『古本食堂』の続編でシリーズ2作目。
鷹島珊瑚さん(70代)は、急逝した兄の鷹島滋郎さんの姪孫にあたる鷹島美希喜さん(20代)と一緒に、滋郎さんが経営していた神保町にある鷹島古書店を、兄の跡を継いで営んでいる。
【感想】
鷹島古書店には、小説家志望の悩み多き奏人(20代後半)や、老いた母のために昭和に発行された婦人雑誌を探している中年女性の恵子さんなど、いろいろなお客さんがやってくる。
美希喜は店内を改装し珈琲の提供を始めたり、珊瑚と美希喜との信頼関係に亀裂が生じたり、珊瑚が急きょ恋人のいる故郷の北海道へ行ってしまったり。
ドラマティックな出来事が起こることもなく、淡々とした展開で、まったりと読み進めました。
以前、私自身が水道橋にある職場に勤めていたとき、昼食でよく食べに行っていた「天ぷら いもや」をはじめ、うなぎやカレーなど、神保町にある美味しいお店が紹介されていました。
また、お薦めの本も紹介されており、未読の本ばかりだったので今後の選書の参考になりました。
辻堂出版の花村建文さんをはじめ、鷹島古書店に所縁のある人々の気遣い、美味しい食やお薦め本など、神保町の魅力がいっぱい詰まっていました。
【概要】
第一話 森瑤子『イヤリング』と川端康成『掌の小説』と日本で一番古いお弁当屋さん
よく、先代や先々代の「若い人やお腹を空かせている労働者に安くて美味しい料理を食べてもらいたい」との思いから、代々ずっと同じ値段で続けている食堂がありますが、それの古本屋さん版のエピソード。
古本の価格設定や店内での珈琲提供など、古書店の今後の営業方針について、珊瑚さんと美希喜ちゃんの間で考え方や意識、認識の食い違いが起こる。
第二話 侯孝賢監督『珈琲時光』と「天ぷらいもや」
美希喜ちゃんの大叔父、滋郎さんの秘められた恋の話。
古書店の床に近い足下の壁の漆喰の下に落書きがあり、「愛してる。一緒に行きたい。」と書いてあった。
当時、高校を卒業したばかりの佐倉井大我くん(19歳)への思いだった。
大我くんも滋郎さんと付き合いたいとの思いがあり、滋郎さんに伝えられるが、滋郎さんは年齢差があるので躊躇うが、5年後、恋人となる。
第三話 『カドカワフィルムストーリーWの悲劇』と豊前うどん
隣のブックエンドカフェの美波さんや奏人くん、奏人くんが連れてきたシナリオ作家志望の佐藤夏菜子さんにお薦めの本を紹介する。
美希喜ちゃんは珊瑚さんに「文壇バー」飲み物+本〔コーヒー400円、コーヒー(本付き)600円〕を提案する。
美希喜ちゃんが美波さんにお薦めした本
・恋愛小説 武者小路実篤『愛と死』
・恋愛小説 三浦哲郎『忍ぶ川』
・短編集 太宰治『皮膚と心』
・石井好子『パリ仕込みお料理ノート』
珊瑚さんが美波さんにお薦めした本
・伊丹十三『女たちよ!』
・石井好子『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』
珊瑚さんが奏人くんにお薦めした本
・松谷みよ子『ちいさいモモちゃん』
・松谷みよ子『モモちゃんとプー』
・松谷みよ子『モモちゃんとアカネちゃん』
美希喜さんが佐藤夏菜子さんにお薦めした本
・『Wの悲劇』
第四話 昭和五十六年の「暮しの手帖」と「メナムのほとり」
古書店を訪れた恵子さんは、「母がどうしても手に取って見たいと言っている『中学生のお弁当が載っている昭和の婦人雑誌』を見つけてほしいと依頼してきた。
美希喜ちゃんは恵子さんの探している雑誌を見つけるためにインターネットを酷使するなど、ありとあらゆる手を尽くす。
第五話 伊丹十三『「お葬式」日記』『「マルサの女」日記』と「なかや」の鰻
珊瑚さんが交際している北海道の東山さんが骨折してしまい、珊瑚さんの頭の中は東山さんのことでいっぱいになってしまい、突然、北海道へ旅立ってしまう。
珊瑚さんが奏人にお薦めした本
・伊丹十三『「お葬式」日記』『「マルサの女」日記』
最終話 「京都『木津川』のおひるご飯」と中華料理店のカレー
帯広で東山さんと共に過ごす珊瑚さん。
珊瑚さんのいない間、奏人くんをアルバイトとして雇うことにする。
珊瑚さんは店の権利を美希喜ちゃんに渡したいと言い出す。
【余話】
奥付の前のページに、原田ひ香さんが「真実の森瑤子を知ってほしい」として、
森瑤子『指輪』(『イヤリング』を改題)の中に「一等待合室」の話が収録されている)を紹介されていました。