共感の写真、美しい笑顔がすべてを現している。

 

 誰が一番というのではない。みんなの顔に嘘がない。子どもは子どもの、大人は大人の、年寄りは年寄りの年齢どおりの顔が素晴らしい。撮影する場所が自分家のそば、知ってる人が見ている、撮影する人がやさしそう。そんな時はいい顔になるわけだ。

 

監督 アニエス・ヴァルダ JR

出演 アニエス・ヴァルダ JR

2017年