ナイトメア【2】 | 銀のスズメバチ

銀のスズメバチ

失敗作 欠陥品 不良品 劣化レプリカ
ってなじられてきましたが
ひとりみつけられたらもうそれでいいのです

To be alone is to be different.
To be different is to be alone.

Suzanne Gordon

2011年11月05日開始



「……ゼ」

暗いところで、誰かの声がする。

「ミュゼ…」

その声が自分を呼んでいるのだと気づいて、私は眼を開けた。

どれくらい眠っていたのだろう。
薄かった夕焼けの色はいつの間にか濃いオレンジ色になって
頭の上にある窓から入った夕陽は部屋を染め上げてしまっていた。

上げた顔を抱えた膝に伏せて、向かい側の壁にかけられた鏡を見つめた。
頭上の窓が開け放たれたまま…



私は凍り付いた。
誰かがいる…

「こんにちは」

フフッ、と笑うようにその人は言った。
顔は…光を背にしているせいで、陰になってあまり見えない。
でもどうやら女性のようだ。

なぜか…知っている人のような気もする。

「………だ、誰…」
「行きたいのでしょ?」

小さく笑ったまま、その人は続けた。
「あのお祭り…行きたいのでしょ?」
「……どうして知ってるの?」
「連れて行ってあげてもいいわよ」
「………!!」

私は思わず立ち上がって振り向いた。
そこにその人はいた。

窓枠に肘をついて、ほおづえをついているその人は
…いったいいくつなのだろう?
とても若い大人の女性だって印象はあるのに、なぜか
そうじゃない気もする。

さらさらとしたウェーブの金髪が、オレンジ色を照り返して映える。

「あの…おねえさんは…誰なの?」
なぜかそこに居るだけで、異常に威圧感がある。

クスッ、とその人は笑ってみせた。
「そんなこと、大して重要じゃないでしょ?
 問題は、お祭りに行きたいか、行きたくないか。
 ねえ。どうする?」
「…行く! お祭り行きたい!!」

私は半ば食い入るように答えた。
その人が口の端を歪めてまたクスッと笑う。

「じゃあ、行きましょう。
 ……今あなたのパパもママも、このおうちには居ないから。
 外で待ってるから、準備をして出てらっしゃいな」
「うん!」
私は眼を輝かせて、大きな声で答えた。