政治家と近づきになれば、ニュースが取れる。友人になればさらに情報を得やすい。したがって新聞人は積極的に政治家に近づいた。しかしそれにはマイナス要素もある。政治家に寄りすぎてしまったことにより、その政治家本人及び彼の属する団体に批判的な意見を書くことが難しくなる。この2つの要素を天秤にかけると、新聞屋にとってはマイナスが大きくなる。なぜなら新聞などのマスコミは、政治に対して冷静かつ正しい報道が望まれるからで、政治についてはむしろ端から批判的に接しなければならない。報道が政治と一体になるべきではない。ワシントン・ポストの社主は、長年見聞きしたことや自らの経験でそれに気づいた。
大統領は4年ないし8年で変わる。マクナマラは大統領にはならなかったが、 政治家として高い地位にあった。その彼と親しくなり友人関係を築けたことは当初は良かった。しかし時代は変わる。もしも彼が隠し事をしたり、嘘をついたらどうするか。友人として忠告しても無駄だ。彼の方で友人関係の内容を識別しているからだ。流せる情報と流せない情報があって、伝える相手がたとえ友人であっても、新聞人であれば公表するに等しい。だから本当の事は教えない。ベトナム戦争が当初からアメリカが勝利する事はない、という結論は出ていた。しかし、それを言ってしまうと戦争ができない、政府の望みは戦争を始めて続けること。そのためには無理しても嘘をついても、アメリカが戦争する意義を整え、勝利するであろうと思わせた。
国防総省勤務のダニエル・エルズバーグはベトナムに行って従軍し、戦況を肌で感じた。従軍しての感触はアメリカ不利、勝利はないだった。またマクナマラから尋ねられた返事もそうだった。そしてそれに基づいた報告が書かれた。ただしトップシークレットとされた。それを知っていたエルズバーグは保管されていた書類を盗み出した。4000ページにわたる報告には真実が書かれてあった。
公文書を書くことは絶対に必要だ。表向きの発表と異なる事実が文書として残される。機密文書であっても数十年後には公になる。それは現実の政治に直接に影響を与えないであろう時期と判断されるからだ。その時の政治家や関係者はいなくなり、責任の追及はできない状態をにらんでの発表だ。
これは考えてみると姑息なことだ。自分たちの悪政を国民に押し付け、知らん顔してやり過ごす。後のことは先延ばしして、後々の人にかたをつけてもらいましょうと言うのだ。無責任この上ない。それでも事実関係を記録し残されることは素晴らしい。
どの政府も嘘をつくらしい。政府は嘘をつかなければできないことなのか。私たちはその実例をここのところ散々見聞きした。日本のそれは原因がアメリカであることが多いが、その総本山アメリカはちゃんと記録はとってある。ただしトップシークレットではあるが。
秘密はいつかどこからか漏れる。真実は隠しようがない。真実の持つ絶対性は、嘘の持つ欺瞞を吹っ飛ばす力がある。日本の実例を挙げ始めたらキリがない。これはギネスものだ。悪者はいつか滅びる。そんな物語を実現させて欲しい。
新聞は企業でもある。新聞販売がすべてである。そのために政治家に近づいていった事実があった。しかし決断しなければならない時がある。
父親が創業者、二代目が夫、三代目の社主となった女性発行人キャサリン・グラハムが過去2人の男性の方針を変更する時が来た。時代の変化もあった。政治自体が変化するには、まだまだ時間がかかる。その前に政治家にくっついていた新聞社を変える必要があった。
彼女は役員からも投資家からも厳しく意見されたり、忠告された。特にこの時期に舞い込んだ特報スクープになりうる書類の扱いをどうするかは、新聞社の存続に関わるものだった。
政府の機密書類を公にする事は犯罪である。しかしアメリカの三権分立はしっかりと確立されている。大統領の出した法令にすぐさま反応し、取り消しをする頼もしい存在だ。この時も裁判があった。彼らは正しい判断をした。これがあるから心配のある反面、安心もできる。ここが日本と大きな違いだ。この映画をを見ていて、いちいち日本との差に感心した。
日本の新聞社はどうだ。大新聞はおおむね弱腰だ。地方新聞の方が頑張っている。大新聞はむしる害にはなりこそすれ、益にはなれない。それと結託するテレビ局。今やテレビの方が、読まれなくなった新聞よりも影響は大きい。
活字で組む新聞の出来るまでのスピーディーなこと。新聞が多くの人の協力によって作られてゆく。その工程の中でもっとも重要なこと、それは真実を伝えることだ。そうでなければ新聞を発行する意味がない。
彼女の考えしだい、彼女の決意しだいでポストの未来が決まる。記事は書かれた、活字は組まれた、あとは彼女の返事を待つだけだ。
監督 スティーブン・スピルバーグ
出演 メリル・ストリープ トム・ハンクス サラ・ポールソン ボブ・オデンカーク トレイシー・レッツ ブラッドリー・ウィットフォード ブルース・グリーンウッド マシュー・リス アリソン・ブリー ジョン・ルー デビッド・クロス
2017年